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Ecoms21号 アルミ建築5周年特集  2007年6月

「究極の工業化の先に普及がある」  建築家・難波和彦氏に聞く

2002年5月にアルミが建築構造材として認定されてから5年が経過しました。この5年間の歩みを振り返りつつ、アルミ建築の今後について、実験住宅アルミエコハウスの設計者である建築家の難波和彦さんにお話しを伺いました。

Q:2002年にアルミが構造材として認定されたことの意味をどのようにとらえていらっしゃいますか。

難波:大きなスパンで見れば、アルミの構造材認定は、ニューリベラリズムの動きと地球環境に対する意識の高まりというふたつの流れの結実と言えます。ニューリベラリズム、つまり新自由主義経済の思想は、あらゆる公共的な仕事を民営化する結果をもたらしました。グロバリゼーションをもたらしたのはニューリベラリズムに支えられた世界資本主義です。こうした世界的潮流によって公共建築よりも商業建築や住宅建築が市場価値を持つものとして脚光を浴びるようになりました。現在はジャーナリズムも商業建築や住宅建築に高い関心を寄せています。住宅に関する議論は技術や経済と結びつき、エンジニアリングウッドのような新しい素材から超高層マンションというビルディングタイプまで、住宅に関係するさまざまな産業形態を生んでいます。このような大きな潮流が環境問題が結びついたときに生まれたのがアルミ建築と言えるのではないでしょうか。
国土交通省も通商産業省も、住宅産業に刺激を与え、新しい起業形態を促す意図があったと思います。そのためにはこれまでの構造材=木、鉄、コンクリートという狭い定義をやめて、性能を満足すればどんな材料でも構造材として認める性能発注的な制度に切り替え、誰もが参入できる仕組みとする必要があったのです。

Q:アルミ建築に対する一般の意識はこの5年で上向いたのでしょうか?

難波:今、時代の風は木材に向かっており、アルミには逆風です。新丸ビルにしても内装に木がずいぶん使われていました。人が直接触れる部分には木を使おうという意識が働いているようです。僕に住宅の設計を依頼するクライアントも、ほとんどが木で設計してほしいとおっしゃいます。鉄骨造を採用することもありますが、防火などの理由があってやむを得ず選択する場合が多く、仕上は基本的に木質系の材料です。同じ意味でコンクリート打放し仕上少ないですね。木材には地球環境にやさしいというイメージがあるのではないでしょうか。

Q:この5年を総括するとどのようなことが言えるのでしょうか?

難波:一言でいえば、この5年はアルミ建築の試行段階だったのではないでしょうか。ここ2年間で展開されたアルミ住宅に関する研究「アルミハウス・プロジェクト」において、ユーザーサイドとサプライサイドから見た分析がなされ、構造システムのバリエーションやシェルターのタイプがひととおり出揃いました。またアルミエコハウスの解体に関する報告書も提出されました。次はいよいよ普及という地点にいると思います。しかし、普及のための突破口を見出すまでには至っていないというのが率直な印象です。

Q:普及のためにすべきことは何だとお考えですか?

難波:あらゆるタイプのアルミ住宅を実際につくってみることです。重要な問題点ほど、つくってみないとわかりません。
アルミエコハウスの解体にしても、基本的には想像していたとおりの結果でしたが、予期しなかった事柄も数多く発見されました。予測と現実とは必ず異なるので、普及のためには、明確な仮説を立てた上で実際に建設し、検証するという作業を反復し、実用的なデータを蓄積するしかないのです。
また、つくり手のネットワークを広げることも重要です。これも実際につくる中で模索するしかありません。僕は工業化の視点から集成材、特にLVL(Laminated Veneer Lumber)に注目していますが、これも実際に使いながら研究していますが、この材料を扱うのは大工さんではなく、木造の仕口をつくるプレカット業者です。木造の周辺にはさまざまな業種が存在し、新しい試みを受け入れる土壌があります。アルミの場合も周辺にサッシ屋や金物屋が存在するわけですから、新しいネットワークをうみ出す可能性はあると思います。先日、建築家の槇文彦さんが講演でアルミカーテンウォールのモックアップを見せながら「複雑な加工ですが、手がけたのは規模の小さな会社です」と話をされていました。優秀な業者は数多く存在します。彼らを生かさない手はないと思います。

Q:検証し、そのデータを蓄積するということについて詳しくお聞かせください。

難波:できたものが実際にどのような性能をもっているかを長期的に計測し、その結果を設計段階で予測した数値と比較するなどして検証する必要があります。そして、検証したデータをベースに次の設計を行うという明確なフィードバック・システムが整備されていないと、アルミ建築はユーザーに対する説得力を持ち得ないと思います。
見た目のデザインの違いだけでは決して普及しません。バックミンスター・フラー、ジャン・プルーヴェ、池辺陽といったアルミ建築の先駆者たちの試みが継続的に発展し得なかったのは、技術自体がそこまで成熟していなかったこともありますが、性能に対する明確な検証を行わなかったことが大きな要因だと思います。住宅はとても保守的なジャンルですから、明確な裏づけがないと「やはり住宅は木だよね」で終わってしまう。そうして常識的な意見に対しては、アルミ建築は木造では得られない高度な性能があることを示さなければいけません。リサイクル、リユースとお題目のように唱えるのではなく、それを実証し、現実の住宅になった時の解体性能を明確に示さないと、住宅市場には参入できないと思います。そのための最初の課題は省エネルギーと結露の問題を解決すること、そして熱伝導率の高さを生か下デザインを追求することが最優先の課題です。
建築環境・省エネルギー機構が発表した「次世代省エネルギー基準「という規定があります。僕らは普通の木造住宅でもこの基準で設計しますし、竣工後は温熱環境を測定して、自分たちが考えたとおりこの規定をクリアしているかどうかを検証しています。測定すれば必ず予測と違う結果も発見できます。しかし、次世代省エネルギー基準をチェックして設計する建築家はあまりいないのではないでしょうか。日本は気候がそれほど厳しくないせいか。一般に住宅の性能を軽んじている風潮があります。だからこそ、明確な性能表示に重きを置くことがアルミ建築の存在意義となるのです。

Q:住宅というよりも工業製品に近いイメージですね。

難波:そうかもしれませんね。僕は、究極の工業化された製品としてのアルミ建築に最大の魅力を感じています。組立てやすく、解体もスムーズにできて、再使用とリサイクルが可能で、なおかつ温熱環境性能にすぐれていること、つまり工業化と高性能化が第一条件で、表現は結果としてもたらされるものです。表現が重要でないといっているわけではありません。工業化と高性能化はかならず新しいしい表現をうみ出すはずです。アルミ建築の普及は、工業化と高性能化にかかっていると考えています。
究極の工業製品とは、設計、建設、居住検証という3つの段階が統合されている製品という意味です。通常の工業製品には最後のサイクルが欠けています。建設方法を設計に反映する、あるいは検証されたデータを設計に生かすことを、ほかの構造材料に比べて、はるかに明確にできるのがアルミ建築だと思います。その意味でアルミ建築は工業化に敏感に反応するリトマス試験紙のような存在だと言ってよいでしょう。

Q:SUSに望むことはありますか。

難波:設計、建設、検証の3つの条件すべてに対応できるアルミメーカーは現在のところ、SUSだけではないでしょうか。われわれ建築家は、設計できても継続的な検証をしにくい状況にあります。アルミの海の家などは新しいジャンルとして確立しました。今後、さらに高いハードルを用意して開発を進めていってほしいと思います。
アルミ建築に勝機は必ずあります。いまやおもしろいと言われる建築のほとんどは鉄骨造です。しかし、鉄骨造が建築のメインストリームに登場したのは80年代。こぞって使われるようになったのは、耐火塗料が出てくるバブル以降だといって構いません。ですから、歴史はとても浅いのです。それ以前、1950年台には坂倉準三さんの神奈川県立近代美術館など世界的なレベルでの名作が鉄骨造でつくられましたが、それ以降、鉄骨造はすっと消えてしまいます。それは一般論として鉄骨はだめだと結論づけられたからにほかなりません。しかし、その後の実績の積み重ねと検証、そして技術開発によって今日があるのです。
歴史は繰り返します。アルミ建築も同じ道を歩むと考えています。

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