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箱の家 PROJECT 青本往来記
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コンパクト箱の家

2019年12月14日(土)

7時前に目が覚める。外は3度と東京の真冬並みの気温だが空調を着けて寝たので寒くはない。地下に降りて洗面と歯磨き。ここはさすがに寒い。客室が2階、トイレが1階。洗面と浴室が地下という配置は年寄りにはいささか難儀である。階段が滑りやすいので裸足で移動すると足が冷たい。部屋に戻り着替えてからメールチェック。戸田から「箱の家164」の申請で問題が生じたという報告。建物自体に問題はないが敷地が区画整理区域内にあるため長期優良住宅の認定が受けられないという。審査機関の調査不足が問題だが今更文句をいってもしょうがない。別の対処法がないかどうかを至急調査するように戸田に指示する。9時前に玄関に降りて待機。まもなく横山さんが車で迎えに来たので9時過ぎに出発し途中のコーヒーショップで軽い朝食を済ませ10時半丁度に「162酒井邸」に着く。電気引き込みはまだだが正栄産業が先週から200vの発電機で空調機を稼働してくれたのでアクアレイヤー水温は28度、室内気温は23度までに上昇し快適である。直ちに引渡し開始。設備機器の操作説明と検査済証や竣工図面の引き渡し。細かな残工事はあるが正午前に終了。近くのコンビニでおむすびを買い簡単な朝食。13時からオープンハウス開始。富山の若い建築家が来てくれる。京都から岸和郎事務所の若いスタッフが群馬の太田市から女性建築家が来てからくれた。富山市内の「064並木邸」の工事を担当した山手幸一さんも来訪。富山大学の学生できたのは4人。室内が快適なので皆ゆっくりと見学する。食卓脇に4時間余り座り時々室内を歩きながらあれこれ考える。一室空間住居の中央に吹抜があり、吹抜下にアイランドキッチンを置き、吹抜を囲む2階に5人家族それぞれの個室を配置したプランは「箱の家」のコンセプトそのままである。しかし何点か反省点がある。一つは階段が吹抜に面していないことである。このため「舞台のような階段」というパタンが実現できず空間の流動性がなくなり全体としてスタティックな空間になった。二つ目は床の仕上をフレキシブルボードにできなかったことである。このため床暖房の蓄熱効果を引き出すことができていない。冬季の天気の良い日のダイレクトゲインが室内に放射され暑くなり過ぎるかもしれない。とはいえ富山の冬季は日射時間が少ないのであまり問題にはならないかも知れない。三つ目は照明器具が多過ぎることである。僕としては黄昏のような淡い空間を実現したかったがやや明かる過ぎる空間になった。いずれも酒井夫妻とくに夫人とのやりとりの中で決まったことなので止むを得ない結果なのだが、願わくば酒井夫妻には僕たちの提案をもう少し受け入れる許容力を持って欲しかったと思う。17時過ぎに終了。横山さんに富山駅まで送ってもらい18時15分発のかがやきに乗車。オープンハウスの日はいつも気分が沈む。車内では気晴らしに『心の進化を解明する』の第14章「進化したユーザーイリュージョン」を読み続ける。20時過ぎ東京駅着。京橋駅まで歩き10時前に帰社。荷物を置いて10時半帰宅。ウィスキーを煽りながらしばらく沈思黙考。夜半就寝。


2019年12月13日(金)

曇り時々晴れの寒い一日。8時半出社。しばらくの間『新しい住宅の世界』の編集作業を続行する。スタッフの来所を待って今日明日の仕事を確認した後に10時半過ぎに事務所を出て東京駅へ。11時半前発の北陸新幹線はくたかに乗車。車内で隣に座った老婦人が、僕が読んでいる本について尋ねてきたのをきっかけにしばらくの間は四方山話。新高岡駅に14時過ぎ着。改札口で富山大学の4年生と待ち合わせ彼女の車で富山大学芸術文化学部の新高岡キャンパスへ向かう。建築学科の控室で横山天心さんとコーヒーを飲みながらしばらく歓談。まもなく酒井健興さんが着いたので横山さんにキャンパスを案内してもらう。デジタルファブ機械などワークショップが充実しているのが印象的である。外に出ると広い庭園内にここ数年に卒業制作で学生が木材で作った立体的なオブジェが展示されている。事務局で書類に捺印した後、教室に移動し16時からスライドを使ったレクチャー。建築学科の1年生から4年生まで50人程度の学生が集まり数人の教員も加わる。「箱の家の展開」と称して〈建築の4層構造〉の説明から始めて「箱の家164」までの展開と一連の〈箱の建築〉を紹介する。質問を受けて17時半に終了。その後横山さんの車で〈藤井邸〉へ。富山工業高校教員の藤井和弥さんと横山さんの共同設計による住宅である。町屋2軒分の間口6間の中央2間幅に奥行きの深い細長い建物を置き、北側を駐車場とワークショップ、南側を庭にした不思議な配置である。間口2間の奥行の深い住宅をさらに1間巾に縦割りにし、一方を土間にもう一方を床にして土間のゾーンに玄関、台所、浴室、トイレなどの水回りを置いている。回り階段を上がった2階は土間の上のゾーンに親子4人のそれそれぞれのベッドアルコブを縦に並べるという短冊状のユニークなプラニングである。庭に面して様々なサイズの窓が適所に配置されているのも興味深い。1時間弱見学した後に金屋の町屋街に横山天心さんがリノベーションしたゲストハウスへ向かう。チェックインを済ませ荷物を置いてから近くの和食レストランへ移動する。金曜日なので忘年会の客で満員。横山さん、藤井さんと魚料理と日本酒をいただきながら歓談。21時過ぎゲストハウスに戻り明日の待ち合わせ時間を確認して解散。風呂に入り身体を温めてか23時過ぎに就寝。


2019年12月12日(木)

晴れで暖かい一日。8時半出社。明日の富山大学でのレクチャースライドを再度見直しMacbookにインストールする。専用の接続コネクターと遠隔操作機を持参するため鞄に収納。明後日の引き渡しとオープンハウスに備えて「152酒井邸」引渡書類の準備。木村と打ち合わせて製本した竣工図一式とオープンハウスのためのスリッパと手袋を持参するように指示する。前田記念財団から一次審査を通過した研究助成の追加の申請書類が届いたので手元の申請書類と合わせて一次審査を通過した24点の申請書類をファイルする。前田工学賞の博士論文は正月明けに送られてくる予定。6論文を読み通すことを考えると気が遠くなる。チューリヒに出張中の山本理顕さんから来年1月のインタビュー場所を建築会館に変更する旨のメールが届いたので参加する編集員と『建築雑誌』事務局に転送し部屋の確保を依頼する。九州大の岩元真明さんから博士論文公聴会開催のメールが届く。今月19日の夜だが、前日は『建築雑誌』の取材で九州の日田に日帰り出張。当日の午前中は田中治樹さんと敷地調査、翌日は『建築雑誌』のインタビュー2件と座談会が集中しているので体力的にちょっと難しいかもしれない。『新しい住宅の世界』の編集作業を続行し第9章「住宅のハードウェア」を終えて第10章「住宅の供給」へ進む。各章を辿りながら2011年に本書の全体構成をスタディした時に考えていたことを想い出す。第13章「住宅の寸法」は『箱の家に住みたい』以来考え続けたテーマで住宅寸法の現代的様相に関する僕なりのまとめなので削除するのは忍びない。冒頭のレジメを削除しさらに40枚以上削減するのは大変なような気がするが、できるだけこの章を丸ごと削除するような方法は取らないようにしたい。『心の進化を解明する』は第13章「文化進化の進化」を読み終えて第敬堯峪笋燭舛寮鎖世鯲∧屬后彗茖隠款蓮嵜焚修靴織罅璽供璽ぅ螢紂璽献腑鵝廚鯑匹濟呂瓩襦〈ユーザーイリュージョン〉とは〈意識現象〉のことである。15年ほど前に『ユーザーイリュージョン―意識という幻想』(トール・ノーレットランダーシュ:著 柴田裕之:訳 紀伊国屋書店 2002)を読んだが、デネットはほどんど同時代の発想であることを認めている。


2019年12月11日(水)

曇りで暖かい一日。9時前出社。直ちに事務所を出て表参道経由で青山の銀行へ。欅並木の葉は黄色く変わり落ち葉も少なくなっている。銀行で経費の振り込みを済ませて9時半に帰社。『建築雑誌』2020年5月号「マテリアライゼーションと社会学」の論考を岡部明子さんと門内輝行さんに依頼したところ快諾された。これでインタビュー、座談会、論考の概要は固まる。2003年に完成した「067大塚邸」の大塚夫人からメンテナンスとチューンアップの依頼が届く。担当だった杉村浩一郎さんと一緒に現地調査に行く日程を打ち合わせた結果、来年正月休暇中の1月3日(金)になる。ご主人はNHKの音響エンジニアでだが、現在は四国に単身赴任中で正月中にしか東京に戻れないとのこと。大塚さんは車のエンスーで英国車を自分で解体しチューンアップするほどで車専用の部屋も要求されたので現在の状況を見るのが楽しみである。新しい住宅の世界』の編集作業を続行し第7章「リノベーション」と第8章「エコハウス」を終えて第9章「住宅のハードウェア」へ進む。夜に左右社編集部の脇山さんから叢書化の編集方針に関するメールが届く。文字数の削減に関する提案が主な内容だが第13章「住宅の寸法」を丸ごと削減してはどうかと提案されている。寸法の問題は一般の人には分かりにくいのであまり興味を引かないのかもしれない。しかし建築にとって寸法は無意識的な背景のような存在であり建築の様相を決定づける重要な条件である。生産の条件、機能の条件、形の条件を統合するのが寸法だからである。しかし現在では建築家でさえ寸法について真剣に考えている人はほとんどいない。界工作舎のスタッフも寸法の問題についてはあまり興味を持っていないので時折教育することがある。それだけ建築生産の現場から建築家が疎外されていることの現れである。ハテサテどうしたものか思案のし所である。21時半帰宅。『心の進化を解明する』は長い第13章「文化進化の進化」を読み続ける。ミームとしての言語が文化の〈有能性competence〉を大いに進化させる一方で有能性の獲得理由を自覚しているという〈理解力comprehension〉の幻想をもたらしてしまう経緯が多面的に検証されている。〈有能性〉の漸進的進化が〈理解力〉をもたらすことは間違いないのだが、言語の再帰性が現実よりも先走り勇み足で〈理解力〉を説明する屁理屈を捏造してしまうのである。家早何友。夜半過ぎ就寝。


2019年12月10日(火)

6時半起床。曇り後晴れの暖かい一日。7時半出社。8時前に事務所を出て渋谷を経由して品川駅へ。ウィークデーのラッシュアワーは久しぶりの体験だが大変である。8時47分品川発ののぞみに乗車。車内で日記を書込んだ後は『心の進化を解明する』を読み続ける。大阪駅までは満員だったがその先の車内はガラガラになる。JR山陽は苦戦しているだろう。車掌や車内販売員の態度がJR東海とははっきり異なる。4時間半で13時過ぎに新山口駅に到着。改札口で竹原義二、無有建築工房の玉井淳、はりゅうウッドスタジオの滑田崇志、編集委員の小見山陽介、ライターの有岡三恵、カメラマンの山田新治郎と合流。新山口駅の駅舎周りは宮崎浩のデザインで白一色である。建設会社が手配した2台の車に分乗し取材先の小郡(おごおり)幼稚園へ。かつての段々畑を造成した眺めのいい敷地に広々とした園庭を囲むように縦ログ構法の分棟園舎が雁行しながら並んでいる。完成は来年3月末の予定でその後も工事は続くとのこと。給食室や教員室などの共用部分は木造軸組構法で建てられ、縦ログ構法が使われているのは教室である。現在は教室の屋根瓦葺工事が始まったところで室内は杉材180角の縦ログがそのまま仕上になっている。天井は120角杉材を並べた野地板がそのまま仕上でケラバは小口が仕上になるとのこと。竹原さんはこれまで主として檜材を使ってきたが、本格的に杉材を使うのはこの建築が初めてだそうだ。縦ログ杉材の配列や目地の取り方には竹原流の美学があるようだ。杉材のテクスチャーについても竹原さん独自の思いがあるようだが詳しい説明を聴いても僕にはなかなか理解が及ばない。1時間余り現場を見学した後に街中の現在の小郡幼稚園に移動し教員室でインタビュー取材を続行する。玉井さんが小郡幼稚園の歴史から説き起こし新園舎建設に縦ログ構法を使うことに至った経緯をスライドで説明する。その後小見山さんと僕が質疑。竹原さんの応答は経験に裏打ちされた具体的な内容で一貫しており、一昨日の秋吉浩記さんのコンセプトとヴィジョンに関する質疑応答とは対照的である。木造に関してここまで強いこだわりを持った建築家は僕の知る限り竹原さん以外に斎藤裕しか知らない。15時半に取材終了後、新山口駅近くの居酒屋に移動しビールで乾杯。16時46分新山口駅ののぞみに乗り22時過ぎ品川駅着。23時帰社。高間三郎さんの逝去を夫人からの葉書で知る。亡くなったのは先週初めだそうだ。冥福を祈りたい。23時過ぎ帰宅。風呂に入って疲れをとった後『心の進化を解明する』を読みながら夜半過ぎに就寝。


2019年12月09日(月)

曇り後晴れのやや暖かい一日。「箱の家164」の工事契約の契約締結要領に関連して約款や瑕疵保険についても深谷の建設会社にメール連絡する。その後Uさんから契約書の内容に関して微修正の要求が届いたので建設会社に転送する。「162酒井邸」の工事の最終的な詰めについて酒井さんや現場監督と何度もメールのやりとり。明日は竣工写真の撮影なので現場の整理整頓を依頼する。『建築雑誌』2020年5月号の山本理顕さんのインタビューに参加する編集委員が確定したので日時などの要領を山本事務所にメール連絡する。『新しい住宅の世界』叢書化のための編集作業を続行し第6章「工業化と商品化」を終えて第7章「リノベーション」に進む。17時に事務所を出て田町の建築会館へ。18時から『建築雑誌』ので編集幹事会。高口洋人編集長、長澤夏子、加藤耕一、能作文徳、僕の5人が出席。来年5月号までの特集テーマはほぼ確定し作業が進行しているので、7月号以降2021年12月号までのテーマについてブレインストーミングを行う。高口さんが作成した叩き台を見ながら担当委員と編集幹事を決めていく。僕が興味を持てるテーマはわずかしかないのことと編集顧問としてはあまり前面に出るつもりはないので、しばらくの間は静観し担当編集委員を推薦するにとどめる。とはいえ一度くらい特集を担当してもいいようにも考えて僕なりのアイデアを出す。ひとつは「建築生産の工業化の現在」という古典的なテーマ。もうひとつは「建築におけるポリティカル・コレクトネスの現代的様相」である。前者は何とか滑り込ませられそうだが後者は難しいような気もする。しかし建築界の無意識的前提に光を当てるにはいいテーマではないかと思う。僕自身の先入観を洗い出すことにもなるだろう。約1時間半でテーマの概要を決め、その後は表紙のデザインについて意見交換。20時前に終了。近くの居酒屋でささやかな忘年会。21時過ぎ解散。小雨が降る中22時に帰宅。『心の進化を解明する』第13章「文化進化の進化」を読み続けながら夜半就寝。


2019年12月08日(日)

6時半起床。快晴で昨日よりは暖かい。7時半出社。iPadを手提鞄につめて7時45分に事務所を出て東京駅へ。8時36分発の新幹線かがやきに乗車。昨夜、深谷の工務店から届いた「箱の家164」の工事契約書の叩き台を新幹線の車内からU夫妻に転送する。まもなく返事メールが届き問題はないということなので明日工務店に連絡する予定。10時50分に富山駅着。ホームで網野禎昭さんと改札口で建築家の秋吉浩気さんとライターの富井雄太郎さんが合流。駅裏の道路で小見山陽介さんが運転するレンタカーに乗り砺波市に向かう。約1時間半ほど山道を上り12時過ぎに蕎麦屋で昼食。13時前に〈まれびとの家〉に到着。一面10僂寮兩磴任なり寒い。
https://readyfor.jp/projects/marebitonoie
オーナーご夫婦に挨拶してから坂道を登り造成地の一角に建つ〈まれびとの家〉の外観を見る。合掌造りをモデルにしたジグラットのような細かな段に雪が積もっている。外構には山から引いた大量の水が流されて雪を溶かしている。室内に入り約1時間の秋吉さんにインタビュー。『建築雑誌』来年4月号に掲載予定なので詳しくはそちらを参照してもらいたい。特集テーマは木質構法に使われている建設木材の上流(林業)から下流(ユーザー=設計者・工務店)までの流通経路を〈歩留〉(現地材に対する使用材の比率)の概念を手がかりに捉え直すという趣旨である。秋吉さんはデジタル制御の木材加工機によって現地木材の特性を最大限に活かした製材を行うことによってこの建築を建てたそうだ。具体的には木材を建築材と家具材のいずれにも使える36亳の板材に加工することによって最大限の歩留を確保する方法である。デジタル加工機械を使えば変形した木材を歩留を確保しながら部品に加工できる。つまり多様なサイズの標準材を効率的に製材する通常のやり方ではなく、材木の特性に合わせて部品を加工するという逆転の発想である。現在の流通経路とはまったく異なる考え方なので、既存の流通経路に参入するよりも新しい流通経路をつくり出す方が有利だろう。秋吉さんはまだ31歳であり夢は大きい。まさにジョセフ・シュムペーターが提唱した〈アントンプレナー(起業家)〉であり、デジタルファブリケーションによるイノベーションだと網野さん共々感心する。
https://wired.jp/2019/02/14/vuild/
13時半にインタビューを終えて山を下り途中で秋吉さんがデザインの参考にしたという越中五箇山の相倉合掌造り集落を見学した後に15時過ぎに富山駅着。小見山さんと別れ駅構内の居酒屋でビールで喉を潤してから16時半富山発の新幹線に乗車。9時過ぎに東京駅着。10時に帰宅。 ウィスキーを呑みながら新しい世代の建築家像の出現について考えを巡らせる。


2019年12月07日(土)

曇りのち晴れの寒い一日。8時半出社。『新しい住宅の世界』叢書化のための編集作業を続行し第6章「工業化と商品化」に進む。酒井さんから昨日検査した「162酒井邸」の結果に対するコメントが届いたので急いで対応するように木村に指示。深谷の工務店から電話で「箱の家164」の工事契約に関する質問が届いたので戸田に伝えて工事契約書の叩き台が届いたらチェックバックするように指示する。年末なので事務所内外の清掃をやや念入りにするように指示して昼前に解散。14時半に事務所を出て歩いて外苑前のJIA本部ビルへ。15時からJIAセミナー『1970年代から現在を考える』の簡単な打ち合わせ。青井哲人さんがまとめたそうだが今回のセミナーの趣旨にはこう書かれている。「70年代、住宅で自閉的に様々な表現を試みた建築家達も、80年代が近づく頃には社会との接続の新たな形を模索するようになり、そんななか著書が邦訳されたアレグザンダーの理論は広く議論の対象となりました。パタンランゲージを用いて国内で唯一実現した盈進学園東野高校を見学し、当時を良く知る関係者に解説を頂きます。その理論に社会との再 接続を託した建築家達の葛藤や試み、挫折、そして残ったものを見つめ直しつつ、現在の私達への示唆や学びについて語る場を設けます」。前回のセミナーのテーマは70年代論だったそうだ。参加者は司会が青井哲人、コメンテーターが布野修司、パネラーは僕と中村健太郎(建築家・プログラマ、NPO法人モクチン企画)と辻琢磨(建築家、403architecture[dajiba])の3人。企画者の馬場兼伸さんの冒頭挨拶の後、まず青井さんがセミナーのキーワードとして、人間、デザイン科学、コンテクストとかたちの4つのトピックを提示して開始。僕はそれを聞いて急遽〈建築の4層構造〉と「箱の家」を発表するのを中止しアレグザンダー理論を空間図式として捉える仮説のプレゼンテーションだけに縮小することを決める。〈建築の4層構造〉にまで話題を広げると議論が拡散すると考えたからである。引き続き辻さんと中村さんが建築デザインに対する各々のスタンスについて自作を紹介しながらプレゼンテーション。〈パタンランゲージ〉の視点からは若干の類似性はあるけれども僕の目にはアレグザンダー理論を十分に咀嚼しているようには見えない。引き続き青井さんが提示した4つのテーマそれぞれについて議論を開始。布野さんがコメントを加えパネラーが自説を披瀝するかたちで進行する。議論が拡散気味なので僕としてはアレグザンダー自身の人間性に関する議論になりそうな流れをできるだけ避けるように発言する。デザイン科学については科学を数学(合理主義)と物理学(経験主義)に分けて考えることの重要性を指摘した上で『形の合成に関するノート』を読む人は前半の離散数学の応用としての〈ツリーとセミラチス〉だけに注目し後半の応用編における仮説の検証部分を理解していない点を指摘する。世代のギャップや経験の質の差異が噴出し議論はなかなか交差しない。『建築雑誌』の編集委員会でも同種の感慨を抱くことがある。どうやって議論を交差させるかについてばかり考えるうちに、自説を述べるよりも相手の発言に対する批評的スタンスをとることに思い至る。後半はしばらくそのスタンスで押し通すがそれでも反応がない。コンテクストと形の関係のテーマになってからは『形の合成に関するノート』の方法に関する詳細な解説に話を切り替える。どうやら誰も本書を読み込んでいるようには思えないからである。結局は新しい所見を得ることは能わず、僕の自説である「アレグザンダー理論は総じて空間図式に関する仮説であること。パタンランゲージは近代技術を否定しているためプラニング図式にとどまりデザイン図式にはなっていないこと」を再確認するだけのセミナーとなった。18時前セミナーは終了。場所を変えて缶ビールでの打上。さらに千駄ヶ谷近くのレストランに場所を移して二次会。若い建築家達と建築論で盛り上がるがアルコールが入ると徐々に下世話な話題になるので21時前に退席し夜道を歩いて帰宅。ウィスキーを呑み直しセミナーの議論を反芻する。明日は早いので23時前に就寝。


2019年12月06日(金)

曇りで寒い一日。8時半出社。9時半過ぎに事務所を出て東京駅へ。10時24分発のかがやき号に乗る。車内で木村と合流し富山駅に12時半過ぎ着。改札口で横山天心さんと待ち合わせ「162酒井邸」の現場へ。今日は施主・事務所検査である。しかし玄関周りと外構工事が未完成な上に電気の引込がまだで照明と空調機の電力は発電機で供給している。家早何友である。床下の空調空気は稼動を始めたばかりなので床面は冷たい。酒井さんは主に家具類をチェックし僕たちは設備類をチェックする。室内仕上は構造体がすべて露出しており床仕上はフローリング張り壁はシナ合板張りとすべて木材である。階段が吹き抜けに面していないため空間はややスタティックな感じだが、台所と食卓が吹抜の中心に置かれているので「箱の家」らしい一室空間住居になっている。約2時間をかけて内外を検査するが未完成な部分が多い。現場監督に来週土曜日の引き渡しまでには何とか工事を完成させるように強く依頼する。15時頃には床からの空調空気が室内に回りやや暖かくなる。空調を持続的に稼働して基礎コンクリートとアクアレイヤーに蓄熱するように指示して15時半に現場を発ち横山さんの車で富山駅へ。16時半過ぎ富山駅発のはくたかに乗車し19時過ぎに東京駅着。京橋駅近くで木村と簡単な夕食を摂り20時半に帰社。能作さんと久保明教さんとのメールのやり取りで5月号特集の座談会は年明けの1月下旬になる。能作さんから久保さんにアレグザンダーとラトゥールの関係についてコメントが伝えられたので僕からも簡単なコメントを加える。鹿島出版会からSD誌2019年号が届く。SDレビューの作品紹介をはじめ『建築の前夜 前川國男論』の墨書書評も掲載され多種多様な記事が詰め込まれている。21時半帰宅。『心の進化を解明する』は第12章「言語の諸起源」の込み入った議論を読み終えて第13章「文化進化の進化」を読みながら夜半就寝。


2019年12月05日(木)

晴れのち曇りの肌寒い一日。8時半出社。戸田は「箱の家164」の確認申請提出のために民間審査機関に赴いている。『建築雑誌』2020年5月号の特集テーマが「マテリアライゼーションと社会学」に決まり長澤さんがslackに趣旨文をまとめてくれたので各方面にインタビューや論考の依頼を開始する。僕は山本理顕さんにインタビューの依頼と岡部明子さん論考の依頼メールを送る。能作さんは『ブルーノ・ラトゥールの取説』の著者である久野明教さんに座談会の依頼を送る。山本さんからはまもなく返事メールが届く。インタビューは来年1月半ば場所は横浜の山本さんの事務所が指定される。直ちに編集委員に転送するが参加できそうな人は僅かである。『建築雑誌』3月号の連載原稿スケッチを少々。今日も『新しい住宅の世界』叢書化のための編集作業を続行し第4章「集住体」を終えて第5章「街の風景」に進む。このペースでいけば今年中には一通り終えられそうである。縮小と加筆の作業は来年じっくりと取り組むことにしよう。16時に事務所を出て市ヶ谷の前田建設ゲストハウスへ。17時から前田工学賞の一次審査会。事務局から審査手順の説明を受けた後に建築部門と土木部門に分かれて審査開始。建築部門の審査員は5人のうち3人が入れ替わり僕が最年長になった。とはいえ新しい審査委員はかつての東大の同僚で1,2歳後輩のエンジニアリング系の人たちである。建築部門の取りまとめは僕がやることになったが。採点表を見ると雰囲気がガラリと変わっている。具体的にはエンジニアリング色がより強くなっている。歴史系の論文の採点が予想以上に低い評価なので最初に釘を刺して置く必要があると考え、僕は鈴木博之の後任で前田工学賞ではエンジニアリング系だけでなく歴史意匠計画系の論文も重視したい旨を伝えた上で審査作業に入る。9編の論文のうち二次審査の対象となるのは5編が原則である。審査委員長の権限でこの中に歴史系の論文を加えることを主張し5点を選ぶ。引き続き研究助成の審査開始。全46点の応募のうち上位採点の20点に加えて下位の中から審査員がA評価を与えている4点を加えて24点を候補とする。最終的に採用されるのは13点である。18時に終了。その後土木の審査員が合流して審査結果の報告。18時半から会食。20時解散。ハイヤーで20時半に帰社。木村と明日の「162酒井邸」の施主検査立ち会いと変更工事見積の確認。21時半帰宅。『心の進化を解明する』第12章「言語の諸起源」を読みながら夜半就寝。


2019年12月04日(水)

晴れでやや暖かい一日。8時半出社。放送大学テキスト『新しい住宅の世界』の叢書化のための再編集作業を続行する。ともかく機械的に削除できるところだけを削除して再編集した上で次のステップを考える方針で進めることとする。この作業は何とか年内に終えることができるだろう。次のステップは正月休み中にじっくり考えることにする。スケジュール表を見ながら年末年始の事務所の仕事について検討する。難波研究室の同窓会が例年よりも1週間早く開催されるので界工作舎の忘年会を1週間ズラして仕事納め前日とすることに決定する。14時に事務所を出て田町の建築会館へ。15時開始の『建築雑誌』第7回編集委員会に2ヶ月ぶりに出席。出席者は15人でやや多い。高口編集委員長の司会でまず特集の進行状況を確認する。2020年3月号までの原稿の手配はほぼ終わっている、僕の連載原稿も2月号までは完了し3月号をスケッチ中である。編集部の作業がまだ軌道に乗っていないために対応に齟齬が生じ一部の編集委員からクレームが出る。とはいえ4月号特集「木質構造」までの作業は順調に動いているようだ。僕も今月中に5回のインタビュー取材と座談会を控えている。5月号の「マテリアライゼーションと社会学」についてはプログラムのたたき台ができたばかりである。山本理顕さんのインタビューだけは確定しているが、それ以外のプログラムはこれから詰めねばならない。6月号の特集テーマ「生物から学ぶ多様な合理性(仮)」までは僕の守備範囲だが、7月以降のテーマについては正直言ってあまり興味が持てない。2020年に始まる『建築雑誌』編集の初動に力を入れるつもりだったのでそうなるのは予定通りである。7月号以降は興味が持てる特集だけに参加することとし連載原稿に集中するつもりである。引き続き特集テーマに関する意見交換、他の連載記事の進行状況、紙質や表紙見本の確認などを行い次回の編集幹事会を来週月曜日に開くことを決めて17時半に終了。19時帰社。『新しい住宅の世界』原稿の編集作業を少々。5月号特集「マテリアライゼーションと社会学」のプログラムについてスケッチ。21時半帰宅。『心の進化を解明する』を読みながら夜半就寝。


2019年12月03日(火)

晴れで風がやや強いが比較的暖かい一日。8時半出社。放送大学テキスト『新しい住宅の世界』の原稿データーをパソコンのアーカイヴから抽出してざっと目を通す。左右社編集部の脇山さんによればテキスト全体で25万字を少し超えているようだが、叢書化のために22.8万字まで縮めてほしいとのこと。つまり原稿用紙60枚分を縮小する必要がある。各章冒頭のレジメとキーワードを削除すると機械的に20枚弱縮められるのでそれほど難しくないような気もするが、テキストをまとめた後の取材で得た新しい所見を加筆したいのでやってみないと分からない。まずは第1章「住宅の現在」で試みることから始める。午後佐々木構造計画から「箱の家164」確認申請に関する報告メールが届く。年末の仕事が立て込んでいるため手続きが遅れ気味とのこと。ギリギリのスケジュールで12月半ばの工事契約までに構造システムの変更がないことを確認できればいい旨を返信する。竣工間近の「162酒井邸」の現場監督とメールのやり取り。細かな問題が次々と出てくるので対応が大変である。『建築雑誌』slackに長澤夏子さんが5月号特集のプログラムを書き込んでいるのでコメントを加える。明日の編集会議で議題にできそうだ。17時半に事務所を出て市ヶ谷田町の法政大学建築学科5階のマルチメディアホールへ18時半前着。法政大学建築フォーラム2019「都市という表現 東京は首都たりうるかー大都市症候群の後に来るもの」最終第7回、藤村龍至「POST SPRAWL TOKYO―大都市時代の終わり」に出席する。藤村さんは東京と近郊の歴史的社会的分析と最近の自分の仕事を関係づけながら約2時間弱の濃密なレクチャーを展開。多種多様な情報を繰り出して大都市東京と近郊の状況を俯瞰する分析と小スケールの個別の仕事の間を何度も往還する視野の転換には感心させられる。引き続き渡辺真理さんとのデスカッション。終了後、北山恒さん、陣内秀信さん、南後由和さんから好意的なコメントが続いたが、僕は何となく虚しさを感じてコメントする気にならない。その理由は大都市東京の現状と未来像が悲観的だからだけではない。おそらく藤村さん自身も感じているだろうが、最近の藤村さんの建築には初期のBUILDING Kのようなアグレッシブな表現が見えなくなっているからである。『批判的工学主義の建築―ソーシャル・アーキテクチャをめざして』(2014)の頃、藤村さんはしきりにレム・コールハースについて話していた。コールハースも時代状況を精緻に分析し自分の建築作品に結び付けていた。藤村さんがそのようなコールハースのスタンスから学んだことは間違いない。今日のレクチャーはスタイルと内容ともにきわめてコールハース的である。藤村さんの初期の建築にはコールハースのような批評的表現が垣間見られた。しかし最近の建築からはそれが消えて民主主義的で優等生的な建築になっている。そのこと自体を悪いとは僕は思わないが、藤村さんが目指したものとは少し違うのではないかと推測する。僕が指摘するのも変な話だがコールハース流の〈paranoia-critical method〉が欠けているのである。懇親会に参加する気にはなれずそのまま退席して10時過ぎに帰宅。ウィスキーを煽りながら今日のレクチャーを反芻。藤村さんは今のスタンスで突っ走ればおそらくいつかは突破口が開くことだろう。それを期待しながら夜半就寝。


2019年12月02日(月)

早朝から雨が続く生暖かい一日。8時半出社。11時にUさんが来所。「箱の家164」の査定回答見積の比較表を見ながら僕から3社それぞれについてコメントする。3社ともほぼ同じ見積金額であり僕としてはどの会社に工事を依頼しても大きな問題はないと考えている。決め手がないのでUさんは決断を迷っているようだ。気分転換にしばらく僕の北イタリア旅行の話題について話す。閑話休題の後に再び建設会社の話題に戻り何点かの条件によって検討し、これまでの界工作舎との付き合いなどわずかな差異に基づいて1社に絞り込む。最初の見積が出た11月6日の時点では金額が3番目だった会社なので、こうなるとは予想もしなかったが先週末の最後の頑張りが効いた結果である。引き続き工事契約日を決定し、契約場所は界工作舎として12時過ぎに打ち合わせは終了。午後一番に、決定した建設会社に請負の依頼を伝え、工事契約条件を整理した契約書のたたき台作成の依頼メールを送った後に電話でも確認する。社長は少し驚いた様子だった。引き続き残り2社には最後の見積比較表を添付し決定の経緯と陳謝のメールを送る。今後は界工作舎としては工事契約用の図面の整理と確認申請手続きを続行する。その後は『建築雑誌』slackのチェック。2020年1月号の誌面がほぼ出来上がったようだ。しかし僕の書き込みに対する反応は見られない。夜に左右社の脇山妙子さんから『新しい住宅の世界』の放送大学叢書化の方針に関するメールが届く。番組制作の際の取材の話題を加筆しながらも全体として文字数を削減することを求められる。なかなか面倒な作業になりそうだが頭を整理するつもりで取り組んでみよう。『心の進化を解明する』は10章「ミームの目からの視点」と第11章「ミーム概念の難点」を読み終えて第12章「言語の諸起源」に進む。ミーム概念が文化進化の説明に有利な点は、文化的な伝達と進化がすべて意識的な了解やそれに類するものに依存しているわけではないこと、つまり無意識的に進行することを含意しているからである。つまり文化的な行為とその理解とは別物なのである。デネットはそれを「理解力(comprehension)は有能性(competence)の源であるという考えは大いなる誤解であり、ミーム概念は理解力なしの有能性が漸進的に生み出されることを理解させてくれる」と指摘している。つまりリチャード・ドーキンスが『利己的な遺伝子』で進化は人間の意志や理解とは関係なく遺伝子主体で進行すると主張したのと同じように、文化の進化は人間主体ではなくミーム主体で進行するということである。だとすれば中谷礼仁さんが絶えず主張し続けている〈かたち〉も一種のミームといってもいいのかもしれない。


2019年12月01日(日)

曇り時々晴れで昨日よりはやや暖かい一日。10時出社。「165矢代邸」第1案にコメントを添えて矢代さんに送信する。予算的に難しいのでどういう回答が来るかやや心配である。できれば受け入れてもらえると嬉しいのだがどうなるだろうか。U夫妻から一昨日送った「箱の家164」の再査定回答比較表に関する質問メールが届く。出精値引の意味を理解できないので建設会社の最終決定が難しいという趣旨である。建築の見積において出精値引という用語には二つの対照的な意味がある。正当な見積から儲け分を差し引くことで何とか請け負いたいという意志を表現する意味と、一方で見積の曖昧さといい加減さを表現している意味の二つである。建主や設計者へ提示する見積金額と建設会社としての実行予算との差でもある。まさか赤字を出してまで工事を請負うことはないから、どこかにしわ寄せが生じているはずである。最終判断についてはどうしても直接会って相談したいといわれるので明日(2日・月)に来所してもらうことにする。ならばその際に工事を依頼する建設会社の決定だけではなく契約締結の日時も決めてしまいたい。『建築雑誌』slackに『Structured Linages Learning from Japanese Structural Design』の表紙と目次のコピーを添付して構造史特集を組むように編集委員の浜田英明さんに提案するメッセージを書き込む。さらに新たに4つの特集テーマの提案を書き込む。ここのところ編集委員会が少々沈滞気味に感じられるので編集顧問として編集委員の覚醒を喚起するためである。しかし夜になっても何の反応もない。老婆心でやったことだが逆効果になるのだろうか。家早何友である。JIAセミナーのスライドを一通り見直した上で圧縮して企画担当の馬場兼伸さんに送信する。海外旅行前の10月末に一旦休止した『心の進化を解明する』を第10章「ミームの目からの視点」から再開して読み始める。生物学における進化論が文化の展開にまで適用可能かという問題として、デネットはリチャード・ドーキンスが提唱したミームの概念について論じている。デネットの論調はかなり前向きだが、ラトゥールの視点から見ると近代論者の3つの組み立て方、1)自然化、2)社会化、3)脱構築、のうちの1)になるのだろうか。つまり生物学を文化にまで拡大適用していることになるのかという問題である。しかし進化論は生物学から生まれたとはいえ一種のシステム理論だから単なる自然化を越えた広大な適用性を持っていると思う。


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