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箱の家 PROJECT 青本往来記
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コンパクト箱の家

2019年04月19日(金)

曇りで生暖かい一日。8時半出社。「163保田邸」のベランダ製作図が届いたので、戸田にチェックバックを指示。その他の細かな納まりに関する質疑についても検討を指示する。午前中は構造史シンポジウムのスライド編集を少々。構造前史と、ル・コルビュジエ、ミースなどの箴言をスライドに組み込むことにする。12時半に事務所を出て、表参道駅から半蔵門線、都営江戸線を乗り継ぎ、東京都庁前駅で下車。第1庁舎のホールで織山和久さん、北山恒アーキテクチャー・ワークショップの狭間裕子さんと待ち合わせ、25階の会議室へ。何度訪ねても東京都庁舎は不合理な建物である。巨大な平面が細かく仕切られて窓のない部屋がいくつも並んでいるし、廊下の幅は太い柱によって凸凹である。13時半から、東京都防災都市づくり課による「都有地活用による魅力的な移転先整備事業」の募集説明会。参加者は30人程度。1社3人が限度なので10社程度だろうか。葛飾区の荒川沿いの木造密集地域にある2カ所の都有地に集合住宅を計画して、居住者を募り、事業として成立させるという事業プロポーザルである。2カ所の敷地について、前半と後半に分けて説明されたが、前半の敷地では集合住宅の建築的・コミュニティ的な提案を求めているのに対し、後半の敷地では、計画、建設、不動産運営の事業者の協同参加による提案を求めている。前半の敷地は何とか応募で来そうだが、後半に敷地については、僕たちの応募は無理そうである。配布された説明書を読むと、初めての民活事業とあって、東京都はかなり「石橋を叩いている」感じである。しかし、事業者に依頼後の都庁との関係についての方針が明確でないというポカもある。面倒は見るが口は出さないのが、事業委託の本来の姿だが、どうなることやら。16時過ぎに終了。玄関ホールで、来週初めの質疑締切までに各自検討することを申し合わせ、織山、挟間両氏と別れて17時前に帰社。戸田と打ち合わせ「163保田邸」のベランダその他に関する回答をまとめてオンサイトに返信。矢橋さんが、金物や耐力壁の検査報告書を共有ファイルにアップしたのでチェックした旨を書き込む。

『実在とは何か』を読み続ける。20世紀初頭の量子論は、それまでの確定的な実在観に代わり、確率論的な存在論を生み出したという。エットレ・マヨラナの失踪は、確率論的な存在論に対する反論を、身を以て示そうとしたのではないかというのがアガンベンの仮説である。物理学者ならではの発想だが、そのリアリティは常識人である僕には届かない。夜半就寝。


2019年04月18日(木)

晴れで暖かい一日。夜は曇り。8時半出社。『都市科学事典』の出版社編集部から、今月末が原稿の締切であるというリマインド・メールが届く。原稿のスケッチはある程度進んでいるので、今週末から書き始めるつもりである。今日は一日、構造史シンポジウムのスライドの作成に費やす。先日のWG会議に提出した事例集を見直してみると、ストーリーが曖昧なのと、かなり事例の抜けがあるので、説明コメントや新しい事例を加えながら40枚まで進む。20世紀末で終えるとすれば、50枚で十分かもしれない。構造家倶楽部のメンバーに、確認のために、ディスカッションで取り上げる5つのトピックスと担当者をリストアップしたスライドを送り、各トピックの説明に2〜3枚のスライドを準備するように依頼する。『テクトニック・カルチャー』を読みながら、ストーリーについて考える。

『実在とは何か』を読みながら、『天然知能』のトリレンマ・モデルの構図が、エルウィン・シュレディンガーの有名な「猫のパラドクス」と同じではないかというアイデアに思い至る。「猫のパラドクス」とは、シュレディンガーが提唱した思考実験で、量子力学の確率解釈を容易な方法で巨視的な実験系にすることができることを示し、そこから得られる結論の異常さを示した思考実験で、シュレーディンガーは、これをパラドックスと呼んだのである。量子力学(コペンハーゲン解釈)において粒子は、様々な状態が「重なりあった状態」で存在しうる。この「重なりあった状態」は、観測機器によって粒子を観測することで、いずれかの状態に収束すると考える。イリヤ・プリゴジンは、量子論としての結論は「観測結果に観測者の積極的な役割を取り入れるべきだ」というものだとしている。つまり、量子的な系と観測装置まで含めた全系の状態は観測されないかぎり、もつれ合ったままの関数によって記述される。これは〈天然知能〉における、わたしー自己―外部の境界が、観測者(わたし)の介入によって局所性が変化する事態と同じではないかと思う。観測問題としてみるなら、天然知能の境界横断と、量子力学の不確定性原理は、同じ論理構造を持っているということである。


2019年04月17日(水)

曇り時々晴れの暖かい一日。8時半出社。東京建築士会から一級建築士講習会の受講票が届く。一級建築士は3年毎の受講が義務付けられている講習会である。大学を辞めた頃は、受講にあまり気乗りしなかったが、最近では半ば楽しみな行事になっている。というのも、最近の建築事情がよく分かるような講義内容だからである。今年はおそらく建築士法改正が大きなテーマになるだろう。3ヶ月後の7月17日(水)に、事務所から歩いて約25分の、南青山の薬学会館長井記念ホールで開講される。構造シンポジウムのスライド編集を続行する。20枚まで進んだところで一旦休止。新しい構造や構法が近現代建築を変えてきた経緯を紹介するのだが、単なる事例紹介だけでは面白くない。何とか歴史的なストーリーを盛り込みたいのが、いいアイデアがない。少し構造史を勉強する必要があるかもしれない。手元に『テクトニック・カルチャー:19-20世紀建築の構法の詩学』(ケネス・フランプトン:著 松畑強+山本想太郎:訳 TOTO出版 2002)と、佐々木睦朗さんにもらった『20世紀を築いた構造家たち』(小澤雅樹:著 オーム社 2014)があるので、とりあえず読んでみることにする。並行してamazonから届いた『実在とは何か:マヨラナの失踪』(ジョルジョ・アガンベン:著 上村忠男:訳 講談社選書メチエ 2018)を読み始める。アガンべンは、イタリアの若き量子物理学者エットレ・マヨラナは、実在界における決定論と確率論(自由?)の関係について考え続けたのちに失踪したことに注目したのである。


2019年04月16日(火)

快晴で暖かい一日。オンサイトから「163保田邸」の4~5月工程表が届く。アクアレイヤー設置工事と前後の工程を確認し設置工事2日目の5月9日(木)に現場監理に行くことに決めて、熊本往復の航空便を予約購入する。航空券を確保できたので、オンサイトに外壁、階段、ベランダ工事の打ち合わせができるように準備をしておくように指示し、矢橋さんには熊本空港でのピックアップを依頼する。アクアレイヤー工事までには、外壁の断熱パネル取付と外装の下地工事までは進んでいる予定である。引き続き、細かな工事についてメールのやり取り。昨日の電気工事の配線経路を修正した電気設備図をオンサイトに送信。保田さんからアクアレイヤー工事について質問が届く。オンサイトが気を利かせてイゼナの施工概要書類を送ってくれる。
https://izena.co.jp/general_site/products/products_aqua.html
構造シンポジウムのスライド編集を進める。少しずつ積み上げ時間をかけて45分、90枚のスライドを作成していく予定。構造シンポジウムのお知らせがKENCHIKUにアップされた。
https://kenchiku.co.jp/event/evt20190415-1.html

『天然知能』(郡司ペギオ幸夫:著 講談社選書メチエ 2019)を再読する。本書の冒頭で、著者は天然知能について、こう書いている「天然知能は、人工知能の対義語として根付いている知性、を意味するものではありません。決して見ることも、聞くこともできず、全く予想できないにもかかわらず、その存在を感じ、出現したら受け止めねばならない、徹底した外部、そう言った徹底した外部から何かやってくるものを待ち、その外部となんとか生きる存在、それこそが天然知能なのです」。つまり人工知能と自然知能という対比から外れて、外部に開かれているのが天然知能というわけである。人工知能が客観的な三人称的知性、自然知能が主観的な一人称的知性だとすれば、天然知能は1.5人称的知性だと著者は定義している。一人称的知性である自然知能は〈自己言及〉という矛盾を孕み、三人称的知性である人工知能には〈フレーム問題〉という限界が控えている。著者は両者を接合するのが天然知能だという。「天然知能は、自己言及とフレーム問題を接続することで、両者を無効にしてしまうという、通常は考えられない解決を実現してしまうのです。両者は、接合され、自己言及の前提である〈全体〉の確定をフレーム問題が無効にし、フレーム問題の前提である意味を確定する解釈者を、自己言及が無効にするのです。(中略)かくして、人工知能における決定の不可能性は、天然知能における経験の可能性として転回されることになるのです」。ここから、天然知能とは絶えず分節を解体し再編成をくり返す、脱構築的な運動体であることが推察される。ホフスタッターのいう〈不思議の環〉と同じ論理といってもよいだろう。人工知能は視覚的な知能であるという著者の指摘も興味深い。視覚は対象に対して働きかけることなく(正確にはそうではないのだが)一方的に情報を受け取る。これに対し、触覚は双方向的でフィードバック的な情報交換がある。ベンヤミンや多木浩二が、視覚だけでなく触覚にも注目したのは、おそらくそのためではないだろうか。カントの相関主義的認識論やフッサール、ハイデガーの現象学、その延長上にあるマーヴィン・ミンスキーの人工知能論やアンディ・クラークの認知科学は、一人称的なフィルターがかかっているので、知覚できない外部を理解することはできないと著者はいう。一方、知覚不可能な外部の実在の存在を主張する思弁的実在論や新しい実在論は、数学や集合論を論拠にしている点において、静的な分節化の限界を免れていないとも著者はいう。かくして、著者は最後に、文化人類学におけるインディアンの世界観からヒントを得て、〈自由意志〉と〈決定論〉のディレンマ(矛盾)というスピノザ的構図に〈局所性〉の概念を導入することによって、三つの条件が同時に成立することはない〈三竦み〉構図のトリレンマ的モデルを構築する。量子論において、位置と運動量を同時に測定はできないというハイゼンベルグの不確定性原理が局所性である。著者はこの局所性の概念を、離れた場所の情報を知ることができるかどうかという情報論的な概念に読み替えることによって、人間の知能における意識構造、すなわち自由意志と決定論の関係のモデルを以下のように整理している。1)自由意志を持つ意識的自己=〈わたし〉が中央に位置し、2)それを取り囲み、意識的自己によっては意識されない、無意識=脳内他者の決定論的メカニズム=〈自己〉があり、3)その外部を〈他者〉が取り囲むというモデルである。局所性は1)2)3)各々の間を仕切る境界を形成している。どの局所性が、どの境界において外れるかによって、3つのタイプの意識構造が生まれる。そして、すべての境界が外れ、縺れ状態になる意識状態において初めて、受動的な〈わたし〉が能動性を獲得することができると著者は主張する。天然知能は、この3つのタイプの意識構造を動き回る意識形態である、というのが著者の結論である。以上のような考え方を建築に引き寄せてみると、様々なヒントが得られるように思う。まず対象を言語によって分節することが認識行為とすれば、そこに時間と変化を導入することによって、分節を絶えず転換することが重要であることを確認できる。建築デザインでいえば、空間の分節を曖昧あるいは最小限に止めることによって、多様な分節が可能なような空間をデザインすること、さらに時間的変化を許容するような材料や構法を考案することなどが重要な条件となるだろう。要は、建築空間を天然知能と同型なフレキシブルな構造にデザインすることである。


2019年04月15日(月)

快晴で暖かい一日。いよいよ本格的な春である。8時半出社。5月18日(土)のシンポジウム『日本の近代建築を支えた構造家たち』の後半に、近代構造史に関する僕のショートレクチャーに続いて、近代構造史の主要なテーマに関するディスカッションを行うことになっている。先日の構造史WG会議において、1)応用弾性学と建築、2)応力の可視化、3)数値解析、4)材料と構法、5)構造家の職能、という5つのトピックスを取り上げることが決まり、各トピックを5人の構造家、中田捷夫、新谷眞人、佐々木睦朗、金箱温春、浜田英明、が担当することになった。やや専門的なトピックなので、ディスカッションに入る前に、簡単な説明スライドをプレゼンテーションしてはどうかという提案を構造家クラブのメンバーにメール送信する。まもなく金箱温春さんから返信メールが届き、担当者の配分が決まる。僕も「構造は建築をどう変えてきたか:近代建築における構造デザイン」のスライドの作成に着手する。オンサイトの坂本さんから「163保田邸」の電気配線経路に関する質問メールが届く。戸田と打ち合わせ配線経路を確認する。実施設計では器具配置と配線システムだけを設計し、具体的な配線経路までは検討していない。担当の戸田も十分に理解していないようだ。しかし「箱の家」は構造体がほとんど露出しているので、配線を通す余地がほとんどない。あれこれ再検討した結果、器具とスイッチの位置を若干変更することになる。早急に図面をまとめてオンサイトに返信。引き続き、外壁面と屋根面の断熱材の取り合い部分の施工方法について提案メールが届く。基本方針を了承し工事写真を撮影するように依頼する。アクアレイヤーの設置工事は5月8日、9日になったそうだ。アクアレイヤーの設置状況を確認するため、現場監理に赴く必要があるだろう。他の打ち合わせも兼ねて熊本に行くことにしよう。北山恒architecture WORKSHOPの狭間裕子さんから、都庁へ書類を提出した旨のメールが届く。今週末の都庁の説明会には、挟間さん、織山和久さんと僕の3人が参加する予定。木村と「箱の家164」第2案のアクソメのアングルについて打ち合わせ。室内空間がわかりやすいアングルに決める。『歴史は実験できるのか:自然実験が解き明かす人類史』(ジャレド・ダイアモンド+ジェイムズ・A・ロビンソン:著 小坂恵理:訳 慶応大学出版会 2018)を読み始める。


2019年04月14日(日)

晴れ後曇りの暖かい一日。夜には小雨が降り始める。9時半に出社。戸田と木村がまとめた「箱の家164」の第1案と第2案に目を通し、問題がないことを確認。保田さんから5月18日(土)のシンポジウム「日本の近代建築を支えた構造家たち」に出席する旨のメールが届く。界工作舎や佐々木事務所に立ち寄りたいと希望されているが、僕も佐々木さんもプレゼンターで、シンポジウム寸前までシナリオとスライドの準備に追われている可能性があるため、会うのは難しい旨のメールを返信する。前田記念財団の前田工学賞の講評文を書き始める。まず論文要旨と審査結果を読み直した上で、全体の方針をスケッチしてみる。正午過ぎに書き始め、15時までに一気に書き上げる、数回、読み返して推敲し、16時に事務局に送信する。16時過ぎに事務所を出て、表参道から千代田線で日比谷駅にて都営三田線に乗り換え、三田駅にて下車。17時に建築会館に着く。建築会館ギャラリーにて「地球の声」デザイン小委員会展2019のオープニング・イベントに参加。集まっているのは大学生や大学院生がほとんどで、顔見知りは塚本由晴、大野二郎、安原幹、川島範久、小見山陽介といったところ。安原さんにバブル期の建築のリノベーション・プロジェクトについて説明を受ける。17時半から出展者がそれぞれの展示について説明していく。前半の小見山さんと塚本さんの発表を聞いたところで会場を出て、小見山さんを誘って近くの居酒屋で会食。ビールで焼き鳥や馬刺しを食しながら、互いの近況について報告。19時半過ぎに川島さんが合流し盛り上がる。小見山さんは京都に戻るので20時過ぎに解散。21時過ぎに帰宅。展覧会のことを思い出しながらウィスキーを呑み直す。『建築史への挑戦』を読みながら夜半就寝。


2019年04月13日(土)

晴れでやや暖かい一日。戸田が修正した「箱の家164」第1案を確認して微調整。木村がまとめた第2案をチェックバックし一部修正。これで見通しが立ったので、Uさんに来週末にプレゼンテーションを行いたい旨のメールを送る。まもなく返事が届き、来週末はパスなので、プレゼンテーションは4月末になりそうである。富山の正栄産業から「162酒井邸」の地鎮祭が5月19日(土)11:00amに決まった旨のメールが届く。早速ネットで北陸新幹線の切符を手配する。戸田と「163保田邸」のベランダと玄関ドアの取り付け詳細について打ち合わせ。午後に図面がまとまったので、説明のコメントを添えてオンサイトに送る。「163保田邸」の建方の際に大工が屋根断熱パネルの上に小屋組を組んでいる写真をfacebookにアップしたら、沢山の人が興味を持ってくれた。その目的についてコメントすしたら、さらにチェックが増えた。よほど珍しい構法に見えたのだろうか。小屋裏が夏季の輻射熱対策になることは伝統的な民家の常套手段であることは、あまり知られていないようだ。夏季の日射によって高温になったガルバリウム鋼板屋根面と野地板からの放射熱は、断熱パネル上のアルミ箔に反射して小屋裏内の気温を約65度にまで上昇させる。その熱気を軒裏からの通気によって北側外壁から排出するのである。その説明をfacebookのコメント欄に書き込みながら、この構法はRC造の内断熱と外断熱の性能の相違の問題とも無関係ではないことに気づく。屋根材も下地材も蓄熱性の低い材料ならば問題は生じないが、蓄熱能力の大きいRC壁の場合は異なる現象が生じる。RC外壁に日射熱が蓄熱されると、RC壁は長時間、高温のまま持続する。その場合、たとえ高性能の内断熱であっても、徐々に熱は室内に伝わり、断熱材の室内側の表面温度を上昇させ、熱放射が生じるに違いない。要するに長時間の緩慢な熱伝導によって生じる現象である。外断熱の場合は、日射は外断熱材によって遮断されるので、RC壁に蓄熱が生じることはなく、逆に室内気温が長時間常温に保たれることによって室内気温は安定する。これならば僕の疑問も十分に説明がつくだろう。同じことは地中のRC基礎についてもいえるかもしれない。その場合は、温度が変わらないのは地中の方であり、そこから基礎の外断熱は必要がないという結論が導き出されるように思えるが、この問題については、さらに研究が必要だろう。

『パンセ(下)』を読んでいて、僕が探しているパスカルの箴言は[アンソロジー:人間の研究]の最後あたりに掲載されていることを発見。訳者の塩川徹也はこう翻訳している。「心には、理性の知らない、それなりの理由がある」。この訳文は、ごく当たり前の意味に読めるが、深みはない。パスカルの有名なこの箴言を初めて知ったのは、クロード・レヴィ=ストロースの『野生の思考』か『レヴィ=ストロースとの対話』と記憶している。そこでは「感性には理性には感取できない理性がある」と訳されている。柄谷行人もどこかでこの訳文を引用している。感性と理性という対比がカント的で、カント主義者を自称するレヴィ=ストロースに相応しいのみならず〈理性〉の意味の多義性を示唆している点でも優れた訳であり、僕としては、この訳文がベストだと確信している。翻訳について考える際に、いつも連想するのが『ル・コルビュジエ全作品集8』の吉阪隆正による翻訳である。本書の最後あたりに、ル・コルビュジエが死(1965年8月25日)の1ヶ月前に書いた精神的遺言とも言える文章が掲載されている。タイトルは、吉阪訳では「人の心ほど伝えられないものはない」だが、原文では「Rien n’est transmissible que la pensee」、英訳では「Nothing is transmissible but thought」となっている。字義通りに訳せば「伝えることができるのは思想だけである」となる。どちらでも意味は通じるが、ニュアンスが異なり、まったく逆の意味にも読める。本文でも最後あたりに同じ文章が繰り返されているが、直後に次の文が続いている。「,noblesse du fruit de travail」、英訳では「,the crown of our labour」。直訳すれば「高貴なる仕事の成果」であり、それが思想なのである。しかし吉阪の訳文では「この仕事の高貴な成果の人の心ほど伝えられないものはない」となっている。僕の考えでは、この訳文はまったくル・コルビュジエらしくないと思う。やはり「伝えることができるのは、高貴なる仕事の成果、すなわち思想だけである。」の方がずっとル・コルビュジエらしいと言えないだろうか。翻訳は本当に難しい。


2019年04月12日(金)

曇りで肌寒い一日。東京都防災都市づくり課から北山恒さんの事務所に連絡が届いた「都有地活用による魅力的な移転先整備事業」の募集要項に関して、北山恒さん、織山和久さんとメールで意見交換。プロポーザルの事業者に建設会社を含むことが条件づけられていることや、建物の機能が限定されているなどから、参加できそうにない条件も見受けられるのだが、とりあえず4月19日(金)の説明会には出席することを確認する。戸田がまとめた「箱の家164」の第1案の平面図、断面図、立面図のチェックバック。何とか収斂する可能性が見えてきたので、模型製作の準備を開始する。引き続き第2案のまとめを木村に指示する。日士連作品賞事務局から審査日時の変更メールが届いたが、変更日時には先約があるため、参加できない旨の返信メールを返送する。法政大学の浜田英明さんから、5月18(土)に法政大学市ヶ谷田町校舎5階のマルチメディアホールで開催されるシンポジウム『日本の近代建築を支えた構造家たち』のフライヤーが届いたので、直ちに界工作舎HPとFacebookにアップし、関連メディアに紹介依頼のメールを送る。
https://www.facebook.com/kazuhiko.namba
http://www.kai-workshop.com/index.html
思い立って16時半に事務所を出て、表参道から銀座線で京橋にて下車。LIXILギャラリーで開催中の『吉田謙吉と12坪の家』展に赴く。終戦直後に建てられた舞台芸術家、吉田謙吉の自邸(1948年)で、池辺陽の「立体最小限住宅(1950年)」に似ている点に興味を持った。レンガや木材仕上げの細部まで作り込んだ1/20のリアルな模型に見入っていると、年配の女性が模型製作の経緯を細かく説明してくれる。問い返すと吉田の娘さんの塩澤珠江さんである。建築家の模型の味気なさについて一家言を持たれているようで、舞台芸術と建築との相違についても意見を聴く。会場では東京理科大学の非常勤だった時代の教え子である岡松利彦さんにも会う。18時過ぎに帰社。陣内秀信さんから『建築史への挑戦:住居から都市、そしてテリトーリオへ』(陣内秀信+高村雅彦:編著 鹿島出版会 2019)が届く。2017年に開催された退職記念連続対談の記録で400ページを超える大著である。直ちにお礼のメールを送る。陣内さんの「はじめに」を読みながら、佐々木睦朗さんの退職記念最終講義の記録『構造・構築・建築」(LIXIL出版 2017)を思い出す。何となくソフトカバーの装丁が似ているのと、ゲストを招いての対談システムも似ているからである。さらに、鈴木博之さんの退職記念講義も思い出す。僕と横手義洋(電機大)さんで企画した連続講義だったが、今から考えると、なぜその際に陣内さんを招かなかったのかと不思議な感慨にとらわれる。その際には、連続講義の記録をそのまま本にまとめることはせず、参加者全員が新たに書き下ろした原稿を『近代建築講義』(東京大学出版会 2009)にまとめたことを思い出す。まもなく陣内さんから返信メールが届き、退職記念連続講義の原型になったのは、鈴木博之の連続講義であると指摘される。『天然知能』を読み終わる。最後の2章では天然知能のモデルが提唱されている。いろいろなヒントをもらったので、週末に再読し読後評をまとめよう。


2019年04月11日(木)

快晴だが風が強くやや肌寒い一日。8時半出社。富山の正栄産業に「162酒井邸」の工程表の作成を指示し、併せて地鎮祭の日程調整も依頼する。まもなく返事が届き、5月下旬の予定を打診される。酒井一家のスケジュールに合わせて週末開催を前提とし、地鎮祭は暫定的に5月19日(日)に決める。前日の5月18日(土)が大安で好都合なのだが、その日は「構造史シンポジウム」があるので難しい。戸田がまとめた「箱の家164」第1案の平面図と断面図をチェックバックし、修正を指示。引き続き立面図をまとめるように指示する。明日までには第1案が一通りまとまるだろう。久しぶりに天気がいいので、散歩がてら表参道を経由して青山の銀行へ向かう。欅並木が少しずつ芽を吹き始めている。しかし北風が強くて寒いので、雑用を済ませ早々に帰社する。午後は前田工学賞講評と「都市科学事典」の原稿スケッチの繰り返し。久しぶりにスタッフと夕食を食べながら、作業の進捗状況を訊く。来週末に「箱の家164」のプレゼンテーションを行う予定を決め、第1案の図面と模型の製作を戸田に任せ、第2案のまとめを木村に頼むことにする。設計要旨は僕がまとめる。構造システムについては、Uさんにプレゼンテーションし、基本方針が決まってから佐々木構造計画に相談することにしよう。

『天然知能』を読み続ける。カントの相関主義的認識論からフッサール、ハイデガーの現象学を経て、その延長線上にあるマービン・ミンスキーの認知科学論の限界を検証し、さらにそれを超える実在の他者性を捉えようとするカンタン・メイヤスー、ガブリエル・マルクス、グレアム・ハーマンらの思弁的実在論や新実在論を検討して、いずれも天然知能のモデルを形成するには至らないという結論に達する。僕には細かな点をフォーローできる知見はないので、何とも判断できないのだが、著者の目配りの良さには感心する。残すところ2章である。


2019年04月10日(水)

冷たい雨が降り続く冬のような一日。オンサイトから「163酒井邸」のアルミサッシ製作図が届く。特に問題はないので、そのまま承認するメールを返信する。戸田がまとめた「箱の家164」第1案の平面図をチェックバックし、修正を指示する。引き続き、昨日まとめた断面図と立面図のスケッチについて説明し、図面化を指示する。2階建ての第1案は、斜路を含むダイナミックな空間が魅力的なので、是非とも実現したいのだが、如何せん面積がかなり大きいために、工事予算が最大のハードルである。念のために縮小案のスタディを検討する。せっかくの広い敷地を生かすために、当初に試みていた平屋案のスケッチを再開する。あれこれと試行錯誤をくり返し、夜までに何とかUさんの希望条件を満足できそうな平屋案にたどり着く。これならばギリギリ予算内に収まるかもしれない。界工作舎としては、2階建を第1案として、模型を製作し、平屋案を第2案としてプレゼンテーションすることにしよう。木村がまとめている途中の「162酒井邸」の矩計詳細図をチェックバックする。まだ完成はしていないが、積雪の際の壁の防水立ち上がり部分の納まりが気になったので、再検討を指示する。来月の地鎮祭までには、矩計詳細図を一通りまとめて正栄産業に渡すことにしよう。陣内秀信さんから『新・江戸東京研究:近代を相対化する都市の未来』(陣内秀信:監修 法政大学江戸東京研究センター:編 法政大学出版局 2019)が届く。〈法政大学江戸東京研究センターEToS〉の設立を記念して昨年(2018年)に開催された国際シンポジウム「新・江戸東京研究---近代を相対化する都市の未来」の記録である。陣内秀信さんは一昨年前に法政大学を退職されたが、現在もますます広範な活動を続けられているようだ。最近ではイタリアの重要な賞を受賞したというニュースを知った。北山恒さんの講演記録も収められているので、じっくり読んでみよう。『天然知能』を読み続ける。カントの〈物自体〉に似た天然知能の過剰性が、人工知能や自然知能を超えて展開する実例が、手を替え品を替えて紹介検討されている。後半に差し掛かり、思弁的実在論まで飛び出してきた。


2019年04月09日(火)

昨日と打って変わり、快晴でやや肌寒い一日。8時半出社。オンサイトに「163保田邸」の4月工程表の作成を再確認する。木村、戸田と「箱の家164」第1案の打ち合わせ。2人の案を見ると、スタディにあまり時間をかけていないせいだろうが、Uさんから届いた希望条件を自分のアイデアに引き寄せて、都合のいいように読み変えている点が気になる。Uさんは「箱の家」のコンセプトを十分に理解した上で、希望条件をまとめているから、設計の初期段階において設計者の考えを優先するのは本末転倒だろう。まずはクライアントの希望条件を充足するような案を作成し、その上で先に進むべきである。そのためにはかなり突っ込んだスタディが必要である。3人の案を比べると、明らかに僕の案の方がベターである。要はスタディにかけた時間の結果だと思う。とりあえず第1案は僕の案で進めることとし、戸田に図面化を指示する。その間に僕は断面や立面のスタディをくり返し、構造や設備のシステムについても検討する。今週中には何とか第1案をまとめたい。合間に『建築雑誌』4月号の特集号を読み通す。総じてエンジニアリングに関する議論にあまりリアリティを感じられないのは、エンジニアリングの最先端だけに注目し、そこに至る歴史的経緯が忘れられているからである。最先端は時間を経れば必ず過去になる。その点を相対化しているのが小澤雅樹と野沢正光の記事であり、だからこそ僕は納得できるのである。特集32の最後の対談「建築・都市と技術をつなぐ〈新エンジニア〉の可能性」(羽藤英二×豊田啓介)で、ようやくエンジニアリングと歴史との関係についての議論があり一安心する。寒いので夕食は妻とアンコウ鍋で身体を温める。夜は『天然知能』を読み続ける。Amazonから『パスカル(下)』(ブレーズ・パスカル:著 塩川徹也:訳 岩波文庫 2016)が届く。僕と同世代のフランス文学者による新訳であり、彼がパスカルの有名な箴言「感性には理性には感受できない理性がある」をどう翻訳し解釈しているかを確かめてみたいと考えたからである。
https://dokushojin.com/article.html?i=865


2019年04月08日(月)

雨のち曇り、時々晴れの肌寒い一日。8時半出社。「箱の家164」のUさんから新居の希望条件リストが届く。以前のメールの内容よりもさらに細かいリストである。戸田と打ち合わせて、昨日のスタディの結果を報告し、斜路、駐車場、中庭の条件を確認した上で、Uさんの希望条件リストを、プラン、構造、環境、材料、ディテールに分類するように指示する。小見山陽介さんのブログで、英国の建築家リチャード・ホールデンが、昨年10月に亡くなったことを知る。アスベストが要因の肺癌とのこと。N・フォスター事務所で香港上海銀行を担当したというから、何か関係あるのかもしれない。彼は僕より3歳年上だが、工業化、軽量化、コンパクト化を目指した建築観に共感を抱いていた。小見山さんがロンドンの彼の事務所で働いていた頃に、一度事務所を訪ね意見交換したことがある。まだまだ活躍して欲しかった。冥福を祈りたい。
https://blog.goo.ne.jp/yosuke_googoo/e/10c3d4014824d072827f83cf41154023?fm=rss
http://www.hcla.co.uk/people/
『建築雑誌』2019年4月号「特集31:ラボデザインの過去・現在/未来」「特集32:新エンジニアー工学で未来を思索する」を読む。特集31はインタビューと対談の記事が中心で、若い人たちの対談を興味深く読んだが、僕はすでに大学を退いているので、自分に引き寄せるのが難しく、あまりリアリティを感じられない。特集32は小澤雅樹と野沢正光の記事を興味深く読んだ。というのも小澤さんは近現代建築資料館で進めている日本構造史WGのメンバーで、記事の内容はそのテーマと完全に被っているからである。日本の構造家の歴史的な特異性もよく分かった、野沢さんはモダニズム以降の西洋建築史におけるエンジニアリングの役割を、構造や構法に限らず環境技術までを含めて、自分の仕事に引き寄せながら明確に整理している。レイナー・バンハムの『環境としての建築』は要再読本だろう。まだ特集全体を読み通していないが、今回の特集は僕にとって大きな収穫である。戸田が整理した「箱の家164」の希望条件リストを見ながらスタディを繰り返し、夜までにある程度方針を固める。構造システムについても簡単にスケッチ。しかし面積を計算してみると、建築面積はギリギリセーフだが、延べ床面積がかなり大きくなった。何しろ斜路だけでも10坪以上必要だからである。明朝の打ち合わせを約して21時半帰宅。


2019年04月07日(日)

晴れのち曇りの暖かい一日。10時出社。昨日の「箱の家164」のスケッチに基づいて、寸法を入れた図面を手描きでスタディしてみる。2階建てにした場合、斜路、2台分の駐車場、中庭を確保するには、建物を敷地一杯に広げる必要がありそうだ。駐車場と玄関周り、LDKと水回りをコンパクトにまとめると、両者の繋ぎ方が難しい。午後過ぎまでステディを繰り返しても打開策が見つからず一旦休止。13時過ぎに事務所を出て、表参道駅から半蔵門線に乗り、九段下駅で東西線に乗り換えて神楽坂駅にて下車。ホームで界工作舎OGの飯塚るり子さんと彼女のフィアンセに会ったので、一緒に坂牛卓さんの自邸「神楽坂の家:運動と風景」のオープンハウスへ向かう。神楽坂駅の前方出口から出て、北へ向かう斜面道路を下り、さらに路地を北に下って車の通る道を東方向へ歩き、再び路地を南方向に折れて路地の突き当たりの少し分かりにくい小さな敷地である。南面には広い畑地があり、いずれ建築が建てられるだろうが、現状は日当たりのいい環境である。敷地面積が52.95屐16.0坪)、建築面積が31.62屐9.6坪)のコンパクトな住宅で、外装は壁、屋根共に十分に断熱したガルバリウム鋼板のサイディング張。単純な長方形平面で地下1階、地上3階の中に、迷路のようなに複雑な空間が収められている。地下から1階途中まではRC壁造、その上は木造だが、RC壁面以外の構造体は現れていない。地下室はアトリエになるそうだ。仕上げは全体的にモノトーンでまとめられているので、内部空間の複雑さが立体的に浮かび上がる。微妙な斜めの面が〈運動と風景〉を感じさせる。坂牛さんの説明を聞きながら地下室から3階までを見学。隅々まで考え抜かれた住宅に感心する。まもなく高橋寛・晶子夫妻、宮晶子、井坂幸恵、寺内美紀子といった懐かしい面々が訪れ、人で一杯になったので、坂牛さんにお礼を述べて退席する。15時に帰社。再び「箱の家164」のスタディを再開。あれこれ模索して、斜路のない平屋建て案をスタディしてみるが、客用の余剰空間が取れない。やはり2階建にならざるを得ないのだろうか。だとするとかなり床面積が大きくなるなあ、と考えるうちに夜になる。『天然知能』を読みながら夜半就寝。


2019年04月06日(土)

晴れで暖かい一日。8時半出社。一昨日の馬刺しのせいか、腹の具合が少しおかしい。食欲はあるが身体がだるい。あるいは二日出張の疲れかもしれない。戸田が昨日受け取った敷地データから「箱の家164」の敷地図を作成したので、直ちにUさんに送信する。今後のメールによる打ち合わせのために、A3版プリンターの購入を勧める。まもなくUさんから返信メールが届き、鉄骨造の断熱構法について質問される。鉄骨造における外張断熱と内張断熱の相違に関する質問である。構造システムと防水と耐候性の問題点について詳細な回答をまとめて返信する。スタッフに「箱の家164」のスケッチを試みるように頼んで、正午過ぎに解散。帰宅してベッドに横になりiPadのメモソフトを使って「箱の家164」のスケッチを開始する。何度かスケッチをくり返し、何となく方向性が見えてきたので、明日事務所で寸法を入れてスケッチしてみよう。しばらく休んだ後、18時過ぎに家を出て外食。20時半帰宅。『天然知能』を読みながら夜半就寝。


2019年04月05日(金)

晴れで暖かい一日。今日は杉本貴志の1周忌である。Facebookで永井資久さんが昨年10月5日に開催されたJCD連続デザインシンポジウム『杉本貴志の人と仕事を語る』のパネリスト、照明デザイナーの面出薫さん、インテリアデザイナーの片山正道さんと僕、モデレーターの飯島直樹さんの写真を再アップしている。シンポジウムの記録はYouTubeにアップされている。
https://www.youtube.com/user/JCDJapan
午後、大塚商会が来所しファックスコピー機のリース契約を締結する。新しい機械は来週末に入る予定である。戸田が熊谷市土地区画整理西部事務所に連絡し、書類が揃ったので敷地測量図を受け取るため先方に赴く。時間に余裕があれば水道局まで足を伸ばし、前面道路の上下水道の状況も調査する予定。「163保田邸」の建方工事の写真を整理して佐々木構造計画に送る。4月に入リやや円高気味になったので、思い立って秋のイタリア旅行の航空券、フランクフルト空港からボローニャ国際空港の便と、フィレンツェ国際空港からフランクフルト空港の便の航空券をネット購入する。格安航空の場合、預けるluggageや機内に持ち込み手荷物に対して費用がかかるだけでなく、エコノミーの座席にも種類別に応じて追加費用がかかるので要注意である。確認申請の審査機関から「162酒井邸」の審査が完了した旨の連絡が届いたので、木村が確認済証を受け取りに赴く。18時に帰社したので、確認済証の正副本と製本した工事契約図面一式を酒井さんに宅急便で送り、併せて書類一式のデータを送信する。夜、戸田から今日の「箱の家164」の敷地調査結果について報告を受ける。敷地条件がはっきりしたので早急に測量図をまとめるように指示する。事務所近所のマンションのオーナーから建替の相談を受ける。それほど急いでいるようではないが、さまざまな業者から見積を取っているようだ。『天然知能』(郡司ペギオ幸夫:著 講談社選書メチエ 2019)を読み始める。人工知能、自然知能、天然知能という分類が興味深い。人工知能の時代に人間の知能にどのような可能性が残されているかという問題提起である。


2019年04月04日(木)

快晴で暖かい一日。7時前に起床。7時過ぎに1階の食堂で日本食の朝食。大津駅すぐ近くのビジネスホテルなので宿泊客で一杯。東南アジアや中近東の人が多い。部屋に戻り昨日の日記を書き込む。昨夜、Uさんから、敷地の権利証の所在に関するメールが届いたので、今後の作業についての説明メールを返信する。敷地が区画整理区域内にあり、通常とは異なる申請手続が必要なので、必要書類の送付を依頼する。8時半にホテルをチェックアウトし、ロビーで保田夫人と待ち合わせ、車で「163保田邸」の現場へ。建方2日目で、大工8人は屋根断熱パネル上に防湿シルバーシートを敷き込み、その上に通気小屋組を組み立てる作業を開始している。初めての慣れない仕事のようで少々手間取り、昼までにようやく敷土台、束立、母屋の設置まで進む。昼休み中に完成模型を大工さんたちに見せたせいか、昼食後の作業は急ピッチで進み始める。母屋の上に垂木を載せる作業を続け、垂木の鼻先につなぎ材を打ち付けたところで、ようやく軒庇の形が見えてくる。現場監督の坂本さんに聞くと、今日は野地板の留め付けとルーフィング張りまでやるそうだ。建方には、昨日から8人の大工が参加しているのだが、構法と納まりの全体を把握しているのは坂本さんだけなので、彼の指示で8人がテキパキと働き、作業の滞りがまったくない。17時半に今日の工事が一通り完了する。その後の工具やゴミの片付け作業を具に見ていて、手際のいいチームワークに、ほとんど感動さえ憶える。18時ピッタリに完了。保田夫妻から大工にお祝いを渡した後に、一同で記念写真の撮影。坂本さんと大工棟梁にお礼を述べ、次回はアクアレイヤー敷き込み時に来ることを約す。保田夫妻にお別れの挨拶をして、矢橋さんの車に同乗し、熊本空港へ18時半着。空港のレストランで馬刺しと日本酒で一人だけの祝杯。19時50分発のJAL羽田行に搭乗。Uさんから書類データが届いたので、事務所に連絡し今後の作業についてメールで打ち合わせ。定刻通り21時25分着。モノレール、JR山手線、地下鉄銀座線を乗り継ぎ、10時半過ぎに帰社。11時前に帰宅。保田さんからメールで続々と建方の写真が届く。ウィスキーをロックで呑みながらこの2日間の建方を振り返る。「箱の家」の建方の一部始終に立ち会ったのは今回が初めての経験である。ほとんど部品を組み立てるだけの作業とはいえ、組立手順がかなり難しいことが分かった。現場によって異なるのかもしれないが、屋根と壁の接合部の納まりは、屋根工事先行で考えねばならないことも分かった。壁の構造用合板張と断熱パネルの気密性確保も、工事手順に左右されるからである。現場脇のテントから、現場をずっと眺めて過ごすのは不思議な体験である。二日とも快晴に恵まれたので、間延びしてはいたが充実した時間だった。


2019年04月03日(水)

晴れだがやや肌寒い一日。8時半過ぎに出社。直ちに事務所を出て、表参道から銀座線で新橋へ。ラッシュアワーの真っ最中である。JR山手線に乗り換え浜松町で下車。モノレールで羽田第1ビルへ。10時15分発のJAL熊本行きに搭乗。機内で日記をまとめて書き込む。12時10分過ぎに熊本着。待合室で保田夫人と待ち合わせ、車で大津町の「163保田邸」敷地へ。今日から建方開始である。昼休み中なので、保田さん、現場監理を依頼している矢橋さん、上野さんと一緒に現場を見て回る。既に柱と2階の床梁まで進み、屋根のLVL梁の建て込みが始まっている。オンサイト 現場監督の坂本さんが描いたプレカット図のおかげで、まったく間違いがない。現場写真を撮り、界工作舎に送信。夕方までに屋根の上の高窓の三角梁と屋根構造用合板、60ミリ厚断熱パネルの設置まで進み、18時半に今日の作業は終了。保田夫人に大津駅前のホテルまで送ってもらいチェックイン。19時前に矢橋さんの車にピックアップしてもらい保田さんが待つ居酒屋へ。日本酒で馬刺しや焼鳥などを食べながら歓談。いい気分になり21時半過ぎに店を出て、矢橋さんの車の代行でホテルに戻る。1階の大風呂で汗を流し22時半にベッドに倒れこむ。


2019年04月02日(火)

晴れ時々曇りの肌寒い一日。3年毎の一級建築士定期講習の案内が届いたので、申込書類の作成を戸田に依頼する。早いに越したことはないので7月に渋谷で開催される講習会に申し込むことにする。ニチハのサポートセンターから今年も「NICHIHA SIDING AWARD 2019」の審査員依頼のメールが届いたので快諾メールを返送する。佐々木構造計画から届いたチェックバック図にもとづいて、戸田と「163保田邸」の鉄骨ベランダ製作図について打ち合わせ、亜鉛ドブ漬メッキと組立の手順を調整して、部品サイズを小さくする手順を検討する。午後に佐々木構造計画から、溶接部を養生して亜鉛ドブ漬けメッキ仕上げにする方法を提案されたので、それに従って製作詳細図をまとめるように戸田に指示。夕方にまとまったので「163保田邸」の共有フォルダにコメントを加えてアップする。日士連作品賞事務局から現地審査のスケジュールと参加審査員のリストが届く。1作品に少なくとも2人が参加するのが必要条件だが、審査員7人が現地審査に参加する作品もある。審査員は9人だから、かなり高い確率である。とはいえ、これまでの経験からすると参加人数が多い作品が有利とは限らないようだ。事務所のファックスコピー機のリース期間がそろそろ満期なので、新しい機械の導入を検討した結果、性能が向上し、リース料とパフォーマスチャージが安くなる機械に転換することにする。今週中にリース契約を締結し、来週中には新しい機械を設置する予定。昨日、少々鼻白んだ保田さんからの質問メールに対して、佐々木構造計画の永井さんから懇切丁寧な返答メールが届いたので、このようなメールのやりとりは初めてだという短いコメントを添えて保田さんに転送する。佐々木構造計画には迷惑をかけてしまった。このようなやりとりは今回で最後にしたい。


2019年04月01日(月)

晴れのち曇りで肌寒い一日。昨夜遅く保田さんから「163保田邸」の土台に関する質問が届く。木土台をRC基礎に留めるアンカーボルトに関する質問なので、佐々木構造計画と金物メーカーのストローグにメールを転送する。専門的だが細かな質問である。昨日、撮影した敷地写真を事務所で共有し、前面道路に埋設している給排水とガスのライフラインを調査するように戸田に指示する。日士連作品賞の事務局から、昨日送ったメールに対する返答が届いたので、今後の対処の手順を提案する。結局、現地審査の対象作品を1件追加にすることになる。中谷礼仁さんから早大建築学科2年生の設計課題とレクチャーのプログラムとスケジュールが届く。6月下旬に1時間のショートレクチャーと住宅課題の講評会を1日で集中的に実施することになる。6月下旬まで2ヶ月以上あるので、レクチャーの準備には十分時間が取れそうである。正午のニュースで5月からの新しい年号が「令和」と決まったことを知る。昨年7月に生まれた孫娘の名前が「令」なので、偶然の符号にびっくり。勇み足的な命名になったため、将来、彼女は1歳若く見られることになるだろう。娘にその旨をLineすると逆に「和」は和彦の和だと指摘される。夕食の際にその話題で妻と一緒に大いに笑い盛り上がる。同じことは、佐々木睦朗さんから届いた娘の博士論文審査合格へのお祝いメールでも指摘される。家早何友。佐々木構造計画の永井佑季さんと富山のストローグから、今朝の質問メールに対する回答メールが届いたので、工務店のオンサイトと保田さんに転送する。建築ジャンルの専門的な仕様に関する、他ジャンルのエンジニアである保田さんからの質問なので理解してもらえるだろう。まもなく保田さんからの確認メールが届く。しかし佐々木事務所の回答に対して、保田さんは自分の経験だけで構造システムに関する意見を指摘し続ける。建築構造のルーズさを批判しているようだが、建築界へのリスペクトが感じられず読んでいて気分が少々引いてしまう。夜、佐々木構造計画から「163保田邸」の鉄骨ベランダ詳細図のチェックバックが届く。サブ構造なのに本格的な構造にしようとしている点や、亜鉛ドブ漬メッキ仕上げのサイズ制限や組立プロセスを考慮していない点に抵抗を感じる。階段を含めてメイン構造以外の詳細は、界工作舎で検討した方がいいかも知れない。

佐々木睦朗さんから届いたJIAジャーナル4月号の巻頭インタビュー『再利用、素材、構築を手掛かりの建築観の転換を迫る』(加藤耕一×インタビュアー:坂牛卓)を読む。『時がつくる建築:リノベーションの西洋建築史』(加藤耕一:著 東京大学出版会 2017)をめぐって、坂牛さんは、本書は近代建築におけるこれまでの〈新築主義〉を転換する契機になるかも知れないと指摘している。リノベーションやコンバージョンは2000年代初頭から話題になってはいるが、本書はその潮流を西洋建築史に結びつけ理論化しているからである。加藤さんは、現代建築の課題は〈時が刻まれるマテリアル〉の開発にあるだろうと指摘している。僕も同意見だが、アルカイックなマテリアルに戻るのではなく、その課題を工業材料において追求すべきだと僕は考える。ただし最後あたりの〈テクトニック〉に関する議論には、やや違和感を抱いた。というのも加藤さんはテクトニックを〈構築〉と訳し、コンストラクションを〈構築〉と〈構成〉の複合概念と捉えているからである。これはロシア・コンストラクティビズムを日本語ではロシア構成主義と訳していることに、明らかに引きずられた解釈である。それに対し、僕の考えでは〈コンストラクション〉は〈コンポジション〉と対概念であり、ジャック・デリダが提唱した〈デコンストラクション〉概念との関係を考慮すれば、コンストラクションは論理的〈構築〉、コンポジションは幾何学的〈構成〉と考えるべきである。同時に、コンストラクションには、施工や構法というニュアンスも含まれているが、対概念であるコンポジションを幾何学的形態と考えれば辻褄が合う。この対比は、質料(ヒューレー)と形式(エイドス)にも対応している。かくしてテクトニック(構法)=構築=コンストラクションと、コンポジション=構成=形態と対比させれば、もっとも分かり易く、概念がクリアになるのではないだろうか。坂牛さんが提起している「建築の自律性と他律性」というトピックについては、両者を対立概念と捉えても生産的に議論にならないと思う。両者はむしろ相補的な概念である。その意味で『建築の4層構造』は両者を最初から一体的に捉えたマトリックスである。


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