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箱の家 PROJECT 青本往来記
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コンパクト箱の家

2019年08月16日(金)

曇りのち晴れの蒸し暑い一日。台風は日本海に抜けたが依然として風が強い。8時半出社。今日は腹部のCTスキャン診察の予定だが、改めて受診説明書を読み直すと6時間前以降は食事をするなと書いてあるのでビックリ。朝食を食べてしまったので溜池山王の診療医院に電話し9時半の予約を14時半に変更してもらう。戸田と「箱の家164」の概要書と平断面詳細図について最終確認の打ち合わせを行った上で長めのコメントを添えてU夫妻に送信する。合わせて佐々木構造計画にも送信。戸田は明日から夏休みなのでU夫妻との打ち合わせは再来週になる。14時前に事務所を出て表参道から千代田線で赤坂駅にて下車。北方向に歩いて7分で溜池山王の医院に14時半前に着く。予約表を渡し医師の問診を受けてから着替えて点滴針を腕に刺して診察室に入る。造影剤を点滴すると身体全体が熱くなるのはいつもの通りである。CTスキャンはMRIに比べると作動音はずっと静かなので緊張しない。約30分で15時過ぎに終了し16時前に帰社。9月に渋川で開催される磯崎新米寿祝賀会への往復のスケジュールについて佐々木睦朗さんメールとで打ち合わせ。加藤耕一さんが『建築雑誌』3月号特集「歴史の効用」のSlackにプログラム案について書き込んでいる。横手義洋さんの名前と『建築史とは何か』も挙がっているので短い感想コメントを書き込む。3月号も徐々に動き始めたようだ。連載の原稿スケッチを少々。しばらくは1、2、3月号の連載スケッチを並行して進めることになりそうだ。夜は『建築の前夜』を読み続ける。前川國男はアントニン・レーモンド事務所でしばらく働いた後に1935年に独立する。ル・コルビュジエの〈エラズリス邸〉(1930)の剽窃で話題になったレーモンドの〈夏の家〉(1934)については写真が掲載されているだけで全く触れられていないが1936年のパリ万博日本館の顛末については詳細に紹介されている。最終的に坂倉準三が日本館のデザインを担当することになったのは、坂倉がル・コルビュジエ事務所から帰国したばかりだったことも一因だが、それ以上に前川が東大建築学科出身であるのに対し坂倉が東大文学部の美学出身であることと関係があったようだ。


2019年08月15日(木)

台風10号の影響で晴れ、曇り、雨がくり返す不安定な天気。8時半出社。「箱の家164」の詳細図について戸田と打合せ。引き続き概要書を作成するように指示する。午後に再度打ち合わせて細部の変更を指示する。夕方に再再度打ち合わせて1/50の平面詳細図のレイアウトを敷地全体が入るような横配置に変更するように指示する。上下が東西方向のヘテロな図面になってしまうが、道路境界から建物までの床仕上げと水勾配を明示するためである。製本した時にも図面すべてが横位置で見ることができるのでこの方が好都合だろう。明朝に最終的なチェックをした上でUさんに送信する予定。『建築雑誌』3月号の特集テーマ「歴史の効用」のSlackに私見コメントを書き込む。なかなか作業がスタートしない編集担当幹事の加藤耕一さんに対する問題提起の書き込みである。建築学と建築デザインに対する建築史の反省的、批評的な視点と役割を確認した上で、その視点を建築史自体に差し向けたらどうなるかという問いかけのつもりである。3年前に建築史家の横手義洋さんが建築史の歴史に関する本を翻訳しているのを思い出したからでもある。『建築史とは何か』(アンドリュー・リーチ:著 横手義洋:訳 中央公論美術出版 2016)で建築史というジャンル自体が近代の産物であるという趣旨だった。それに対する反応が九州大の岩元真明さんからあったのでさらに私見をコメントする。この特集では虚学と実学の境界にある建築史の現代的意義について再検討してみたいと思っている。夜はNHKBSチャンネルでロボトミー手術の特集を観る。1940年代にアメリカのウォルター・フリーマンという医師が考案した精神病治療のための外科手術で、電気ショックで患者を眠らせた後に瞼の上から施術棒を差し込み前頭葉の左右を切断するというかなり暴力的な手術である。1950年代には簡便な精神病治療法としてアメリカでは大流行するが、14歳の少年にまで適用したことで社会問題になり、ケン・キージーが1962年に書いたドキュメンタリー小説『カッコーの巣の上で』でもとり挙げられ、その非人間性が批判されて以後は急速に衰退した。僕は1975年公開の『カッコーの巣の上で』(ミロシュ・フォアマン:監督 1975)で知った。『イージーライダー』でデビューしたジャック・ニコルソンの主演でアカデミー賞を受賞したことを記憶している。『建築の前夜』を読みながら夜半就寝。


2019年08月14日(水)

雨のち曇りで暑さは和らいだが蒸し暑い一日。8時半出社。富山の横山天心さんから「162酒井邸」の現場写真が届く。屋根の断熱パネル張りと防水下地までが完了し、現在は外壁の間柱工事が始まっている。断熱工事に関しては民間検査機関による現地審査があるので、その際には木村が立会う予定だが、それまでに断熱パネル接合部と出隅入隅の気密性確保のためブチルテープシール貼りを徹底するように依頼する。久しぶりにUさんからのメールが届き「箱の家164」の敷地の駐車場の契約解除期日に関して相談されたので、今年末に工事契約締結の予定なのでそれまでに契約を解除するように依頼する。戸田と詳細図と矩計図の打ち合わせ。道路と現状の敷地地盤面のレベル差を考慮してGLを敷地次盤面に設定した上で、駐車場の水勾配や玄関入口のレベル差について検討する。さらに階段の構造についてスケッチをくり返しささら桁と踏み板下地を鋼板とする単純明快な階段を考案する。階段下はトイレなので踏板下地も鋼板とし踏板仕上げは集成材とする方針でまとめる。床仕上げは1、2階ともフレキシブルボードなので踏板の集成材はグレーに染めることになるかもしれない。還流ダクトの配管経路や点検口の配置についてもメンテナンスを考慮して再検討する。Facebookで界工作舎に対し〈パネルログ〉なる構法が連絡してくる。はりゅうウッドスタジオと僕たちが開発した〈縦ログ構法〉に酷似した構法なので、はりゅうウッドスタジオの滑田さんに問い合わせたところ、よく知っている福島の材木屋が開発した構法だという。柱間に差し込む耐力壁として開発された構法で〈縦ログ構法〉とは考え方が微妙に異なるが、素人目にはほとんど同じに見える紛らわしい構法である。9月開催の縦ログ構法講習会では何と説明しようか。家早何友である。『建築雑誌』編集Slackで能作さんが2月号特集の臨時編集委員会を招集し来週水曜日の夜に開催することになる。合わせて能作さんは連載の「動いている建築」のSlackを立ち上げている。建築家の自邸の成長変化のプロセスを紹介する記事らしい。夜は『建築の前夜』を読み続ける。前川國男はル・コルビュジエのアトリエでの2年間の修業を終えて1930年に帰国し、いきなり〈東京帝室博物館コンペ〉に挑戦するが、その経緯が詳細に紹介されている.。前川が「負ければ賊軍」という名台詞を残したことで有名なコンペである。


2019年08月13日(火)

小雨のち曇りの蒸し暑い一日。8時出社。直ちに事務所を出て小雨の中表参道を経由して青山の歯科医院へ。雨のせいで表参道を歩く人は少ない。アップルストア表参道は全面改装中で外装全体に白いシールが張られて白い箱になっている。8時半から下前歯の差歯の修理。差歯を一旦抜いて周りを掃除し再び接着する治療。麻酔を打たないのでかなり鈍痛がする。一緒に歯垢の除去も行なったのでスッキリする。次回の定例メンテナンスは9月末を予約する。9時半終了10時前帰社。思い立って建築学会著作賞に再度応募することにする。審査委員が大幅に入れ替わっているので2年前のリベンジである。推薦書類は同じで年号を変えて3冊の本と一緒に宅急便で建築学会に送る。日建設計の山梨知彦さんがfacebookで今年の建築学会作品賞を受賞した〈桐朋学園調布キャンパス1号館〉のオープンハウス案内が届く。申込の締切は先週末だったが佐々木睦朗さんと一緒に見学する旨を伝えて山梨さんの了承を得る。9月末には竹橋のパレスサイドビルで開催される祝賀会の案内メールも届いたので出席のメールを返送する。「箱の家164」の詳細図と矩計図について戸田と打ち合わせ。細かな修正を指示し詳細図がまとまったら概要書をまとめるように指示する。その後も詳細図を見ながらあれこれスケッチをくり返し、思いついたアイデアを図面化する。出来るだけディテールを単純化してローコストに持っていきたいがなかなか難しい。地下と室内の空気の流れを考えながら床の空調吹出口の位置をスタディする。これまでとは異なる階段なので構造については一考の余地がありそうだ。新しい構造的な試みを考案してみたいが佐々木構造計画に相談する必要があるかもしれない。

夕方までに『科学の科学 コレージュ・ド・フランス最終講義』(ピエール・ブルデュー:著 加藤晴久:訳 藤原書店 2010)を読み終わる。週末に再読し読後評をまとめよう。引き続き『建築の前夜 前川國男論』(松隈洋:著 みすず書房 2016)を読み始める。序章で松隈は第二次大戦中の前川國男の戦争協力の有無について議論している。さまざまな意見が紹介されているが読んでいて胸が苦しくなる。クリティカルな状況に置かれた時に建築家はどのような対応をすべきだろうか。前川の立場に自分を置いてみるとき、時代の潮流に阿ることなく自身の原則を押し通すことができるかどうか僕は自信を持てない。1905年に生まれた前川國男が東京帝国大学工学部建築学科に入学するのは1925(大正14)年である。大正モダニズム末期で戦争の足音が近づいてくる時代の建築学科の雰囲気が詳細に記述されている。同級生には谷口吉郎、市浦健、横山不学がいた。前川の卒業論文は「大戦後の近代建築(ル・コルビュジエ論)」で岸田日出刀の指導の元にロシア構成主義とル・コルビュジエについて論じているがメインテーマは当然ル・コルビュジエ論である。前川は1928年3月31日の卒業式の夜に東京を発ちシベリヤ鉄道経由でパリに向かいル・コルビュジエのアトリエに弟子入りするのである。


2019年08月12日(月)

曇り時々晴れの蒸し暑い一日。今日は祝日で事務所は休みだが9時半に出社。腰痛はかなり治ってきたが中腰や捻れた体勢をとると再発するので何をするにも恐る恐るになってしまう。メールをチェックし日記をまとめた後に『建築雑誌』1月号の「レジリエンス特集」の連載原稿のスケッチを開始する。締切は10月でまだ先の話だが2月以降の連載原稿を含めて少しずつ書き溜めていくのがいつものやり方である。まずはできるだけ幅広いコンテクストから捉えるため気になるキーワードをランダムにリストアップした上でキーワード相互をマトリクスに組み関係づけることによって視点を複合化する。このやり方を採ると意外な発見に出会うことがあるので常用している。戸田がまとめた「箱の家164」の詳細図と矩計図に再度目を通すと意外に問題点が多いことを発見する。しばらくスケッチをくり返しディテールを単純化する方法を模索する。とりあえずの方針を決めてチェックバックの修正点を描き込む。写真家の八代哲弥さんから「163保田邸」の竣工写真の高解像データが届く。合わせて使用上の注意とクレジットの確認書類が添付されている。著作権の考え方が上田宏さんとは若干異なるようだ。僕が選んだ10カットに内装写真2カットが追加されているので、お礼と合わせて写真データのCDと請求書の送付を依頼するメールを返信する。保田さんから「163保田邸」の細かなクレームメールが届く。性能にはほとんど関係がなく気にならないような些細な問題点なので対応はオンサイトの坂本さんに任せる。

『科学の科学』を読み続ける。第蕎蓮崙端譴弊こΑ廚慮緘勝5 歴史と真理」に差し掛かりカントのアプリオリなカテゴリーの歴史性、社会性の指摘やヴィトゲンシュタインの『哲学探究』における言語ゲーム論が出てきて少し面白くなってくる。この章は後で再整理してみる必要がありそうだ。引き続き第珪沺崋匆餡奮悗呂覆室己を対象化しなければならないのか」に進む。何とか明日中に読み通したい。


2019年08月11日(日)

立秋を過ぎたというのに依然として快晴で灼熱の一日である。10時出社。昨日から始まった腰痛が相変わらず続いているので気分的にも動きが鈍くなる。年齢も要因だろうからじっくりと治すしかない。改めて考えてみると深酒した翌日は必ず腰痛があるのでアルコールも控えるべきかもしれない。昼過ぎに熱い風呂に入り腰を温めると少し症状が軽くなる。インターネット航空券販売会社のeDreamsから昨年のキューバ行き航空券の賠償を行う旨のメールが届く。昨年の帰国直後に何度もメール連絡したにもかかわらず反応は皆無だった。1年遅れで連絡が来るとは何をかいわんやである。それも僕たちが被ったカンクンとハバナのホテル代、タクシー代、変更航空券の購入費を含む実質的な被害額ではなく、カンクンからハバナへの航空運賃だけなので10分の1にも満たない微々たる金額である。とはいえ賠償の意志があるのはありがたいので振込先の銀行データを返信する。木村がまとめた「162酒井邸」の家具図をチェックする。まだ途中図面なのでチェックバックは難しそうだ。酒井さんから天井合板の節の問題に関するメールが届く。とりあえず界工作舎の提案を承諾してもらう。材料の素地を生かすという「箱の家」の仕上げのポリシーを理解してしてもらったのが何よりの収穫である。戸田がまとめた「箱の家164」の平面、断面詳細図と矩計詳細図をチェックする。あと少し修正すればまとまりそうなので、週明けに急いで概要書を作成し来週中にはU夫妻に送ることができそうである。『科学の科学』を読み続ける。科学界のハビトゥスに関する詳細な議論が続くが、コンテンツ抜きの議論なのでイマイチ乗り切れない。


2019年08月10日(土)

今日も相変わらずピーカンで暑い。6時前に目が覚めたのでしばらくベッドの中で読書。今日は人間ドックなので水だけを飲んで8時半に出社。しばらく『建築雑誌』の編集Slackをチェックし昨夜の打ち合わせ結果を確認する。能作さんが2月号特集の臨時編集会議を招集している。何とか都合をつけて出席しよう。9時過ぎに事務所を出て外苑の診療所へ。9時半から予約しておいた人間ドック診療。まず身長、体重などの身体測定、視力検査、肺活量などの体力測定の後に心電図、動脈硬化検査、腹部超音波検診、レントゲン撮影などを受け、最後に採血と麻酔による胃カメラ撮影で12時前に終了。麻酔が取れるまで20分程度別室で休んでから来週末のCTスキャン検査を予約してすべて終了。12時半に診療所を出て青山通りを表参道まで歩き薬局で処方薬を購入し13時前帰社。おそらく胃カメラ撮影の際に横になり腰を捻ったせいで腰痛が始まる。しばらく前から時折腰痛があったが、それがきっかけで悪化したらしい。家早何友である。正栄産業から「162酒井邸」の建方終了の写真が届いたので上棟式の記念写真と一緒にfacebook にアップする。天井合板の節への対応やその他の詳細について木村と打ち合わせ界工作舎としての対応策を酒井さんにメール送信。木村は明日から夏季休暇なので家具について簡単に打ち合わせをした後に解散。戸田には「箱の家164」の詳細図をdropboxに保存しておくように指示。14時過ぎに帰宅し完全に麻酔が抜けるまで仮眠。夕方に起き上がるとまだ腰痛がするのでベッドの中で図面チェック。寝たきりとはこういう状態なのか想像しながら少し気分が滅入る。何とか回復するように努力しよう。

『科学の科学』を読み続ける。科学社会学というのは〈真理を追求する科学〉つまりブルデューのいう〈科学界〉における社会性と権力関係を明らかにする学問である。社会学とはあくまで人間関係を研究する学問なので必然的に俯瞰的な視線になる。その点は歴史学と似ているが、歴史学はあくまで〈コンテンツ〉を研究対象にするのに対し、社会学は〈形式〉を研究対象にする点が異なる。社会学も歴史学も、あらゆるジャンルに適用できるので建築学も例外ではない。その問題を『建築雑誌』の3月号「歴史の効用」と5月号「計画学と社会学」において問うてみたいと思うのである。


2019年08月09日(金)

今日も灼熱の一日。8時半出社。佐々木構造計画と矢橋徹さんに「163保田邸」のコンサルタント料と現場監理代行報酬についてメール連絡する。「163保田邸」は木造でありながら耐震等級3の構造設計したことと熊本という遠方なので代理の現場監督の代行を依頼した。おかげで界工作舎としては営業的には完全に赤字に近い結果となったが保田さんには納得してもらえる「箱の家」ができたのでよしとしよう。『建築雑誌』の紙面レイアウト案が編集委員Slackに掲載されたのでコメントを書き込む。デザイナーの田中義久さんの明らかに意図的な仕掛けが読み取れるので、それを実現すべきだと考えたからである。『建築前夜 前川國男論』の序章を読み始め書評原稿のスケッチを少々。久しぶりに建築書を読むのでいつになく頭の回転が速くなる。まだ『科学の科学』を読み終わっていないため本格的に取り組むのは盆休み明けになりそうである。14時過ぎに事務所を出て田町の建築会館へ。15時から『建築雑誌』編集委員会の第3回である。出席率はそこそこだが幹事の加藤耕一さんと能作文徳さんが欠席である。高口洋人編集長の司会で、まず特集テーマのラインアップについて議論。すでに4月号までは決まっていたがとりあえず7月号までを確定する。さらに連載記事のテーマについても議論し担当編集委員を決める。僕からは4月号特集の「木質構造の過去・現在・未来」の編集担当者を外部に依頼することを提案する。引き続き誌面レイアウトについて田中義久さんが作成した見本を見ながら意見交換。特集趣旨や座談会は文字サイズを11pt、それ以外は10ptとすることを決める。1行あたりの文字数を変えないユニークなレイアウトである。次に1月号、2月号の特集の趣旨と内容について説明。1月号は急がねばならないがあまり固まっていないので少々心配である。2月号については担当の能作さんの代理で長澤さんが説明する。対談、インタビュー、原稿のスケジュールを確認して17時過ぎに解散。その後、高口編集長、長澤、難波編集幹事、1月号編集担当の集幹事の増田幸宏、担当編集員の中川浩明、朝川剛、國廣純子の7人が残り1月号「レジリエンス」特集の詳細を詰める。問題の幅が広すぎるため増田さんが迷走しているのを見かねて高口さんが主導して座談会や論考の依頼者を決めていく。僕はしばらく静観していたがレジリエンスの核であるエンジニアリングにおける〈想定外〉の問題をどう扱うかという話題になった時に〈ブリコラージュ〉の概念を提起する。それが結論だとは思わないがとりあえずのガス抜きにはなったようで一応の決着がつく。19時前に終了。19時半過ぎに帰社。明日の午前中、僕は人間ドック検査なので20時から所内打ち合わせ。木村とは「162酒井邸」の家具図について、戸田とは「箱の家164」の断面詳細図について打ち合わせ。引き続き夏休み中の仕事の分担について打ち合わせて21時前に終了。21時に帰宅。『科学の科学』を読みながら早めに就寝。


2019年08月08日(木)

今日もピーカンで灼熱の一日。8時半出社。「162酒井邸」の軸組建方が完了し床と屋根の構造用合板を貼り終わったが、酒井さんから屋根合板の節が目立つ点を指摘される。正栄産業にはできるだけ節が少ない合板を選ぶように指示したのだが、実際に張る時点で節の多い合板とそうでない合板を場所によって張り分ければいいのに、そのまま機械的に張ったために最も目立つ場所に節の多い合板がきてしまったようだ。少しの配慮で変わるのだがヤレヤレという感じである。「163保田邸」でも保田さんに同じような指摘を受けたことがあるが、工務店は注意して張り分けてくれた。それでも節は残ったが最終的には白色オスモカラーで染めることによって目立たないようになった。今回はやや濃い目に染めることが必要かもしれない。酒井さんには工事の前に必ず塗装見本を提出することを確認し「163保田邸」の参考写真を送信する。SD編集長の相川幸二さんからメールが届き『建築前夜 前川國男論』((松隈 洋:著 みすず書房 2016年)の書評を依頼される。今年度の学会論文賞を受賞した書籍である。3年前の出版時に松隈さんから送ってもらったが、当時は別の読書を続けていたのでそのまま積読状態になっていた。ブルデューに関する一連の読書がそろそろ終わりそうなので気分転換に取り組んでみようと考えて承諾のメールを返送する。佐々木睦朗さんから昨日送ったメールに対する返答メールが届く。8月末の隈研吾最終講義に付き合ってくれるそうだ。磯崎新米寿祝賀会にも一緒に行けそうである。川口衞さんを偲ぶ会の案内が届いたので出席のはがきを返送する。

『科学の科学』を読み続ける。第犠蓮峙掴世慮従」ではトーマス・クーンのパラダイム論の検証に続き、ブルーノ・ラトゥールやレジス・ドブレのポストモダン的テキスト還元主義批判が展開されている。第蕎蓮崙端譴弊こΑ廚任浪奮愕Δ亮律性と科学的方法におけるハビトゥスの検証が行われるが、その中でマイケル・ポラニーの〈暗黙知〉が引用されているのが興味深い。しかしながら具体的内容を欠いた〈方法〉なるものが僕はどうにも苦手である。読みながら絶えずニーチェの「方法は最後に来る」というテーゼが脳裏を過ぎる。


2019年08月07日(水)

今日も晴れで灼熱の一日。8時半出社。「162酒井邸」上棟式の記念写真を界工作舎HPにアップするように木村に指示する。建方は実際には完了していなかったので現場の写真を明日、正栄産業から送ってもらうように依頼する。能作文徳さんから田中義久さん伏見唯さんと相談して決めた『建築雑誌』の紙面レイアウト案が届き、編集幹事の意見が求められていたので文字サイズはできるだけ大きくする方向で回答する。連載欄の文字サイズが10pt、1行23文字×49行 2段組で最大文字数は1ページあたり2254文字となる。僕の担当連載欄は見開き2ページなので4,500文字11枚余である。毎月書けば24ヶ月で260枚となり加筆して膨らませれば1冊の本としてまとめることができそうだ。じっくりと腰を据えて取り組もうと思う。引き続き能作さんが『建築雑誌』編集Slackに2月号の特集「新しい生活様式(案)」の趣旨をアップしている。東日本震災以降と条件をつけている点が興味深い。ならば1月号の特集「レジリエンス建築」とも関係づけるといいかもしれない。僕としては生活様式の近現代史を押さえた上で〈震災以降〉を明確に位置づけることと、生活様式を建築に引き寄せて捉えることの2点を明確にすべきだと編集会議で指摘しよう。最終的には8月9日(金)の編集委員会で確定することになるが、これに対して学会の『建築雑誌』担当の片寄さんから以前の記事との重複を指摘されたので部分的に修正する必要があるかもしれない。東大の隈研究室から隈研吾退職記念連続講義第5回の案内ポスターが届く。開催は8月31日(土)でテーマは「緑と建築」である。後学のために顔を出してみようか。あれこれ考えて磯崎新さんの米寿祝賀会へ出席する旨の返事メールを送信する。おそらく多種多様な人たちが集まるだろうから話題も豊富だと期待できるからである。佐々木睦朗さんと一緒に行くことにしよう。19時前に事務所を出て青山の居酒屋へ。19時から土居義岳さんとの会食。九州から横浜に引っ越して間もないため。まだ荷物が片付いていないそうだ。今日は広尾の都立中央図書館から歩いてきたという。これからの仕事の予定について聞くと、まずは11月に東大出版会から講義録をまとめた著作が出るそうだ。30年間近く九州芸工大と九州大に勤務したことの感想など訊く。東大からは鵜飼哲矢さんや岩元真明さんがお世話になっているが二人とも頑張っているそうで一安心である。土居さんとしては研究室から何人かの建築家を輩出している点が自慢らしい。今年のSDレビューにも入選しているそうだ。最近では設計をめざす学生はデザイン研や計画研によりも歴史研に進む傾向があるのはどの大学でも共通である。工学系の研究はすべて歴史的視点を持つことになるだろうというのが土居さんの持論だが僕もまったく同感である。近現代建築史研究においては20世紀よりも19世紀に関する研究が今後しばらくは主流になるという。9月の金沢での建築学会大会でも19世紀の構法をテーマとするパネルディスカッションが企画されているとのこと。その潮流は小見山陽介や後藤武の博士論文とも関係があるようだ。歴史研究は基本的に文献研究であるという点を土居さんは強調するが、僕としてはやはり実際の建築による検証を含む研究でないと説得力に欠けるのではないかと反論。この話題に関連して現在、近現代建築資料館で開催中の「安藤忠雄 初期建築図面展」を観るように勧める。徐々に込み入った話題になり土居さんが専門のヨーロッパ近代建築史におけるフランスの役割や最初の助手を務めた鈴木博之さんの話題になるが、酔いが回りどんな内容だったか詳しいことは記憶にない。10時過ぎに店の前で別れ10時半に帰社。直ちに帰宅し『科学の科学』を読みながら夜半就寝。


2019年08月06日(火)

今日もピーカンで灼熱の暑さが続く。九州は台風で大雨のようだ。先月末に引き渡した熊本の「163保田邸」にとっては最初の試練だが大した問題ではないだろう。「163保田邸」の竣工写真が10日近く経っても届かないので写真家を紹介してもらった矢橋さんに通常のペースを尋ね、合わせて写真家の八代哲弥さんに連絡する。しばらくして八代さんから55枚の写真が届く。梅雨明けで撮影に追われ編集が遅れていていたらしい。写真を何度か見直して購入する10枚を選び八代さんに返信する。その後「163保田邸」のプレゼ図面と竣工写真をjt誌の西牧厚子編集長に送信。一見するとこれまでの標準的な「箱の家」と変わりないように見えるが構造的・環境的なイノベーションを組み込んだ新しい「住むための機械」であるというコメントを添える。さてどう対応してくれるだろうか。引き続き竣工図面一式と10枚の竣工写真を圧縮データにし著作権のある写真の使い方に注意するようにコメントを加えて佐々木構造計画、矢橋徹さん、オンサイトの坂本さんに送信する。これで一通りの仕事が完了した。昨日チェックした「箱の家164」の詳細図について戸田と打ち合わせ。鉄骨造のせいもあるが戸田は詳細の納まりをまだ構法的に理解できていないように思える。「箱の家」は現在でも少しずつ進化しているので過去のディテールをコピペしたのでは対応できない。加えて最近の「箱の家」は性能が上がった分コストも上昇しているので、この辺りでコストダウンのためのフィードバックも必須である。そのために新しい構法のスタディが必要なのだが、そこまでは頭が回らないようである。僕自身も少し時間をかけて考えてみる必要がありそうだ。『建築雑誌』1月号の連載原稿のスケッチを再開。思いつくトピックスを細切れに積み上げていくのがいつものやり方だが、連載開始の記事なので2年間を通底するテーマについても書かねばならない。僕にとってこの連載は〈建築の4層構造〉多面的な検証のつもりである。ブルデューの『科学の科学』を読み続ける。1950年代以降の科学哲学史とりわけトーマス・クーンの〈パラダイム〉概念の批判的検討が展開する。


2019年08月05日(月)

快晴で暑い一日。8時半出社。9時半に事務所を出て東京駅へ。夏休みで駅構内もホームもキャリーバッグを引き摺る人たちでごった返している。予約した切符を券売機で受け取り10時34分発の上越新幹線に乗車。車内では『実践感覚-1』の序文を読み返してブルデューの意図を再確認し日記をまとめる。高崎から木村が乗車したことをメールで確認。長野駅を過ぎたところで昼食の弁当を食べ12時32分に富山駅に着く。富山もピーカンの快晴で東京よりもずっと蒸し暑い。改札口で横山天心さんと待ち合わせ車で「162酒井邸」の現場へ向かう。昼食中で職人たちはいない。道路側にテントが張ってあるので鞄を置き、建方途中の現場を見学する。テント脇にクレーンが待機している。建方は2階の床梁までは終了し2階の柱を建ち上げる最中で「163保田邸」よりもスローペースなのは明らかにこの暑さのせいである。13時前に大工や鳶が戻ってきたのでしばらく歓談。この暑さの中での作業は身体に堪えるというのが正直な感想である。13時過ぎから午後の作業開始。ともかく日射が強烈でテントで待機していても赤外線が透過して汗が噴き出す。持参したお茶を飲み干したので散歩がてら自動販売機を探しに出かけるが商業地域内というのにどこにも見当たらない。近くの小川沿いの桜並木まで行くと涼しい風が吹いているのでホッと一休み。現場に戻り木村に近くのコンビニまで買い物を頼む。1リットルの水を飲みながら現場で待機。15時の休憩時でテントに戻った職人たちはグッタリと無言。熱中症になりそうなので思い切り水分を摂る。酒井夫人が氷とおやつを差し入れてくれる。15時半過ぎに建方を再開し16時半までに屋根の桁と梁、一部のLVL小梁まで架けたところで今日の作業は終了。明日はベランダの鉄骨柱を建て屋根まで進むそうだ。まもなく酒井一家が現場にやって来たので僕の司会で略式の上棟式を開始。建物の四隅を塩、米、神酒で浄めて17時過ぎに終了。横山さんの車で正栄産業が経営する富山駅近くの居酒屋へ向かう。酒井夫妻、横山天心さん、正栄産業営業の鏡さんと現場監督の早助さん、界工作舎2人の7人で上棟祝いの食事会。ビールで喉を潤した後に刺身、煮魚、ローストビーフ、焼き鳥などをいただきながら歓談。19着過ぎに界工作舎2人が抜けて歩いて富山駅へ。9時半過ぎ発の上越新幹線かがやきに乗車。車内ではひたすら爆睡。10時に東京着。東海道線で横浜まで帰る木村と別れ地下鉄で表参道へ。東京の夜は少し涼しい。10時45分に帰宅。シャワーを浴びて汗を流しそのままベッドに倒れこむ。


2019年08月04日(日)

今日も相変わらず灼熱の一日。ゆっくりと朝食を摂り10時出社。日記を書き込みdropboxに入っている「箱の家164」の平面詳細図と矩計詳細図をチェックし、問題点を抜き出して戸田に送信する。はりゅうウッドスタジオの滑田崇志さんからメールで原発被災者の〈二地域居住〉に関する資料が届く。長澤さんと能作さんにも届いているようだ。建築学会に発表した論文が〈二地域居住〉の経緯を詳しく説明している。もう一度読み直してみよう。北海道建築技術協会からBIS(Building Insulation Specialist)の資格更新の案内書類が届く。北海道で住宅を設計するための省エネ設計の資格だが一級建築士と同じように3年毎に講習会を受ける必要があるようだ。北海道江別の「箱の家147」を設計するために3年前にわざわざ仙台まで出向いて受験し獲得した資格だが、結局クライアントが稚内に転勤になり計画は中止になった。今後、北海道からの設計依頼があれば再検討する必要があるが今の所その可能性がないので今回はパスすることにしよう。14時前に家を出て表参道から半蔵門線で渋谷駅にて下車。歩いて10分でユーロスペースへ。文化村通りは祭りの準備で歩行者天国になっている。14時30分から『新聞記者』(藤井道人:監督 2019)を観る。話題の映画なので館内は満員である。内閣情報調査室のエリート官僚と女性新聞記者とのやり取りを描いた映画だが、昨年の加計学園問題をそのままモデルにしたような内容なので臨場感がある。当然ながら結論は宙ぶらりんで両義的な解釈に開かれている点が映画らしい。16時半終了。17時過ぎ帰宅。

『実践感覚-1』(ピエール・ブルデュー:著 今村仁司+港道隆:訳 みすず書房 2018)を再読する。序文を読み直してブルデューの意図が理解できる。ブルデューは日常的な実践よりも図式的・構造的に理解できると考えられている儀礼的実践をとり挙げて、それが決して構造に還元できない過剰性やゆらぎに満ちていることを指摘する。つまり儀礼はそれを執り行う人による一種の〈創造)でもあることを強調している。つまりそこに潜んでいるのは〈構造〉ではなく『ハビトゥス〉なのである。ハビトゥスは〈構造化する構造)であり実践に対してダイナミックに開かれている。ブルデューはそこに〈実践論理〉ではとらえきれない〈実践感覚〉を見ようとする。そして実践感覚を通して、実践を法則や図式に還元しようとする構造主義や科学的思考を根底的に批判しているのである。


2019年08月03日(土)

今日も晴れで暑い日が続く。8時半出社。11時に週末の所内打ち合わせ。木村と「162酒井邸」の階段と手摺の詳細について打ち合わせた後月曜日の建方のスケジュールの確認。木村は高崎から新幹線に乗車するため富山駅の改札口で待ち合わせとする。戸田とは「箱の家164」のベランダ詳細の打ち合わせ。佐々木構造計画からの検討結果を踏まえて詳細図の変更を指示する。1/50平面詳細図も進行中なので床下空調機の位置について検討。南北に細長いプランなので南北両端に2台の空調機を配置する方針とし設置位置について検討し和室と台所に決定。還流ダクトの位置も再確認する。戸田の夏休み前までに概要書、平面詳細図、断面詳細図をまとめてUさんに送るスケジュールを決める。12時に事務所内外を掃除し解散。12時半に事務所を出て表参道から銀座線、山手線を乗り継ぎ目黒駅にて下車。歩いて7分で〈旧前川國男邸〉へ。13時から松隈洋さんの学会論文賞受賞祝賀会である。〈旧前川國男邸〉は地下1階地上2階のRC造の住宅で使用人室や3つの浴室がある豪邸である。室内はほぼ白一色でル・コルビュジエや近代建築の気配はほとんどない。広いリビング、食堂、客室に沢山の人が訪れているがほとんど年配の人ばかりで、佐々木睦朗、富永譲、北山恒、野沢正光、松本哲夫、鈴木杜幾子、伊藤毅、藤井恵介、渡辺真弓、頴原澄子、その他顔見知りも多い。14時半に退席して15時過ぎに帰社。佐々木さんから佐々木さんと磯崎新さんの川口衛追悼文と偲ぶ会の案内文が届く。佐々木さんにも磯崎新さんの米寿祝賀会の案内が届き参加するとのこと。僕もどうするか迷うところである。16時半に事務所を出て明治神宮前駅から副都心線で新宿三丁目駅にて下車。歩いて5分で新宿武蔵野館へ。17時10分から『パラダイス・ネクスト』(半野喜弘:監督 2109)を観る。館内はパラパラ。すべて台湾ロケの映像と音楽(坂本龍一)は素晴らしいがシナリオ(半野喜弘)がイマイチに思える。煙草を吸ってばかりいる豊川悦司の演技も鼻につく。北野武やジャー・ジャンクーの影響を感じる徹底して説明を省いたコンパクトな演出だが結末があまりにも安易で肩透かしを食った感じである。予告編だけを観て足を運んだのだが期待外れ。19時前終了。副都心線で明治神宮前で下車し表参道を歩いて20時帰宅。

『新建築』2019年8月号「集合住宅特集」の巻頭対談「集合住宅は再び希望になれるか 家族のための住まいを超えて」(上野千鶴子×門脇耕三)を読む。高齢化、少子化、単身家族の増加といった社会現象はあくまで与条件として捉え、それに対して建築家がどう応えるかという図式の上での議論である。上野千鶴子は社会学者なので子育て世代を受け入れるための集合住宅のあり方については積極的に提案している。戸建て住宅推進の持家政策がすでに破綻している事態は共有されている。しかし日本で持家のみならず集合住宅も資産価値を持ち得ない根本的な要因が建築の減価償却制度にあることは共有されているが、もう一つ重要な条件がアメリカと異なる住宅ローンの担保制度にあることは認識されていないようだ。集合住宅の総合プロデューサー的役割として建築家の可能性についての結論はやや眉唾ものだが開かれた共同住宅の潮流が生まれたことは建築家の努力の結果だと思う。この対談で提出されている問題については『建築雑誌』2月号の特集に関連してもう少し考えてみよう。


2019年08月02日(金)

今日もピーカンの晴れで昨日よりも暑い一日。8時半出社。日大郡山の浦部智義さんから一昨日のメールに対する返信が届く。2地域居住の事例を紹介してくれるそうだ。〈梅林の家〉の住人もインタビュー候補に挙がっていたので見学時にもらった名刺を調べて『建築雑誌』Slackに書き込む。佐々木構造計画から「箱の家164」のベランダ詳細に関する連絡があったので戸田と簡単な打ち合わせ。方針を決めて図面化するように指示する。「162酒井邸」に建方について横山さん、正栄産業とメールのやり取り。スタッフの誕生祝いと「163保田邸」の引渡し祝いを兼ねて久しぶりにスタッフと外食。やや頭痛がするので21時に帰宅しシャワーを浴びウィスキーを煽って早めに就寝。

定期購読している『週刊読書人』2019年8月2日号の文庫本特集で文芸評論家の安藤礼二が『意識と本質 精神的東洋を索めて』(井筒俊彦:著 岩波文庫 1991)をとり挙げている。10年ほど前に石山修武が本書を一緒に読もうと提案してきた。石山は本書のサブタイトルに惹かれたのだと思うが、僕はオリエンタリズムには興味はなく付き合いで読み始めた。しかし読み進むうちに今までの読書とは異なる新しい発見の連続で興奮しながら読み通した。一方で石山は「さっぱり分からない」と途中で投げ出してしまった。鈴木博之が亡くなる数日前に僕たち二人をベッドの側に呼んでこう言ったことを思い出す。「石山さんは詩人で、難波さんは論人だね」。本書はまさに西洋的な論理を越えた普遍的な論理の解説書である。僕にとっては足元の地盤を揺り動かされるようなカルチャーショックを受けた記憶が残っている。2010年9月20日の日記に僕はこう書いている。

『意識と本質』(井筒俊彦:著 岩波文庫 1991)を読み始めたが、あまりに面白くて興奮しながら一気に第5節まで進む。西洋思想だけでなく東洋思想やイスラム思想を縦横に参照しながら、多様な〈本質〉の様相を紹介していく井筒の手際には舌を巻く。〈本質〉というものをまったく認めない唯一の思想である仏教と、本質を認めるそれ以外の思想との比較から話は始まる。日本人にとっては本居宣長の「漢意(からごころ)」批判が本質論批判であることはあまりにも有名である。しかしそれはプラトンのイデア論に代表されるような普遍的本質への批判であり、イスラム思想や儒教にはそれとは異なる本質論が存在することが紹介されている。井筒はこう書いている。「だが、宣長についてのこの問題をこういう形でこれ以上追求することはやめにしよう。要するに二つの違った意味の〈本質〉があるということ、あるいは事物の〈本質〉が違う二つの:というより、二つの正反対の:次元で成立しうるということを、わたしはここで指摘しておきたいだけだ。一方は、人が原初的存在邂逅(かいこう)において見出すままの事物の、濃密な個体的実在性の結晶点としての〈本質〉。他方は人間の意識の分節機能によって普遍者化され一般者化され、さらには概念化された形でそれらの事物が提示する〈本質〉。一方はものの個的リアリティ、他方はものの普遍的規定性。(中略)とにかくここでは一応、〈本質〉を個体的〈本質〉と普遍的〈本質〉との二つに大別してこれらの〈本質〉の区別そのもの問題をもう少し詳しく考察してみたい」。井筒は宣長の〈物の心〉も一種の〈本質〉すなわち〈個体的本質〉ではないかという驚くべき主張を展開している。ともかく僕にとっては〈個体的本質〉なるものが存在すること自体が驚天動地の発見である。プラトン哲学におけるイデアとその影という〈洞窟の比喩〉やそれに対抗した実存主義におけるサルトルの「実存は本質に先立つ」というテーゼはすべて〈普遍的本質〉を前提にした議論である。もし〈個体的本質〉を認めるとしたら、こうした議論は一体どうなるのか。僕はこれまでに積み上げてきた自分の思想の足元を揺り動かされる感じがした。井筒は西欧思想の中にも個体的本質を追求する思想が、東洋思想のなかにも普遍的本質を追求する思想が存在することを紹介していく。そして両者を統合するのがどうやらイスラム思想なのである。

井筒が提唱する東洋的な〈個体的本質〉の概念は、それ以降の僕の考え方に多大な影響を与え、現在では対象を捉える際の無意識の基準になっているように思う。先日の『建築雑誌』の臨時編集委員会で個別的なインタビューによって〈趨勢=テーマ〉を浮かび上がらせるというプログラムの提案をしたのも、おそらくその表れである。僕の考えでは〈個体的本質〉こそがボトムアップ思想の根本的な前提だからである。

『自己分析』を読み終わる。ブルデューの自伝というよりも自らの〈分裂したハビトゥス〉が形成された経緯の冷静な分析である。学生時代の苛酷な経験についての淡々とした報告は、その後のブルデューの研究活動のエネルギー源であり、読み方によってはフランスの教育制度に対する激烈な批判である。ブルデューの研究がフランスの多くの知識人の神経を逆撫でした理由がよく分かる。引き続き『科学の科学 コレージュ・ド・フランス最終講義』(ピエール・ブルデュー:著 加藤晴久:訳 藤原書店 2010)を読み始める。


2019年08月01日(木)

ピーカンで灼熱地獄の一日。8時半出社。昼過ぎに突然にわか雨が降り始め30分ほどで止む。夕立ならぬ昼立ちである。はりゅうウッドスタジオの滑田崇志さんから昨夜送ったメールに対する回答メールが届く。原発被災者の〈2地域居住〉についてのインタビューの可能性を打診したのだが、タイミングよくまとめの作業に着手しようとしたところなので〈渡りに船〉という感じのようだ。前向きに検討してみたいという回答をもらったので、インタビュー者が前もって勉強しておくための資料の送付を依頼する。インタビュー記事の決定第1号となりそうなので『建築雑誌』2月号Slackの台割案に書き込む。合わせてインタビュー候補に挙がっている「すみれ乳児園」@栃木県小山市の資料をアップする。思い立って僕が担当する『建築雑誌』の連載候補を10トピックスばかりリストアップしてみる。基本的には各号の特集に関連したテーマを選ぶつもりだが歴史的視点を忘れないようにしよう。毎月の連載として24回書くことになるが、できれば前以て全体の流れを押さえておきたい。1月号のトピックは〈レジリエンスの4層構造〉の予定なので原稿スケッチを開始する。1月号の編集担当幹事の増田幸宏さんにもらった原稿「レジリエンス学を目指して」がかなり網羅的な内容なのでアプローチの視点を再検討する必要がある。保田さんがfacebookに「163保田邸」の引渡時の写真をアップしている。物干ワイヤーが取付きすべての工事が完了したようだ。引っ越しは今週末である。新しい住居表示も決まり新居での生活が始まる。オンサイトが工事を頑張ってくれたのでほぼ満点に近い「箱の家」が完成したと思う。保田夫妻にはじっくり住みこなしてほしい。建報社の宮園さんから「縦ログ構法講習会」の案内をKENCHIKUサイトにアップした旨のメールが届く。
https://kenchiku.co.jp/event/evt20190730-2.html
思い立って講習会で担当する冒頭レクチャーのスライド編集を始める。まずは大雑把なシナリオのスケッチをしてみる。僕が担当する時間は15分だから詳しい話はできないが〈建築の4層構造〉による〈縦ログ構法〉の分析をやってみよう。横山天心さんからのメールで「162酒井邸」の敷地境界問題への対処法を詳しく説明してくれたので酒井さんも納得したようだ。酒井さんからは8月5日(月)の建方後に上棟式のお祝いを正栄産業が経営しているレストランで行う旨のメールが届く。建方後にクライアントと食事するのは初めてである。夜、スタッフと話し合い各人の夏休みの期間を決める。僕はその間もずっと事務所に詰めている予定である。

『自己分析』(ピエール・ブルデュー:著 加藤晴久:訳 藤原書店 2011)を読み続ける。1950年代のフランスの知的状況の分析から説き起こし、学歴としては最高学府まで経験しながら、そのまま教員職に就くのではなく、士官ではなく一兵卒としてアルジェリア戦線に赴き、アルジェリアの大学に就職して当時は学問的地位の低かった社会学に向かった複雑な経緯や、サルトルから始まり、ジョルジュ・カンギレーム、レイモン・アロン、クロード・レヴィ=ストロース、ミシェル・フーコーらとの両義的な交流がクールに綴られている。200ページ弱の本なので明日には読み終わるだろう。


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