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箱の家 PROJECT 青本往来記
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コンパクト箱の家

2019年06月25日(火)

晴れで蒸し暑い一日。夜には曇りに変わる。8時半出社。矢橋さんから「163保田邸」の外観写真が届く。今日、外部足場が取れたようだ。まだ足元が十分人盛土されていないため外観が浮いて見える。駐車場とアプローチの土間コン工事がまだで道路際の砂利が道路にはみ出していて少々締まりが無い。外構工事についてオンサイトと相談してみよう。戸田がまとめた「箱の家164」の規矩図について打ち合わせ。とりあえず、これで明日の佐々木構造計画との打ち合わせに臨むことにする。昨日の「箱の家159」の1年検査の打ち合わせ結果がTH-1から届いたので、界工作舎の所見を加えてY三位送信する。12時半に事務所を出て明治神宮前から副都心線に乗り西早稲田駅にて下車。早稲田大理工学部55号館1階の大会議室へ。2年生の設計課題の採点。170作品以上の作品の模型と図面が並べられている。複数の教員が気になる作品にシールを貼っていきスール数の多いものからピックアップする。午後の講評にはこのうち13点をピックアップすることを決定。女子学生の作品が大部分であることに驚く。14時半に別棟の大教室に移動する。聴講者は2年生が中心だが、3、4年生、大学院生、教員、社会人の顔も見える。次回の住宅課題の説明の後、中谷礼仁さんの司会で僕の特別講義「建築の4層構造と「箱の家」。スライドを見せながらちょうど1時間ほど喋る。その後数人の教員や建築家から質問を受け4層構造のうち第4層が客観化できない点を指摘される。いつも出る質問である。客観化とは仮説を検証する際の手段である。〈箱〉の検証は僕なりに行なっているのだが、特異な形態についてはどうなのかという疑問に応えて、僕はコールハースの〈偏執狂的批判的方法〉について説明し、その例証として〈シアトル市立図書館〉を紹介する。スライドがなかったので聴衆は理解できなかったかもしれない。要はすべての層は仮説であり検証すればどのような仮説でも問題はないのだ。16時半過ぎに終了。再び大会議室に戻り、課題の講評。13人を3つのグループに分けてプレゼンテーションと講評。懐かしい風景である。僕も短めのコメントを加える。13人のうち10人が女子学生というのも凄い。2年生最初の設計課題にしてはレベルが高い。このエネルギーをどう持続するかが課題だろう。18時過ぎ終了。中谷さんと設計課題教員と一緒に明治通りを北へ歩き居酒屋へ。馬刺や刺身をいただきながら日本酒で歓談。途中、安藤忠雄さんから明日の一緒に昼食を摂らないかという誘いの電話。朝日新聞の大西記者も同席するらしい。おそらく近現代資料館で開催中の安藤忠雄図面店の取材だろう。21時前に解散。タクシーで帰社。明日の佐々木構造計画事務所との打合せについて検討した後22時過ぎ帰宅。疲れたのでそのままベッドに倒れこむ。


2019年06月24日(月)

雨が降り続く涼しい一日。8時過ぎ出社。直ちに事務所を出て小雨の中を青山歯科医院へ。8時半から定例の歯のメンテナンス。上の右奥歯のグラつきを指摘されレントゲンを撮るが特に問題はないので歯磨の励行を指導される。9時半終了。10時前帰社。「163保田邸」のオープンハウス案内を界工作舎HPとfacebookにアップし、佐々木構造計画、熊本大学の田中智之さん、jt編集長の西牧厚子さんには案内状を直接送る。東京芸大の中山英之さんから『建築のそれからにまつわる5本の映画, and then: 5 films of 5 architectures 』(中山英之:著 TOTO出版 2019)が届いたので、お礼のメールを送る。まもなく返信メールが届く。中山さんの建築はタイトロープ的だが見るだけで楽しいので頑張ってほしい。先週末に「162酒井邸」の敷地から発見された井戸への対処について酒井さんとメールのやり取り。再利用も検討したが最終的には止水することに決着する。このために基礎配筋工事が少し遅れたので木村の配筋検査行きは来週になる。13時過ぎに小雨が降る中を木村と事務所を出て、表参道駅から渋谷で山手線に乗り換え目黒で目黒線に乗り換えて武蔵小山駅にて下車。歩いて10分余で「箱の家159」に着く。建物周囲に植え込まれた植物がかなり繁茂している。玄関前でTH-1の小松さんと合流し14時から1年検査開始。1年間経過して家具が揃い生活感が浸透している。Yさんからは鉄骨部と木部の取り合いの隙間、床下空調機の制御の不調。引き戸とアルミ建具の調整。亜鉛どぶ漬メッキ庇の錆などの指摘を受ける。できるだけ早く対応することを約して15時にお暇し16時前に帰社。高口洋人さんに『建築雑誌』2020年1月号の特集において編集委員全員の提案をまとめて2年間の編集方針を発表してはどうかという提案メールを送る。戸田と「箱の家164」の概要について打ち合わせ。鉄骨造の断熱パネル外張構法を確立したいのであれこれ試行錯誤してみる。出来るだけ単純な構法にするためブレースの取り付け方法を工夫する。法規上の制約がある可能性があるので明日中に調べるように指示する。明日の早稲田大講義のスライドを再確認する。21時半帰宅。『ディスタンクシオン機戮鯑匹濛海韻襪、あまりにも細かな議論が続くのでスムースに進まない。第吃堯崋駝H獣任亮匆馘批判」を読み終わったところで一区切りしよう。夜半就寝。


2019年06月23日(日)

曇り時々小雨の涼しい一日。10時出社。昨日の日士連作品賞現地審査の経過を中心に日記をまとめる。10時半過ぎに事務所を出て表参道からキャットストリートに平行な裏道を歩き宮下公園向かいのヒューマントラストシネマ渋谷に11時着。宮下公園は4層の公園ビルの鉄骨骨組が建ち上がったところである。ロビーの券売機で予約購入した切符を受け取り11時15分から『ハウス・ジャック・ビルト』(ラース・フォン・トリアー:監督 2018)を観る。観客は2割程度の入りで意外に少ない。2時間半の大作で、マット・ディロン演じる建築家になりかけの男が〈殺人鬼ジャック〉になる映画。ヒトラーやスターリンが建築家崩れであることの暗喩にも思える。建築家とエンジニアの違いについてクドクドと論じたり、バウハウス風の住宅の模型や現物が壊されたり、グレン・グールドの唸りながらのピアノ演奏の映像が繰り返し挿入されたり、ヒトラーの〈最終解決〉が紹介されたり。デヴィッド・ボウイの楽曲「fame」が再三再四挿入されたり、テオドール・ジェリコーの絵画「メデューサ号の筏」を想わせる絵画的映像など、知的な参照映像が山ほどあるが、最後まで胸糞の悪い殺人鬼映画である。去年のカンヌ映画祭では悪評紛々だったらしい。先頃亡くなったブルーノ・ガンツの映像が妙に記憶に残る。レム・コールハース的イメージの映像が多いところを見ると、デンマーク人のラース・フォン・トリアー監督はコールハースのことを知っているのかもしれない。あるいはコールハースの弟子のデンマークの建築家ビャルケ・インゲルスだろうか。13時45分終了。歩いて渋谷駅まで行き山手線、西武新宿線を乗り継いで中井駅で下車。歩いて数分で林芙美子記念館へ。早稲田大の設計課題の敷地調査である。東西に長い南斜面の敷地に建つ木造平屋の住宅棟と仕事部屋棟の東西に細長い2つの建築の西端に石造の展示室が付属している。南側は平坦な庭、北側は急斜面の庭になっている。外部から記念館を見学した後に北の庭に上ってみる。課題は地域に解放された記念館のアネックスだが、想定敷地は西と北の隣地を含んでいるようだ。記念館の周囲を歩き回った後、中井駅に戻り西武新宿線、山手線、銀座線を乗り継いで16時半に帰社。日士連作品賞現地審査の資料を整理し18時前に帰宅。夜はケーブルTVで、ジャン・ヌーベルがアブダビに設計した〈ルーブル美術館アブダビアネックス〉の建設記録の映画を見る。フラットなドーム屋根はスペーストラスの主構造の両面に金属板の模様を4層張り付けた仕上げであり、パリの〈モンデ・アラブ〉の窓と基本的の同じ発想である。『ディスタンクシオン機戮鯑匹澆覆ら夜半就寝。


2019年06月22日(土)

曇り時々雨のやや涼しい一日。今日は夏至だが陽の光は見えない。9時前に事務所を出て山手線、中央線を乗り継ぎ国立駅へ9時50分着。歩いて約10分で「Seven Gardens House」に着く。建物前で櫻井潔さんと待ち合わせ、ゲートで設計者の井川充司さんと建主に挨拶。広い敷地に7つの小庭に面して小スケールの平屋の建物を並べた住宅である。北面道路で、緩やかな斜面敷地に揃えて、玄関+夫婦寝室、リビング、ダイニングキッチン、子供室、母親の部屋、水周りと機能別の部屋が南に向かって並んでいる。玄関脇には2階建ての趣味のスタジオ棟がある。空間構成は理解できるが、屋根勾配の配列を含めて構法と環境性能がやや弱い印象。11時前にお暇し新宿駅に11時半着。バスターミナルで櫻井さんと昼食を採った後、タクシーで代々木の「西参道テラスへ」13時15分前着。道路で設計者の石川素樹さんに挨拶。まもなく岸和郎さんが合流。小雨が降り始めたので早々に建物内に入る。6.3m角の正方形平面、3階建ての建物4棟を並べた賃貸集合住宅で、1階はRCラーメン構造2,3階は木造である。通りに面した1階は貸店舗になっている。建物に挟まれた通り庭の奧の棟にお邪魔し、住宅内部を見せてもらう。住宅部分の6.3m平面を4分割し、その内の一角を中庭とし、中庭と外装を木製の横ルーバーによって包み込むことによって外観デザインを統一している。分割された部屋は、平面から突き出た塔状の階段室の踊り場によって繋げられ、スキップフロアの複雑な構成になっている。見学の後1階の石川さんのアトリエで歓談。丁寧な職人的デザインの由来について訊く。1時半過ぎにお暇し、タクシーで早稲田南町の「漱石山房記念館」へ。1時間以上早く着いたが、設計者の入江正之さんはスタッフ3人と既に待機している。夏目漱石の住宅の跡地に建てられた記念館で、漱石の住宅の想像的復元が展示されている。土曜日で館内は見学客でごった返している。入江さんの説明を聴きながら館内を見学。展示空間としては内外ともにやや過剰なデザインの印象。15時前にお暇し、タクシーで「恵比寿の家」に向かう。近くでタクシーを降りGoogleMapで探すが見当たらない。設計者の山路哲夫さんに電話すると、指定された住所は地番で住居表示ではない。雨が激しく降り始めたところでようやく16時過ぎに現地に辿り着く。地下1階、地上3階の鉄骨造の住宅。100×100のH型鋼による軽快な構造で、すべてが現し仕上の思い切りのいいデザインなのだが、工事単価が意外に高い割には鉄骨の剛接合やブレースのガセットブレートなどディテールの洗練がイマイチな点と、開口部分や外壁水切りなどの配慮も不足している。とはいえ外断熱を徹底している点には好感を持つ。17時過ぎにお暇し歩いて恵比須ガーデンプレイスのビアホールへ。岸、桜井、僕の3人でビール、ハイボール、焼酎で打ち上げ。今日で現地審査はすべて終了したので現地全体について意見交換。アルコールが入ると激論が飛び交う。今年は住宅のレベルが高いので最終審査は揉めるかもしれない。19時半に店を出て渋谷で桜井さんと別れ、表参道で岸さんと別れて20時過ぎ帰宅。ウィスキーを飲み直し『ディスタンクシオン機戮鯑匹澆覆ら夜半就寝。


2019年06月21日(金)

曇り時々晴れの蒸し暑い一日。8時半出社。保田さんから「163保田邸」の長期優良住宅認可の書類に関する問い合わせメールが届く。固定資産税の緩和のために大津市役所に提出する必要があるとのこと。現場監理を頼んでいる矢橋さんが書類を所持しているのでオンサイトに手渡すように依頼する。正栄産業から「162酒井邸」ユニットバスの承認製作図が届いたので酒井さんに転送する。横山天心さんからはプレカット図のCBが届いたので界工作舎のCBに統合する作業に着手。週末には正栄産業に送る予定。Uさんから「箱の家164」第5案を一部変更して実施案としたい旨のメールが届く。合わせて設計監理業務委託契約を締結したいとのことなので第5案の2階に洗面所を増設した第6案をまとめてUさんに送信する。その後、設計監理業務委託契約書と重要事項説明書のたたき台を作成する。夜にもう一度見直した上でUさんにメール送信する。佐々木構造計画に戸田がまとめた「箱の家164」の基本図を添付して来週にも構造システムの打ち合わせしたい旨の依頼メールを送信する。まもなく返信メールが届き6月26日(水)の打ち合わせが決まる。それまでに地盤データを調べ荷重の仕様を決めておかねばならない。早稲田大の中谷礼仁さんから来週火曜日(6/25)のレクチャーに関するリマインドメールが届く。中谷研助手の李さんからレクチャー後に講評を頼まれている設計課題が送られている。やや込み入った課題なのであらかじめ敷地を調査しておくべきかもしれない。日曜日に敷地を訪れてみよう。夜に中谷さんから再びメールが届き、当日13時からの講評前の採点の参加を打診される。午前中は用事があるが何とか繰り合わせて出席しよう。21時半帰宅。風呂に入った後いくつかメールが届いたのでiPadで返信。『ディスタンクシオン機戮鯑匹濛海韻覆ら夜半就寝。


2019年06月20日(木)

曇り後晴れ後曇りの蒸し暑い一日。8時半出社。野沢正光さんに「関町東の集合住宅」の見学希望のメールを送ったところ今朝返事が来て今週土曜日はどうかと訊かれる。残念ながらその日は日士連作品賞の現地審査のために一日中都内を移動するので陳謝のメールを返送する。12時過ぎに森ビル52階の森美術館を訪れ、塩田千春の『魂がふるえる』展を観る。初期のスケッチやドローイング、小さな彫刻作品から、最近の赤い糸や黒い糸を使った超複雑なラチスの雲のようなインスタレーション、さらには自分の身体を使ったカオティックなパフォーマンスまで、かつての小野洋子を思わせる過激なラインアップに圧倒される。美意識の社会性と階級性について論じたブルデューの『ディスタンクシオン機戮鯑匹澆覆らアヴァンギャルド・アートを見ることに複雑な感慨を覚える。作品に見入っているそばを見覚えのある後ろ姿が通り過ぎるのを見かけたが、後でそれが界工作舎OBの岩元真明さんであることが分かる。14時前に帰社。東大建築学科の平成21(2009)年の卒業生から10年会の招待状が届く。残念ながら開催日は海外旅行とバッティングしているので欠席の返事を送る。正栄産業から「162酒井邸」の地盤切削工事を進めていたところ、建物中央の基礎梁近くから井戸が見つかり水が湧き出しているとの報告メールが届く。直ちに酒井さんにメールを転送し正栄産業には止水工事の見積と早急な対応を依頼する。酒井さんからの返事メールでは土地の購入時に井戸があることは聞いていたらしいが、問題ないと言われていたらしい。その説明と現状は若干異なるのでなんらかの補償を要求すべきではないかとアドバイスする。夜は『ディスタンクシオン機戮鯑匹濛海韻襪、塩田千春展の作品群が脳裏を駆け巡る。

『パスカル的省察』の最終第6章「社会的存在、時間、実存の意味」は、均質で定常的だと考えられている〈時間感覚〉でさえも社会的な意味を帯びていることを主張している。「時間は願望とチャンス、つまり期待と期待を満たしにやってくる世界とのあいだのほとんど自動的な一致が破れたときに初めて真に実感される」。「現在とは人がそれに対して現存しているもの、すなわち(無関心、あるいは不在と対立する意味で)関心を持っているものの総体である。それゆえに現在は点的な瞬間に還元できない。(中略)ハビトゥスとは現在への過去の現存であり、この現存が現在への未・来の現存を可能ならしめるのである」。「生活の規則性の経験に由来するハビトゥスの図式が、以前の経験との関連において、生活の偶然性を構造化し、予め吉あるいは凶、満足あるいは欲求不満をもたらす、という風に分類された確率的な諸未来に対し実践的に先行することを可能にするのである」。「カントが主張したように、時間はまさに構築行為の所産である。ただし、この行為をおこなうのは思考する意識ではなく、性向と実践である」。したがって性向によって人の構築的時間は異なることになる。ブルデューは〈界〉によって強制される慣性的な性向の変革の必要性を主張する。「性向を自然化してしまうのを避けるためには、性向という持続的な在り方をその獲得条件に関連づけねばならない。必然と見えるハビトゥスは必然性に対する防衛メカニズムであり、パラドクサルなことだが、必然性に先んずることによって、またそのことで必然性に寄与することによって必然性の厳しさを逃れようとする」。ハビトゥスの昂進がハビトゥスを変質させるのかもしれない。「身体化過程の力はハビトゥスを未来存在として、すなわち教育活動の明示的・意図的な介入によって強化される持続的投資の持続的原理として更生しようとする。そうした身体化過程の力ゆえに、たとえもっとも既成秩序転覆的なものであっても、象徴的行動は、挫折に追い込まれるのを避けるためには、性向を、また性向が革新的想像力と行動に課する限界を考慮に入れなければならない」。最終章のブルデューはなんとなく歯切れが悪い。慣性的なハビトゥスの行き着くところは社会的な制度であり、制度は恣意的な存在だとブルデューはいうが、その背後には〈社会〉があり〈国家〉がある。ブルデューはデュルケームの言葉を引用しながら最後にこう結論づけている。「社会とは神である」。家早何友。


2019年06月19日(水)

晴れ後曇りの蒸し暑い一日。8時半出社。保田さんから「163保田邸」の登記に関するメールが届く。建物の登記の前に竣工検査を受ける必要があるので、界工作舎としてその準備をするように戸田に指示する。合わせて竣工図のまとめと製本を準備しなければならない。スタジオ8の三品道明さんから「115金原邸」メンテナンス工事の見積書が届いたので、内容に目を通した上で金原さんに転送する。直ちに承認メールが届いたので空調機の取替工事と合わせて至急対応するように三品さんにメールを送る。金原さんは台所カウンターの塗装工事も工事業者と作業を進めているとのこと。面積変更があるようだが、直接交渉でいいので、その結果をカッシーナの堀尾さんと界工作舎に報告するように依頼する。横山天心さんに「162酒井邸」の定例打ち合わせ結果を酒井さんにも送るように依頼する。毎週月曜日の正栄産業との打ち合わせ結果を酒井さんと共有するためである。構造史シンポジウム出版に関する出版社との打ち合わせについて東工大の竹内徹さんからメールが届く。僕は出版社2社と一緒に打ち合わせることを提案したが、竹内さんと金箱さんは2社別々に打ち合すべきだと主張し、時間をズラして打ち合わせすることになった。僕の考えでは、これはかつての役所の見積発注に似たビューロクラティックな一種の形式的秘密主義のように思える。現代では情報をグラスボックス化してフラットに意見交換すべきだと思うのだがどうだろうか。ともかく余計な混乱を招かないように、当日の打ち合わせでは僕は沈黙を決め込むことにしよう。正栄産業から「162酒井邸」のプレカット図の修正図と給水施工図が届く。矢橋さんから久しぶりに「163保田邸」の現場監理報告が届く。2週間以上の間、監理報告が届いていないので今朝確認したばかりである。現場監理は工事の進行状況を確認するために行うものなので、工事が進行しなくてもその状況を報告すべきだと思う。報告内容がないことも重要な報告だからである。屋根のガルバリウム鋼板縦ハゼ葺、軒樋と竪樋、外装のガルバリウム鋼板角波板張り工事がほぼ終わり、内装も進行している。主要な残工事は合板階段と台所家具である。来週には外部足場が取れるので矢橋さんに外観の写真撮影を依頼する。夜は『ディスタンクシオン機戮鯑匹濛海韻襦


2019年06月18日(火)

晴れで暑い一日。8時半出社。はりゅうウッドスタジオの滑田さんから縦ログ構法講習会の事前打ち合わせをしたい旨のメールが届く。秋田県立大の板垣直行さんが上京する日に合わせるためスケジュール調整の返信メールを送る。今日までに縦ログ構法住宅として僕が設計したのは〈希望ヶ丘〉の界工作舎棟までで、それ以後は経験実績がない。実現を目指して何度か計画案をまとめたが実現までには至っていない。やはりコスト条件が高いハードルだろうか。なんとか突破口を見つけたい。「箱の家164」第5案の空間全体と鉄骨フレームのアクソメ図を戸田がまとめたので、コメントを添えてUさんに送信する。2階のトイレ脇に朝の洗面のための洗面台を追加してはどうかと提案する。寝室と子供室のスクリーンも検討課題である。実施設計の段階でスタディしよう。木村がまとめた「162酒井邸」基礎工事のスリーブ承認図と酒井さんから届いたユニットバスの承認図を正栄産業に送信する。夕方に横山天心さんから週明けの打ち合わせ記録が届く。基礎配筋検査は予定通り今月末になりそうとのこと。今後は担当の木村に現場監理を任せることにする。早大講義のスライド編集を少々。スライド枚数の縮小を試みるが、どれもティピカルな住宅なので外すのが難しい。一気に紹介することで対応しようか。

『パスカル的省察』の第5章「象徴的暴力と政治闘争」は、ヒトがハビトゥスを通じて家庭、界、社会、国家へと階層的に組み込まれていく象徴的支配のプロセスについて論じている。「家族のもとで行われる一次的ハビトゥスの獲得は、拘束によって強制される性格(カラクテール)の刷り込みに類似した、単なる教え込みといった機械的な過程ではない。ある界が要求する固有の性向の獲得についても同様である。この獲得は、一次的性向---界が求める性向とは多かれ少なかれ離れた性向---と、界の構造のなかに書き込まれた諸拘束との間の関係のなかで進行する。固有の社会化の働きは、原初的リビドー、すなわち家庭内で形成された社会化された情動が何らかの形の固有のリビドーに変形することをうながす。この原初的リビドーが界に属する行為者や制度に(たとえば宗教界についていえば、キリストや聖母のような偉大な人物像の、さまざまな歴史的形象に)転移されるのである」。こうしたハビトゥスのフロイト的な説明から出発して、家族界においてコドモは他者(家族)の視線によって〈主体〉としての〈自己〉を発見することになる。「コドモの存在は知覚される存在、他者の知覚をとおして、おのれの真実において定義されることを運命づけられている存在である。これが象徴的資本の両義性の人間学的根元であろう。栄光、名誉、信用、評判、夢いといった象徴的資本は〈自己愛〉の充足のエゴイストな原理であるが、同時に他者による翔さんのひたむきな追求でもある」。ブルデューは家族界においてヒトに刻印される一次的ハビトゥスが、生物の段階から連続する文化的・象徴的界にあることを強調している。「ほとんど自然的な性向、しばしば生得性のすべての外見を備えた性向の形で社会構造を身体化した結果としてのハビトゥスは、植え込まれた力、ポテンシャル・エネルギー、眠れるエネルギーであり、象徴的暴力は、とりわけ遂行的発話を介して行使される象徴的暴力は、この力、エネルギーから不思議な効力を引き出す」。つまり〈象徴的暴力〉とは、外的な力ではなく、界のなかで身体化されたハビトゥスによる自然的で内発的な力なのである。「象徴的暴力とは、被支配者が支配者に対して(したがって支配に対して)与えないことができない同意を媒介にして成立する強制である。(中略)その服従は、身体の訓練から生まれる慣れが可能ならしめる暗黙裡の実践的信念である。性向にもとづく実践理論を欠いているために、社会構造の身体への書き込みに由来する根強い慣性を無視して、支配への抵抗を意識の言語で記述するのは、やはりスコラ的幻想のひとつの効果である。(中略)反復的な練習を含む真の逆訓練だけが、ハビトゥスを持続的に変革することができる」。つまり国家の象徴的権力は、身体化されたハビトゥスがもたらすヒトの保守性に支えられているのである。「既成秩序への服従は、集合的歴史(系統発生)と個人的歴史(個体発生)が身体のなかに書き込んだ認識構造と、それら認識構造が適用される世界の客観構造のあいだの一致の産物である」。「ハビトゥスは運命ではない。しかし象徴的行動は、それだけでは、また性向の生産・強化条件を何ら変革することなしには、身体化した信念を摘出することはできない。身体化した信念、すなわち情念と欲動はヒューマニズムに普遍主義(これとても性向と信念に根がある)が下す命令や非難にはまったく無感覚なのである」。ハビトゥスの保守性を揺るがすためにブルデューが提案するのが〈歴史化〉である。僕がブルデューから学ぶ最大の教訓は個別的な〈歴史化〉の視点である。「社会科学にとっては第一次的自明性からの批判的断絶は不可欠であるが、この断絶を行うための最良の武器は歴史化である。歴史化は少なくとも理論の領域で自然化の効果を無力化してくれる」。最終第6章は「社会的存在、時間、実存の意味」はまた次回にまとめよう。


2019年06月17日(月)

晴れのち曇りの過ごしやすい一日。8時半出社。オンサイトから届いた「163保田邸」の建具に関する質問に返信する。保田さんからの希望でオープンハウス案内のコメントに耐震等級3の構造計算仕様について追記することにする。クライアントからオープンハウスのコメントに関する要求をもらったのは初めてである。やや冗長なコメントになったが説明的なのでよしとしよう。昼過ぎに日士連作品賞審査委員長の村松映一さんから電話があり、検査入院が完了したので退院するそうだ。しばらく休んで鋭気を養ってから6月28日の最終審査には出席するとのこと。早速、審査員全員にメール報告する。早稲田大学講義のスライド編集を本格的に再開する。聴講するのは大学生が中心だから〈建築の4層構造〉をできるだけ分かりやすく説明するためのスライドを追加する。「箱の家」の展開は一通り紹介するが、時間が限られているので「箱の建築」までは紹介できないだろう。それでも120枚を超えてしまうので少し絞る必要があるかもしれない。15時にイゼナの前田誠一社長が来所。アクアレイヤーシステムの売れ行きがイマイチなので打開策の相談。全般的に建築家への住宅設計の依頼が減少していることに加えて、最近の若い建築家の環境デザインの意識の低さが大きな要因だろう。日本の気候がそれほど厳しくないことが背景的要因だろうが、建築メディアの責任も大きいような気がする。アクアレイヤーを壁に組み込み冬季のダイレクトゲインの効率を高める構法についても相談。1970年代にチャールズ・ムーアが水を詰めた半透明のFRPパイプを並べて間仕切スクリーンにしていたのを想い出す。あまり大仕掛けな構法にせずムーアのような簡易な構法にした方が普及するのではないかとアドバイスする。Uさんから「箱の家164」の工事予算や工務店に関する質問メールが届いたので、第3案の改訂版をさらに整理した第5案をまとめ、質疑に対する回答をまとめてUさんに返信する。朝の洗面を考えると2階に明るい洗面所を併設すべきかもしれない。夜は読書。『パスカル的省察』の再読に並行して『ディスタンクシオン---社会的判断力批判』(ピエール・ブルデュー:著 石井洋二郎:訳 藤原書店 1990)を読み始める。


2019年06月16日(日)

昨夜まで激しい雨だったが、今朝から一転快晴で暑い一日。9時半出社。保田さんから食卓と椅子、ソファベンチを購入した旨のメールが届く。すべて無印良品なのでMUJIHOUSEになるかもと冗談コメントを返信。しかし保田夫人はMUJIHOUSEアレルギーらしい。合わせて現場写真が添付された工事への質疑メールが届く。工事の状況についてのクライアントの報告が現場監理者や施工業者よりも詳しいのは問題である。ましてやクライアントから工事の問題点を指摘されるのはいかがなものかと思う。酒井さんから「162酒井邸」ユニットバスのチェックバックが届く。相変わらず細かなチェックが入っている。午後は昼風呂に入った後、ベッドの中で仮眠と読書のくり返し。『パスカル的省察』を読み返しながらブルデュー思想の幅広さと深遠さに改めて感嘆する。

『パスカル的省察』の第4章「身体による認識」の再読を続行。社会現象の理解とは意識的な注視によって理解することではなく、対象の構造を身体化することだとブルデューは主張する。「世界の規則性に適合した諸志向体系を獲得した身体は、それら規則性を身体による認識---理解という観念で普通意味されている意識的解読という意図的行為とはまったく異なる実践的な世界理解を可能にする身体による認識---を投入した行為において実践的に先取りできるようになる。言い換えれば、行為者が身近な世界について即座に無媒介の理解を持つのは、彼が動員する諸認識構造が、彼がそのなかで行動する世界の諸構造を身体化した所産であるからである。彼が世界を認識するために使用する道具が世界によって構築されたものであるからである」。それが〈界〉において反復的行為を通じて身体化された〈ハビトゥス〉である。「社会的行為者は過去の経験によって経験によって身体のうちに書き込まれたハビトゥスを備えていると措定しなければならない。このハビトゥスという、知覚・評価・行動図式のシステムが実践的認識行為---それら行為が反応すべき、条件付きで慣習的な刺激を見分けることの上に成り立つ実践的認識行為---を遂行することを可能ならしめるのである」。ハビトゥスはカントやレヴィ=ストロースがいうような知的な〈認識図式〉とは異なり、身体化され実践的な認識図式である。「実践感覚とは、なすべきように行動すること、カント的な〈当為〉、行為規則を措定したり実行したりすることなしに行動することを可能ならしめるものである。実践感覚が現動化する諸性向は、教育による身体の持続的変化から結果する在り方であるが、これら性向は行動のうちに現勢化しないかぎり見えてこない。(中略)ハビトゥスの諸図式は部分的に変更される様々なコンテクストに絶えず適応することを可能ならしめる。そして状況を、意味を付与された全体として構築することを可能ならしめる」。したがって社会秩序は知的・意識的に学ばれるのではなく、儀礼や慣習によって身体的に刻印されるのである。「もっとも真剣な社会的強制は知性ではなく身体に、メモ帳として扱われる身体に向けられる」。ハビトゥスに関する一連の指摘から連想するのは、マイケル・ポラニーが提唱した〈暗黙知〉である。〈暗黙知〉は〈明示知〉とは異なり、身体によって学ばれる知識である。ただし〈暗黙知〉は価値や倫理を帯びていないが、ハビトゥスには倫理や権力が刻まれている。さらにハビトゥスに刻まれる歴史は物理的媒体を通じても身体化されるとブルデューはいう。「道具、記念建造物、作品、技術窓のうちに客体化された歴史は行為者---おのれがおこなった先行投資ゆえに、歴史に関与する傾向性と、歴史を再活性化するために必要な能力を備えた行為者---によって引き受けられることによって初めて行動され行動する歴史となることができる」。かくして本章のブルデューの結論はこうである。「身体は社会世界のなかにある。しかし社会世界は身体の中にある。世界の構造そのものが、行為者が世界を理解するために使用する構造(より正確には認識図式)の中に現存する。おなじ歴史がハビトゥスと住居。性向と位置、経営者とその企業、司教とその司教区とに住み着いているならば、歴史はいわばおのれ自身と交通し、おのれ自身のうちに反映していることになる」。ここで初めてハビトゥスと建築・住居との関係が俎上に上っているが、その論旨から連想するのは山本理顕がハンナ・アレントに倣って論じている建築・都市空間と社会組織・権力との関係である。ブルデューが論じるハビトゥスは常に象徴的権力を帯びている。この点はクリストファー・アレグザンダーのパタンランゲージにも通じていると思う。長くなるので第5章「象徴的暴力と政治闘争」については稿を改めよう。


2019年06月15日(土)

雨が降り続ける肌寒い一日。8時半出社。オンサイトから「163保田邸」の洗濯機の排水位置について質問メールが届いたので、念のため保田さんに転送し確認を依頼する。11時半に週末の所内打ち合わせ。木村が「162酒井邸」の認定住宅新築等特別税額控除のための「断熱等級4」申請書をまとめたので直ちに審査期間に送付するように指示。正栄産業から届いたRC基礎工事の施工図についてチェックバックの打ち合わせ。「箱の家164」のプランを再検討し、犬が上りやすいように階段の傾斜を「箱の家」の標準よりさらに緩めるためのプラン変更を戸田に指示する。面積が若干増えるがプランはさらに単純になり一室空間性が強化される。Uさんから再度工事費に関する問い合わせメールが届いたので、その回答と合わせて第3案の改良版に詳細なコメントを添えて返信する。オンサイトから「163保田邸」の工事写真が届く。外装工事は9割方終了し今月末には外部足場を外すそうだ。内装工事はシナ合板張り工事が進行中。オープンハウス案内状改訂版も問題ないという返事なので、今月下旬に関係者に送付し界工作舎HPとfacebook にアップしよう。『建築雑誌』の特集のテーマ案を思いつくままにリストアップしてみる。とりあえず10テーマを思いついたが、ファイルの添付法がわからないので、slackの編集委員会送信欄にそのままコピーする。合わせて高口洋人さんに構法と木造が専門の編集委員を追加の推薦メールを送信する。はりゅうウッドスタジオの滑田さんから縦ログ構法講習会のプログラム案が届く。僕の発表時間を縮小し、発表者に滑田さんを加えて返信する。9月中には開催することができそうだ。

『パスカル的省察』(ピエール・ブルデュー:著 加藤晴久:訳 藤原書店 2009)の再読を開始する。中身が濃いのでコンパクトにまとめるのは難しい。第3章『理性の歴史的根拠』の冒頭に注目すべきメッセージがある。ブルデューの研究方法の根幹ともいえる〈歴史化〉の主張である。「伝統的には、歴史化するとは相対化することであり、それゆえ歴史的には、歴史家は蒙昧主義と絶対主義に対する、またより一般的には、特定の社会世界の歴史的な(したがって偶然的で恣意的な)諸原理のあらゆる形の絶対化ないし自然化対する啓蒙主義の闘いのもっとも有効な武器の一つであった。ところで逆説的なことだが、理性にもっともラディカルな歴史化のテストを課することによってこそ、とりわけ起源の恣意性を想起させ、歴史・社会科学自体の諸手段を歴史的・社会的批判にかけて、根拠づけの幻想を突き崩すことによってこそ、はじめて理性を恣意性と歴史的相対化から奪い返すことができるのである」。「起源には慣習、すなわち歴史的制度の歴史的恣意性しかない」。「恣意性はまた、すべての界の根源、芸術や科学の世界のようにもっとも「純粋な」界の根源でもある」。「科学的理性は歴史の産物であることを認めるならば(中略)広く受け入れられている二者択一の二つの項を共に拒否することができる。ひとつは、科学的方法にア・プリオリな〈論理的根拠〉を与えると称する〈論理主義的〉絶対主義である。もうひとつは(中略)数学を論理学に還元する企ての挫折は認識論を心理学に関連づけることによって〈認識論を自然化する〉以外に道はないと主張する〈歴史主義的〉相対主義である」。かくして科学的理性の根拠は、歴史的に形成される〈ハビトゥス〉へと帰着する。しかしながら「歴史的過程の不透明性は、人間の行動は歴史の刻印を押されたハビトゥス(ハビトゥスは歴史から生まれる)と、ハビトゥスがその潜在性を現実化する場である社会的世界(とりわけ界)とのあいだの無意識的な無数の出会いの(非偶然的な、しかし決して合理的に統御されることにない)産物である、という事実に由来する。(中略)〈理性的真理〉の論理的理性と〈事実的真理〉の純粋な偶然生徒を媒介しているこの歴史的理性は演繹できない。理解されるか、必然化されるかである」。そこでブルデューは〈批判的反省〉による二重の歴史化の重要性を主張する。「反省性を実践するということ。それは客観化の作業から恣意的に排除された〈主体〉の特権性を問うことである。それは科学的実践の経験的〈主体〉を」社会的空間、時間の特定の点に位置させることによって)科学的〈主体〉が構築した客観性の連関のなかで説明しようと努めることである」。歴史化を行う主体をも歴史化しなければならないという主張である。かくしてブルデューの結論はこうである。「本質的分析に歴史的分析を置き換えなければならない。歴史的分析のみが、本質的分析がその結果をそれと知らずに記録する過程を記述することを可能にする」。続く第4章は界を構成するハビトゥスの根拠となる〈身体による認識〉に関する論考だが、長くなるので稿を改めよう。


2019年06月14日(金)

晴れ後曇りで昨日よりも過ごしやすい一日。8時半出社。9時過ぎに事務所を出て千代田線、日比谷線を乗り継ぎ八丁堀駅にて下車。出口を出て目の前の八重洲通りに面して〈日本海事検定協会本部ビル〉がある。ビルの前で松川淳子さんと岸和郎さんが待機している。10時に竹中工務店設計部の花岡郁哉さんと福西英知さんと待ち合わせ。7階の会議室に移動してスライドによる建物概要の説明。約15分遅れて石山修武さんが到着。間口10m、奥行23m、RC造10階建てのオフィスビルである。中心軸上の奥にEV2基を置き、両側に男女のトイレと2つの避難階段を配置。透明なEVシャフトの裏側は裏面道路に面した明るい休憩室というきわめて明快なプランである。八重洲通り側は南面なのでPCの水平ルーバーによって日射制御しながら作業台ともしている。パンチンクメタルの天井裏に納めた空調機へのリターン空気は両側面のRC柱に沿った棚内に巧妙に収められたダクトによって棚下から吸引されている。2,3階の執務室は道路側をスキップフロアによって連続させている。中規模ながら隅々まで考え抜かれたオフィスビルである。見学が終わった頃に中谷礼仁さんが到着。設計担当の花岡さんは東大の大野秀敏研の出身で僕の授業を聴講したこともあるそうだ。以前にも仙台や池袋のオフィスビルで本賞を受賞している常連応募者である。11時過ぎに外に出て八重洲通りからファサードの構成を確認した後に解散。銀座線京橋駅まで歩き12時過ぎに帰社。Uさんから「箱の家164」第4案に関するコメントメールが届く。第4案の縮小斜路案はやはりせせこましく感じたようで基本的には第3案に収斂しそうである。何点か質疑を受けたので詳細な回答を返信する。戸田に第3案の鉄骨フレームのアクソメ図を描くように指示。オンサイトや矢橋さんから連絡がここしばらく途絶えているところを見ると「163保田邸」の工事が停滞しているようだ。矢橋さんに監理報告を請求すると、梅雨のせいで外装工事が滞っているとのこと。仕上げ工事が始まって2週間も工事が滞るのは考えにくい。少なくとも内装工事や家具工事は可能なはずである。その旨を伝えたらオンサイトから直ちに工事報告が届く。階段工事はまだ始まっていないようだ。一部露出配管の経路についてメールで打ち合わせ。富山の正栄産業から「162酒井邸」の基礎、外部配管の施工図とコンクリート調合表が届く。ユニットバスの仕様図も届いたので酒井さんに転送。高口洋人さんから編集委員宛に『建築雑誌』の特集のライアンアップ案を提出してほしい旨のメールが届く。そろそろ活動が本格化し始めている。夜は読書。

『ピエール・ブルデュー1930―2002』(加藤晴久:編 藤原書店 2002)を読み終わる。2002年に72歳で急逝したブルデューの追悼特集本なので断片的な記事が多いが、ブルデューの活動範囲の驚異的な幅広さを確認することができた。ブルデューの晩年の論文も興味深い。次はいよいよ彼の主著である『ディスタンクシオン,---社会的判断力批判』(ピエール・ブルデュー:著 石井洋二郎:訳 藤原書店 1990)に取り組むつもりだが、その前に『パスカル的省察』を再読し読後評をまとめねばならない。


2019年06月13日(木)

ピーカンの晴れで昨日より暖かい1日。8時半出社。富山の正栄産業と「162酒井邸」の基礎コンクリーピーカンの晴れで昨日より暖かい1日。8時半出社。富山の正栄産業と「162酒井邸」の基礎コンクリート工事についてメールのやり取り。床下配管のスリーブなどの施工図を確認する。高口洋人さんから『建築雑誌』編集委員会のメンバーに法政大学の浜田英明さんが加わることになった旨の報告メールが届く。加藤耕一さんも推薦してくれたようだ。これで編集員会はさらに強力なメンバーになったと思う。11時過ぎに事務所を出て表参道から渋谷へ行き、湘南新宿ライン新木場行に乗り換えて東京テレポート駅にて下車。歩いて5分で青海展示棟Bにて開催中の〈再生建築展〉の会場へ。〈学生 建築ストック再生コンテスト〉の最終審査会である。11時45分に会場奥の事務局に審査員が集まり弁当の昼食。とりあえず青木茂さん、永山祐子さん、僕の3人が集合。門脇耕三さんは急用のため賞状のサインだけ済ませて会場を去る。少し遅れて藤村龍至さんが到着。審査スケジュールを確認して展示会場に移動。12時半から審査会開始。まず青木さんがコンテストの趣旨について説明した後、10チームが模型とスライドで5分間プレゼンテーションし、その後5分間の質疑応答。広大な会場ではあちこちで展示のアナウンスが放送されるので煩くてなかなか集中できない。予定より少し伸びて14時30分すぎに終了。審査員4人は一旦事務局に戻り各人が6作品を投票。その場で集計し、まず入賞候補の6作品を選ぶ。最終審査では全員が投票した2作品と2番目の1作品の優秀候補3作品について議論することを決定。直ちに会場に戻り、藤村さんの司会で審査員が聴衆の前で意見交換。その後応募者の希望者によるコメントと質疑応答。議論が煮詰まったところで審査員の挙手によって最優秀賞と優秀賞を決める。最優秀は2人が推しただけの作品なので、本来ならば審査員相互でさらに突っ込んだ議論をすべきなのだがもはや時間切れ。中途半端な結果なので僕としてはあまり後味が良くない。15時過ぎに審査終了。15分の休憩を挟んで表彰式を実施し15時半過ぎにすべて終了。青木さんに打ち上げの懇親会に誘われたが、宙ぶらりんな気分なので乗り気になれず辞退して16時半に帰社。戸田がまとめた「箱の家164」第4案にコメントを加えてUさんに送信。第1案の縮小版だが何とか斜路を取り込むことができた。ややせせこましい空間構成なので僕としては第3案の方が好きだが、斜路の魅力を優先すれば第4案もありうるかもしれない。面積は第4案の方が大きいので、当然工事費も嵩む。Uさんの判断次第である。「162保田邸」のオープンハウス案内状の改訂版を作成する。文章を推敲し、開催時間を午前中からに伸ばし、駐車場に関する注意事項と施工社名を加えて保田さん、オンサイト、矢橋さんに送信。今月末に界工作舎HPやfacebookにアップし関係者に送付しよう。

ブルデューの一連の著作の知見を元にアレグザンダーのパタンランゲージについて考えてみる。まず忘れてならないのは、アレグザンダーはパタンランゲージの普遍性を主張しているが、その主張自体が歴史的、社会的制約を帯びていることである。同時に1960年代の大学紛争や文化革命の影響からくる反モダニズムの運動と反建築家=反エリート主義の影響も強く反映している。ジェイン・ジェイコブスとの同時代性もあるが、都市の捉え方において両者は対照的である。アレグザンダーは基本的に高密度な大都市を認めないが、ジェイコブスは逆に大都市の魅力を積極的に評価しているからである。レヴィ=ストロースの構造主義人類学のスタティックな〈構造〉概念の影響もあるだろう。レヴィ=ストロースが提唱した〈出来事と構造〉という対比は本来は個別的な歴史的事件とその底流にある構造とのセットだが、アレグザンダーは〈変わるものと変わらないもの〉あるいは〈出来事と空間〉という対比に読み換えてパタン概念に取り込んでいる。さらにそれは〈意識と無意識〉や〈建築家なしの建築〉へと読み換えられて〈匿名性〉や〈日常性〉の概念へと転換している。僕はさらに突っ込んで、脳に組み込まれた思考の〈構造〉という形でスタティックなパタンが存在する可能性についても考えてみたい。つまりブルデューが提唱する〈ハビトゥス〉も一様ではないということである。


2019年06月12日(水)

曇りの涼しい一日。8時半出社。9時過ぎに事務所を出て原宿駅から山手線に乗り新宿駅で中央線に乗り換えて阿佐ヶ谷駅に9時50分着。南口から中央線に沿った飲み屋街を抜け、歩いて約5分の商業地域内の住宅密集地域にある〈古澤大輔邸〉に着く。北側道路からやや引っ込んだ私道に面したファサードが目に飛び込む、RCフレームと床スラブが半階分ズレているため複雑で彫りの深いファサードに見える。2階ベランダから古澤さんが声をかけて降りてくる。正方形の狭小敷地ギリギリ一杯に建てられた6m弱角の正方形プランの中央に十字形のRCフレームを建て、半階分ズレた高さにRCスラブを差し込み、四隅に柔らかく仕切られた約4畳半の空間をつくりながら、一角に階段を差し込んでいる。階高を最小限に抑え1階水回りと3階和室の天井高は1.9mだが、外につながっているため圧迫感はまったくない。RCフレームとRCスラブをスケルトンにして、間にガラススクリーンを差し込むことによって内外を分節している。ファサードは北側なので日射によって南隣家が明るく浮かび上がり透明感が強化される。十字形RCフレームには既視感があるのだが想い出せない。安藤建築のような気もするが定かではない。2階の食卓に座り、僕ならばこの敷地にどう設計するかを考えながら古澤さんの説明を聞く。『新建築社住宅特集』5月号の記事を読んだので、コンセプトよりもディテールの方に視線が集中する。僕は基本的にRC造はやらないので、敷地外周に鉄骨の軽くて薄い籠型フレームを立て内部にできる限り広い空間を確保することからスタートするだろう。対照的にこの建築は中央に重厚なRC造フレームが鎮座している。複雑な構成なので型枠工事は大変だったろう。TH-1が工事を担当したそうだ。四隅の空間のスケールに対して40儚僂涼譴販造蓮∨佑砲肋々アンバランスに感じられるが、それがこの建築の形態的な強度を醸し出しているともいえる。しかし直角の曲がり階段の勾配は僕の年齢にはちょっと厳しい。外周壁を〈層の重なり〉に見せ、躯体と外壁の隙間から採光するディテールには感心する。構法の面では洗練されているが、外部に晒されたRC部分の熱容量が室内気候に与える影響については若干の不安がある、南面には庇がないので夏季の日射も気になる。住み始めてまだ3ヶ月だから、これから体験的に実証されるのだろう。一通り室内を見学した後、古澤さんのキャリアや研究テーマの話になり、博士論文『再生建築における〈転用〉の建築論的分析および実践的検証』を貰う。建築の〈転用〉をデザインの可能性の拡大に展開させるテーマで、この住宅もその適用の一例である。ともかくいろいろなことを考えさせる問題提起的な建築である。気がつくと11時半を過ぎていたので早々にお暇する。帰途の電車の中で木村がまとめた「162酒井邸」基礎スリーブのチェックバックCBを正栄産業に送信しユニットバスのCBを酒井さんに送信。12時半に帰社。戸田と「箱の家164」に斜路を組み込み、全体を縮小した第4案の打ち合わせ。56坪程度にまで縮小可能な見通しが立ったので早急に清書するように指示。面積は第3案よりやや大きく寝室が縮小されている。それでも第3案より概算工事費は大きくなるが、斜路を優先するならギリギリの案である。アクソメをまとめたらUさんに送信しよう「162酒井邸」の基礎工事について横山さんとのメールをやり取り。「163保田邸」のオープンハウスの条件について保田さんやオンサイトとメールで意見交換。時間は午前中まで伸ばすことにする。駐車場は何とか確保できそうだ。21時半帰宅。『ピエール・ブルデュー 1930-2002』を読みながら夜半就寝。

『ピエール・ブルデュー 1930-2002』の第2部「界(シャン)とは何か---政治界について」において気になる指摘に出会う。「界とは社会的マクロコスモスの内部の自律的なミクロコスモスなのです。〈自律的(オートノム)〉とは語源的に〈自分固有の法、ノモスを持つ〉〈自分の機能の原理と規則を自分の内に持っている〉ということを意味します。隣のミクロコスモスでは通用しない、それ固有の評価基準が作用する世界です。普通の社会世界の法則とは異なる、それ固有の法則に従う世界です」。ブルデューは〈芸術界〉や〈科学界〉を例にとり挙げながら〈界〉を成立させるハビトゥスについて論じている。ここから建築における〈自律性〉は〈建築界〉が一つのミクロコスモスになっていることが前提になっていることが分かる。つまり建築にまつわる特殊な言説が通用するような〈界〉が存在するということである。もちろん〈建築界〉は〈政治界〉と同様、社会に強くつながっている。しかし建築教育、建築学会、建築メディア、建築賞、建築法規は〈建築界〉を半ば閉じたミクロコスモスとして成立させていることは間違いないように思われる。その中で、さらに建築表現の〈自律性〉を問うことができるのである。この問題は突っ込んで考えてみる価値がありそうである。


2019年06月11日(火)

晴れのち曇りの涼しい一日。8時半出社。「115金原邸」のメンテナンス工事についてカッシーナとSTUDIO8の三品道明さんとメールや電話のやりとり。見積書が届いたので金原さんに転送し承認を受けたのでカッシーナの堀尾さんにメール報告。合わせて金原さんには工事可能な期間の指示を依頼するメールを送る。三品さんには空調機の取替え工事を先行してほしいという金原さんの希望を伝える。保田さんから「163保田邸」の家具についての質問メールが届く。オープンハウスに備えて家具を揃える相談である。椅子についてはいつも通りセブンチェアやYチェアがお勧めだが。コストを抑えるには無印良品になる。食卓についてもピンキリである。オンサイトからはオープンハウスの時間の延長希望と駐車場の確保に関するメールが届く。酒井さんから工事の進行状況について報告してほしい旨のメールが届いたので、毎週月曜日の定例打ち合わせの結果を送ることにする。先週、松隈洋さんから建築学会論文賞の受賞祝いの「新・前川國男自邸の集い」の誘いが届いたが、佐々木睦朗さんも同行することになりその旨のメールを松隈夫人の森桜さんに送信する。17時に事務所を出て田町の建築会館へ。18時から『建築雑誌』編集会議の第1回。高口洋人編集長を初め13人の編集員が出席。幹事の能作文徳さんはスカイプで参加。建築学会から編集アドバイザーの伏見唯さんと事務局の片寄尚さんが出席。伏見さんは『新建築住宅特集』や中原洋編集室の『TOTO通信』で顔馴染みの編集者である。幹事の長澤夏子(お茶の水女子大)さんは早稲田大学非常勤以来の再会。同じ幹事の増田幸宏(芝浦工大)さんは通底テーマである〈レジリエンス〉の専門家なので高口編集長の右腕である。幹事の加藤耕一さんと海野聡さんは東大の建築史家、吉村靖孝(早稲田大)さんは高口さん、長澤さんの同級生だそうだ。中川純(早稲田大)さんと川島範久(東工大)さんは教え子、そのほか女性3人はどこかで会った記憶がある。まず出席者全員の自己紹介から開始。その後、編集の大まかなスケジュールについて確認した後、7月から来年3月までの毎月の編集委員会の日時を調整。その後、編集委員の追加、連載記事、特集テーマ案、資料の共有法などについて意見交換し20時に終了。その後、有志で地下の居酒屋で打ち上げ。アルコールが入ると俄然みんな饒舌になり女性3人國弘純子(青梅市タウンマネージャー)さんは以前「箱の家」のオープンハウスで、岩瀬諒子(岩瀬事務所)さんには去年のグッドデザイン賞表彰式で、宮原真美子(佐賀大)さんには東京大学大学院の授業で会っていたのである。中川浩明(竹中工務店)さんは環境デザイナーで先日見学した〈竹中研修所 匠新館〉の設備デザインの担当者である。弁護士の岡本正さんは街づくりや震災復興の専門家だそうだ。頼まれた連載は毎回の特集に合わせて考えることにする。22時半に解散。23時過ぎに帰宅。『ピエール・ブルデュー 1930-2002』を読みながら夜半就寝。


2019年06月10日(月)

冷たい雨が降り続く一日。8時半出社。昨夜遅く芳賀沼整さんから届いたメールへ返信。昨日のお見舞いで少しでも元気になってくれればいいのだが。横山天心さんから「162酒井邸」の基礎と排水管施工図のチェックバックが届いたので木村と打ち合わせ結果を正栄産業に送信。10時半に菅原大輔さん、今村水紀さん、少し遅れて馬場兼伸さんが来所。3人とも若い建築家でJIAセミナー2019『1970年代から現在を考える』の企画で1985年に完成したクリストファー・アレグザンダーの〈盈進学園東野高校〉キャンパスを見学し、アレグザンダーの建築理論の現代的な可能性について議論するというシンポジウムの担当者である。これは布野修司さんと青井哲人さんが発案した企画だそうである。アレグザンダーは建築界で時々話題になるが、その度に声が掛かる。中埜博さんを除けば、僕がもっともアレグザンダーに近い存在だからだろう。毎回アレグザンダーを若い建築家がどのように理解しているのか興味があるし新しい見方の発見もあるので参加するようにしている。『建築雑誌』でとり挙げるテーマに展開することができるかもしれない。盈進学園の設計プロセスについて簡単に説明した後11月末に見学会、12月初めにセミナーの開催という暫定的なスケジュールを決めて正午に終了。横山天心さんから今日の「162酒井邸」の定例打ち合わせにプレカット業者が参加するとの連絡があったので、チェックが終わった伏図のみを送信する。夜までに木村が一通りのチェックを終えたので軸組図も正栄産業に送信する。戸田が「163保田邸」のオープンハウス案内のたたき台をまとめたので、目を通してもらうために保田さんとオンサイトに送信。21時半帰宅。『ピエール・ブルデュー 1930-2002』を読みながら夜半就寝。

馬場兼伸さんからJIAセミナーに関係するいくつかの記事のコピーをもらう。ほとんど読んだことのある記事だが、アレグザンダーの設計方法論に関する論文「ドグマとしてのアレグザンダーを超えて---設計方法論の臨界と展開」は初見なので目を通す。著者名が見当たらないがアルゴリズミック・デザインの専門家らしい。2つの問題にひっかかる。第1に『ツリー』から『パタンランゲージ』への移行を不連続ではなく連続的に捉えるという前提から出発している点である。どうやら形式言語(数学)と自然言語の〈同型性〉を〈同一性〉と取り違えているようだ。ダイアグラムとパタンは確かに同型ではあるが建築空間を記述する言語としては本質的に異なっている。『ツリー』においてアレグザンダーはダイアグラム(形式言語)の限界を明確に把握した上でパタンランゲージ(自然言語)に転換したのである。この論文はその点をまったく理解していない。間違った前提から導かれる結論は当然ながら間違っている。第2にパタンランゲージをコンピュータのソフト開発に適用した集合知の問題と関係づけている点である。パタンランゲージの方法を集合知の生成に適用することについてはとくに問題はない。同じように様々なジャンルでパタンを開発し適用することも可能だろう。しかしそのことと建築空間へのパタンランゲージの適用とはまったく関係がない。本来のパタンランゲージは〈空間と出来事〉がセットになった造形言語である。この点を忘れて他領域にパタンランゲージを適用しようとするのは、アルゴリズミック・デザインにありがちな〈プロセス〉と〈目標〉を混同した誤解である。パタンランゲージはプロセスの中に空間の型言語を取り込み、プロセスを単なる形式的な手続きではなく、空間をつくる具体的な作業とするために開発された設計言語であることを忘れてはならない。


2019年06月09日(日)

曇りで凉しい一日。6時起床。急いで朝食を済ませ6時半過ぎに出社。iPadと『ピエール・ブルデュー1930-2002』を鞄に詰めて7時に事務所を出る。表参道駅から銀座線、丸ノ内線を乗り継ぎ東京駅に7時半過ぎ着。7時44分発の東北新幹線で郡山駅に9時23分着。郡山駅9時38分発の磐越西線に乗り換えて10時56分に会津若松駅に到着。車内で日記をまとめて界工作舎HPに書き込む。改札口で滑田崇志さんと待ち合わせ、はりゅうウッドスタジオの車で約15分で福島県立医科大学会津医療センターに着く。滑田さんによれば古市徹雄さんが設計した病院だそうだ。RC造6階建の建物手前に鉄骨造のコロネードが左右に伸びているのは雪国の機能的なデザインだろう。2棟の病棟が左右に分かれ左右対称のモニュメンタルなファサードの中央が玄関という構成は丹下健三譲りのデザインのように見える。玄関ホールの奥は広い光庭でその後側にエレベーターシャフトがある。5階東棟の一室が芳賀沼整さんの病室である。ちょうど点滴の最中なのでナースステーションの脇の待合でしばらく待機。11時40分に芳賀沼さんに会う。芳賀沼夫人も同席してしばらく歓談。意外に元気そうで、病状の詳細について訊く。それまで忙しく走り回っていた芳賀沼さんにとっては病室でじっとしているのは辛いだろうと思う。そのせいかやや不眠症気味で色々なことが頭を巡るという。縦ログ構法のシンポジウムをできるだけ早めに開催したいので滑田さんと協力して進めることを約束する。12時過ぎまで話をして12時15分に病室を出る。会津若松市内の老舗の鰻屋で滑田さんと鰻重の昼食。『新建築社住宅特集』に掲載された新宿の3階建縦ログ構法住宅のTV取材や問い合わせがあるそうだ。早急に縦ログ構法のホームページを作成することを確認し会津若松駅前で別れる。14時13分発の快速で郡山駅に15時19分着。郡山駅発15時30分の東北新幹線で16時48分に東京駅着。今朝よりも30分も早い。地下鉄で17時半に帰宅。急いで「箱の家164」の斜路についてスタディし面積の増加とそれに伴う工事費の増額を概算し結果をUさんに返信する。夜はNHKTVスペシャルで1989年の〈天安門事件〉の特集を見る。背景には胡耀邦の死去に伴う学生デモへの対応の仕方に関して、改革開放をめぐる小平+李鵬と趙紫陽+温家宝との権力闘争があったという。毛沢東の死後に改革開放を主導した小平が戒厳令を宣言したというのが小平の強かさというか歴史の皮肉である。彼が敷いた社会主義市場経済の路線はいまだに続いている。『ピエール・ブルデュー 1930-2002』を読みながら夜半就寝。


2019年06月08日(土)

曇り後小雨の一日。8時半出社。木村と「162酒井邸」プレカット図について打合せ。横山天心さんからのチェックバックが届かないので、こちらから横山さんに先行してチェックバックを送り、目を通してもらってはどうかと提案。しかし昼前に横山さんからチェックバックの一部が届く。軸組のチェックバックも月曜日に送るとのことなので、それまで待つことにする。戸田は「163保田邸」の工事進行報告とUさんからの「箱の家164」に関するコメントメールを待機。昼前に簡単な所内打合せを行い清掃して正午に解散。僕は帰宅してひたすら読書。夕方までかけて『パスカル的省察』(ピエール・ブルデュー:著 加藤晴久:訳 藤原書店 2009)を一気に読み通す。ブルデュー社会学の理論編・思想編なので抽象的な議論が中心だが、学ぶべき知見が盛り沢山である。近いうちに再読し気になるポイントを整理しよう。午後、正栄産業から外部配管と基礎スリーブ図が届く。来週早々に外周擁壁の配筋を開始するとのこと。工事が本格化したので対応を急がねばならない。夜、Uさんから「箱の家164」第3案に関するコメントメールが届く。工事予算を少し増やすことを試みる旨の内容に加えて、まだ斜路についてこだわりが残っているようだ。明日は会津若松に日帰り出張なので、夕方の帰社後に再度スケッチを試みてみよう。Amazonから届いた『ピエール・ブルデュー1930―2002』(加藤晴久:編 藤原書店 2002)を読み始める。


2019年06月07日(金)

曇り後雨のやや涼しい一日。昨夜遅く正栄産業から「162酒井邸」の地盤改良砕石パイルの施工報告書と基礎周りの断熱パネルの施工法に関する質疑書が届く。木村に検討を指示し、回答をまとめて返信する。砕石パイルは問題なく想定の耐力が得られたようだ。次は基礎工事である。オンサイトから「163保田邸」のかまち引戸の枠サイズに関する質問メールが届く。かまちの幅と吊金具のサイズとの関係に関する質問である。当然、実施設計段階でチェックしておくべき条件だが、施工段階でこの種の質問を受けることが多すぎるのは困りものである。担当の戸田に猛省を促す。保田さんがfacebookで施工状況の写真をアップしている。外装のガルバリウム鋼板角波板張工事がかなり進み、内装も徐々に進行している。床下の還流ダクトの高さも下げられたようだ。酒井さんから改めて「認定住宅新築等特別税額控除」を受けるための条件を訊かれたので長期優良住宅や低炭素建築物について回答する。いずれも着工前の申請が必要なので、現時点では申請はできない。工事資金がすべて自己資金であることを確認した時点で、それらの申請の実施を中止した記憶がある。確認申請手数料以外に追加の費用がかかるからである。良かれと考えて判断したことだが、税金控除の条件にまでは考えが及ばなかった。次回の参考に銘記しておこう。13時過ぎに事務所を出て、雨の中を表参道駅から千代田線で油島駅にて下車。歩いて10分で近現代建築資料館へ14時15分前に着く。〈安藤忠雄 初期建築原図展〉の内覧会である。
http://nama.sakura.ne.jp/wp/wp-content/uploads/2019/06/kikak1906.pdf
多くの懐かしい人たちに出会うが、若い人はほとんどいない。初期の住宅のスケッチ、手描図面、模型が展示されている。カタログにも図面のコピーが掲載されているが、現物の図面とは印象がまったく異なる。A2、A1サイズの鉛筆図面は現物を見ないと迫力は伝わらないだろう。平断面図と立体見取図を重ね合わせて描くのは安藤独特の手法である。出席者が多いのでじっくりと見る余裕がない。9月下旬まで開催されているので、いずれゆっくり再見することにしよう。14時過ぎから開会式。新館長は女性のようだ。文化庁の官僚に次いで、安藤さんや田中真紀子さんも挨拶。終了後、佐々木睦朗さんと合流ししばらく会場を見て回る。15時過ぎに会場を出て雨の中16時前に帰社。京都工繊大の松隈洋さんから〈新・前川國男邸〉見学会の案内が届く。『建築の前夜 前川國男論』(松隈洋:著 みすず書房 )で〈建築学会論文賞〉を受賞したお祝いの会である。本書の準備段階で鈴木博之さんの主査、僕が副査に加わり松隈さんの博士論文を審査したが、その関係だろう。『パスカル的省察』は第5章「象徴的暴力と政治闘争」を読み終えて最終の第6章「社会的存在、時間、実存の意味」へと進む。今週中には読み終えることができるだろう。


2019年06月06日(木)

晴れで暑い一日。8時半出社。天気がいいので散歩がてら表参道を原宿駅まで歩き、日曜日の会津若松行の予約乗車券を受け取る。表参道は通勤客で溢れている。再び表参道を引き返し、表参道ヒルズを抜けて9時半過ぎに帰社。約30分歩いただけで汗びっしょりである。天気予報では今日は暑くなりそうだ。木村が「162酒井邸」の断熱住宅申請手数料や竣工検査に要する費用をまとめたのでコメントを添えて酒井さんにメールする。断熱申請をするのであれば今月末までに決定するように念を押す。金原さんから「115金原邸」の台所カウンターの写真とサイズを測定した資料が届いたので、カッシーナの堀尾さんに転送し見積を依頼するメールを送る。それ以外の設備機器の取替については仕様をリストアップしてスタジオ8の三品道明さんに見積依頼のメールを送る。空調機の取替えは夏前に行うように依頼する。オンサイトから「163保田邸」の壁のシナ合板、天井の針葉樹合板、LVL小梁の塗装サンプルが届く。オスモカラーの白色原液の拭き取り仕上げを指定したが、総じて白過ぎるので原液を少し薄めた上で十分に拭き取る仕上げにする依頼メールをオンサイトに送る。早稲田大学講義のスライド編集を少々。1時間弱の講義なのでスライドの枚数をいつもよりも減らす必要がありそうだ。夜、佐々木睦朗さんから電話が入る。明日から近現代建築資料館で始まる〈安藤忠雄初期ドローイング展〉のオープニングへの出席確認と、先頃亡くなった川口衞さんの偲ぶ会に関する相談である。法政大学は日本の構造アカデミズムにとって中心的存在であり、佐々木さんは川口さんの後任なので、何らかの形で展覧会と偲ぶ会を開催すべきだろうと伝える。佐々木さんはアカデミズムの世界においても実務の世界においても実質的に中心的存在であることは、先日の構造史シンポジウムでも明らかになった。偲ぶ会はそれを再確認するイベントになるだろう。『パスカル的省察』は第4章「身体による認識」を読み終えて第5章「象徴的暴力と政治闘争」へと進む。身体化された無意識的知識、ハビトゥスによる象徴的権力によって国家が支えられている論理的経緯が詳細に論じられている。


2019年06月05日(水)

晴れ時々曇りの蒸し暑い一日。8時半出社。思い立って1ヶ月以上怠っている帳簿整理を行う。横山天心さんから6月最初の「162酒井邸」定例打合せの報告が届く。何点か質問があるので回答メールを整理して返送。酒井さんからは省エネ住宅指定の証明書の発行手続について質問メールが届く。贈与税非課税金額の増額のための手続である。木村が関係機関に打診し条件をまとめて酒井さんに返信する。断熱材の検査があるようなのでそれまでに認可を受ける必要があるがあるため少し急がねばならない。夜に回答メールが届き、今後必要な経費を考慮して決めたいとのこと。今回の申請と検査の手数料に加えて上棟式や竣工検査の費用をまとめるように木村に指示する。金原さんから「115金原邸」メンテナンスに関する返事メールが届く。キッチンカウンターの塗装仕上げの仕様に関して質問されたのでカタログの色見本を添えてコメントメールを返送する。合わせてカッシーナの堀尾さんに塗装仕上げの発注方法について質問メールを送る。メーカーについて若干理解のすれ違いがあったが何とかカッシーナに依頼するように進めることにする。「163保田邸」の最終検査、写真撮影、オープンハウス、引き渡しの日程が決まったので、航空便と宿泊の予約を行う。早めに予約した方が若干の値引きがあるからである。夜、早稲田大の高口洋人さんから『建築雑誌』編集委員拡大幹事会の日程に関するメールが届く。メンバー全員のスケジュールを合わせるのは不可能なので最も出席者が多い6月11日(火)の夜になる。半年後の発行へ向けて編集会議の始動である。『パスカル的省察』を読み続ける。ブルデュー理論の全体像が少しずつ見えてくる。


2019年06月04日(火)

晴れで蒸し暑い一日。8時半出社。早朝に日士連作品賞審査委員長の村松映一さんから電話が入る。腎臓の調子が悪いため1〜2週間検査入院するので他の審査員に伝えてくれという伝言である。早速、審査員全員と事務局にメール報告する。村松さんとは最近2回ほど東京と大阪で審査をご一緒したが、どことなく元気が無く疲れが見えていたので心配していた。ゆっくりと休んで体力を回復し復帰してもらいたい。正栄産業から届いた「162酒井邸」のプレカット図をチェック。軸組図のパースまでついているので、それを見ればプレカット屋がどこまで理解しているか一目瞭然である。「163保田邸」のプレカット屋とは大きな違いである。JIAセミナーの企画担当の馬場兼伸さんから打ち合わせ日時についてのメールが届き、来週早々に来所することになる。建築家の古澤大輔さんからいきなりfacebookでメッセージが届く。一昨日、今村創平さんのfacebookに「建築の自律性」に関する質問コメントを書き込み何度か意見をやり取りしたが、それが気になってメッセージをくれたそうだ。その問題について意見を聞きたいので自邸を見て欲しいとのこと。『新建築社住宅特集』5月号の表紙になっているのが古澤さんの自邸で、スケルトンシステムとインフィルシステムのズレを意図的に表現した予定調和的に見えないリノベーション的デザインに目を惹かれる。サブシステムの自律性を明確に表現しているから、自律性とはそのことを意味しているのかもしれない。メールをやり取りして来週半ばに阿佐ヶ谷駅近くの〈古澤邸」を訪問することになる。夕方、東工大の竹内徹さんから川口衞先生が5月29日(水)に亡くなったというメールが届く。86歳だったそうだ。先生の遺言で葬式は親族だけで済ませたとのこと。先生とのさまざまな想い出が脳裏を過るが〈代々木国立競技場〉の見学会で聴いた川口先生の構造に関する説明は、とりわけ強烈に記憶に刻まれている。ご冥福を祈りたい。『パスカル的省察』は第3章「理性の歴史的根拠」を読み終えて第4章「身体による認識」へと進む。ちょうど半分でまで到達した。翻訳は読みやすいのだが、文章の間に挟まれるカッコ付の付加説明がやたらと多いので文章の切れ目を確認しながら読むのが大変である。


2019年06月03日(月)

晴れ時々曇りで過ごしやすい一日。8時半出社。オンサイトの坂本さんに孔を穿けてしまったアクアパックの取り替えを含めて「163保田邸」の工事進捗状況について写真報告するように依頼する。木村と「115金原邸」のメンテナンスの設備仕様について打ち合わせ。設備メーカーに問い合わせると15年前から現在までに設備機器がかなりモデルチェンジしている。台所カウンターについてはフレキシブルボードを貼り替えるのではなく、先日カッシーナの堀尾さんに紹介された塗装仕上げを提案するように指示。メンテナンス仕様をリストにしカタログを添えて金原さんに送信する。吉村さんから「159吉村邸」の1年検査のスケジュールについてメールが届いたのでTH-1の小松さんに転送する。早稲田大の高口洋人さんから先週の建築学会の総会で正式に『建築雑誌』編集長に任命されたので、確定した編集委員会のメンバーリストが届く。さらに6月中に最初の編集委員会を開催するため、編集メンバーのスケジュール調整を依頼される。メンバーを見ると構造家が少ないので木構造の専門家を入れてはどうかと高口さんにアドバイスする。網野禎昭さんが適役だと伝えたが、すでに打診して固辞されたそうだ。残念至極。夜、正栄産業から「162酒井邸」のプレカット図と質疑表、ユニットバスの仕様図が届く。プレカット図については僕たちが細部まで徹底的にチェックした「163保田邸」をモデルにチェックバックするように木村に指示する。夜、オンサイトから工事状況の写真が届く。外壁のガルバリウム鋼板角波板張り工事が進んでいる。床下の還流ダクトが設置されているが、高さが指定よりも高いので、冷房時の冷気を吸い上げることができない。還流ダクトの目的を説明した上で、できるだけ基礎スラブに近い高さまで下げるように依頼メールを送る。

『パスカル的省察』第2章「スコラ的誤謬の三つの形態」では、スコラ的性向が形成される社会的条件を検証しながら、その性向が3つの領域、すなわち1)認識(あるいは科学)の領域、2)倫理(あるいは法、そして政治)の領域、3)美学の領域、において形成されることが明らかにされている。ブルデューは明記していないが、この3領域は明らかにカントの三批判に対応しており、ブルデューの狙いがカントのスコラ的性向の批判にあることは明確である。しかしながら僕にはブルデューの批判の論理展開の詳細は十分にフォローできない。かすかに理解できるのは、スコラ的性向が自らが置かれた社会的条件と歴史的条件に関して無自覚であるという指摘だけである。「スコラ的読み方というのはいかなるものだろうか。それはまず、ある概念がその場を占めるにいたった、それゆえにその概念の理論的機能をより正確に理解する手がかりになるであろう可能態の空間を無視し、不毛な系統図作りに熱を入れる。そしてその当の概念が「棒を逆に撓わせて」支配的な(諸)表象と縁を切るために、時には行き過ぎになるほど強調した側面をさらに強調して不条理にしてしまうのである。だが、たとえばハビトゥスの概念は、すべての行動の起源に意図的な目的を置こうとするスコラ的幻想に対して(中略)、我々の行動は合理的計算よりは実践感覚を基礎にしていることが多いことを想起させることを重要な目的としていたのであった」。カントに対する批判がもっとも明解に展開されているのは、3)美学の領域においてである。「スコラ的幻想の第3の次元は美的普遍主義である。カントがこれをもっとも純粋に表現している。趣味にかかわる判断の可能性の条件を問うわけだが、この判断の可能性の社会的条件には触れないのである。(中略)だが実は、感性のいわゆる先験的な使用なるものは、この社会的条件を前提にしているのである」。つまりカントのいう感性も社会的・歴史的に形成されたものだということである。これに対して、いわゆる〈大衆美学〉を主張するポピュリズムもスコラ的幻想の一つに過ぎないとブルデューはいう。ボードレールは、以上のような近代の芸術界、文学界のスコラ的性向を転覆させることを試みた詩人であるとブルデューはいうが、その内実は僕には理解できない。要するに〈界〉は歴史的に形成される社会的存在であることを銘記しておきたい。


2019年06月02日(日)

曇りで過ごしやすい一日。9時半出社。昨夜、建築家の菅原大輔さんからJIAセミナー『1970年代から現在を考える2』への参加依頼のメールが届く。クリストファー・アレグザンダーの〈盈進学園東野高校〉をとり挙げ、その建築思想の現代的な可能性を検証しようという試みらしい。布野修司さんと青井哲人さんが発案した企画で昨年から始まり今年で2年目だそうだ。基本的に参加を受諾し、モデレーターに中谷礼仁さんを推薦するが、企画担当の馬場兼伸さんからメールが届き、モデレーターは企画者としての青井さんに決まっているとのこと。一度、来所して企画の打ち合わせをしたいとのことなので了解メールを返信する。はりゅうウッドスタジオの滑田嵩志さんから芳賀沼整さんの入院先について訊き、会津若松の病院という返信が届いたので、来週の日曜日の午前中に見舞いに行くことに決めて新幹線の切符を予約購入する。午後は一旦帰宅し昼風呂に入った後、仮眠と読書のくり返し。夜、NHKTVで安楽死の特集番組を観る。自立した日本人女性が難病に罹り寝たきりの植物状態になる可能性がはっきりしたので、家族と相談して安楽死を法的に認めているスイスに行き実際に安楽死するまでのドキュメンタリーである。自分の死を自覚的・意識的に選び、実際に家族に話しかけながら眠るように死んでいく姿を記録した画期的な番組である。とはいえ一方で、寝たきりになりながらも家族と一緒に生活することを選択した女性の状況も並行して描くことによってバランスをとっている点がNHKらしい。前者だけなら日本では禁止されている安楽死を推進するような番組になるからだろう。夜、今村創平さんがfacebookで『建築の自律性』について解説していたので、その意味について問うコメントを書き込む。『建築の自律性』とは最近よく目にする言葉だが、明確な定義なしに使われている点に疑問を感じたからである。僕たちの世代では八束はじめが『批評としての建築』(八束はじめ:著 彰国社 1985)で建築批評が成立する前提としての〈建築形式(形態)の自律性〉について論じているが、後に八束さんはこの主張を撤回している。この問題については南洋堂で開催された今村さんを交えた鼎談で議論したことがあるが、今村さんは忘れてしまったのだろうか。『パスカル的省察』を読みながら夜半就寝。


2019年06月01日(土)

6時半起床。朝風呂に入って目を覚ました後7時に地下1階の食堂で朝食を摂る。部屋で一休みした後、9時にチェックアウトし歩いて新神戸駅へ。9時17分に新幹線改札口で竹原義二さんが合流。設計者の阿曽芙美さんと待ち合わせ、タクシー2台に分乗して神戸市灘区の〈HATハウス〉へ。斜面の造成敷地に東西に長い長方形の箱を置き、切妻屋根を載せた内部を45度の線で分割したプラン。1階はアトリエ、2階が住宅という阿曽さん自身の職住近接住宅である。斜めの壁に沿った階段室の上をトップライトとし、この壁面にアルミ箔の防湿シートを貼り付けてトップライトからの光を1階まで導き入れている。1階のアトリエは土足の一室空間で随所に植物が植えこまれ、低い棚によってコーナーが作られている。2階住居は45度の壁と複雑な木造屋根トラスの組み合わせに加えて2箇所の天井裏空間によって錯綜した空間構成になっている。あちこちにサイズの異なるアーチ壁を配し空間を柔らかく分節している。外観とは対照的な玩具箱をひっくり返したような若々しい内部空間をどう評価するかが分かれ目だろう。総じて審査員たちは好印象を持ったようだが、僕としてはこの建築家はこの先どこに向かうのか、微かな危うさを感じる。45度の斜線は持続的なテーマにはならないだろう。10時半にお暇しタクシーでJR六甲道駅にて快速電車で東加古川駅にて下車。待ち合わせ時間まで少し時間があるので駅近くのハンバーガショップで昼食。ハンバーガーを食べるのは20年ぶりくらいだが意外に美味かった。12時45分に駅に戻り改札口で櫻井潔さんが合流。竹中工務店設計部と待ち合わせタクシー2台に分乗して約10分で兵庫県立大学キャンパス内の〈付属加古川幼稚園〉へ。クラスルームサイズの平面を持つコンクリート壁造の2層の箱を不規則に並べ、その隙間にインフォーマルな半外部空間を作った300人収容の大きな幼稚園である。〈まちかどのような多様な居場所〉と謳っているが、子供の居場所を誘発するような仕掛けはとくになく、土曜日で子供がいないせいもあって平板で閑散とした空間になっている。審査を早々に切り上げて、竹中工務店の柏木浩一さんが設計を担当して2001年に完成した大学棟を見学した後、タクシーで東加古川駅に戻る。尼崎駅でJR福知山線に乗り換え、川西池田駅に予定よりも1時間ばかり早く着く。駅改札口で岸和郎さんが合流し、タクシーに分乗して約20分で竹中研修所の〈匠新館〉へ。RC造の旧館2階の会議室で簡単な説明を受けた後、2階から新館へ。本格的にCLTを使った地下1階、地上1階の研修所である。地下1階はRCラーメン構造の研修室、地上3階がCLT壁構造の宿泊棟である。設計を担当した寺村雄機さんによればCLT構造の可能性を検証するための実験棟として位置づけられているが、本格的な導入までにはまだまだ課題は大きいという。やはり大きな条件はコストである。各階の庇や床下空調など構造だけでなくディテールまで考え抜かれた単純明解な建築だが、僕としては冒険的な試みが今一歩足りない印象を受ける。地下階から外へ出てCLT仕上げによって統一された外観を確認。予定よりも早めにお暇して川西池田駅に戻る。快速で新大阪駅まで行き、一旦改札を出て1階の美美卯にて簡単なつまみと凍結酒で打ち上げ。石山修武、竹原義二、岸和郎、櫻井潔、高橋晶子、中谷礼仁、僕の7人で今日の審査について意見交換。プラスマイナス様々な意見が飛び交う。18時45分過ぎに店を出て改札口で竹原、岸の両氏と別れ、19時過ぎ発のののぞみに乗車。缶ハイボールを呑みながら建築談義。21時半前に品川駅にて下車。22時半に帰社。鞄から資料を出し、洗面用具を持って帰宅。23時過ぎに就寝。長い一日だった。


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