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『建築技術』2007年5月号  特集 木質ラーメン構法で住宅をつくる

木質ラーメン構法と「箱の家」

難波和彦

「箱の家シリーズ」の展開
「箱の家」は在来木造と鉄骨造のふたつのシリーズでスタートした。在来木造シリーズは一室空間住居のライフスタイル、構法や箱形デザインの単純化・標準化によってローコストで高性能な住空間をつくることを目的にしていた。鉄骨造シリーズは一室空間住居をめざしている点では在来木造シリーズと同じだが、特殊な敷地条件や要求条件でコスト的にも余裕があるような場合に選択した。構造システムや構法も可能な限り標準化した。「箱の家」の20番台まではこのふたつのシリーズで展開していたが、「箱の家30」あたりで集成材造の軸組構法へと転換する。
第1の理由は、在来木造のプラニング・バリエーションが3種類のタイプに収斂したことである。在来木造では他のバリエーションへの展開が難しくなった。第2は、在来木造の技術的条件に問題が生じたことである。在来木造の構造軸組材には輸入材を使用していたが、その品質が下がり寸法精度に大きな誤差が出るようになった。「箱の家」の使用材料は工業材料で寸法精度が高いため、結果的に仕上工事に齟齬が生じるようになった。第3は、在来木造では3階建ての住居をつくるのが難しいことである。3階建ての場合は鉄骨造を選ばざるを得ないが、その場合はコストがかさむ。「箱の家シリーズ」の選択肢として、鉄骨造よりも安く3階建を建てられる構法が必要だった。

集成材軸組構法への転換
集成材軸組構法を採用し始めたのは、集成材軸組のSE構法を使った住宅を提案する「SELLHOUSE展」(1998)に参加したことがきっかけである。僕はSE構法を町家タイプと3階建てタイプの「箱の家シリーズ」へ結びつけることを考えた。そこで「箱の家」のコンセプトにもとづいて3階建て「箱の家」のプロトタイプを提案した。展覧会の趣旨文には、以下のように書いた。
「高密度な都市や郊外住宅地に建つ住宅のプロトタイプを提案します。コンセプトは「内と外に開かれた一室空間的な住まい」で、これまで進めてきた「箱の家シリーズ」と基本的に同じ考え方にもとづいています。SE構法を使うと、木造でありながら3階建ての開放的な軸組構造が可能になります。この特性を最大限に生かして、狭い敷地でもプライバシーを守りながら、自然に触れることのできる開放的な住まいを考えました。構造、内・外装仕上、開口部、設備・電気システムなどの仕様をすべて標準化し、徹底したローコストをめざしました。どのタイプも連続化、集合化が可能なように考えられています。いずれも都市の自然を取り込んだシンプルな近未来型都市住宅です。」

「箱の家」集成材造シリーズ
「箱の家33」と「箱の家34」は、ほとんど同時に進行したプロジェクトで、集成材軸組構法を初めて適用した「箱の家」である。どちらも間口が狭く奥行きが深い敷地なので、「ウナギの寝床型」の住宅になった。その場合プランニングの自由度を確保するには、間口方向の耐力壁をできるだけ少なくすることが重要な条件となる。どちらも2階建てだが、SE構法を選択したのは、柱梁が半剛接構造なので、間口方向の耐力壁を最小限に抑えることができるからである。これによってトンネル上の空間を柔らかく仕切るという町家型の「箱の家」を実現することができた。集成材のラーメン構造によって一室空間的な「町家」が可能になったわけである。

外断熱構法
SE構法の標準仕様では、屋根スラブに断熱パネルが使われている。これは結果的に外断熱構法になっている。ならば断熱パネルを外壁にも使えば、完全な外断熱構法が可能なはずである。その最初の試みが「箱の家49」である。この家ではSE構法による3階建てスケルトンを、屋根、外壁とも断熱パネルで包み込んでいる。屋根は断熱パネルの上に通気層を取り、その上に防水した。外壁も断熱パネルの上に通気層を通し成形セメント板を張っている。いずれも輻射熱対策である。室内は断熱パネルをそのまま仕上げとした。これによって3階建て一室空間住居としての「箱の家」のプロトタイプが完成した。この構法の最大の問題点は配管・配線設備の納め方である。この構法では柱・梁とスラブ・外壁の間にまったく隙間がないので、配管・配線スペースを確保するのが難しい。現在のところ最良の方法は縦シャフトをつくり、床上に横引きのための配管・配線スペースを確保することである。幸い「箱の家」の標準的な床暖房に水蓄熱式床暖房(アクアレイヤー・システム)を採用しているので、外壁の内側に配管・配線スペースを確保できた。
その後、同じ方法によって3階建ての「箱の家55」「箱の家60」「箱の家63」「箱の家72」をつくった。無印良品のために開発した「MUJI+INFILL木の家」もSE構法である。一方、断熱サンドイッチパネルによる外断熱構法は、集成材造シリーズだけでなく、鉄骨造シリーズ、アルミニウム造シリーズにも適用し、現在では「箱の家シリーズ」の標準構法になっている。
以上のように、集成材軸組を使った木質ラーメン構法は、一室空間住居を基本コンセプトとする「箱の家シリーズ」にふさわしい構造といえるだろう。

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