『コンパクトシティへ向けてーリノベーションとコンバージョンの可能性』
『建築士』 2006 年 10 月号
リノベーション(改築)とコンバージョン(用途転用)は、省エネルギーと並んでサステイナブルデザインの重要なテーマである。戦後の高度成長期や 1980 年代のバブル期のようなスクラップ・アンド・ビルドに替わり、既に存在する建物を別の機能の建物に転用し使い続けるという考え方が、これからのデザインの大きな潮流になることはまちがいない。
リノベーションとコンバージョンには多様な方法がある。もっとも簡単なものは、既存の建物に最小限の手を加える延命治療的な方法だが、それ以上に重要なのは、単に建物の機能を変えるだけでなく、新たな技術によって高性能な建物に変える方法である。つまり既存の建物の潜在的な可能性を引き出し、新しい建物に再生させるという方法である。リノベーションとコンバージョンの本来の可能性はここにある。
日本の近代建築の歴史は約 150 年だが、戦後の高度成長の中でリノベーションやコンバージョンを適用できる建築的ストックは急速に蓄積され、都心部には高密度なオフィス街が形成されている。景気の回復に伴ってふたたび大規模オフィスビルの建設ラッシュが始まったが、こうした傾向は都心のオフィスビルを急速に空室化させ、かつてのオフィスビル街は活気を失い始めている。そうした空きオフィスビルを、集合住宅を中心とする複合ビルにコンバートし、それを連鎖させることによって、沈滞したダウンタウンを活性化させる方法としてリノベーションとコンバージョンが注目されるようになった。
都心の空きオフィスビルのコンバージョンには、もうひとつ重要な目的がある。それは都心居住の意義を見直すことである。今日のようにオフィスビルが都心に集中しているのは、働く場所と住む場所を分けるべきだという機能主義的な都市計画にもとづいている。機能によって都市空間を分類することは、都心を空洞化し、長時間の通勤ラッシュをもたらした。しかし都市の賑わいは多様で雑多な都市機能の混在から生まれる。都心の空きオフィスビルのコンバージョンは複合的な都市空間、すなわちコンパクトシティを生みだす可能性をはらんでいる。
リノベーションとコンバージョンはさまざまな条件が絡み合った複雑なテーマである。まず、どのような建物がリノベーションやコンバージョンに相応しいかを判断するための総合的な診断基準が必要である。さらに所有権や用途変更などの法律的問題、事業として成立させるための地価と建物に関するファイナンスの問題、古い建物を構造的に補強し、新しい設備を装備し、性能を向上させるための技術的問題など、複雑な問題を解決しなければならない。こうした問題を解決するには、新しい建物をつくる以上に複雑で高度な技術が要求される。こうしてリノベーションとコンバージョンは、建築家という職能の見直しへ発展するだろう。さらにリノベーションやコンバージョンの意義を社会に浸透させるには、個々の建物を対象にするだけでなく、それらが連鎖してどのような都市を生みだすかというヴィジョンを提案することが重要な課題となるのである。
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