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『建築士』2006年9月号 ズバリ直言 3 「過去と未来の間」 

難波和彦

政治学者ハンナ・アレントの著書のタイトルである。この中で彼女は人間を2つのタイプに分類している。歴史家と政治家である。歴史家は過去を重んじ、政治家は未来を見据える。この2種類の人間から、僕は20世紀初頭を生きた2人の人間を連想する。歴史家ワルター・ベンヤミンと建築家ル・コルビュジエである。ベンヤミンはパリのパッサージュ(ガラス屋根で覆われた路地)について詳細な記録を残した。パッサージュは孤独な都市住民が漂う裏通りである。そこには都市の妖しい魅力がつめ込まれている。一方、ル・コルビュジエはパリの路地を一掃する壮大な「輝く都市」を計画した。「輝く都市」には健康で活力に満ちた生活が溢れている。しかしそこには都市に不可欠な陰翳が見られない。
歴史的視点からは、過去が集積した現実を変えようという発想は出てこない。現実を詳細に見れば見るほど現実への愛着が生じる。一方、近代的な都市計画には都市の陰翳を組み込む発想はない。新しい都市に最初から「影」の部分を組み込むことは自己矛盾である。しかしながら既存の都市を活性化するこれからの都市再生には、歴史家と政治家の視点の結合が不可欠である。都市の現実を見据え、そこに潜む可能性を見出し、それ生かしながら新しい都市再生を導き出すこと。過去と未来を結びつけるアレントの発想に都市再生のヒントがある。

 

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