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なぜHPに日記を書くか          『室内』2005年10月号 所収

難波和彦

ホームページ上に日記を書き続けている。2002年9月に書き始めてから、ちょうど3年目にさしかかったところである。書き始めた当初は大阪の大学に勤めていて、東京と大阪を往復していたので「東阪往来記」と称していた。2年前に東京の大学に移り、事務所のある青山と本郷キャンパスの往復になったので「青本往来記」と名前を変えた。
日記を書き始めたきっかけは、石山修武さんがHPに書いている「世田谷村日記」である。日々の出来事に関する石山さんのコメントはすこぶる面白く示唆に富んでいる。同じような日記を書いてみたいと思ったのが最初の動機である。日記を書く第一の目的は、毎日の自分の考えをまとめることだが、それだけなら私的な日記で済む。日記をHPに公開する目的はもっと別の所にある。書き始めた当時は、毎週、東京のアトリエと大阪の大学を往復していたので、僕の生活は完全に二分されていた。HP上に毎日の日記を書けば、アトリエのスタッフや大学の学生が僕の活動の全体像を把握できる。僕の方からは仕事や研究の方針を伝えることができる。あるいはクライアントに仕事の進行状況をそれとなく伝えることができるし、家族に大阪での僕の生活の様子を伝えることもできる。さらに日々の出来事の報告と感想、仕事や研究の進行状況、建築・本・映画・音楽の批評など、できるだけ幅広い話題について書くようにすれば、不特定多数の人たちにも読んでもらうことができる。クライアント候補も設計を依頼する前に、僕の考えをチェックすることができるだろう。要するにHPの公開日記は、僕の仕事や考えに興味を持ってくれる人に重層的なメッセージを送る効果的なメディアなのである。
公開日記を書くにあたっては、いくつか注意している点がある。まず否定的なことや批判的なことは、できるだけ書かないように努めている。どうせ書くのならポジティブな内容の方がいいからだ。時にはシビアな批評を書くこともあるが、あくまで叱咤激励のつもりである。ネガティブなことを書く場合は、できるだけ一般論にするか、当事者にしか分からないようなスタイルをとる。固有名を挙げる場合は、細心の注意を払う。固有名は当人への直接的なメッセージだが、同時に僕と当人の関係についての読者へのメッセージでもあるからだ。
雑誌や新聞に書く原稿とは違って、日記には毎日の出来事を書くから、内容はいきおい具体的になる。僕としては、興味のある出来事を選択的に書いているのだが、読者にはそういうコンテクストは伝わらない。むしろ僕の意図とは逆に、日記は私的なモノローグであるという暗黙のコンテクストに引き寄せて読まれてしまう。それはそれで一つの読み方だが、僕としてはモノローグを突き抜けるような重層的なメッセージを送りつづけたいと思っている。

注:界工作舎HP:http://www.kai-workshop.com/
  石山修武研究室HP:http://ishiyama.arch.waseda.ac.jp/www/homei.html

 

 

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