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サステイナブル・デザインの諸相:9           日刊建設通信新聞2005年7月7日号

技術と歴史の統合:時間のテクノロジーをめざして

20世紀初頭に勃興したモダニズム・デザイン運動と、21世紀初頭にクローズアップされつつあるサステイナブル・デザイン運動には、いくつか重要な共通点がある。最大の共通点は、どちらもテクノロジーの進展をバックアップにして成立している点である。ただしモダニズム・デザイン運動を支えたテクノロジーは、自動車を代表とするハードなテクノロジーだったのに対し、サステイナブル・デザインを支えているのは、コンピュータを代表とするソフトなテクノロジーである。しかし両者は対立していない。むしろ後者のテクノロジーは前者のそれの進化した形態である。
一方、両者には決定的な相違点がある。それは時間あるいは歴史に対する考え方である。モダニズム・デザイン運動は19世紀までの歴史を否定し乗り越えようとした。したがってモダニズムの建築には基本的に時間の概念がない。それは完成したときが最高の状態である。これに対し、サステイナブル・デザインは時間を取り入れ、歴史と対話しようとする。それは時間とともに変化する表現をめざしている。
テクノロジーは未来に向かい、歴史は過去に向かう。モダニズムのテクノロジーは時間を排除したが、サステイナブル・デザインはテクノロジーと時間の統合をめざしている。
技術と歴史は、建築に関する学問においても分離している。サステイナブル・デザインを成立させるには両者を統合しなければならない。そこで、同じような考えを持った何人かの建築家と研究者が集まり、「技術と歴史研究会」を発足させた。以下は、この会の設立趣旨文である。                   
「この研究会の目的は、建築・都市に関する技術を歴史的にとらえると同時に、建築・都市に関する歴史認識の方法を一種の技術=工学としてとらえ直すことにあります。技術=工学は、時代の歴史的制約を大きく受けているにも関わらず、これまでは歴史的にとらえられてきませんでした。現代の工学的研究においては、依然として歴史的な視点が排除されています。他方で、建築史学は工学とは独立したジャンルと考えられてきたために、建築・都市を現実につくり上げている技術を、歴史的にとらえる視点を持ちませんでした。しかしながら19世紀から20世紀にかけて展開した近代建築は、その根底においては近代技術の進展によって推進されてきたことは明らかです。したがって近代建築を歴史的に位置づけるには、技術的=工学的な視点が不可欠なはずです。近代建築は技術の進展にともなって、その表現と質を変えてきました。したがって近代的な技術の進展も歴史的にとらえ直される必要があります。近代建築と同様に、21世紀初頭に勃興しようとしているサステイナブルな建築は、今まで以上に進展した科学技術によって支えられています。さらにサステイナブルな建築の現実化には、歴史的視点が不可欠です。なぜならサステイナブルな建築は、既存の建築・都市の上に、それを取り込む形で構築されるからです。したがってサステイナブルな建築の展開には技術と歴史を結びつける横断的な視点が不可欠です。このような視点から、本研究会では、技術と歴史を横断する、新たな建築学的視点を提案したいと考えています。」
現在「技術と歴史研究会」は、技術と歴史を結びつけるさまざまなテーマで公開講義を続けながら、時間を扱うテクノロジーを開発し、工学的な歴史のジャンルを拓くことをめざしている。

写真:パーラメントハウス(英国議員会館) 設計:マイケル・ホプキンス
   環境制御装置としての建物と、ロンドン中心部の歴史的コンテクストとを統合したデザイン。

 

 

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