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サステイナブル・デザインの諸相:7           日刊建設通信新聞2005年5月26日号

コンパクトシティをめざして:都心居住がもたらす多様なライフスタイル

サステイナブル・デザインが最終的にめざしているのは、サステイナブルな都市の実現である。地球環境にとって、都市で消費されるエネルギーを必要最小限に抑えることが、最重要課題であることは間違いない。もちろん、現在、存在する都市を完全につくり直すことは不可能だし、どこかにまったく新しい都市をつくることも時代錯誤である。私たちに残されている方法は、今、目の前に存在している都市を、少しずつサステイナブルな都市につくり換えていくことしかないのである。
では、サステイナブルな都市にとって最も重要な課題は何だろうか。それは都市をコンパクトにまとめることだと思う。それがコンパクトシティの概念である。人々は現在の生活レベルを犠牲にしてまで、サステイナブルな環境を受けいれようとはしないだろう。現在の生活レベルを維持し、さらには向上させながら、サステイナブルな都市を実現するには、都市をコンパクトにするしかない。そうすればエネルギー効率が高まり、1人あたりの消費エネルギーは小さくできる。巨大都市も適度なスケールを持ったコンパクトな都市の集合体として再編成されれば、サステイナブルな都市になりうる。大量の廃棄物を出さないでコンパクトシティを実現するには、新たに都市を建設するよりも、既存のストックを有効利用するリノベーションやコンバージョンが主要な方法になるだろう。こうしてコンパクトシティは、必然的に人々の生活空間を都心に引き寄せることになる。コンパクトシティは、あらゆる点で、近代の「機能的な都市」とは対極的な都市である。
第2次世界大戦後の都市計画の原理を確立したのはCIAM(近代建築国際会議)である。CIAMは1928年に近代建築家の国際的交流を目的として創立され、その先導者はル・コルビュジエだった。ル・コルビュジエは、機能がはっきりと分離されている都市を「機能的な都市」と定義し、未来の都市計画の鍵は4つの都市機能、すなわち「住居」「労働」「余暇」「交通」の明確な分離にあると主張した。第2次大戦後の世界中の都市計画は、基本的にこの原理にもとづいて実施された。機能毎に地域を分割し、そこに建設される建物の用途を規制した「都市計画地域」の規制は、ル・コルビュジエの「機能的な都市」まで遡ることができる。かくして住む場所、働く場所、楽しむ場所は分離され、働く場所は都心に集中し、住む場所は郊外へと拡散した。人々は毎日、郊外の住居から都心のオフィスへと往復し、そのために費やされる時間とエネルギーは膨大な量に登ることになった。
コンパクトシティを実現するために最も重要な課題は、人々の住む場所を都心に引き戻し、住む場所と働く場所を一体化することである。単に都市の物理的なエネルギー効率を上げただけでは有効ではない。それに並行して、都市の活動もコンパクト化されねばならない。人々が都心に住み、そこで働き、そこで楽しむようになってはじめて、最小限のエネルギーで最大限の生活レベルを維持できるのである。さまざまなライフスタイルを持つ人々が都心に住むようになれば、都市の文化は今まで以上に豊かになるだろう。一方、これまで住む場所だった郊外の広大な地域は、緑豊かな空間に戻され、セカンドハウスが点在する余暇の場所として再編成されるだろう。
コンパクトシティへの第一歩は、住む場所と働く場所を一体化させることから始まるのである。

写真説明:ロンドン郊外のゼロエネルギー団地(設計:ビル・ダンスター)
    :職住近接のライフスタイルと省エネルギーをめざした集合住宅

 

 

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