難波和彦+界工作舎
HOME 難波和彦 難波研究室
箱の家 PROJECT 青本往来記
プロフィール
最近の著書
アーカイブス
リンク集

サステイナブル・デザインの諸相:6           日刊建設通信新聞2005年5月12日号

バックミンスター・フラーの教え:技術革新が新たな建築を生み出す

サステイナブル・デザインの源流を辿るとリチャード・バックミンスター・フラー(1895-1983)に行き着く。生粋のアメリカ人だったフラーは、科学とテクノロジーを徹底的に追求することによって新しい建築を生み出そうとした。フラーのヴィジョンは科学とテクノロジーによって世界を変えることだった。
彼が設計した建築でもっとも有名なもののひとつは、第2次大戦後に航空機産業の技術転換としてデザインした「ダイマキシオン居住装置」(1945)である。これはそれまでの住宅とはまったくかけ離れた革命的な工業化住宅だった。平面は円形で、アルミニウム合金、ステンレス、アクリルガラスなどの工業部品によってつくられた立体局面の円屋根を持ち、その頂点には気流で回転する換気装置が取り付けられていた。さらにこの住宅には、エアフィルター付きの自然換気装置、電動の車付き食器棚、移動可能な間仕切り、セントラル・クリーナー、キッチンユニット、バスルームユニットなどが備えられていた。このように、この住宅は初めてエネルギー技術を本格的に取り入れた住宅としても重要である。この住宅がサステイナブル(持続可能な)デザインのパイオニアだといわれるのは、その点においてである。この住宅は高性能でありながら全重量は3.5トンしかなく、すべての部品をコンパクトな円筒の箱に詰めて運搬できるようにデザインされていた。
第二次大戦後のフラーの活動は建築から大きくはみ出していくが、彼の活動がもっともめざましい展開を見せたのはフラードームの開発においてである。その集大成ともいえるのが「モントリオール万博アメリカ館」(1967)である。これはスチール製の星形テンスグリティ(完全張力構造)トラスで構成した直径76mのドームに、透明なアクリルをはめ込んだ単純明快なパヴィリオンで、彼が生涯を通じて主張した「最小限の構造体で最大限の空間を包み込む」技術を世界中に知らしめた。
フラーは、テクノロジーの進歩は軽量化と高性能化にあると考え、それを「エフェメラリゼーションの原理」と呼んだ。それは技術革新を通じた機能の集積化と軽量化によって、新しい建築が生み出されるというデザイン原理である。技術の進展が建築を変えるというモダニズムの教義を極限まで推し進めた点において、フラーの「デザイン科学」とエフェメラリゼーションの原理は、1980年代以降に技術的表現を追求するハイテック建築によって再評価され、さらにその展開型であるエコテック建築やサステイナブル・デザインへと受け継がれていった。
フラーのデザイン思想を引き継いでいる建築家は多いが、その中で、現在もっとも注目すべき活動を展開しているのは英国の建築家ノーマン・フォスターである。フォスターはイェール大学留学中にフラーに師事し、英国に帰国して本格的なデザイン活動を展開する中で、フラーの思想を徹底的に追求した。フラーが生きている間には、彼との共同設計を試みている。最近のフォスターの作品は、すべてサステイナブル・デザインの模範例といってよいが、その根底にはフラーのデザイン思想があることを忘れてはならないだろう。

写真説明
1) フラー設計のダイマキシオン居住装置
2)ノーマン・フォスター設計のスイスREビル(2005):耐風性能を考慮した形態と自然換気システムを備えた超高層ビル

 

 

▲TOP

Copyright (C) 2003 KAZUHIKO NAMBA+KAI WORKSHOP. All Rights Reserved.
No portion of this web site may be reproduced or duplicated without the express written permission.
This web site is written in Japanese only.