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サステイナブル・デザインの諸相:5           日刊建設通信新聞2005年4月21日号

エコテックとバウビオロギー:テクノロジーと自然の統合

サステイナブル・デザインには、2つの大きな潮流がある。エコテックとバウビオロギーである。両者の違いは、テクノロジーのとらえ方に由来する。そもそもサステイナブル・デザインが注目されるようになったのは、テクノロジーが地球環境を左右するほど強大になったからである。テクノロジーとデザインをどのように結びつけるかは、サステイナブル・デザインにとって最大の課題だといってよい。
まず、エコテックは、地球環境を脅かしているのは強大化したテクノロジーだが、それを解決するのもやはりテクノロジー以外にないと考える。サステイナブル・デザインを実現するには、これまでのテクノロジーをさらに進化させ繊細化した、先進的なテクノロジーが不可欠だと考えるわけである。一方、バウビオロギーは、テクノロジーの進展自体に問いを投げかける。これまでのようなテクノロジーの急速な進歩を緩やかにし、可能ならば過去のテクノロジーへ回帰することが必要だと考える。
両者の違いは、近未来のエネルギーのとらえ方にはっきりと現れている。エコテックは化石燃料から原子力への転換が必然的な歩みだと考えるが、バウビオロギーは原子力を否定し、太陽熱、風力、地熱、潮力といった自然エネルギーの利用こそが近未来のエネルギー源だと考える。たとえばドイツでは、こうした考え方の違いが政策的な問題として議論されてきた。先年のコール首相からシュレーダー首相への移行は、エネルギー政策の違いが大きく影響したことはよく知られている。バウビオロギー的な思想をもつ緑の党がシュレーダーをバックアップし、首相に就任したシュレーダーは、近い未来に原子力発電所を完全に廃止すると明言して物議を醸し出している
このようにエコテックとバウビオロギーの違いは世界観の違いといってもよいが、両者の違いをいたずらに対立させてとらえるのは生産的ではない。たとえば、エネルギーの消費効率を高め、環境負荷の低減をめざすようなテクノロジーの進展は、両者に共通の課題である。あるいは、両者がITの進展によるグローバルな情報ネットワークによって支えられていることは明らかである。航空母艦や戦闘機のような強大な軍事技術と、ヨットやグライダーのようなコンパクトで高性能な技術は、いずれもテクノロジーの進展がうみ出したものだが、前者から後者への移行をめざす点においては、両者は共通している。
建築においては、エコテックは金属やガラスといった工業化材料を多用した建築を生み出し、バウビロオギーは木材、土、紙といった自然素材を多用した建築を生み出している。両者の違いは一見して明らかだが、よく考えてみると両者の境界は曖昧である。たとえば金属の代表である鉄は地球上にもっとも多量に存在する物質であり、錆びれば土に帰る。赤土の色はそもそも錆びた鉄の色である。木材は多量の炭素を固定化しているが、木材の再利用は容易ではない。廃材を燃やせば炭素は空気中に放出される。
近代的なテクノロジーを廃棄して、プレモダンな社会に回帰することは不可能である。都市の建築をすべて木材でつくることは不可能だし、インテリアをすべて工業材料でつくることも無意味だろう。重要なのは両者の考え方を統合すること、すなわち金属やガラスによって自然エネルギーを取り入れた建築を考案することであり、自然材料を工業技術によって高性能化することである。

 

 

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