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『リノベーションとコンバージョン:歴史的ストックとの対話』

サステイナブル・デザインとは、地球環境を後の世代にまで持続させるにはどうすればいいかという視点から建築のデザインを見直そうとする運動である。そのためには、できるだけ長く使い続けることのできる建物を建設し(長寿命)、建物の建設・維持・解体に必要なエネルギーを最小限に抑え(省エネルギー)、すでにある建物を可能なかぎり利用し(リノベーションとコンバージョン)、建設材料をリサイクル可能なものに変えていくこと(再利用とリサイクル)が求められる。
リノベーション(改築)とコンバージョン(用途転用)はサステイナブル・デザインの重要なテーマのひとつである。戦後の高度成長期や1980年代のバブル期のようなスクラップ・アンド・ビルドに替わって、すでに存在する建物を別の機能の建物に転用し、使い続けるという考え方が、これからのデザインの大きな潮流になることはまちがいない。
リノベーションとコンバージョンにはさまざまなタイプがある。もっとも簡単なものは、既存の建物に最小限の手を加えることによって延命させることである。建物を可能なかぎり使い続けるには、こうした延命治療的な方法も有効である。他方で、単に建物の機能を変えるだけでなく、新たな技術によって高性能な建物に変える方法がある。これは既存の建物の潜在的な可能性を引き出し、新しい建物に再生させるという考え方である。リノベーションとコンバージョンの本来の可能性は、後者にあるといってよい。
欧米では、リノベーションとコンバージョンは既にさまざまなかたちで試みられており、ひとつの職業ジャンルとして成立している。しかし日本では、まだ端緒についたばかりである。日本の近代建築の歴史は150年そこそこだが、戦後の高度成長の中でリノベーションやコンバージョンを適用できる建築的ストックは急速に蓄積され、都心部には高密度なオフィス街が形成されている。
昨今の大規模なオフィスビルの建設ラッシュは、こうした都心のオフィスビルを急速に空室化させ、かつてのオフィスビル街は活気を失い始めている。そうした空きオフィスビルを、集合住宅を中心とする複合ビルにコンバートし、それを連鎖させることによって沈滞したダウンタウンを活性化させることが、リノベーションとコンバージョンが注目されるようになった社会的な理由である。
都心の空きオフィスビルのコンバージョンには、もうひとつの目的がある。それは都心居住の意義を見直すことである。今日のようにオフィスビルが都心に集中しているのは、働く場所と住む場所をはっきりと分けるべきだという機能主義的な都市計画にもとづいている。機能によって都市空間を分類することは、都心を空洞化し、長時間の通勤ラッシュをもたらした。しかし、都市の賑わいは多様で雑多な都市機能の混在から生まれる。都心の空きオフィスビルのコンバージョンは、そうした複合的な都市空間を生みだす可能性をはらんでいる。
リノベーションとコンバージョンはさまざまな条件が絡み合った複雑なテーマである。まずどのような建物がリノベーションやコンバージョンに相応しいかを判断するための総合的な診断基準が必要である。さらに所有権や用途変更などの法律的問題、事業として成立させるためのファイナンスの問題、古い建物を構造的に補強し、新しい設備を装備し、性能を向上させるための技術的な問題など、複雑な問題を解決しなければならない。こうした問題を解決するには、新しい建物をつくる以上に複雑で高度な技術が要求される。かくしてリノベーションとコンバージョンは建築家という職能の見直しにも結びつく。さらにリノベーションやコンバージョンの意義を社会に浸透させるには、個々の建物を対象にするだけでなく、それらが連鎖してどのような都市を生みだすかというヴィジョンを提案することも重要な課題である。


写真解説
ロンドンのテート・モダン:設計:ヘルツォーク・アンド・ド・ムーロン
古い火力発電所を現代美術館にコンバージョンした例。かつて発電用タービンが置かれていた巨大な空間が現代美術にふさわしい展示室に再生されている。


 

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