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『モダニズムから進展する表現革命?テクノロジーと建築の新たな関係』  

サステイナブル・デザインとモダニズム・デザインとの関係について考えてみたい。建築におけるモダニズムとは何か。それは20世紀初頭にヨーロッパに端を発し、第2次大戦後に世界中に広まった建築デザイン思想であり、以下のようなヴィジョンの複合体だった。
すなわち機械化・工業化のテクノロジーを積極的に推し進め、伝統的な様式建築を拒否して装飾を廃した国際様式(インターナショナル・スタイル)をめざし、19世紀のブルジョア社会にとって代わる民主的で大衆社会にふさわしい建築をつくり出そうとしたデザイン運動である。
モダニズム・デザインの根底には19世紀以来のテクノロジーの急速な進展があった。それはテクノロジーの進展がもたらした生活の変化に対して新しい建築機能と、それにふさわしい建築表現をうみ出そうとする運動だったといってよい。
20世紀初頭に比べてテクノロジーの様相は異なるとはいえ、21世紀初頭の現在においても同じような構造を見ることができる。IT(情報技術)を中心とするソフトテクノロジーの急速な進展は、僕たちの生活を根底から変えようとしている。このようなテクノロジーと建築デザインの関係に、モダニズムを現代的に再評価する意義がある。
同時に、昨今のテクノロジーの急速な進展は、かつてとはまったく次元の異なる問題を生みだしている。それは地球環境問題である。テクノロジーは地球上に大量の人工物を構築し、大量の廃棄物とエネルギーを排出することによって、地球環境の存続を脅かし始めている。モダニズムを再評価し現代化する場合、この条件を考慮に入れなければならない。このような動向から生まれたのがサステイナブル(持続可能な)・デザインである。
20世紀初頭がモダニズム・デザイン運動の勃興期だったとするなら、21世紀初頭はサステイナブル・デザイン運動の勃興期となることはまちがいない。両者はテクノロジーの進展を基盤にして、エンジニアリングとデザインを融合させようとする点で共通している。しかしモダニズムを支えたテクノロジーがハードテクノロジーだったのに対し、サステイナブル・デザインを支えるテクノロジーはITを中心とするソフトテクノロジーである。それは単にモノをつくるのではなく、モノを通して意味をつくろうとする。すでに存在するモノの新しい機能や意味を発見しようとする。そこには歴史や都市のコンテクストに対する視点がある。そうした視点を踏まえながら、最小限の資源によって最大限の効果を生み出そうとするのがサステイナブル・デザインの目標である。
サステイナブル・デザインは必然的に矛盾をはらんでいる。それがテクノロジーに支えられたモダニズムの伝統を引き継ぐ運動である以上、サステイナビリティを追求していけば、最終的にデザインの自己否定に至る可能性があるからだ。進展する現代のテクノロジーを積極的に活用するか、あるいはそれに疑問を投げかけるかによって、サステイナブル・デザインの方向性は大きく左右される。これはライフスタイルや社会的な価値観に関わる問題である。サステイナブル・デザインは建築家やデザイナーの社会性を占うリトマス試験紙なのである。
モダニズムはテクノロジーによって支えられた建築表現の革命であった。ル・コルビュジエが『建築をめざして』でいったように、モダニズムが「技師の美学」を梃子にして建築の表現革命をめざしたのだとすれば、サステイナブル・デザインにも同じような方向性があるのではないだろうか。省エネルギー、リサイクル、再利用、リノベーションとコンバージョンといった新しいエンジニアリングの追求を通じて、あるいは歴史や都市のコンテクストとの新たな協力関係を通じて、建築の表現を変えることができるのではないか。サステイナブル・デザインの最終的な目標は、そこにあるように僕には思える。


写真解説
サステイナブル・デザインの典型 ドイツ国会議事堂(設計:ノーマン・フォスター)旧プロシア国会議事堂を、市民フォーラムを組み込んだ省エネルギー建築として再生させた。
                                  

 

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