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サステイナブルな近未来住宅と建築設備
SUSTAINABLE FUTURE HOUSING AND ITS EQUIPMENT SYSTEM

難波和彦
KAZUHIKO NAMBA
Professor of Department of architecture, Graduate school of engineering, The University of Tokyo

キーワード 
sustainable design, energy conservation,
long-life building, four -layers of architecture,
aluminum eco-house,

近未来の建築設備はサステイナブル・デザインの考え方によって再編成されるだろう。サステイナブル・デザインには、省エネルギーや建物の長寿命化という視点だけでなく、家族やコミュニティのあり方、それに基づくライフスタイルや文化などの視点も含まれる。そうした総合的な視点からサステイナブル・デザインを統合するマトリクスとして「建築の4層構造」を提案する。
The future housing and its equipment system will be reorganized by the sustainable design. The sustainable design should have the point of view to not only the energy conservation and the long-life building, but also the family form and its lifestyle, or the community and its culture. To integrate the sustainable design from that point of view, we propose the design matrix named “ the four layers of architecture ” .

 

1. サステイナブルな住宅
結論から言えば、近未来住宅における建築設備はサステイナブル・デザインな視点から再編成されることになるだろう。サステイナブル・デザインとは何か。直訳すれば「持続可能なデザイン」である。何を持続させるのかといえば、それは地球環境である。つまりサステイナブル・デザインとは、地球環境の持続に寄与するようなデザインである。環境負荷の小さなデザインをめざすことだといってもよい。サステイナブル・デザインが建築の長寿命化や省エネルギーの問題に取り組もうとするのはそのためである。
建築はさまざまな面で資源とエネルギーを消費している。さらに現在では、産業廃棄物のなかで建設廃材は大きな割合を占めており、地球環境問題と建築の間には密接な関係が潜んでいる。こうした問題の解決に取り組もうとするのがサステイナブル・デザインである。要するに、サステイナブル・デザインとは、地球環境を後の世代にまで持続させるにはどうすればいいかという視点から建築デザインを見直そうとする運動なのである。
住宅も例外ではない。最近では建築にまつわる消費エネルギーの中で、住宅はかなり大きな比率を占めている。したがってこれからの住宅設備もサステイナブルな視点から再編成されねばならない。
サステイナブル・デザインと住宅設備の関係について考えるとき、通常は省エネルギーの問題がクローズアップされ勝ちである。しかしそれでは片手落ちというべきである。いくら高性能の設備であっても、ライフスタイルによって設備の使い方は大きく変化するし、エネルギー消費も大きく左右される。さらに、住宅設備のあり方は、住宅全体のデザインによってまったく異なる。たとえば自然エネルギーをうまく取り入れ、熱性能を十分に考えたる住宅には大げさな設備は必要ないが、そのような条件を考慮しない住宅の場合には、安全を見るあまり重装備な設備が組み込まれ、結果的にエネルギー消費が大きくなるだろう。したがって設備だけを単独に取り出してあれこれ検討しても、あまり意味がない。重要なのは、近未来のサステイナブルな住宅が、どのようなシステムを備えることになるかを総合的に考えた上で、そのサブシステムとして、設備のあり方について検討することである。

2. 建築の4層構造
そこでまず、建築としての住宅をできるだけ広いコンテクストで総合的にとらえるための枠組みを提案したい。これは「建築の4層構造」といい、建築を4つの層の重なりとしてとらえるマトリクスである(表)。
「建築の4層構造」に込められているのは、以下のような建築観である。
1) すべての建築は、物質性、エネルギー性、社会的機能性、記号性という4つの層を備えている
2) 4つの層は建築をとらえる視点に対応し、すべての建築は4つの層によってとらえることができる
3) 4つの層は、それぞれ独立したサブシステムであるが、何らかの関係でたがいに結びついている
4) 4つの層のいずれかを変化させると他の層も必ず変化する。しかしその変化は一義的ではない
5) それぞれの層は、デザインを成立させるプログラムと、それを解決する技術を備えている
6) デザインはどの層からスタートしても構わないが、必ずすべての層を通過しなければならない
7) 4つの層を調整し、一定の関係をつくり出すことが、建築のデザイン行為である。
なぜ4層であり、なぜ各層が独立したサブシステムなのか。この問題に対しては、さまざまな根拠を挙げることができるが、ここでは詳しく説明する余裕がない。ひとつだけはっきりいえるのは、マトリックスの左端の列に示したように、「建築の4層構造」は建築学を構成する専門ジャンルに対応しており、実際的にも有効だということである。
「建築の4層構造」の背景にあるのは、以下のような主張である。
1) 機能主義あるいはプログラム主義とは、機能性(第3層)を優先するデザイン思想である
2) 技術主義とは、物質性(第1層)を優先するデザイン思想である
3) モダニズム(近代主義)とは、機能主義と技術主義が結びついたデザイン思想である
4) ポストモダニズム(歴史主義)とは、モダニズムが拒否した記号性を優先するデザイン思想である
5) 昨今のサステイナブル・デザインは、エネルギー性(第2層)に注目したデザイン思想である
6) 本来のサステイナブル・デザインは、4層すべてにかかわり、それらを統合することによって成立する
このように「建築の4層構造」は、20世紀初頭のモダニズムのデザイン思想を21世紀初頭サステイナブル・デザインヘと展開させ、統合するためのマトリクスだといってよい。
「建築の4層構造」によれば、サステイナブル・デザインのテーマは、建物の長寿命化や省エネルギーだけに限定されない。マトリクスの右側の列に示されているように、サステイナブル・デザインには、それぞれの層に対応したテーマが存在している。それぞれのテーマは独自に追求することができるが、最終的にはそれらはひとつのデザインに統合されねばならない。

建築の4層構造:サステイナブル・デザインためのマトリクス


(建築学の領域)
様相
(建築を見る視点)
プログラム
(デザインの条件)
技術
(問題解決の手段)
時間
(歴史)
サステイナブル・デザイン
(現代建築のプログラム)
第1層:物理性
(材料・構法・構造学)
物理的な
モノとして見る
材料・部品
構造・構法
生産・運搬
組立・施工
メンテナンス
耐久性・風化
再利用・リサイクル
長寿命化
第2層:エネルギー性
(環境工学)
エネルギーの
制御装置として見る
環境・気候
エネルギー
気候制御装置
機械電気設備
設備更新
エントロピー
省エネルギー
LCA・高性能化
第3層:機能性
(計画学)
社会的な
機能として見る
用途・目的
ビルディングタイプ
平面計画・断面計画
組織化
コンバージョン
ライフサイクル
家族・コミュニティ
生活様式
第4層:記号性
(歴史・意匠学)
意味を持った
記号としてみる
形態・空間
表象・記号
様式・幾何学
コード操作
保存と再生
ゲニウス・ロキ
リノベーション
発見としてのデザイン

(c)難波和彦

3. サステイナブルな住宅の設備
「建築の4層構造」はサステイナブルな住宅を、できるかぎり広いコンテクストでとらえることを可能にする。この視点から、サステイナブルな住宅とその設備について考えてみよう。
他のビルディングタイプとは異なり、住宅においては「建築の4層構造」のすべての側面が複雑に絡み合っているので、サステイナブル・デザインをもっとも総合的な形で検証できる。さらに、設備システムもデザインされる対象だから、建築と同じように「4層構造」のマトリックスによってとらえることができる。つまり設備それ自体もサステイナブル・デザインの対象となるのである。
そこで以下では、サステイナブルな住宅における設備のあり方と、サステイナブルな設備のあり方という、ふたつの側面から考えてみよう。

第1層:物理性
住宅のデザインが、建築材料や建築設備のリサイクルや再利用の視点から見直されるべきであることはいうまでもない。建築材料や建築設備のリサイクルは重要なテーマである。解体と再組み立てが容易な部品化のシステムを考案することもひとつの方法だろう。いまや建築材料や建築設備はグローバルな市場によって供給されている。輸出入や製造にともなうエネルギー消費の削減も大きなテーマである。そのような視点から、建築部品や建築設備の高性能化・軽量化を見直し、再編成する必要がある。また、建築と設備の長寿命化も大きなテーマである。たとえばスケルトン・インフィルのように、建物の寿命を建築部位の変化の度合いに応じて分類し、長寿命のスケルトンと可変的なインフィルに分けるのも有効な方法である。この方法はとくに集合住宅において有効だろう。技術の進展がもっとも激しい建築設備については、メンテナンスや取り替えを前提としたデザインを行う必要がある。建築の長寿命化は、単に建物の物理的寿命だけによって決まるわけではない。場合によっては機能的寿命や文化的寿命といった面も考慮する必要がある。とりわけ住宅においては、この問題が建物の寿命を大きく左右する。新しい高性能な建築設備が開発されても、古い建築設備がライフスタイルと結びついている場合は、古い建築設備は生き残る。したがって古い設備を使い続けることができるようなシステムを考案することは、今後さらに必要となるだろう。建築設備はライフスタイルと緊密に結びついているので、単にエネルギー効率の面だけから検討することはできない。この問題は建築の第3層に関わっている。

第2層:エネルギー性
省エネルギーはサステイナブル・デザインの最大のテーマである。しかしこの問題は、建築設備の効率化だけの問題ではない。ましてや室内気候の快適性を犠牲にして省エネルギーを図ることでもない。とくに住宅においては、エネルギー制御は建築空間(第4層)のあり方に大きく左右される。日本はアジアモンスーン地帯にあり、四季の変化が激しい。夏期の直射日光の制御と自然通風、冬期のダイレクトゲインと冷輻射の制御や結露防止は建築空間のデザインと直接的に結びついている。通常、住宅の熱性能については断熱性能と気密性能しか問題にされないが、輻射性能や熱容量も大きな条件である。たとえば壁の断熱性能をいくら上げても、巨大なガラス窓があれば、冬期のダイレクトゲインには有効だが、夜間の冷輻射や夏期の直射日光によって、建物全体の熱的性能は大きく下がる場合がある。軽量で熱容量が小さい一般的な日本の住宅は、室内気候を安定化させることが難しい。基礎コンクリートや水蓄熱式床暖房によって熱容量を確保すれば、年間を通じて安定した室内気候が確保される。温度だけでなく、湿度調整や結露防止も重要な条件である。これは建築設備だけでなく、構造や仕上材料といった建築的条件とも関係している。室内環境を建築空間との関係でとらえ、建築設備を建築デザインと一体化させることがサステイナブル・デザインの眼目である。
とはいえ、近未来に水素と酸素から電気を生み出す小型の燃料電池が一般家庭に普及するようになれば、住宅のエネルギー事情は一変するだろう。燃料電池は住宅の電源・熱源の分散化と個別化を加速化し、都市のインフラストラクチャーとして、エネルギーの供給システムを根本的に転換させるだろう。それが住宅のデザインをどう変えるかは、サステイナブル・デザインの今後の重要な課題となるだろう。

第3層:機能性
日本の場合、住宅と設備の寿命は物理的条件ではなく機能的条件によって決まることは、よく知られている。住宅はライフスタイルや家族構成が代わり、かつてのプランでは使いものにならなくなったことが理由で建て替えられることが多い。解体の容易な木造であることが、それを加速していることは確かだが、社会の変化に伴う生活の変化が大きな条件であることは間違いない。建築設備もつぎつぎとモデルチェンジが繰り返され、性能が高度化されるにつれて、古い設備は取り替えられてきた。コンピュータによる制御機構を組み込んだ建築設備は、今後ますます小型化・高性能化・分散化の方向に進んでいくだろう。これは家族構成の縮小とライフスタイルの個別化に対応している。エネルギー効率から見れば、大規模化・集中化のメリットは大きい。集合住宅においては、ある程度の集中管理が進むように思われる。近未来のサステイナブル・デザインにおいては、小型化・分散化と大規模化・集中化をどのようにバランスよく組み合わせるかが大きなテーマとなるだろう。

第4層:記号性
時を経て住みこまれた住宅は、住む人とともに成長・変化し、身体と精神の一部となり、記憶として生き続ける。地域にとっても同じだろう。建築は集合して街並みを形成する。街並みは地域住民の記憶であり文化である。リノベーションやコンバージョンによって古い建物を使い続けるのは、家族や社会のアイデンティティにとって建物や街並みが必要不可欠だからである。建物をもっとも長生きさせるのは文化的寿命である。
しかし、これまでの建築設備にとって、建築の第4層はもっとも無縁な層であった。建築設備はひたすら機能性・効率性のみを追求してきたからである。しかし近未来のサステイナブル・デザインにおいては、建築・都市空間にとって、設備はライフラインあるいはインフラストラクチャーとして新しい意味を持つようになるだろう。とりわけサステイナブルな近未来住宅においては、建築設備は建築に一体化し、建築空間の中に溶け込むことによって姿を消すようになるだろう。それが近未来の建築設備の理想型ではないかと、僕は考えている。

以上、近未来の建築設備のあり方を、サステイナブルな住宅の視点から検討してみた。
時代の潮流としては、建築設備は小型化・高性能化・分散化へと進むことは明らかである。しかしその潮流は、都市レベルの大規模化・集中化によって補完される必要がある。さらに建築設備は住宅と融合したサブシステムとして統合されねばならない。そのためには、ハードウェアとしての住宅は、サステイナブルなライフスタイルによって支えられねばならない。

4. 普及版アルミエコハウス
最後に「建築の4層構造」を設計に応用した例として、普及版アルミエコハウスを紹介しよう。
この住宅はアルミニウム合金を主構造としている点で、通常の木造や鉄骨造とは第1層の条件が異なっている。アルミニウムを主構造に使うことによって、軽くて精度の高い構造体が実現できる。構造部材が標準化され大量生産されれば、将来は建て主が部品を購入し自分で建設するDIYが可能になるだろう。そうなれば一戸建てだけでなくスケルトン・インフィル・システムのインフィル部品として展開できるだろう。
第2層については、さまざまな仕掛けが組み込まれている。まずアルミニウムの構造フレームは断熱パネルによって完全に包みこみ、ヒートブリッジを解消している。建物が軽いので、基礎は単純な鉄筋コンクリート・スラブとし、これも断熱材によって包み込んでいる。基礎スラブの上には水蓄熱式床暖房(アクアレイヤー・システム)を組み込み。深夜電力で暖めることによって水と基礎スラブに蓄熱し、水の対流によって住宅全体を均一に床暖房している。この結果、アルミニウムの熱伝導性の高さは室内気候を均一化することになる。屋根・外壁の仕上と断熱パネルの間には通気層を設け、夏期の輻射熱による影響を防止している。ガラスはすべてペアガラスとした。熱源はすべて電気とし、深夜電力によるヒートポンプ給湯システムを採用している。
第3層では、間仕切を最小限に抑えることによって室内空間を一体化し、家族のメンバーが各自のコーナーを持つようなプランとしている。将来のライフスタイルの変化に対応できるフレキシブルなプランである。
第4層では、単純な箱形のデザインを採用した。中庭は室内化された外部空間である。玄関上の高窓はこの住宅の空間的な中心であると同時に、採光と通風の機能を備えている。

 

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