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新建築2004年11月号 月評 

妹島和世+西沢立衛/SANAAの「金沢21世紀美術館」は、これまで二人が手がけた建築の中では、あらゆる点で最高の出来であるように思う。緑のランドスケープの中に置かれた明快な円形平面。ガラスの透明性を生かした開かれた公共空間。低く抑えられた軒高、多様なサイズと形の展示室を並列するというプログラム。自然光を全面的に取り入れた展示室。バランスよく配置された光庭。展示室の間を回遊する通路。極限的に単純でモノリシックな仕上げ。単純さと豊穣さが、ここまで絶妙にブレンドされた空間を、僕は体験したことがない。これまでも妹島+西沢のキレのいいデザインには、いつも舌を巻いてきたが、一方で、どことなく危うく脆い印象を持ったことも確かである。しかしこの建築は、これまでとは対照的に、安心感と楽しさに満ちている。それは妹島+西沢の力だけでなく、クライアントである金沢市、キュレーターの長谷川祐子を初めとする美術館スタッフ、そして工事を担当したゼネコンの技術力が大きく寄与していることは間違いない。この美術館はあらゆる年齢の人々に愛されるに違いない。それは妹島もいうように、この美術館が「機能とか建築とかと少し離れて、あの場所全体がある環境として感じられる」からだと思う。
安藤忠雄の舞台デザイン「オペラ アルバン・ベルグ『ヴォツェック』」も極限的に単純な舞台セットである。透明なペットボトル約44,000本で構成された抽象的なキューブが、舞台光を受けて変容する様は、想像しただけでも身震いがする。安藤が言うように、まさに「光と空気でのみ構成された抽象度の高い空間」である。過日、東京都現代美術館で開催された田中一光追悼展において、安藤によるペットボトルの展示空間を見たが、この舞台装置では、そこで学んだ技術や効果がさらに大規模な形で展開されている。このような持続的なテーマの追求が安藤の真骨頂である。
西沢大良の「砥用町林業総合センター」は、地場産の杉による不定型なスペース・トラスに目を引かれる。外壁と屋根のシェルターは木と軽量鉄骨を組み合わせた格子構造で、それを不定型なトラスによって支えるという巧妙な構造システムである。この不定型なトラスを、構造的合理性によってではなく、「山の中腹に大きなブッシュ(茂み)が人工的につくられたように見える」という、場所の固有性に呼応したデザインから導き出したところに、ワン・レベル高い合理性を読み取ることができる。基礎や杭を含めてコンクリートを一切使わず、木とスチールだけで構成している点にも感心した。
塚本由晴+貝島桃代/アトリエ・ワンの「黒犬荘」は、平面計画から山本理顕の「山川山荘」を思い出した。さらに平屋の低い軒線から高窓が飛び出しているシルエットは、小規模ながら「金沢21世紀美術館」を連想させる。とはいえ、連続する共用空間が軒上に飛び出し、個室や水回りなどの閉じた空間の天井高を抑えている点は、「金沢」の空間構成と逆転している。ともかく空間の一体性と分節性を使い分ける手法の模範例といってよい。
原田真宏+原田麻魚/MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIOの「とりりん」は、軽量鉄骨による小規模なHPシェル構造の店舗である。僕なら単純で高性能な箱をデザインするだろう。しかし構法的な合理性に基づいて、ここまでアグレッシーブな抑揚をつけられると、僕としても認めざるを得ない。
文化財保存計画協会+広瀬研究室の「勝山跡ガイダンス施設」は、掘立柱(柱脚固定)による鋳鉄のラーメン構造が興味深い。鋳鉄構造は遺構の保存・保護、展示空間の開放性、耐風と耐塩害などの条件から選択されたという。思わずレンゾ・ピアノ+ピーター・ライスの「メニル・コレクション美術館」を思い出したが、構造部材の構成は「ポンピドー・センター」に近いといえるかもしれない。鋳鉄の主構造の上に木造小屋組を載せ、木造の外壁を鋳鉄フレームの内側に引き込んでいるのは、ヒートブリッジを意識したというより、鋳鉄フレームを表現するためだろう。
松村秀一の連載「モノが語る20世紀の構想力ー文化財になったモダン住宅」で取り上げられているピエール・コーニッグのケーススタディ・ハウス#22も興味深い。今後の連載の展開が楽しみである。

さて、今回で月評は最後である。最初に「サステイナブル・デザインの視点から取り組んでみたい」と宣言したが、正直言って、その視点を一貫させるのは容易ではなかった。むしろ自分の仕事との距離を測りながらの批評になったように思う。主に小さな建築に注目したのはそのためである。サステイナブル・デザインはようやく建築界に浸透し共有されるようになったが、エネルギー問題だけに注目した技術的解決では片手落ちである。建築家にとって、サステイナブル・デザインは、それ自体が目的ではなく、それによって新しい空間を生み出すかどうかが問題であることを、あらためて強調しておきたいと思う。

 

 


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