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「箱の家シリーズとSE構法」

「箱の家」第1ステージ:在来木造シリーズと鉄骨造シリーズ
「箱の家」は、1995年に在来木造と鉄骨造のふたつのシリーズとして始まった。在来木造シリーズは、一室空間住居というプラニングとライフスタイル、木造骨組サイズや仕上材料などの構法、箱形のデザインといった条件を、徹底的に単純化・標準化することによって、ローコストで高性能な住空間をつくることを目的にしていた。これに対し鉄骨造シリーズは、一室空間住居をめざしている点では在来木造シリーズと変わりないが、特殊な敷地条件や要求条件があり、コスト的にも少し余裕があるような場合に選択していた。構造システムや構法も可能な限り標準化した。「箱の家」の20番台までは、このふたつのシリーズだけで展開した。
鉄骨造シリーズは数も少なく、設計条件も特殊なので、現在でも展開を続けている。しかし在来木造シリーズは、コスト優先のために徹底して標準化を行ったために、20番台に達したとき大きな壁にぶつかった。その理由を挙げると以下の通りである。
第1は、プラニングのバリエーションが3種類のプロトタイプに収斂したことである。細かな変更を加えれば、バリエーションを展開できる可能性はあった。しかし敷地条件がよほど特殊でない限り、基本的に3種類のバリエーショがあれば、対応できることが分かった。それ以上プラニングの新しいタイプが生まれそうにないので、新しいプラニングのテーマを考える必要があった。
第2は、在来木造の技術的条件に問題が生じたことである。在来木造シリーズの構造軸組材は、コストと強度からベイ松中心の輸入材にならざるを得ない。しかしその輸入材の品質が徐々に下がってきた。十分に乾燥していなかったり、製材がまずかったりして、寸法精度に大きな誤差が表れるようになった。同時に、在来木造を十分にこなせる技能を持った大工が少なくなり、構造軸組の精度を保つのが難しくなった。「箱の家」で使用する材料は、ほとんど工業材料で寸法精度が高いため、結果的に仕上工事に齟齬が生じるようになった。
第3は、在来木造では3階建ての住居をつくるのが難しいことである。3階建ての場合は、鉄骨造を選ばざるを得ないが、その場合はコストがかさむ。「箱の家シリーズ」の選択肢として、鉄骨造よりも安く3階建を建てられる構法が必要だった。
以上のような問題の解決法を模索しているときに出会ったのが、集成材によるSE構法である。

SE構法との出会い:SELL HOUSE展
SE構法との出会いは、7人の建築家がSE構法を使った住宅を提案する「SELL HOUSE展」(1998)に参加したことがきっかけである。参加する建築家は何度か集まり、展覧会に提案するプロジェクトを提案するため、SE構法の考案者である構造家の播繁氏と、この構法を使って住宅を設計した建築家の押野見邦秀氏に、SE構法の技術的可能性についてレクチャーを受けた。僕は上に述べたような問題意識から、直ちに3階建て「箱の家シリーズ」の展開へ結びつけることを考えた。
SELL HOUSE展の趣旨文には、以下のように書いた。

高密度な都市や郊外住宅地に建つ、3階建て住宅のプロトタイプを提案します。
コンセプトは「内と外に開かれた一室空間的な住まい」で、これまで進めてきた「箱の家シリーズ」と基本的に同じ考え方にもとづいています。SE構法を使うと、木造でありながら3階建ての開放的な軸組構造が可能になります。この特性を最大限に生かして、狭い敷地でもプライバシーを守りながら、自然に触れることのできる開放的な住まいを考えました。
1) 1階に駐車場や水廻りを置き、主な生活空間は2、3階にまとめています。
2) 2階に広々とした屋外室をつくり、居間や食堂に連続させました。
3) この屋外室が、住まいを内外に開放し、日蔭をつくり、通風を制御します。
提案するプロトタイプは3種類です。これを展開させることによって、様々な家族構成、敷地条件、予算に対応することができます。構造、内・外装仕上、開口部、設備・電気システムなどの仕様をすべて標準化し、徹底したローコストを目指しました。
タイプ 1:正方形に近い敷地(30坪程度)のための、正方形平面タイプ
タイプ 2:東西に細長い敷地(30坪程度)のための、横長平面タイプ
タイプ 3:南北に細長い敷地(25坪?35坪)のための、町家タイプ
どのタイプも、連続化、集合化が可能なように考えられています。いずれも、屋外室に都市の自然を取り込んだシンプルな近未来型都市住宅です。

展覧会では、3つのプロトタイプの仕様とコストまでを紹介し、さらにその有効性を検証するために、現実の敷地に適用した建売プロジェクトを提案した。

「箱の家」第2ステージ:集成材造シリーズ
「箱の家33」と「箱の家34」は、ほとんど同時に進行したプロジェクトで、SE構法を初めて適用した「箱の家」である。どちらも間口が狭く奥行きが深い敷地なので、「ウナギの寝床型」の住宅となった。その場合、プランニングの自由度を確保するには、間口方向の耐力壁をできるだけ少なくすることが重要な条件となる。どちらも2階建てだが、あえてSE構法を選択したのは、柱梁が半剛接構造なので、間口方向の耐力壁を最小限に抑えることができるからである。これによってトンネル上の空間を柔らかく仕切るという町家型の「箱の家」を実現することができた。
当時はSE構法が開発されて間もない段階で、僕たちもSE構法の技術的可能性を十分に理解していなかった。そのため構法の面では、それまでの在来工法シリーズから脱していない点が多い。たとえば外壁の断熱材は依然としてグラスウールで、柱と間柱の間に挟んでいるので断熱性もそれほどよくない。さらに結露を前提にして外装材と断熱材の間に通気層を取っている。現在から振り返れれば、折衷的な構法といわざるを得ない。SE構法の特徴の一つに、屋根の断熱パネルとの組み合わせがある。この断熱パネルは屋根スラブとして1.8mスパン飛ばすことができるので、直接、屋根梁に取り付けることができ、それだけで屋根剛性を確保できる。「箱の家33」では、奥行き方向の柱ピッチ2.7mと屋根スラブのスパン1.8mとを調整するために、屋根の小梁を90センチピッチで入れている。「箱の家34」では、奥行き方向の柱ピッチは1.8mだが、屋根梁のピッチは90センチである。明らかに構造的にはオーバースペックなこのシステムは「箱の家40」「箱の家43」まで続く。それはコストにも影響し、「箱の家40」は何もないがらんどうの空間になった。

「箱の家」第3ステージ:サステイナブル・デザインへ
コスト削減のために「箱の家40」では天井を張るのをやめ、断熱サンドイッチパネルのOSB表面材をそのまま仕上として見せている。OSBの表面は好き嫌いは別にして、性能的にはそのまま仕上材として使うことができる。SE構法では断熱パネルを屋根スラブに使うことが標準仕様で、結果的にこれは外断熱構法になっている。ならば断熱パネルを外壁にも使えば、完全な外断熱構法が可能になる。さらに、それを耐力壁としても使えれば、最小限の建築要素によって高性能なスケルトン+シェルターが実現できる。その最初の試みが「箱の家49」である。
「箱の家49」では、SE構法による3階建てスケルトンを、屋根、外壁とも断熱パネルで包み込んでいる。屋根は断熱パネルの上に通気層を取ったうえで防水している。外壁も断熱パネルの上に通気層を通して成形セメント板を張っている。いずれも輻射熱対策である。室内は断熱パネルを全て仕上げとして現しとした。ただし断熱パネルを耐力壁として使うことは法的に許されなかったので、同じOSB合板で耐力壁を構成した。こうして内部空間は、集成材軸組、構造用合板の床スラブ、断熱パネルの屋根と壁という構造要素だけで構成されることになった。問題は設備システムの納め方である。この構法では、柱・梁とスラブ・外壁の間にまったく隙間がないので、配管・配線スペースを確保するのがきわめて難しい。現在のところ最良の方法は、どこかに縦シャフトをつくり、床上に横引きのための配管・配線スペースを確保することである。幸い、「箱の家」の標準的な床暖房はアクアレイヤーなので、外壁の内側に配管・配線スペースを確保できる。
その後このような方法によって、SE構法を用いた「箱の家」をつくった。
SE構法は2階建てにはややオーバースペックなので、現在は3階建ての「箱の家」だけに使用している。一方、断熱パネルによる外断熱構法は、集成材造シリーズだけでなく、鉄骨造シリーズ、アルミニウム造シリーズにも適用している。


 


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