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新建築2004年10月号 月評 

永田昌民+OM研究所の「地球のたまご」は、いろいろな角度からとらえることができる。まず指摘しておきたいのは、この建築は現段階でのパッシブなサステイナブル・デザイン技術の集大成になっている点である。私見では、OMソーラーはパッシブ・ソーラーシステムとしては、おそらく世界でもっともエネルギー効率の高いシステムだといってよい。OMソーラーに加えて、この建築には光触媒散水冷却、バイオマストイレによる水循環システム、植生の改良による敷地修復など新しい試みが盛り込まれている。設備システムの設計を担当した高間三郎もいうように「OM(研究所)は非常にローテクなものをハイテクなシミュレーションでコントロールするストーリー」を持った組織である。最近では、大組織によるアクティブなサステイナブル・デザイン技術の試みは数多く見られるようになった。しかしパッシブで、しかも効率的なサステイナブル技術の開発例は数少ない。その意味で、こうした試みは大変に貴重であり、サステイナブル・デザインをめざす建築家の一人として、心から敬意を表したいと思う。
とは言いつつ、僕としては何か引っかかるところがある。パッシブ技術の追求においてはきわめて先進的であるにもかかわらず、建築のデザインがやけに保守的に見えるからである。高間は「失敗することを前提とした提案の実現」とも言っている。設備システムでそこまで挑戦的な試みに向かうのであれば、デザインでもそうすべきではないだろうか。技術とデザインが直接的には結びつかないことは、僕も十分に承知している。むしろ僕が感じるのは、この建築に隠された技術とデザインのねじれた関係である。つまり先進的なパッシブ技術の背景にある「地球に優しい」「自然の回復」といった紋切り型イメージが、無意識的にデザインを支配しているように見えるのだ。確かに分かりやすいデザインだし、快適な空間が実現されていると思う。しかしこの建築がパッシブ・ソーラーシステムのパイオニアとなるためには、新しい技術的試みだけでなく、それが新しい空間をうみ出すことを証明しなければならない。自戒の念を込めて言えば、サステイナブルな技術を通じて新しい建築をデザインすることが、建築家(技術者ではない)に与えられた使命だと思う。
青木淳の「ルイ・ヴィトン銀座並木通り店」は、表層の操作によって「ボリュームを現象させる」試みである。同一ブランド店の一連のファサード・デザインを通して、青木は「装飾の奥行」というテーマに到達し、「虚の内部空間」へと誘導するような装飾を見出す。青木が用いたのは、視覚に直接はたらきかけるような一連の細やかな幾何学模様である。青木はそれを「絶対装飾」と名づけている。表層の装飾という限られた手段に徹底してこだわることによって、青木は都市のファサードの新しい表現方法を発見したように思える。
対照的に、小嶋一浩+宇野享+赤松佳珠子/C+Aの「ぐんま国際アカデミー」は、徹底して建築の中味=アクティビティから発想された建築である。面的に広がる「場」を、アクティビティにしたがって柔らかく切り分けていく小嶋流の手慣れた方法が展開されているが、これまでの一連の学校よりもスケールが細やかになっている。青木と同じように、小嶋も学校建築のひとつの手法を確立したように思える。
小嶋一浩/C+Aの「OTA HOUSE MUSEUM」はRC造の基壇の上に持ち上げられたラーチ合板の箱は一際目を引く。透明なFRP防水を施し、木目を浮かび上がらせたデザインには意表を突かれるが、データ・シートに掲載されたディテールを見ると、結露と熱輻射が少し心配である。
中村享一設計室+藤江和子アトリエの「福砂屋松が枝店」は、アルミルーバーによって全体を覆った小さな店舗で、藤江の細やかな感性が内外に浸透した工芸品のような建築である。とくに夜景は、街角に置かれた巨大な行灯のようだ。
竹中工務店の「滋賀銀行京都南支店」は、短期施工のために考案された軽快で細やかな鉄骨構造システムが面白い。ただしスチールフレームとスチールプレートによる単純明快な面構造が、軒のあたりで複雑な納まりになっているのが、僕には今一理解できないが。
aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所の「TEM」は、RC壁とテント屋根による極限的に単純な集合住宅である。微妙な角度を与えたRC戸境壁が、どんな効果をうみ出しているのか興味あるところである。コストはそれなりにかかっていると思われるが、RC壁は外断熱だし、テント屋根も二重になっている点に感心した。ただし雨水を玄関前に垂れ流しにしている点や、夏期の熱輻射対策が気になるところである。

 


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