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新建築2004年9月号 月評 

安藤忠雄の地中美術館は安藤建築のひとつの到達点のように思える。というのも安藤流の壁の建築を追求していけば、洞窟的空間に到達することは明らかだからだ。建築理論家のジョセフ・リクワートは『アダムの家』の中で、建築の起源には「発見された洞窟」と「つくられたテント」という対照的なふたつの原型があると言っている。建築は古代からこのふたつの原型の間を揺れ動いてきた。しかし近・現代建築は急速に「つくられたテント」に向かって展開している。そのような潮流に対抗して、安藤は「つくられた洞窟」をめざしてきた。これは外部空間を内部空間化し、シーンの連なりだけによってうみ出された建築である。そこでは建築と美術作品は空間的に統合され、純粋なシーンとして体験される。
そういう視点から見ると、鈴木了二の金比羅宮プロジェクトは、ふたつの建築原型の絶妙なブレンドによって成り立っている。人工地盤の上の斎館や授与所はいうまでもなく「つくられたテント」だが、鉄板構造による地下の空間は「発見されたテント」のようだ。それにしても鈴木が演出した多彩なシーンに比べて、本誌に掲載された写真があまりに少ないのが悔やまれる。
藤本荘介の伊達の援護寮は、傾斜地に5.4mの正方形プランのブロックを、角度をつけながら並べていった「部分の建築」である。僕も30年近く前に直島につくった体育館で同じような手法を使ったことがある。僕は工業化された空間ユニットの連鎖を明快に見せることを狙ったから、藤本の考えによれば、「部分=パーツ」ということになる。しかしユニットの関係性によって居場所をつくろうとした点では同じである。僕の見るところ、藤本にはルイス・カーンに対する意識があるに違いない。
藤森照信の高過庵はまさに「つくられたテント」である。とはいえ安藤忠雄と同じく、近代建築がめざした方向とは明らかに違っている。建築家はだれもが一度は樹上住居を夢見る。しかし誰も本気でそれをつくろうとはしない。それを本気でつくってしまうのが「野蛮ギャルド」藤森の真骨頂である。
西沢立衛のベネッセアートサイト直島オフィスは、どことなく懐かしい雰囲気を湛えた建築である。その理由は、古い部分と新しい部分の細やかな対比にある。2階床のRCスラブの切断面や鉄骨フレームの塗装されていないジョイント部分の処理はじつに巧妙である。
柳沢孝彦のレストラン・アンティチョークと坂倉建築研究所の所沢市民体育館は、どちらも無垢の木材を生かした立体構造による建築である。前者はカラ松の挽板材を重ね合わせたラチス構造であり、後者は杉の無垢材とスチールロッドによるスペーストラス構造である。小断面木材による大空間の試みは、日本の林業再生へのワンステップになることは確かだが、やはりそれは特殊解でしかない。私見では、本格的な対策は集成材化にしかないのではないかと思う。
青木淳のリノベーションプロジェクト大和薬品とG、北川原温のヴィラ・エステリオ+サンタマリア聖教会は、いずれも「白いオブジェ」としての建築である。白は光と形を浮かび上がらせる。しかしそこにあるのは「今」という時間だけである。リノベーションにおいても、古いものとの対比を白で演出する手法は、やや紋り型になっているように思う。
巻末にまとめられた一連のアルミニウム構造の記事も面白い。山本理顕のエコムスハウス、エコムスファクトリーは、アルミ押出材技術をストレートに利用した分散的構造の好例である。小部材を集積させて大きな空間をつくる方法は時代感覚を反映している。ただ熱的性能の点では、まだ改良すべき問題が残されているように思う。畦柳昭雄のアルミの海の家は、これまでに開発されたアルミニウムの標準構造部材を組み合わせた建築である。軸組には「箱の家83」の柱梁材が、耐震壁にはエコムスハウスの構造部材が用いられている。アルマイト仕上げのアルミ部材はまったく塩害を受けない。アルミニウム建築が普及するには、このような使い方が一般化することが必要である。
大嶋信道の連載「建築虎の穴見聞録」の第19回「鉄道車両技術?アルミ車両」に使われているアルミニウム中空押出材も興味深い。伊東豊雄のアルミ建築の考え方は、基本的にこの方法にもとづいている。松村秀一の連載「モノが語る20世紀の住宅?文化財になったモダン住宅」では、1931年にアルバート・フライが設計したアルミニウム構造の住宅「アルミネア」が取り上げられている。この住宅は1932年にニューヨーク近代美術館で開催された伝説的な展覧会「インターナショナルスタイル展」にも取り上げられた。現在から見ると性能面ではお粗末と言わざるを得ないが、アルミ建築のパイオニアとしての瑞々しさを湛えている。

 


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