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新建築2004年6月号 月評

今月号は集合住宅が面白い。坂本一成のegota house Aは、じっくりと見れば見るほど、なるほどと唸らされる大人のデザインである。近隣建物との距離を精妙にコントロールした建物配置、外部からすべての住戸ヘ直接アクセスできるアプローチ、内外空間を柔らかくつないだ平面計画、外断熱を確保しながら建物4面のファサードの表情を変えたデザインなど、あらゆる条件がじっくりと練り込まれている。一見すると何でもないように見える部分にも、微細な眼差しが注がれ、コストパフォーマンスの追求を伺うことができる。これこそがサステイナブル・デザインの見本といってよいような建築である。一方、千葉学のMESHは明解なダイアグラムにもとづくキレのいいデザインである。外周に水周りを集めたプラニングは、居住空間をダブルスキンによって取り囲むかたちになるので、コンクリート躯体の熱容量が内部化され室内環境が安定する。さらに水周りが主構造から切り離されるので、配管の自由度が増すと同時に、主構造であるRCの壁が外部に出てこないので、軽快な外観になるという利点もある。室内環境の制御というテーマを、プラニングによって間接的に解決し、新しい表現へと展開させたサステイナブル・デザインの新境地だといってよい。この二つの建築とは対照的に、西沢立衛の船橋アパートメントはプラニングの可能性を徹底して追求した建築である。空間構成は西沢大良の調布の集合住宅A(本誌0403号)に似ているが、それ以上にダイアグラマティックで、外観はアルド・ロッシの建築を連想させる白昼夢のような建築である。MESHとは逆に、建物中央に半外部的な共用空間を置き、居住空間を建物外周に集めているので、熱的にはもっとも不利な形である。ローコスト建築と見えて、屋根以外は内断熱なので、居住環境は厳しいかも知れない。とはいえ、西沢がいう「似た感じの小空間が複数集合し互いに動的な関係で結びついている」という空間のイメージは、まさに現代社会の縮図といってよい。

小嶋一浩の巻頭論文「アトムの時代に」は、最近の小規模な都市型集合住宅の新しい傾向の可能性を論じたもので、今年前半に本誌に掲載された一連の集合住宅のまとめにもなっている。小集合住宅の可能性は「消費されない設計をする」かどうかにかかっているという小嶋の結論は、ともかく新しい提案を続けるしかないということだろう。僕の考えでは、サステイナブル・デザインがそのひとつの可能性を示している。
山本理顕をマスターアーキテクトとする天津のハウジングプロジェクト伴山人家も興味深い。23haの敷地に303戸という低密度な戸建て住宅計画だが、外部と交流する「閾」を共通のキーワードとする住戸デザインは、むしろ高密度になるほど有効だともいえる。事実、参加建築家による多様な住戸デザインを見ると、高密度住居への展開を念頭においた提案が多々見られる。山本を含むすべての建築家がモダンな箱型デザインを採用している点にもそれは現れている。西沢立衛にいたっては、デザイン・コンセプトは船橋アパートメントとほとんど同じである。こうした現象は、デザインのグローバリゼーションのひとつの表われかもしれない。渡辺真理+木下庸子による連載「集合住宅をユニットから考える」第11回も山本理顕へのインタビューで、山本による一連の集合住宅の試みから生まれた「住まいを開く方法」が開陳されている。「閾」の概念はその結論だといってよい。

青木茂の八女市立福島中学校屋内運動場は、青木が試み続けてきた「リファイン建築」の節目となる建築である。僕としては、リノベーションを本格的に取り組んできた青木の地道な試みに敬意を払いながらも、最終的なデザインが「新築的」であることに不満があった。しかし今回は旧体育館の床材を壁の仕上げに使うなど「時間のデザイン」への試みが見られる点に新しい展開が予感される。

遠藤政樹+池田昌弘のナチュラルシームは、45ミリ角のスチールバーと3.2ミリ厚のスチールプレートを組み合わせた新しい構造システムの提案である。緩やかな斜面にRCスラブの軽快な人工地盤を延ばし、その上に軽快な鉄骨造の空間が載せられている。構造システムのイノベーションを通じて新しい空間の追求を続ける建築家+構造家の試みのさらなる展開を期待したい。

クライン・ダイサム・アーキテクツのリゾナーレ・ガーデンチャペルは、大がかりな舞台装置のような建築である。卵状の開閉屋根の仕掛けもさることながら、躯体蓄熱を利用した空調システムに感心した。

 

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