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新建築2004年5月号 月評

今月は先月以上に多様で焦点が当てにくい。興味を持った記事と作品を、逐次とり挙げるしかなさそうだ。

まずCOLUMNに掲載された『行動主義:レム・コールハース ドキュメント』(瀧口範子:著 TOTO出版)に関する著者自身による記事「レム・コールハース:あなたと彼の違い?」を興味深く読んだ。本書は現在、建築関係の本ではベストセラーを独走中である。日本でもコールハースの人気が高いことをあらためて証明するような出来事である。僕も駆け足で読んだが、何よりも、コールハースに向けられた著者の尊敬を通り越して愛情に近い感情にかすかなジェラシーを抱いた。とはいえ本書を読んで、僕がもっとも興味を持ったのは、著者のドキュメントよりもコールハース自身へのインタビューである。コールハースの活動はグローバリズムとコマーシャリズムという時代の潮流に乗った体制順応主義ではないかという批判に対して、彼はこう応えている。

「僕たちの仕事を見れば、それが何であれ、何かに便乗していると解釈するのはナンセンスだよ。こうした要素のすべてに対して、OMAも僕自身も非常に批判的なスタンスをとっているんだから。ただ、僕たちが決してとらないのは、“われわれは、何がいけないのかわかっています。そして、間違ったことには関わりません”というアプローチだ。実は、あることに関わり没頭することは、それに対する決定的な批判的力となりうるんだ。そうでなければ、いわゆるモラリストになるだけだろう。」

僕もまったく同感である。時代の潮流から距離をとることは、一見批評的な態度に見えるが、じつは自己を保全しようとするロマン的なアイロニーに過ぎない。真の批評とは、潮流に身を投じ、その内実を徹底的に踏査し、その可能性を最大限に抽出すことである。その意味で、善くも悪しくも、コールハースは市場経済(資本主義)の可能性を体現した建築家なのである。

野城智也の巻頭論文「いま建築家は何をデザインするのかー「ハコ」から「コト」へ」も興味深い。野城は、これからの建築家の仕事の中心は「既存建物を使い回すための仕事:Works to Existing Buildings=WEBs」ヘと向かい、WEBsには単なる「もの」づくりだけでなく、プロセスと「こと」づくりが含まれねばならないだろうと主張する。しかし「箱の家」の建築家としては、「ハコとコト」という二項対立的なとらえ方は時代錯誤ではないかと苦言を呈したい。なぜなら機能的にフレキシブルな「ハコ」の提案こそが「何をつくるべきか」という問いに対する回答だからである。野城が中心となって進められた東日本橋の試作プロジェクトも、実際のところは、着脱可能なインフィルによるフレキシブルなハコの提案にほかならない。この試作に関しては、インフィル・ユニットを平面的だけでなく立面的にも分節させると、もっとキレが良くなったのではないかと思うが。

小嶋一浩+赤松佳珠子/C+Aのブリッジ・アーツ&サイエンスセンターと渡辺真理+木下庸子/設計組織ADHのコーネル大学医学部カタール校は、磯崎新&i-NETのカタール・デデュケーション・シティ・マスタープランにもとづく建築である。どちらも砂漠の過酷な気候に対して屋根も外壁もダブルスキンによって防御し、内部に自立した世界をつくり出している。前者の方が空間をよりコンパクトにまとめている分、内部空間にフレキシブルなシークエンスが生み出されているように思う。電力の安価な石油国だけあって、アルミニウムがふんだんに使われているのが、アルミ建築家を自称する僕としては羨ましいかぎりである。

同じダブルスキンを使っていても、飯田善彦/飯田善彦建築工房の野依記念物質科学研究館の方は、ずっと柔らかで開放的である。とはいえこの建築のダブルスキンは、気候制御装置というより建物本体のランダムな窓配置を統合するファサード・デザインの意味の方が大きいように見える。野依記念学術交流館は講演会ホールの上にゲストハウスを載せた不思議な建築である。この特異なプログラムに対し、飯田はホール全体を人工地盤に見立て、その上に鉄骨の細やかな構造体を組み上げることによって応えている。

隈研吾建築都市設計事務所の東雲キャナルコートCODAN3街区は、山本理顕と伊東豊雄が担当した1,2街区とは表情がまったく異なる点が興味深い。いつものように隈は集合住宅の新しいタイプを実現するために周到な論理を組み立てているが、つまるところ外廊下とベランダに拘ることによって、山本+伊東の中廊下タイプに対峙したのだといってよい。このテーマを最終的に手摺、スクリーン、壁面の色といった境界面に収斂させたところが、隈の特異なデザイン戦略である。

 

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