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新建築2004年4月号 月評

僕は今世紀の建築デザインの課題は大きく3つあると考えている。第1はサステイナブル・デザインで、ここにはリノベーション、コンバージョン、長寿命化、省エネルギーなどの問題が含まれる。第2は高齢化社会の問題で、ここには家族やコミュニティの変容、ユニバーサルデザイン、グループホームなどの問題などが含まれる。そして第3はITとグロバリゼーションの問題で、ここには設計プロセスの高度化、国際化に伴う建築・都市空間の変容の問題が含まれる。今月号は、はっきりしたテーマがない代わりに、この3大テーマが断片的ではあるが網羅されているように思う。

青木淳のLUIS VUITTON 1 EAST 57THはニューヨーク・マンハッタンの5番街と57丁目の交差点に建つスカイスクレーパーの足元部分をリノベーションした店舗である。青木が担当したのは表層だけだが、白いチェッカーボード・パターンを二重に重ねた合わせ強化ガラスの皮膜でファサードを覆うことによって、石造りの堅固な街角に、無重量感を漂わせた幻影のような一画をうみ出している。表皮のダブルスキン化による省エネ対策を期待したが、室内は別のデザイナーの担当のせいか、そこまでは届いていなかった。

板茂へのインタビュー記事素材と構造への挑戦を読むと、素材と架構の可能性に挑戦し続ける坂の執念に感心させられる。今月号に紹介されているペットボトル・ストラクチャーだけでなく、最近の坂の一連の仕事は、構造的なアイデアもさることながら、素材の物性に関する徹底した研究と実験に支えられている。僕としては、坂に環境制御技術への挑戦も期待したい。

藤木隆男の京王八王子山川クリニックは廃業した商業建築のコンバージョンである。建築のデザイン以前に、パチンコ屋から透析治療専門病院への用途転換という意表を突くプログラム策定の経緯に興味を引かれる。藤木のデザインはいつもながら緻密で繊細だが、僕としてはコンバージョンならではの「時間」のデザイン(パチンコ屋の痕跡を残すこと)が見られないのが残念である。

アーキテクトファイブの源氏は吉田五十八が1963年に設計した旧東京ヒルトンホテルの日本館のリノベーションである。オリジナルな亀甲格子パターンの天井を踏襲しながら、それ以外の部分は、近代数寄屋をめざした吉田以上に「線を消した」デザインにまとめることによって現代化している。僕にはとても真似のできない職人芸である。

竹中工務店の設計施工による鈴渓南山美術館は、比較的新しい建物のコンバージョンである。1989年に完成した高級アパートを美術館にリニューアルしたものだが、バブル期に建設された建物のコンバージョンは今後、さらに増えることが予想される。

瀧光男+エー・アンド・エー総合設計の大井川睦園ケアハウス、針生承一建築研究所の社会福祉法人栗桜会ケアハウス栗の実、桂英昭+A・I・Rの特別養護老人ホーム桜の里、阿部勤/アルテックの上井草グルッポボエンデは、いずれも老人用の共同住宅である。今後、急速に進行する高齢化社会において、こうした施設への要求はますます増加することは間違いない。どの建築もよくつくり込まれていると思うが、上井草グルッポボエンデ以外は、郊外に建てられた自己完結的な施設である。建築家に望むことは無理であることを承知の上で言うのだが、こうした老人施設はできるだけ都心につくるべきだと思う。その意味で、都心の住宅地に建てられた上井草グルッポボエンデについては、阿部のデザインはもちろん、それ以上に施設の企画者である入倉哲郎氏のヴィジョンに敬意を表したい。

デザインヌーブ一級建築市事務所の久ケ原のゲストハウスは、外国人留学生のための短期の宿泊施設で、個人空間と共用空間を立体的に組み合わせ、都市との関係を周到に計算した野心的な建築である。角地に突きだした円形のガラス皮膜のユーモラスな表情から、思わず亡ジェームズ・スターリングを連想した。

中村勉、山本・堀アーキテクツ設計共同体の大東文化大学板橋キャンパス(第1期)中央棟・図書館/3号館はサステイナブル・デザインのお手本のような建築である。高密で都市型の環境キャンパスと唱っているだけあって、現段階で手に入れることのできる環境制御装置がほとんど網羅されている。こうした試みの意義を否定するつもりは毛頭ないが、いささかヘビーデューディでテンコ盛りのデザインになっているのが気にかかる。困難であることを承知の上でいうなら、通常以上に複雑な設計条件に挑戦する場合には、通常以上に単純で統合的なデザインをめざすべきではないかと思う。

 

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