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新建築2004年3月号 月評

「箱」について考えてみたい。「箱の家」の建築家としては、単純な箱がさまざまな条件を受けて変形し、内部空間が分化するプロセスに興味がある。3月号の作品群は、そのプロセスのケーススタディになっているように思う。

まず原広司のモンテヴィデオの家を見よう。これは3個の単純な箱を並列させテントでつないだもので、原が唱える「離散都市」のモデルである。単純な箱は自立する個人に対応し、その並列は離散的な社会・都市を表象している。箱の構法がローテクなブロック造と木造によるセルフビルドである点にも、個の自立性という社会的な意味が込められている。空間の構成と生産システムが、アルカイックで離散的な社会・都市を表象するという分かりやすい論理である。

一方、妹島和世の梅林の家は、単純な箱の外形を敷地条件に合わせてわずかに歪ませ、内部空間を立体的に分化させた住宅である。分化された内部空間は互いに柔らかく連結され、3層の入り組んだ一室空間へと統合されている。こうした複雑な空間の分化と連結を可能にしているのは、16ミリ厚の鉄板によるハイテックな壁構造である。妹島和世+西沢立衛のスタッドシアターや金沢21世紀美術館においても、単純な外形の内部空間の分化が、ハイテックな薄い鉄骨壁によって実現されている。離散的な個が集合する原の空間とは対照的に、妹島の空間は、曖昧な全体=箱を内部空間にかすかな関係を残しながら分化させることによって成立している。これはそのまま現代の高度情報社会・都市のモデルになっているといってよいだろう。

ここで重要なのは、箱の変形と内部空間の分化が、それを成立させている構法・技術と不即不離な関係にある点である。両者の緊張関係が、建築空間というメディアを通じた、新しい社会・都市のモデルの表象を可能にする。このような視点で見ると、他の掲載作品も2つの軸、すなわち箱の変形・分化と技術の結合のあり方によって分類できる。

まず、最小限の空間分化と構法をストレートに結びつけているのが、隈研吾の安養寺木造阿弥陀如来座像収蔵施設と手塚貴晴+手塚由比のHQ♯01ビル、豊田L&F広島本社である。版築と鉄骨という構法は対照的だが、両者の空間とも原のいう離散モデルに近い。原田真宏+原田麻魚のXXXXhouse/焼津の陶芸小屋は、構造用合板の立体的な組み合わせによって、単純な箱の表面がかすかに分化している点が興味深い。石原健也のDNP創発の杜 箱根研修センターは、敷地条件に微細に対応させることによって、箱を変形させながら、内部空間の分化を最小限に抑えている点が面白いが、構法との緊張関係が弱い点が悔やまれる。福島加津也+冨永祥子の中国木材名古屋事業所は、空間の分化を構法によって決定した好例である。木材の構法を、吊る、フレームを組む、積み重ねる、という3種類に分類し、それぞれを空間のスケールに対応させることによって空間の分化を達成している。それぞれの構法が明解に表現された離散的空間といってよいだろう。

空間分化の多様な可能性の追求は、一連の集合住宅にも見ることができる。西沢大良の調布の集合住宅A、Bは、単純な箱の外形にはほとんど手をつけず、内部空間のシステマティックな分化だけによって複雑な住戸空間をつくり出している。とくにA棟において、ライトルームと有孔プレキャストパネルが、住戸相互に曖昧な関係をつくり出している点が、妹島の住宅に類似しているように思える。豊田恒行+高橋邦明の等々力の集合住宅/T_FLATは、外形を法的な斜線制限によって決定し、内部に多面体のシャフトを挿し込むことによって、フレキシブルな住戸分割を可能にしている。RC壁構造ならではの、立体的な空間分化である。佐々木聡の梅ヶ丘コーポラティブハウスROXIも、屋根の形は日影制限という法的条件によって決定されているが、住戸は最上階を除き、ラーメン構造によって決定されている点がやや緊張感に欠ける。長田直之のCURは、くの字型プランのワンルームアパートの集合だが、1階ピロティをマルセイユのユニテ(ル・コルビュジエ)のような人工地盤的な構造とした点が新機軸である。

「箱」の変形と分化を構法に結びつける方法は、近代建築における機能主義的方法のように、機能に対応した部分空間を集積させる方法とは正反対である。それは、まず全体=箱を先行させ、それを外的・内的な条件によって変形・分化させるという細胞分裂のようなプロセスである。「分化」の英訳はdifferentiationだが、それは「差異化」とも訳されることに注意を喚起したい。

 

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