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新建築2004年2月号 月評

サステイナブルな建築の重要な条件として「時間」のデザインがある。建物の寿命や設備の更新といったフィジカルな条件はもちろんだが、機能・用途の変更や文化的・歴史的な継承といった社会的な条件を忘れるわけにはいかない。スクラップ・アンド・ビルドの最大の要因は、物理的な寿命よりも機能的な条件の変化であることはよく知られている。さらにいうなら、場所の記憶やゲニウス・ロキも、広い意味で時間の条件といってよいだろう。建築や都市がもっとも長生きするのは、文化的な価値を認められた場合である。建物が生き延びるかどうかの判断は、これらの諸条件の価値が社会的に認められ、最終的にコストに反映されるかどうかによって決定される。

巻頭の「特集:都市のサスティナビリティを考える」は、そうした問題に焦点を当てている。佐藤考一の「都市空間をコンバートするー東京都心オフィスの現状分析とケーススタディ」は、都心の空きオフィスを集合住宅へコンバート(用途変更)する可能性を検討した論文である。コンバージョンとは、用途と機能を変えることによって既存の建物を使い続けていく方法である。僕はこの論文の下地となったコンバージョン研究会のメンバーなので、突っ込んだコメントをさせてもらうなら、コンバージョンにとって決定的な条件は、都市居住のライフスタイルと空間のイメージであり、この論文で展開されているような詳細な技術的検討ではない。もちろん技術的、経済的可能性は必要不可欠な条件である。しかしそれだけでは決してコンバージョンは実現できない。コンバージョンによって生まれる居住空間、ライフスタイル、街並の積極的なイメージが提案されないかぎり、コンバージョンのユーザーを掘り起こすことはできないだろう。それがコンバージョン研究の最大の課題である。

とはいえ新築される建築は「時間」を表現することができるのだろうか。近代建築には時間がないとよくいわれる。たしかに近代建築は完成した時点が最高状態であり、時間が経つにつれて朽ち果てていくようなイメージがある。しかし堀部安継の「玉川田園調布共同住宅」と「赤城のアトリエ」には、近代建築にはない、時間が埋め込まれたような雰囲気がある。堀部は「記憶のかけら」という短文を書いているが、彼の建築は、いつも懐かしい風景を見ているような気分にさせてくれる。おそらくその要因は、単純明快な空間構成と仕上げのテクスチャーの組み合わせにあるのではないだろうか。ただし「懐かしさ」や「記憶」は、下手をすると保守的で時代錯誤な建築をうみ出す可能性がある。単に過去の記憶をなぞるだけでは、懐古趣味になってしまうからだ。その意味では、「玉川田園調布共同住宅」は、ぎりぎりの限界領域にあるような気がする。

同じように時間を感じさせるが、僕自身の建築観にもっとも近い印象をもったのは、五十嵐淳の「風の輪」である。ヘルツォーク&ド・ムーロンやピーター・ズントーを思わせる、シンプルで伸びやかな外観、長手方向に展開するシークエンシャルな空間、構造用合板のざっくりした内外装など、ローコストだが豊かな空間をつくり出している。この建築が里子6人と里親が住む共同住宅であることも興味深い。東西に細長い空間を生かし、床に細かなレベル差をつけることによって、個人相互の微妙な距離を演出している。冬期の室内生活が重要な、広大な北海道ならではの建築だろう。
山本英明の「ところミュージアム大三島」は、海に向かって下る緩やかな斜面を生かしてシークエンシャルな情景を演出した建築である。斜面にそって平行に走る2枚の重厚なRC造の壁の上に、間伐材丸太によるラチスシェルのウ゛ォールトと自然光を透過するテント幕による軽快な屋根が、対比的に載せられている。

松本壮介の「授産施設」はRC造の水回りに、勾配の異なる単純な切妻屋根を乗せることによって、同じ広さの空間に異なる意味を与えようとしている。小さく閉じた箱の上に開放的な屋根をかける構成は、ルイス・カーンの建築を想起させる。

奥山信一の「日光霧降・マーブルハウス」は、洋館風邸宅をギャラリーにコンバートしたという意味で、まさに時間をデザインした建築だといえる。コンバージョンのテーマは、新旧をどのように対比あるいは連続させるかにある。この建築では、外観においては新旧の対比が明解に表現されているが、室内では旧い部分が完全に換骨奪胎されているのが、僕としては少し心残りである。

藤森照信の二つの墓。シリアスとジョークの軽妙な対置に唸らされる。

 

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