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新建築2004年1月号 月評

今月の注目作品は「ディオール表参道」(妹島和世+西沢立衛)だろう。この建築はわが家の近くにあるので、年末年始に何度か足を運んだ。ともかく一見に如くはない建築である。とくに昼間よりも夕暮れどきに行くことをお勧めしたい。建物全体が明るく浮かび上がり、ほれぼれするほど美しい。正面の同潤会アパートの一画が工事中で暗いために、表参道の反対側から見ると、その明るさはいっそう際立って見える。ガラスカーテンウォールの内側にカーテンのように波打つアクリルスクリーンを立て、その間に照明を組み込んでいるので、建物全体が発光するクラゲというかゼリーのように見える。それだけで商業建築としては成功しているといってよいが、気になるのは室内である。アクリルパネルから切り離された舞台装置のようなインテリアなのだが、売場空間は狭苦しくこま切れになっている。内装を担当したのはディオール専属のインテリアデザイナーだと聞くが、建築家の意図を理解しているとは思えない。ただ、すべての責任がインテリアデザイナーにあるわけではない。というのも台形平面の中に階段室とエレベーターの二つのコアが対角線上に置かれており、インテリアを規制しているからである。売場配置を誘導しようとしたのか、構造的な理由なのか、おそらく両方だろうが、その点をクライアントやインテリアデザイナーが十分に理解しなかったために、裏目に出てしまったようだ。もう少し広い空間なら、この方法はうまく機能しただろう。サステイナブル・デザインの観点からは、カーテンウォールとアクリルスクリーンが気候制御に利用されていれば、ダブルスキンの表現の可能性を拡大する試みだと期待したが、残念ながら照明装置に限定されていた。西沢立衛さんの「ラブプラネット展の会場構成」や「直島のビデオパビリオン」を見ると、彼らは表層の操作によって空間知覚にかすかな揺さぶりをかけることをテーマにしているようだ。「KASHIMA SURF VILLA」は同じような知覚への働きかけを立体的な操作によって行おうとした試みだろう。

伊東豊雄さんと内藤廣さんの巻頭対談『「私性」とデザインの行方-20世紀建築の葛藤を超えて』を興味深く読んだ。内藤さんの主張のキーワードは「時間」であり、伊東さんのそれは「サービス」である。モダニズムには「時間」の概念も「サービス」の概念もなかったという点で、二人の意見は一致している。両者は求心力のある「私性」によって統合されるというのが二人の結論のようだが、深読みかもしれない。ただ気になるのは、二人ともモダニズムの終焉を主張している点である。この対談に限らず、モダニズムの終焉を唱える議論で言及されるモダニズムとは、いつもハードルの低い教条化・硬直化したモダニズムである。たとえば機能主義はモダニズムの中核的な思想だが、そもそも機能的な見方なしにデザインは不可能である。機能概念をどこまで突っ込んで考えるかが問題なのであって、僕たちはモダニズムが提示した機能概念を拡大し、確率化し、脱構築していくしかない。その意味で、何かを「乗り超える」ことは、それに代わる別の立場を対峙させることではなく(それこそ旧態依然のモダンな態度だ)、その内部に入り込み、その潜在的な可能性を徹底して追求することではないか。そうすれば「時間」も「サービス」も、さらには「私性」までもとり込むことができるだろう。

サステイナブル・デザインの視点から見て、いくつか注目すべき作品がある。「若王子のゲストハウス」は和風建築の増築だが、増築部分が既存のコンテクストにごく自然に連続している点に感心した。「横浜税関本関」は歴史的建築の改修と増築で、これも既存のコンテクストへの連続性が過不足なく実現されている。中庭外壁のアルミスパンドレルは意外性があって興味深いが、新旧の対比を狙った円形のラウンジは、やや唐突な印象を受ける。みなとみらい線の二つの地下鉄駅「馬車道駅」と「みなとみらい駅」は、対照的なデザインだが、過去と未来という二つの時間を埋込んだデザインとして見ることができるだろう。「上下町歴史文化資料館」は街並保存のための手堅い仕事であり、「サンビレッジ宮路1期、2期」はプラニングもさることながら、深い庇、外断熱、ダブルスキン屋根によってシェルターをサステイナブル化した息の長い仕事である。最後に「大阪府立北野高等学校六稜会館」のパワフルな造形を見て、思わず篠原一男さんの「東京工業大学百年記念館」を思い出した。

 

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