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新建築2003年12月号 月評

昨年9月から東京大学に研究室を持つことになり、設計と研究を平行して進めることになった。僕は以前からサステイナブル・デザインに興味を持ち、実際の設計でもサステイナブルな建築をめざしてきたが、今後は研究テーマとしてもとりあげ、サステイナブル・デザインに多角的にアプローチするつもりである。月評も、その活動の一環として取り組んでみたいと思う。

12月号は多種多様な記事が網羅されており、なかなか焦点が当てにくい。まず目についたのは『環境型建築は社会との関係の中で成立する』(野沢正光×岩村和夫)である。最近の建築デザインの動向をサステイナブル・デザインの視点から論じた対談で、学ぶ点も多いが、サステイナブル・デザインの多面性を強調するあまり、やや散漫な印象を受ける。本来なら特集の巻頭に来るようなテーマであるだけに残念である。二人ともサステイナブル・デザインの第一人者なのだから、個々の建築作品についてもう少し突っ込んだ批評をして欲しかった。サステイナブル・デザインの可能性をとらえるには「環境型建築」という言葉にも問題があると思う。野沢さんは対談の最後あたりで団地再生や保存問題にも言及してはいるが、全体として対談のテーマは環境制御技術に終始している。サステイナブル・デザインの中心テーマがエネルギーの問題にあることは確かだが、そこだけに焦点を当てるとポリティカル・コレクトネスの罠に嵌まりかねない。事実、サステイナブル・デザインに関してヨーロッパとアメリカとで大きな温度差があるのは、エネルギー問題が政治問題だからである。ましてや中東や中国までを視野に入れれば、問題はもっと錯綜するだろう。サステイナブル・デザインを社会に根づかせるには、その定義を最大限に拡大すべきだと思う。つまり技術的な問題だけでなく、ライフサイクルやコミュニティといった社会的・機能的問題はもとより、その背景にある歴史的・文化的問題までをも視野に入れるべきである。そうしないとサステイナブル・デザインはデザインの単なる一潮流として片づけられてしまうだろう。

こうした考え方からすれば、本号の編集にも問題があると思う。たとえば『特集:集合住宅は変わるかー長屋再考』の一連の小論文と作品や、コンバージョンとして紹介されている一連の作品は、明らかにサステイナブル・デザインの一環としてとらえることができるはずである。長屋的集合住宅は戸建て住宅より省エネルギーであるというストレートな意味だけではない。ライフスタイルとして見たときに長屋的集合住宅はサステイナブルなコミュニティをつくる可能性が高いということである。古谷誠章さんのインタビュー「所有しすぎないことがコミュニティの形成を助ける」は、まさにその点に注目している。建築がモノとして生き延びるためには、そこに住み使う人たちが建築とコンテクストに対して共有感覚を持つことが必要不可欠な条件である。サステイナブル・デザインは、そこまで視野に入れる必要がある。建物のコンバージョン(用途変更)については、あらためていうまでもないだろう。さらに「湊町アンダーグラウンドプロジェクト」は既存の地下空間を再発見するという意味で、文化的レベルでのサステイナブル・デザインだし、坂村健さんの新建築住宅設計競技『建築ウイルス』も、建築における「変化=時間」に注目している点において、サステイナブル・デザインをテーマにしているといってよい。これらの記事をサステイナブル・デザインの多様性を示す特集として野沢×岩村対談の後にまとめれば、編集の意図がより明快になったはずである。

このようなとらえ方をすると、すべてがサステイナブル・デザインのテーマになってしまうと思われるかもしれない。まさにその通りである。僕としては、建築や都市に関するテーマすべてをサステイナブル・デザインという視点から再編成してみたいのである。

最後に建築作品について。「山口情報芸術センター」は磯崎さんにしてはやけに軽いデザインだと思ったら、構造デザインが佐々木睦朗さんである。波打つ屋根の構造は佐々木さんの一連の構造的挑戦の端緒だろう。「愛媛県武道館」の木構造システムにも目を引かれたが、構造デザインは播繁さんであり、「学校法人神奈川歯科大学実習教室棟」の繊細なデザインは赤坂喜顕さんである。本物のプロは独自の世界を築いているのだ。

 

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