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『箱の家について』

1995年からスタートした「箱の家」シリーズは、2003年の時点で計画中のものを含めると約90戸に達しています。最初の「箱の家-1」を手がけたのは僕が40代後半の時で、建築家としてのアイデンティティを確立しなければならない時期でした。その意味で「箱の家-1」は現代の住居のあり方に関する僕の考え方を明確に出そうと意図した住宅になりました。幸い僕の考えに賛同してくれるクライアントに支えられて今日までシリーズを展開することができました。

1950年代には、僕の師匠である池辺陽の立体最小住居(住宅No.3)や、増沢恂の最小限住居(9坪ハウス)といった小住宅が数多く提案されました。「箱の家」シリーズは一見すると当時の小住宅によく似ています。しかし外見は似ていても、住まいとしての意味はまったく異なります。1950年代の小住宅は、戦後の民主的な社会にふさわしい民主的な核家族のための、質素だけど温かくコンパクトな住まいとして提案されました。これに対して「箱の家」は、核家族化が進行し解体寸前に至った家族をどこまで食い止められるかを考えた住宅です。戦後の小住宅はリアルで温かい家族のありかたを追求したものでしたが、「箱の家」は家族のふりをする芝居のセットのような住宅といってもいいでしょう。そのような現代の家族のあり方を意識した住まいのコンセプトを共有するが受け入れられ、現在に至っているのだと思います。

建築家は個別的な作品を目指すべきだという考え方から、僕のようにシリーズで住宅を作ることを疑問視する声も聞きます。しかし僕としては特定のテーマを保ちながら、それをクライアントの要求や敷地条件にどう適合させるか、という設計の仕方もあると考えています。

「箱の家」はシリーズではありますが、使われている構法や素材、プランや表現はさまざまです。夫婦だけの家をコンセプトに、もっとも単純な一室空間住居を実現した在来木造の「箱の家-17」、在来木造シリーズの最終的なプロトタイプとなった「箱の家-21」。鉄骨造のヴォールトによってシンプルで大きな箱を作り、その中を間仕切りして作り上げた「箱の家-3」。下町の密集地域に建ち、1階にテナントスペースを持つ町家のような「箱の家4」。在来木造シリーズの標準的な平面計画と、鉄骨造シリーズの構法を統合した「箱の家-22」。最近では、バブル以降敷地の細分化が目立ち、幅が狭く奥が長い長屋タイプの敷地がでてくるようになったため、それに対応した「箱の家」集成材造シリーズを展開しています。現在僕がもっとも重視しているテーマは室内環境を快適に保つことで、外断熱や蓄熱を考慮した構法を追求しています。

このように、個々の設計条件ごとに個別のテーマを探すのではなく、特定のテーマを、家族構成、敷地条件、予算といった与条件に細やかに対応させることによって設計を進めていくというのは「箱の家」の設計の仕方です。追求するテーマやコストが同じであっても、その場の特殊条件にアダプトしていけば、最終的なデザインは自然に変わっていくのです。
こうした「箱の家」の試みが伊東豊雄さんの目に止まり、2000年に始まったアルミニウム実験住宅「アルミエコハウス」のプロジェクトに参加させてもらいました。僕たちが目指したのは、単にアルミニウムを使った住宅をつくるのではなく、アルミニウムという材料、エネルギー・コンシャス、都市的なライフスタイル、アルミニウムに相応しい表現という4つのテーマを総合的に追求することによって、アルミニウムならではの近未来的な住宅を提案しようと考えました。

アルミの家といえば、夏は暑く冬は寒いというイメージがあります。そのイメージを払拭するために「箱の家」で継続してきた熱的な性能追求の試みをさらにクリティカルに検証しました。断熱性能や気密性能はもちろんですが、NASAで開発された技術を使った水蓄熱式床暖房システム(アクアレイヤー)によって熱容量を確保し室内環境を安定させたり、ダブルスキン(二重被膜)の屋根によって、夏の輻射熱を制御するといった技術も試みています。

現在では、基礎コンクリートの蓄熱量を活かした「箱の家-49」や、バリアフリーであると同時に家族のリサイクルに対応できる「箱の家-50」、複合断熱パネルによってヒートブリッジの問題を解決した鉄骨造の「箱の家-64」など、多角的なテーマが出てきて「箱の家シリーズ」は少しずつ拡散しつつあります。今後は、集成材造シリーズは「MUJI-INFILL:木の家」として商品化をめざし、鉄骨造やRC造では新しい構法や室内環境制御の方法を考えながら性能の向上をめざすことによって、「箱の家」の100戸の実現に向かって頑張りたいと思っています。

 

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