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建築文化 2003年6月号 特集「スペース・ファニチャー」
『家具からの発想・建築からの発想』

対談:難波和彦(建築家)×堀尾俊彰(家具デザイナー/カッシーナ・イクスシー)

アルミでつくる住宅と家具

難波――
僕が堀尾さんを知ったのは、堀尾さんがデザインした紙の椅子「OLIO」やOZONEの展覧会で出していた紙のベンチを見たときです。面白いことをやる人がいるなというのが第一印象でした。

堀尾――
いや、その前の徳島の出会いを忘れないでくださいよ(笑)。僕は「箱の家」を建築雑誌で見たとき、ローコストで高い機能を追求してそれをずっとつくってこられている難波さんを知って、これはすごい人だなと思っていた。そんなとき難波さんが出展するSELLHOUSE展があるというののを聞いて、わざわざ有休をとって会いに行ったんです(笑)。

難波――
そうでしたか(笑)。それは構造家の播繁さんが考案したSE構法という集成材軸組構法を使った住宅の展覧会で、確か僕は3階建ての建て売り住宅案を発表した。

堀尾――
僕はそのときに初めて難波さんにお会いして、紙の椅子を見てもらったんです。それが変化してできた紙のベンチが、「プロダクツ1999」で優秀作品として選ばれたんです。

難波――
「OLIO」はアルミのバーで骨組みをつくって、再生紙を加工して座面と背にしてつくったものでしたから、その考え方がリサイクルをテーマにしたアルミエコハウス(2000)のコンセプトにピッタリなので食卓と個室に使わせてもらいました。

堀尾――
そう。黄色が好きだから黄色を2色といわれて、プロパー(既製品)にはない黄色2色と青と黒と、赤も入れました。

難波――
アルミエコハウスの家具やキッチンについては堀尾さんに相談しませんでした。でき上がったものを見て堀尾さんは「これはひどい」と言われて、ちょっとムッとしたけど(笑)、あのときは家具専門の人が研究メンバーにいなかったので、いつもの「箱の家」と同じような発想でつくりました。

堀尾――
アルミニウムの角パイプを現場で溶接したと聞きました。

難波――
そう。造付けのアルミ家具は、大きすぎてアルマイト仕上げができないから、無垢のアルミを溶接しました。机やベンチはスイスから安いアルミハニカムパネルを買ってきて、工場で曲げ加工してつくりました。みんなおっつけ仕事だったので、きれいに仕上がらなかった。
アルミの家具といえば、カッシーナ・イクスシーでデビット・チッパーフィールドがデザインした「エアフレーム」というテーブルがあります。すごく格好いいけれど高い。ローコストの箱の家で使うにはちょっと高価すぎる。
これは堀尾さんに初めて見せるのですが、今度名古屋でつくるアルミエコハウス普及版の図面です。構造は全てアルミフレームでできています。仕上げについては音の問題もあるから、すべてをアルミにすることはできないけれど、家具も可能な限りアルミでつくろうと思っています。また、ぜひ協力して下さい。

堀尾――
やはりアルミエコハウスのプランに似ていますね。

難波――
最初、クライアントはアルミエコハウスをそのまま建てたいと言ってきた。でも4人家族なので、あのままでは広すぎるし敷地に入りきらないので、一部を切り取ったプランでまとめました。
アルミは法的にも強度的にも3階建て以上は難しいけれども、2階建てだったら問題なくつくれます。そうすると、一戸建ての住宅だけでなく、スケルトン/インフィル・システムの集合住宅にもフィットするんじゃないかと思っています。100年以上の耐久性をもつ大きなスケルトンをつくって、そのなかに2階建てのアルミフレームを入れて住戸をつくる。アルミのインフィル住戸は軽くて素人でも建てられますから、自分の生活に合わせて住み手が自由に変えることができます。同じようにアルミでフレキシブルな家具システムもつくる。そうすれば寿命が違うシステムがうまく組み合わされて、自由に変えることができるから、機能的にも構造的にも長寿命なサステイナブルデザインが可能になるでしょう。アルミはそのようなデザインにふさわしい材料だと思います。

堀尾――
なるほど。これは楽しみですね。

建築に溶け込む家具

難波――
アルミエコハウス以降、いろいろなシステムを堀尾さんがもってきて教えてくれるようになった。そして最初にやったのが箱の家−49[T邸](2001)ですね。35角のアルミフレームとアルミハニカムパネルを使ってキッチンカウンターをつくりました。天板のアルミハニカムパネルのハニカムと片方の板を切り落として、フレームに落とし込むのが大変でしたね。

堀尾――
そう。パネルをそのままフレームに載せると小口が見えてしまうので、断面が出ないような加工をしてあるんです。その加工は日本でやらざるを得ないので、ちょっと大変でした。

難波――
すべてドライジョイントだから解体リサイクルもできるわけですね。箱の家−49の構造は集成材のSE構法ですから、構造部材を全て解体することができる。ここでは建物と家具を、ともにドライジョイントで部品を組み立てるようにつくるというシステムで、お互いの考えが一致した。これは成功したと思います。

堀尾――
そうですね。アルミエコハウスができたとき、難波さんは建築っぽい家具がいいという話をしましたね。いわゆる置き家具ではなくて、建築に溶け込むような家具ができたらいい、と難波さんが言われた。たとえば壁がダブルになっていてパーティションになるとか、レベルの違う床がいくつかあって階段になったりテーブルトップになったりするようなこととか、家具がもっと建築と深く関わり合いながらできたら面白いなと。

難波――
そういう意味では、もうすぐ着工するなおび幼稚園で堀尾さんにお願いしている家具は、建築的要素が強いかもしれない。この幼稚園の構造設計は佐々木睦郎さんですが、ほとんど家具に近いサッシュのような125角のH形鋼フレームで構造を成立させて、それと相似形のアルミフレームによる間仕切り家具を置こうと考えています。この幼稚園はクラスルームという部屋のないオープンスクールで、要するに一室空間です。つまり箱の家と同じ考え方で、一室空間をつくって家具で間仕切りしていく。今回はそれを子供のスケールで考えながら、空調機器や水回りを組み込んだ装置のようなアルミ家具を堀尾さんにつくってもらう予定です。

堀尾――
この家具は大空間を4部屋に分ける間仕切りで、大空間のなかに2100の高さの箱がぽんぽんとあるわけですね。その箱の真ん中は引き違い戸で、その中に棚があって、両脇に子供のための小さな引き出しとかコートフック、上のほうに空調の穴が開いている。

難波――
この間仕切り家具のほかにも、下駄箱や可動コート掛けなどもお願いしましたが、それらはアルミフレームじゃないですね。

堀尾――
フィンランドバーチを使った、いわゆる木の家具ですね。
最終的には実現できなかったけれど、いわゆるハンギングシステムをつかった収納棚システムも提案しました。これは壁にレールを仕込んでおいて、必要に応じて棚を吊ったり、下駄箱を吊ったり、コートフックもどこにでも付けられるというシステムなんです。幼稚園の壁を全部そういうシステムでつくろうとサンプルをつくってみせたんだけれども……。

難波――
園長先生たちに「そんなおしゃれな棚は結構です」と言われた(笑)。

建築と家具の寸法感覚

難波――
なおび幼稚園では、天井高4200の空間を高さ2100の家具で間仕切っています。2100という寸法をどうやって決めたかというと、まず居室の天井高の最小寸法であることが第一です。つぎに子供用トイレの天井高。これは2000ギリギリです。それから2100を3倍した6300をホールの高さとし、これを2層分に分けて2階に職員室や会議室を置き、その下のピロティに送迎用のマイクロバスの駐車場を入れました。マイクロバスが入る最小天井高からのフィードバックで2100を選びました。2100以外にも、いろいろな寸法でスタディをしました。1800が採用できたら合理的だと考えたけれど、それだと鴨居の梁下が1700以下になってしまうから大人には辛い。1950も検討しましたが、マイクロバスの天井高の確保が難しかった。試行錯誤のあげく結局2100に収斂しました。

堀尾――
そういう寸法の追っかけ方をするんですね、建築家って。

難波――
そういう寸法って?

堀尾――
人間の高さとか梁下とか。いま聞いていて新鮮だったんですが、家具って大体サイズが決まっているじゃないですか。3×6(サブロク)、4×8(シハチ)の世界のなかでものを考えていく。最近は住宅がどんどん小さくなっていて、コーヒーテーブルも置けないようなリビングが多い。僕らもいろんなサイズのテーブルをつくってみるんですが、正方形は売れないから長方形に、長方形だと大体W1800×D900がいちばん売れる寸法だとか言われる。だから社内でテーブルを考えるときには、大体W1800×D900から考え始めるんですが、建築というのは土地の大きさや目的などから寸法が決まっていく。僕らのように決まった寸法から始まらないような感じがしました。

難波――
でも、建築家の中では、僕は決まった寸法から考える方だと思います。テーブルにしても、設計を始めたころはほとんどW1800×D900でつくっていたけれども、900というのは食事をするときには対面するとちょっと距離が近すぎる。それは心理的な近さもあるし、大きい皿を並べるにもきついんです。だから界工作舎の食卓の標準寸法は1050です。

堀尾――
そう、難波さんはいつもW2000×D1000のテーブルと言われますね。

難波――
箱の家−1(1995年)で、1800角のテーブルをつくったら、天板の中央に置いた調味料を誰も取れなかった(笑)。だから食卓の幅は最大でも1500くらいが限界でしょう。

堀尾――
でも僕は奥行き1mだと、やはりちょっと深すぎるような気がするんですけど(笑)。家具って、腕のリーチとか椅子とテーブルの高さの関係とか、そういうので大体寸法が決まってくる。僕は難波さんよりもそういう決まった寸法のなかで仕事をしている気がしますね。
今回の特集で紹介している箱の家−64[Y邸](2003)のキッチンカウンターの寸法は、難波さんから全部指定がありましたね。あのテーブルは現場に行ったとき、空間にジャストフィットしているという感じがして、うれしかったですね。

難波――
いま堀尾さんは、僕たちの使う寸法が自由だと言われましたが、実をいえば僕は大きい寸法と小さい寸法の関係をシステム化して、敷地の形やサイズがどうであろうと、かなり強引にそのモデュールに当てはめようとするために批判されることが多いんです(笑)。建築家ではモデュールには拘らない人の方が圧倒的多数です。寸法のシステムを決めると設計が不自由になるというのがその理由ですが、僕に言わせれば、それは完全な間違いです。ル・コルビュジエはモデュロールという寸法システムをつくり、それを展開させることによって窓の配置や天井高を決めました。ロンシャン教会堂(1950)の窓配置やラ・トゥーレット修道院の波状窓(オンデュラトワール)はすべてモデュロールによって決められています。勝手気ままに寸法を決めるよりも、ずっとランダムに見えますね。モデュールは寸法の規則だから、確かに拘束ですが、身につけてしまうとすごく自由になれる。ルールは僕たちを予想以上に遠くまで引っ張っていってくれるのです。

フレームシステムの追求

難波――
今春インターネットでの販売がスタートした無印良品の住宅「MUJI+INFILL」は、僕が木の家、北山恒さんがコンクリートの家、吉岡徳仁さんがマンションのインフィルの開発者として参加しています。
僕が担当した「木の家」は箱の家と同じく集成材のSE構法で、省エネを目指した一室空間住宅ですが、骨組やシェルターを徹底的に部品化し、家具のようなキットで売ることを考えています。僕の師匠である池辺陽がやろうとしていたことと同じです。これまでの箱の家のクライアントは、建築家に住まいの設計を頼むことのリスクを理解し覚悟を決めてきた人ですが、ネットを通じて住宅を注文するクライアントは、一体どういうタイプの人か、まだちょっと見えないところがあります。今後どんな反響があるか楽しみではありますが。
今後自分がどこまで展開できるかわからないけれど、「箱の家」「MUJI+INFILL」そしてアルミエコハウスの普及版、というかたちでシェルターとインフィル、さらにアルミの家具もつくっていきたい。フレームシステムという古典的だけれども、フレキシブルなシステムを追求してみたいと思っています。

堀尾――
フレームといえば、僕はいま15mmのアルミの角材のシステムで家具をつくっているんです。15mm角と細くても意外としっかりしているので、壁に浮かすような吊り棚にもなります。これを使ったジャングルジムみたいなフレームがすでにできていて、いま考えているのはそのなかにアクリルの扉をピボットで取り付けていこうかと。そうすると部材の加工の種類を最小限に抑えることができる。

難波――
製作可能なサイズはどのくらいですか。

堀尾――
2mぐらいの高さまでいけると思うんですが、いま図面を引いているのは1個のフレームがW380×H350ぐらいの寸法ですね。奥行きはいま300でやっています。あまり深いと物をとるのにとりにくいので。

難波――
そうすると食器棚や本棚に使えますね。

堀尾――
そうですね。家具をやっている立場からいうと、いまなかなかいい本棚がなくて、社内でも本棚をつくろうという方針もあるんですが、このアルミフレームに15mmの天板をからませるシステムは面白いものになると思いますよ。アクリルとアルミの組み合わせというのもいいなと思っているんですけどね。

難波――
ときどき堀尾さんは変てこりんな材料をもってきますね(笑)、たとえばプラスチックハニカムがそうです。すごくいい材料なんだけど、なかなかうまい使い道が発見できない。

堀尾――
あれはすごく強いから、32mmの厚みで2mぐらいのテーブルを、天板を補強する幕板なしでつくったことがあります。プラスチックハニカムにはHIPS(ハイインパクトポリスチレン)とポリカーボネートと2つありますが、ここで使ったのはポリカーボネートのほう。ただ見た目には、それほどきれいなものじゃないですけどね。

難波――
そう。プラスチックのハニカムパネルは、製造法が芸術的ですね。

堀尾――
2枚のプラスチックの板の間にポリスチレンやポリカーボネートをはさんで、それをオイルで200度以上に温めると、モチのように粘ってくる。そして見ていてもわからないぐらいのスピードでゆっくり離していく。そうするとプラスチック板にポリスチレンやポリカーボネードがくっついたまま伸びて、2枚の板の間にハニカムの形状ができていく。

難波――
それが完全に正四面体(オクテット)トラスになる。フラーが最も強力なトラスといった形になるわけです。正四面体トラスを線材でつくるのは大変ですが、プラスチックハニカムでは製法から半ば自動的にそれが生成される。これは凄い発明だと思います。

堀尾――
そうすると難波さんは、アルミの次はプラスチックですかね。僕も興味がありますよ。材料が違うと強度が違ったり面材の質が違いますから、また違うことができるでしょう。

建築家と家具デザイナーのコラボレーション

難波――
カッシーナというのはイタリア語で「巨大な農家」のことで、要するに北イタリアのお金持ちの人たちをもともとはターゲットにした家具というイメージで見ていたから、堀尾さんみたいなデザイナーが「カッシーナ」ブランドの製品を扱う会社にいるのが不思議なんです(笑)。

堀尾――
そうですか。難波さんのつくる住宅に置かれているのは、大抵ヤコブセンの椅子とかキャンパスチェアですからね(笑)。

難波――
うん。高くてせいぜい「Yチェア」、普段は「セブンチェア」です。カッシーナの家具はやはり僕らには高級なイメージが強い。僕はフランクフルトとかケルンのメッセに行って、うんざりするほど家具を見たけど、やっぱりイタリアより北欧の家具がいいなあ。アートとして見ればいいんだろうけど、イタリアの家具は主張がすごいからね。僕は建築で主張をできるだけ消そうとしているから、やっぱり家具にも背景に徹してほしいわけです。

堀尾――
まいったなあ(笑)。でもジオ・ポンティがデザインした椅子「699(スーパーレジェーラ)」なんかいいでしょう。

難波――
うん。あれはいいですね、オブジェとしても。

堀尾――
僕はフリッツ・ハンセンの工場とか、フィンランドのコルボネといってアールトの家具をつくっているところとか、フランスの工場も見ていますが、イタリアの家具は軽薄でデザイン過多なところもあるけれども、イタリアの職人はなにしろマシンですよ。たとえば699を組み立てるのに、それ専用のアルミダイキャスト冶具みたいなものをつくっていて、またそれを使いこなしているおじさんたちの腕がすごいんですよ。道具としての完成度や形の完成度、さらにそれを工業生産する現場も他を超えていて。ですから、ほんとに主張している訳ではなく、ものとして完成している家具はイタリアにも多いですし、逆に僕なんかは、北欧の家具に完成度の低いものを感じることがあるんですけど。

難波――
なるほど。そうですか。
実は堀尾さんによくオープハウスに来ていただくんですが、たまにとんちんかんな質問をされるんですよ。それが新鮮でね(笑)。たしか箱の家−64を見に来てくださったとき、外壁のパネルを見て「窓下にはビスがあるのに上にはない。どうして?」と言われた。それもそうだなと思ったんです。確かにつくるのは大変かもしれないけれど、次は両方から留めようと思った(笑)。なかなか建築の人はそういう“素朴”な質問はしない(笑)。そういうやり取りが僕にとってはとても貴重です。

堀尾――
僕は木骨展に行ったとき、実は難波さんのほかに内藤廣さんがお目当てだったんです。10年ぐらい前、バブルの頃建築を嘆いた内藤さんのコラムを新聞で読んで、よくこれだけ世の中を見抜いている人がいるものだと思っていて、会いにいったんです。そのあとで倫理研究所(2001)の家具の仕事をいただいたんですが、やっぱり期待を裏切らない方でしたね。
僕の仕事の大半は既製品としての家具をつくることなんですが、難波さんや内藤さんのような建築家ととおつき合いしていると楽しいし、世界が広がる。自分が進んでいく力みたいなものをもらえるんですよ。

 

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