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近代建築 2003年1月号原稿
サステイナブル・デザインの可能性

難波和彦

モダニゼーションとモダニズム

まず僕の時代認識から述べておきたい。大きく振り返れば、20世紀は急速なモダニゼーション(近代化)の時代だったと思う。モダニゼーションの萌芽は15世紀に遡るが、本格化するのは19世紀になってからであり、20世紀になると、それがさらに加速化した。建築におけるモダニゼーションは20世紀初頭にモダニズム(近代主義)建築運動として姿を現わし、第2次大戦後に最盛期を迎えた後、1960年代末に終末を迎えた。1970年代にはモダニズムに代わってポストモダニズム運動が勃興したが、その後の展開を見ると、ポストモダニズム運動とは急速なモダニゼーションに対する反省がもたらした一時的な休止だったことが分かる。1990年代になると再びモダニズムを見直そうとする動きが出現するが、それはモダニゼーションという大きな底流が、現在も依然として持続していることの表われである。
僕の考えでは、「モダニゼーション」と「モダニズム」とは区別しなければならないと思う。モダニゼーションとは、15世紀に始まり現代も継続している時代の大きな底流である。モダニズムとは、それが思想的・文化的運動として表面化したものである。モダニゼーションには大きく分けて政治的、経済的、文化的の三つの局面がある。平たくいえば、政治的モダニゼーションとは啓蒙思想に支えられた議会制民主主義の歴史である。経済的モダニゼーションとは技術の進展に支えられた資本主義の歴史である。文化的モダニゼーションとは合理主義思想に支えられた科学の進展と個人主義の歴史である。
20世紀を振り返ると、モダニゼーションはそれぞれの局面で反動的な運動を引き起こしている。政治的局面では全体主義が、経済的局面では社会主義が、文化的側面ではポストモダニズムがそうである。しかし、これらは急速なモダニゼーションに対する反省の産物であり、必然的な付随物であった。僕たちは、モダニゼーションという大きな時代の流れの「外部」に立つことはできない。建築についても同じである。昨今のモダニズム建築運動の再評価は、そのような文脈でとらえることができる。
以上のような前提に立つなら、21世紀の課題は、全体主義やポストモダニズムのような反動的な態度に陥ることなく、モダニゼーションの成熟がもたらすさまざまな問題に対して、どのように取り組むかということだと思う。建築的な課題は大きく三つある。第一はIT(情報技術)と建築の関係の問題、第二は高齢化社会における建築のあり方の問題、そして第三は建築におけるサステイナブル(持続可能な)デザインの問題である。それぞれが大きな問題だが、僕としては第三のサステイナブル・デザインに注目したい。前二者にはすでに多くの人たちが取り組んでいるが、サステイナブル・デザインはまだ萌芽期にあり、これからその方向性を探る段階にあるからである。

サステイナブル・デザインとコンバージョン

サステイナブル・デザインとは、地球環境を守るという視点から建築デザインを見直そうとする運動である。 先頃、僕はアルミニウムを主構造とする実験住宅「アルミエコハウス」の開発に取り組み、その経験を通してサステイナブル・デザインの広大な可能性の一端に触れることができた。20世紀初頭に勃興し世紀のデザインの方向を決定づけたモダニズム建築運動と同じように、サステイナブル・デザインは21世紀初頭の最大の建築運動として、21世紀の建築デザインの方向性を決定づけるような予感がしている。両者はテクノロジーの進展がもたらした社会的な問題を解決するために、テクノロジーのあり方を再検討し、それによって新しい建築デザインを生み出そうとする点において、同じような問題意識を持っているからである。
建物のコンバージョン(転用)はサステイナブル・デザインを構成する重要なテーマのひとつである。これまでのように既存の建物を解体して新たに建物を建てるというスクラップ&ビルドではなく、既に存在する建物を別の機能の建物にコンバートするという考え方は、これからのデザインの大きな潮流になることはまちがいない。
コンバージョンには、既存の建物に最小限の手を加え、別の機能に変えることによって建物を延命させるという消極的なデザインから、機能を変えると同時にさらに高性能な建物に変えていくという積極的なデザインまで、幅広い範囲が含まれる。欧米では既にコンバージョンはさまざまなかたちで試みられ、コンバージョン産業として成立している。しかし日本ではまだまだ端緒についたばかりである。日本の近代建築の歴史はまだ150年そこそこしか経過していないが、戦後の高度成長の中で、コンバージョンを適用する建築的ストックは急速に蓄積されてきた。さらに昨今のオフィスビル建設ラッシュは、都心の古いオフィスビルを急速に空室化させて、かつてのオフィスビル街は活気を失い初めている。そうした空きオフィスビルを、集合住宅を中心とする複合ビルにコンバートし集合化させることによって、沈滞したダウンタウン活性化させようとするのが、コンバージョンの最終目標である。
とはいえコンバージョンは、さまざまな条件が絡み合った複雑で理解しにくいテーマである。コンバージョンを成立させるには、所有権や用途変更などの法律的問題、ファイナンスの問題、技術的な問題など複雑な問題を解決しなければならない。社会の目をコンバージョンに向けるには、こうした複雑な条件を解きほぐすことと並行して、コンバージョンによって建物や街並みがどのように変わるのかという分かりやすいイメージを提示することも重要である。さらに未来の建築家にとっては、サステイナブル・デザインは必要不可欠の視点である。したがって建築教育もサステイナブル・デザインの視点から再編成しなければならない。この二つの目標を達成するために、僕たちはコンバージョンを建築学科の設計課題に取り上げることを試みた。設計課題では、都心の空きビルの調査からスタートし、コンバージョン技術の収集と建物への適用、集合化による街並みの変化に至るまでのケーススタディを試みた。こうした試みを通じて、今後は、コンバージョンの多面的な問題を明らかにし、デザインの新しいテーマの開拓を試みたていきたいと考えている。

 

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