建築文化懸賞論文2001 『サステイナブル・デザインは建築を変えるだろうか?』
難波和彦
20世紀初頭がモダニズム・デザイン運動の勃興期だったとするなら、21世紀初頭はサステイナブル・デザイン運動の勃興期となることはまちがいないだろう。両者はテクノロジーの進展を基盤にして、エンジニアリングとデザインを融合させようとする点で共通している。しかしモダニズム・デザインを支えたテクノロジーがハードテクノロジーだったのに対し、サステイナブル・デザインを支えるテクノロジーは
ITを中心とするソフトテクノロジーである。ソフトテクノロジーを背景とするサステイナブル・デザインは、単にモノをつくるのではなく、モノを通して意味をつくろうとする。あるいは、すでに存在するモノの新しい機能や意味を発見しようとする。そうした視点から、サステイナブル・デザインはミース・ファン・デル・ローエの「LESS
IS MORE」やバックミンスター・フラーの「MORE WITH LESS」を再発見し、新しいキーワードにつくり変えるだろう。
モダニズム・デザインはそれまでの建築の歴史を否定しようとした。しかし今や、モダニズム・デザイン自体がひとつの歴史となり、伝統と見なされるようになった。こうした経緯をふまえて、サステイナブル・デザインは歴史を重要な前提条件とみなし、そこから新しい意味をくみ取ろうとする。つまりサステイナブル・デザインはエンジニアリングと歴史とを結びつけようとする運動でもあるのだ。
とはいえサステイナブル・デザインは必然的に矛盾をはらんだ運動である。サステイナビリティを追求していけば、最終的にデザインを否定する可能性があるからだ。だからサステイナブル・デザインには、原理的・理論的な研究だけでなく、サステイナビリティに関する実践的な価値判断が必要である。そして価値判断を左右する最大の要因はテクノロジーに対する態度である。進展する現代のテクノロジーを積極的に活用するか、あるいはそれに疑問を投げかけるかによって、サステイナブル・デザインの方向性は決定づけられる。これは単にデザインとどまらず、ライフスタイルや政治に関わる問題である。要するにサステイナブル・デザインは建築家やデザイナーの社会性を占うリトマス試験紙なのだ。
サステイナブル・デザインは社会的・政治的な運動である。モダニズム・デザイン運動もそうだった。しかし同時にそれは建築表現の革命でもあった。ル・コルビュジエが『建築をめざして』でいったように、モダニズム・デザイン運動が「技師の美学」を梃子にして建築の表現革命をめざしたのだとすれば、サステイナブル・デザインにも同じような可能性があるかもしれない。省エネルギー、リサイクル、再利用といった新しいエンジニアリングの問題の追求を通じて、あるいは歴史との新たな協力関係を通じて、建築を変えることができるのではないだろうか。サステイナブル・デザインの最終的な目標は、そこにあるように僕には思える。この問題について、あなたはどう考えるだろうか。
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