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箱の家 PROJECT 青本往来記
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コンパクト箱の家

2024年04月30日（火）

曇り一時雨の涼しい一日。8時半出社。NICHIHA SIDING AWARDの審査員を協働しているインテリアデザイナーの飯島直樹さんからメールが届く。5月17日（金）19時から五反田の東京デザインセンターで開催される出版記念祝賀会で、僕と対談をしたいそうだ。5年前に同じ場所で開催された『杉本貴志さんを偲ぶ会』で、僕がレヴィ＝ストロースの『野生の思考』について話した内容を飯島さんは憶えていて、それに関連したテーマをとり挙げてインテリアデザインについて議論してみたいとのこと。おそらくレヴィ＝ストロースが〈ブリコラージュ〉の概念について論じている〈出来事と構造〉の問題だと思う。レヴィ＝ストロースは構造人類学の研究の中で発見した、個別的な〈出来事〉から普遍的な〈構造〉を組み立てる未開民族の能力を〈野生の思考〉と名づけている。彼の主張では、構造を組み立てる能力は人類共通の生得的な能力であり、イマヌエル・カントが提唱したカテゴリーの一種だという。それ以来、レヴィ＝ストロースは自他ともに認めるカント主義者になったと自称している。平たくいえば、ヒトは外界を何らかの構造＝認識図式によって認識しているということである。僕の〈建築の4層構造〉のアイデアは、そこから生まれたといってもいい。僕のみるところ、杉本貴志のインテリアデザイン、とりわけバリ島の民家の部品を再編集した、日生劇場地下の居酒屋〈春秋ツギハギ〉のデザインは、まさにブリコラージュそのものである。そんな話をしてみようか。東京都市大学の片桐悠自さんからメッセージが届き『アルド・ロッシ　記憶の幾何学』（片桐悠自：著　鹿島出版会　2024）を送ってくれるそうだ。以前、彼の訳書『メランコリーと建築　アルド・ロッシ』を読み、気になっていたのでAmazonに予約しようかと考えていたところだから、ありがたい。まさに渡りに船である。片桐さんのロッシ論を期待しよう。『技術の哲学』は、第11章「技術の創造性と設計の原理」を読み続ける、心理学者R・グレゴリーが提唱した、知性と技術の関係に関する〈グレゴリーの等式〉が興味深い。それによれば「知性＝顕在知＋潜在知」であり、技術によって生まれた人工物は〈潜在知〉である。22時からNHK BSで「フロンティア　世界都市ローマ　永遠の都の秘密」を観る。ローマ帝国がゲルマン民族の北からの侵入とオスマン帝国の東からの拡大によって崩壊した6世紀以降、15世紀ルサンスまでの中世の沈滞期に、ローマ教会が西ヨーロッパ全域に強力な宣教とローマ詣の宣伝を行ったことを初めて知った。先日読んだピラネージの評伝で、18世紀の彼がローマを訪れ虜になったのも、その結果のようである。


2024年04月29日（月）

晴れのち曇りの暖かい一日。9時半出社。『仕掛け考』の３回の連載を読み通してみて、野沢正光の建築観の原点を改めて確認できたように思う。僕の結論としては、野沢はモダニズムを正統的かつ総合的に受け継いでおり、ポストモダニズムが提唱した歴史主義や記号主義は受け容れていないという点である。時には正統性によってもたらされる批評性を主張することもあるけれど、過剰主義や加速主義からくるニヒルなスタンスは採らないし批評性を主張したりしないというのが野沢のスタンスである。逆にいえば健康的でつまらない面も若干あるけれど、むしろそれを突き詰めている点が野沢の特異性であり〈複雑な全体性〉なのである。OMソーラーの開発や木構造の試み、リノベーションや減築、さらには〈住宅遺産トラスト〉といった野沢の活動は、モダニズムの延長と拡大としてとらえることができる。その点を〈建築の4層構造〉によって分析し、僕との共通点を確認してみるのも面白いかもしれない。14時半に安藤忠雄さんから電話が入る。昨年10月以来だからほぼ半年ぶりである。昨日、石山修武さんから電話があったらしいので、僕のことを思い出したのかもしれない。以前から大阪万博にはまったく関わっていないことを何度も強調しているが、大阪万博の総合ディレクターに藤本壮介を推したのは、どうやら安藤さんのようである。逆に、梅田駅の北側の広大な公園計画に携わっていることを自慢するのは、大阪万博に対する当てつけかもしれない。東京銀座の裏に中国人の住宅を建てたことや、ヴェネツィアでデザインした中国人アーティストの展覧会場がニューヨークタイムスにとり挙げられたことなど報告を聴く。安藤さんの話を聴いていると、少し元気が出てくる。『技術の哲学』は、第10章「技術の解釈学―変革可能性のために」を読み終わり、第11章「技術の創造性と設計の原理」に進む。第10章では、技術と社会の関係を総合的にとらえる視点として、ブルーノ・ラトゥールのアクター・ネットワーク理論が紹介され、技術が政治的なはたらきを持つアクター（行為者）となりうることを、高速道路に架けられた橋や、工場に導入された加工機械などの例を挙げて紹介している。そのようなブラックボックス化した技術の政治性を明らかにすることが技術の解釈学なのである。


2024年04月28日（日）

晴れで日差しが強く初夏のような一日。10時半出社。「仕掛け考・3―意味とコンテクストを仕掛ける」をようやく読み終わる。最後あたりでは原広司の〈構成の廃棄〉や多層構造論、伊東豊雄の〈形式の廃棄〉や自邸の話題を経て、クリストファー・アレグザンダーのパタンランゲージ以降の理論展開へと話が転換し、生成文法のノアム・チョムスキーから出発したピーター・アイゼンマンとの対談へと話題は展開する。いずれにせよ結論はないのだが、頭の体操になったことは確かである。野沢正光の建築観については、どうやら全体的に記号論についていくのがシンドそうで、明確なメッセージは読み取れない。野沢は、ロバート・ヴェンチューリの『建築の多様性と対立性』から〈複雑な全体〉の概念を吸収したことは間違いないが、『ラスベガス』からは建築の大衆性（ポップ）を受け容れはしたが、建築の〈記号性〉は受け容れなかったように感じる。モダニズムを正統に受け継いでいる印象である。『技術の哲学』は、第9章「技術と社会―技術決定論から社会構成主義へ」を読み終わり、第10章「技術の解釈学―変革可能性のために」に進む。第9章では、技術と社会の関係について、技術が社旗を決定づけると主張する〈技術決定論〉と、逆に社会的要因が技術を規定すると主張する〈社会構成（構築）主義〉が比較されている。マルクスの史的唯物論やハイデガーの技術論が〈技術決定論〉の代表だが、1980年以降は〈社会構築主義〉が主流になりつつある。最近の技術のSDGs志向を受けて、建築デザインが建築家のライフスタイルの変革と回帰に向かっているのも〈社会構築主義〉の潮流なのかもしれない。


2024年04月27日（土）

朝のうち小雨でのち曇りの涼しい一日。9時半出社。「仕掛け考・3―意味とコンテクストを仕掛ける」を読み続ける。読み進むうちに、これは『建築の解体』（磯崎新：著　美術出版社　1975）に関するコメント特集というか、一世代下の建築家による『建築の解体』の再解釈であることに気づかされる。つまり1960年代末の建築状況についてまとめた磯崎のこの著書が、1970年大阪万博以降の建築状況に与えた影響が大きかったということにほかならない。長い座談会である上に、合間に幾つかのトピックスが挟み込まれているため、まだ最後まで読み切れていないのだが、団塊世代の建築家3人が右往左往しながら『建築の解体』を読み直し、自分たちが置かれている建築状況を理解しようとする雰囲気がが伝わってくる。しかしながら当時の僕たちは「仕掛け考」がやろうとしているのは、記号論を通して『建築の解体』を読み替えることであることをまったく自覚していなかったようだ。家早南友である。『技術の哲学』は、第8章「技術は科学の応用か―知識論の〈技術論的〉転回」を読み終わり、第9章「技術と社会―技術決定論から社会構成主義へ」に進む。第8章では、技術は科学の応用だと主張する〈応用科学説〉の検討を通じて、科学を後術に応用するためには創造的な技術知が必要であること、そのためには〈設計〉によって科学知を技術に結びつける〈工学〉が必要であることを明らかにしている。技術史家のE・レイトンはこういっている。「近代科学の観点から見ると、設計は取るに足らないものであるが、工学の観点から見ると、設計がすべてである。設計とはあらかじめ考えられた目標に到達するために、目的にかなうように手段を利用することであり、それが工学の本質である。技術の目的は知識にあるのではないので、工学の科学的部分は付帯的なものである。科学は設計に奉仕する限りにおいてのみ、技術に役立つのである」。この指摘に関連して思い出すことがある。建築学科の専攻長だった頃、工学系の教員と話をすると、彼らは建築の実務や設計に関わることをあまり好まないような印象を抱いた。僕としては、建築を実現することが建築学科の最終目標だと考えていたので、意外な感じがした。とはいえ建築学会においては、工学の科学的部分を担当する研究者の方が、実務に携わっている専門家よりも上位の立場に置かれている。それは工学部全体についてもいえることで、工学研究者は総じて理論科学に対してコンプレックスを抱いているようである。さらに本書では、設計に必要な知が、科学的な理論知とは異なる点を明らかにするために、技術論者のF・S・ファーガソンが提唱する〈エンジニアの心眼〉という概念を紹介している。それはイメージ的、視覚的な思考であり、理論＝明示知に還元できない直観あるいは暗黙知ともいうべき知識であり、技術知である。この問題について著者は、イマヌエル・カントの『判断力（構想力）批判』やジョン・デューイのプラグマティズムを引用して検討している。〈エンジニアの心眼〉については、ぜひとも突っ込んで勉強してみたい。


2024年04月26日（金）

晴れのち曇りの暖かい一日。9時出社。「仕掛け考・3―意味とコンテクストを仕掛ける」を読み始める。冒頭の「本号では記号論を建築に適用する」という短い趣旨文に続いて、いきなり座談会「コードの共有・解体・生成をめぐってー建築思潮における〈仕掛け〉の現在」が始まる。座談会の参加者は、僕と野沢と八束はじめの3人である。記号論におけるコード（規則）の共有と解体の話から入るため、なかなかついて行けないので一旦休止する。13時半に事務所を出て、神宮前５丁目の保育園に孫娘を迎えに行く。娘一家の連休中の予定についてあれこれ話をしながら帰る。『技術の哲学』は、第7章「イデオロギーとしての科学と技術―近代のパラドックス」を読み終わり、第8章「技術は科学の応用か―知識論の〈技術論的〉転回」に進む。第7章では、まず、近代になると科学と技術が高等教育機関の中で、それぞれ独立した学問分野を形成するようになるという点が注目される。そこでは純粋科学と、応用科学としての技術という階層区分が持ち込まれるようになる。一方で、産業革命の中で技術革新と科学の進展との相互作用が頻繁に生じるようになり、科学技術という用語が生まれる。この辺りの歴史的経緯をブルーノ・ラトゥールは詳細に分析し、ANT（Actor Network Theory）として理論化したのである。夕食後22時半からNHKで『時をかけるテレビ　あと数か月の日々を〜物理学者・戸塚洋二　がんを見つめる〜』を観る。ニュートリノが質量を持つことを明らかにした素粒子物理学者の戸塚洋二が、66歳に癌で亡くなるまでの数ヶ月間、ブログで自分の症状の詳細を客観的に発信し続けたという話である。戸塚の場合はブログの内容はきわめて限定されているが、毎日の日常生活をブログに書き続けている僕とは意味がまったく異なっている。しかし僕の場合、年齢が進んだある時期から、ブログを書くことが日常生活にフィードバックするようになった。単に毎日の生活について記述するのではなく、逆に記述する意義があることを選んで行動するという逆転現象である。読書のレジメを報告し、映画やTV番組の感想を書くのは、それだけの意義があると考えるからである。そんなことを改めて考えさせる番組である。
https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2024042619236


2024年04月25日（木）

朝から晴れで、昨日とは打って変わり暖かい一日。8時半出社。8時45分に事務所を出て、表参道経由で青山の銀行に行く。欅並木の枝には新芽が溢れ、強烈な朝日を遮っている。久しぶりの晴れで表参道を歩く人の足並みは軽い。早々に振込を済ませて９時半に帰社。10時前に生協から荷物が届いたので受け取り。YouTubeで『オッペンハイマー』（クリストファー・ノーラン監督　2023）の不思議なIMAX映像を発見する。映画の中からオッペンハイマーが想像したイメージを抜き出した映像で、音楽は別に挿入され編集されている。映像の魔力を遺憾なく描き出している点に感心する。と同時に、映像と一体になっている音楽編集にも驚嘆する。『ブレードランナー』のヴァンゲリス音楽以来の傑作だろう。
https://www.youtube.com/watch?v=uRJQJcy3f8w
昨日に引き続き「仕掛け考・2―力とエネルギーの流れを仕掛ける」を読む。構造と環境のデザインがテーマなので、冒頭の野沢の問題提起はかなり具体的である。〈シェルター〉＝〈構造〉×〈皮膜〉という図式から出発して、構造の仕掛けを支持装置の記号性として、皮膜の仕掛けをシェルターと機械の共棲としてとらえている点が野沢らしい。既にこの時点で、野沢の建築観が明確に成立していることがよく分かる。座談会のタイトルは「デザインとテクノロジーの相関」で、参加者は僕と野沢に加えて、構造家の佐々木睦朗と環境デザイナーの高間三郎の4人である。佐々木との対談は1980年代に盛期を迎えたハイテックス・タイルに関する議論が中心で、ノーマン・フォスターがフューチャーされている。高間との対談は設備設計に関連して実見したラルフ・アースキンのストックホルム大学図書館を紹介している。座談会の最後で、僕は仕掛けをゲームとしてとらえる視点を提案し、それは最終的には〈意味の仕掛け〉に行き着くだろうと〈仕掛け考・３〉の企画を先取りしている。それに対して野沢は、ハイテックスタイルのような成金趣味に流れることに警鐘を鳴らし、間接的に僕の〈仕掛け＝ゲーム論〉を批判している。ケーススタディでは、野沢は吉村順三、清家清、奥村昭雄といった師匠筋の仕事をとり挙げており、設備システムと日常生活の関係に注目する視点は、僕がとり挙げた記号性の強い事例とは対照的である。明日は「仕掛け考・３ー意味とコンテクストを仕掛ける」に取り組んでみよう。『技術の哲学』は、第6章「科学革命ー近代科学の成立と技術の役割」を読み終わり、第7章「イデオロギーとしての科学と技術―近代のパラドックス」に進む。第6章では、16世紀の科学革命と呼ばれる歴史的出来事は、いわゆる〈実験法の革命〉というよりも、理論優先の〈思考法の革命〉であり、技術の進展と区別をつけることは不可能であること。したがって近代以降の科学と技術の区別は、ほとんどイデオロギー的な判断になっていることが確認されている。


2024年04月24日（水）

小雨が降り続く肌寒い一日。9時出社。『新建築住宅特集』編集部に依頼し〈相模原の住宅（野沢自邸）〉の過去の掲載記事のコピーを送ってもらう。なかなか充実した記事が掲載されているのに驚く。思いついて、野沢と協働して『都市住宅』誌に連載した「仕掛け考・１―人の動きを仕替える」（198409号）、「仕掛け考・2―力とエネルギーの流れを仕掛ける」（198501号）、「仕掛け考・3―意味とコンテクストを仕掛ける」（198505号）のバックナンバー3冊を寝室のアーカイブ本棚から抜き出して目を通してみる。野沢の思考を辿るためにじっくり検討してみよう。手始めに「仕掛け考・１―人の動きを仕替える」の冒頭の座談会から読んでみる。参加者は僕と野沢正光に加えて、スターリングの事務所で働いたことがある同世代の建築家、巴辰一と横河健の4人である。冒頭に僕が「仕掛け考」に関する記号論的な分析論によって仕掛け概念を定義した上で、続いてスターリングの建築における動線と記号の多様な展開について4人の対談が続いている。‎以前石井和紘と協働でA.D.A.EDITAから『ジェームズ・スターリング作品集』の翻訳版を出し、スターリング建築のプラニングと動線の演出や、アクソノメトリック図による表現にほとほと感心していたので、僕から持ち込んだ企画だったと記憶している。40年前だから4人とも30歳代で、きわめて幼い議論であり、読んでいて気恥ずかしくなるほどだが、デザインの新しい視点を探ろうとする努力が前面に出ている初々しい座談会である。ケースタディの収集にはかなりエネルギーをかけた記憶があるが、最近ではこうした記事はほとんど見かけなくなった。引き続き「仕掛け考・2」に取り組んでみよう。『技術の哲学』は、第4章「形の生産ー中世：キリスト教」と第5章「自然の支配ー近代：F・ベーコン」を読み終わり、第6章「科学革命ー近代科学の成立と技術の役割に進む。第4章では、ヨーロッパの修道院における農業や鋳鉄技術、さらに時計の発明などが紹介され、ルネサンス期の神学者の「ニコラス・クザーヌスの技術思想が〈形の生産〉という視点から検証されている。第5章では、近代初期の科学哲学者フランシス・ベーコンが、イギリス経験論と帰納法の提唱者とは異なる視点から検証されている。


2024年04月23日（火）

曇りで肌寒い一日。9時出社。先日のJIA野沢正光展で会った真壁智治さんから、昨年末に依頼されていた原稿の依頼メールが『雨のみちデザイン』の編集部から届く。タイトルは「建築・都市時評〈驟雨異論〉」。『雨のみちデザイン』のHPで確認すると、決まったテーマではなく時評的な原稿のようであるである。ならば何とか対応できそうなので、承諾メールを返送し、思いつくままにスケッチを開始してみる。
http://amenomichi.com/index.html
http://amenomichi.com/shuuiron/shuuiron_archives.html
午後に『新建築住宅特集』編集部からも原稿依頼メールが届く。こちらは今年の7月号に掲載予定の野沢正光特集に関する原稿である。『雨のみちデザイン』に掲載した『複雑な理念―野沢正光試論』を読んだ上で依頼を決めたようである。テーマは野沢の住宅観なので〈相模原の家〉（野沢自邸）にまつわるエピソードを交えてスムースに書けそうなので、承諾のメールを返送する。
http://amenomichi.com/special/nanba.html?fbclid=IwZXh0bgNhZW0CMTEAAR1NppzKdDOx4-tWdRaeTi1t36BuKPBARLe-6H46mEIlm73k54_qBtfGnKM_aem_ASMTdhhJ2fgnJYDqt9va-72GHSNzL2xlqWKdOCk5rr_5hJH2nWrt4KYRYsQz_XePnQycSxXbvY-iCCRqWwddudCk
二つの原稿締切日はほぼ同じなので、関連づけて書いてもいいかもしれない。二つの原稿について考えているうちに、先日読み終わった土居義岳さんの『古典主義時代の建築ミッション』について4月11日の日記に書いた〈物語としての歴史〉のことを思い出す。数年前に読んだヘイドン・ホワイトの『歴史の喩法』（ヘイドン・ホワイト：著　上村忠男：訳　作品社　2017）と『実用的な過去』（ヘイドン・ホワイト：著　上村忠男：訳　岩波書店　2017）で議論されていた〈メタヒストリー〉の概念についてである。googleにはこう書かれている。「歴史叙述は物語としての特性をもっており，時間軸に沿って展開する物語的な認識法こそが歴史学の特徴であるとする考え方が出てくる。この発想を徹底させたアメリカの歴史哲学者ホワイトHayden Whiteの《メタヒストリー》(1973)によれば，歴史叙述にはロマンス的，悲劇的，喜劇的，風刺的の4つの方向での物語性があり，歴史叙述のうちに潜むイデオロギー性もそれと密接な関連をもつ。構造主義の側からする物語論は、物語の構造そのものの分析をめざしているのに対して，歴史哲学の側からする物語論では，まず第一に、物語的な認識こそが歴史叙述の特徴であるという主張をふまえて、そのうえで物語の機能が注目をあびているといえるだろう」。これは土居さんの著書に対する批評として読むことができるだろう。歴史は現代史であると喝破したベネデット・クローチェや、いつも物語的に歴史を書くカルロ・ギンズブルクは、僕のお気に入りの歴史家だが、彼らが書く歴史には明確なテーマがある。『技術の哲学』は、第3章「自然の模倣ー古代：アリストテレス」を読み終わり、第4章「形の生産ー中世：キリスト教」に進む。第3章のアリストテレスの技術論は、プラトンとは対照的に経験主義的・生物学的なので、現代の後術論にもっとも近いように思える。アリストテレスの『自然学』で展開されている事物の生成論である四原因説（質料因、形相因、作用因、目的因）は、まさに技術論そのものである。


2024年04月22日（月）

小雨後曇りの肌寒い一日。4月下旬になったにもかかわらず、なかなか暖かくならない。買い物以外には外に出る気がしないので、読書の合間にビデオを観て過ごしている。いろいろ取捨選択した結果、今日はプライム・ビデオで、デンマーク映画の『ライダーズ・オブ・ジャスティス』（アナス・トマス・イェンセン：監督　2020）を観る。日本でも公開されたらしいが、デンマーク国内の賞を総なめにしたらしい。ビデオ紹介にはこう書かれている。「妻が列車事故で亡くなったという報せを受け、軍人のマークスはアフガニスタンでの任務を離れ娘の下へ帰国する。悲しみに暮れる娘を前に無力感にさいなまれるマークスだったが、彼の下を二人の男が訪ねてくる。その中の一人、妻と同じ列車に乗っていたという数学者のオットーは、事故は“ライダーズ・オブ・ジャスティス”と言う犯罪組織が、殺人事件の重要な証人を暗殺するために周到に計画された事件だとマークスに告げるが・・・」。ハリウッド映画に比べると、会話のやり取りが多く、北欧の社会事情を反映しているようだ。たまに激しい銃撃戦が描かれているが、ハリウッド映画ほど大袈裟ではない。台詞のやり取りが中心で、映像表現を抑えたやや教訓的なエンターテインメント映画である。『技術の哲学』は、第2章「宇宙の秩序に従って生きるープラトンとか価値の問題」を読み終わり、第3章「自然の模倣ー古代：アリストテレス」に進む。第2章はプラトンの技術哲学の詳細な紹介である。プラトンは知識に関する事柄すべてを〈技術=テクネー〉と呼んでいる。ソクラテスとの対話で、プラトンはこういっている。「技術とは、対象の本性を知ったうえで、本姓にふさわしい仕方で対象を扱う仕方に関する知識のことであり、対象についての真理や善の知識にもとづいた対象の扱い方を意味している」。要するに、技術は対象のイデアに関する知識にもとづいているから、この定義は人工物には当てはまらないだろう。プラトンの知識観は、理論（ロゴス）を重視した主知主義的な知識観であり、アリストテレスのそれとは根本的に異なっているように思える。


2024年04月21日（日）

曇りのち雨の涼しい一日。10時出社。深尾精一さんと布野修司さんのFacebookで、今日の昼過ぎに1970年代に『建築文化』誌の編集長だった田尻裕彦さんを偲ぶ会が開催されたことを知る。『池辺陽試論―戦後モダニズム建築の極北』（難波和彦：著　彰国社　1999）の編集を担当したのは田尻さんで、大変お世話になったから、ぜひとも参加したかったが、残念ながら案内状は届かなかった。池辺陽研究室での住宅や石井和紘との協働作品を『建築文化』に掲載した時の編集長は、すでに田尻さんの後任だったからかもしれない。会の発起人は、伊東豊雄、北原理雄、富永譲、長尾重武、布野修司、八束はじめで、八束さんを除けば、東大建築学科の卒業生である。当然声をかけられてもおかしくないと思うのだが、呼ばれなかったことには一抹の寂しさを感じる。ちなみに、太田邦夫さん、石堂威さん、長谷川逸子さん、山本理顕さん、坂本一成さん、石山修武さん、藤森照信さん、深尾精一さん、古谷誠章さんといった面々が出席している。
https://www.facebook.com/photo/?fbid=7764356383644486&set=pcb.7764390623641062
『技術の哲学』は、序章「なぜ、現在、技術は哲学の根本問題となるのだろうか？」、第1章「人間にとって技術とは何かープロメテウス神話と哲学的人間学：を読み終わり、第2章「宇宙の秩序に従って生きるープラトンとか価値の問題」に進む。プロメテウス神話については、ある程度は知っていたが、3つのバージョンがあることは初耳である。著者は技術を物づくりだけではなく、プラトンに従って、政治やコミュニケーションの技術にまで拡大してとらえ、ルイス・マンフォードにならって、古代の王権を〈巨大機械〉としてとらえている点には共感する。


2024年04月20日（土）

晴れのち曇りの暖かい一日。9時半時出社。昨日のJIAの野沢正光展を思い出しながら、さまざまなことを考える。しんみりした気分になり。思い立ってアンドレイ・タルコフスキーのエントロピーに溢れた映像を観ながら、しばらくの間、野沢の思い出に浸る。彼と会話した回数はそれほど多くはないけれど、密度の高い会話だったことは間違いない。建築会館で広瀬鎌二展を見た時に、近くの居酒屋に誘って一緒に呑んだことがあるが、彼はあまり呑まずに帰って行った。僕としてはもう少し話したい気分だったが、その頃から体調がよくなかったのかもしれない。
https://www.youtube.com/watch?v=xpzPD9ONk0k
https://www.youtube.com/watch?v=DWrtHaKMlRw
細やかで専門的な『ピラネージ』を読み終わったので、次は一般教養書を読んでみたいと思い、『技術の哲学―古代ギリシアから現代まで』（村田純一：著　講談社学実文庫　2023）を読み始める。村田さんとは建築学会で一度対談したことがある。


2024年04月19日（金）

晴れで風が強いが過ごしやすい一日。8時半出社。9時前に事務所を出て、昨日調べた神宮前２丁目の眼科医院に赴く。１階の受付で初診の申し込みをした後に、階段で２階に上がると待合室は患者で溢れている。看護婦に初診の事情を訊かれたので、これまでの定期検診の内容について話す。毎朝、点滴している目薬を持参しなかったことを反省する。眼圧低下の目薬であることを話すが、見本帳では20種類以上あるためよく分からない。場所を移動して、視力検査、眼圧検査、視野検査を受ける。この間、約１時間。診察室前に移動して待機していると、15分後に名前を呼ばれたので、診察室に入る。視力、眼圧、視野検査とも異常がないといわれ、６ヶ月後の視野検査を予約して11時15分過ぎに終了。初診料を除いて支払金額は前の眼科医院とほぼ同額である。機械的な診療だったことが少々不満だが、この眼科医院にしばらく通うことになりそうである。昼前に帰社。15時前に事務所を出て、歩いて外苑前のJIA建築家会館へ向かう。今日と明日の2日間だけだが、１階ホールで野沢正光展を開催中である。会場はすでに来場者で一杯である。入口で帰りがけの西沢立衛さんに挨拶する。受付脇で野沢正光夫人に声をかけられ、しばらく立ち話。僕が初めて相模原の野沢邸を訪ねた時のことをよく覚えておられて、ひとしきりその時の思い出話を聴く。その後会場を見て回る。12の机に12のテーマに分けて関連した図面、模型、雑誌が並べられ、壁際には建築写真が展示されている。奥の壁では野沢の仕事のスライドショーが行われている。以前、僕は〈雨のみちデザイン〉のHPに『複雑な理念』というタイトルで野沢の思い出について書いたことがある。
http://amenomichi.com/special/nanba.html?fbclid=IwZXh0bgNhZW0CMTEAAR1NppzKdDOx4-
tWdRaeTi1t36BuKPBARLe-6H46mEIlm73k54_qBtfGnKM_aem_ASMTdhhJ2fgnJYDqt9va-
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窓際のベンチで、黒木実さん、真壁智治さん、堀越英嗣さん、植田実さん、迎川利夫さんらと四方山話。16時過ぎに会場を出て、外苑西通りを青山通りまで歩き、スーパーマーケットで食材を購入して17時前に帰社。『ピラネージー幻想の建築家』は、第8章「二つの聖堂建築」、第9章「ピラネージの晩年と没後」、第10章「ピラネージの世界とその影響を読み終えて読了。読みやすい評伝なので、一気に読み通したが、第10章では、ウンベルト・エーコの小説『薔薇の名前』や、映画化された修道院の図書館がピラネージの描いた《牢獄》をモデルにしていることまで紹介されている点には感動した。僕は何度かローマに行ったことがあるが、〈サンタ・マリア・プリオラート聖堂〉だけは見ていないのが心残りである。22時半からNHKで『時をかけるテレビ　なぜ隣人を殺したか〜ルワンダ虐殺と扇動ラジオ放送〜』を観る。番組紹介にはこうある。「1994年アフリカ・ルワンダで、３ヶ月の間に多数派のフツが少数派のツチを殺害した大量虐殺事件。当時ラジオ局「千の丘」からはツチの殺害を促すかのような番組が盛んに放送されていた。番組は、拘束される１３万人の虐殺加担容疑者の中から初めて釈放される青年の帰郷を追う。スタジオではミュージシャンのＭＩＹＡＶＩさんとともに、フェイクニュース、ヘイトスピーチが錯そうする現代で私たちがどうあるべきか語り合う」。悲惨な事件だが、ヘイト・スピーチやフェイクニュースの恐ろしさを実感させるドキュメンタリー番組である。
https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2024041915080?e-param=5KRG4VJ122


2024年04月18日（木）

曇りのち小雨の過ごしやすい一日。9時出社。午前中には定例の生協の配達以外に数件の宅急便が届く。娘一家が１階に棲み始めて、郵便や宅急便が急に増えた。娘が大学教員であるのに加えて、2人の幼児がいるからだろう。住所変更をしたばかりなのに、区役所から新しい住所の情報が漏れているのだろうか。ランドセルのカタログや予備校や通信教育のDMが多い。13時過ぎにイッツコムの工事業者が来所し、駐車場の弱電配電盤から電話用機器を除去していく。事務所の固定電話の設置をやめたので必要なくなったからである。外苑前２丁目の眼科医院に電話し、明朝の初診を予約する。これまで眼の定期検診は北青山の眼科医院で受けていたが、その医院は昨年末に閉院し、溜池山王に移動したので遠くなった。やむをえないので近くの眼科医院を探したところ、神宮前２丁目に見つけた。明日、様子を見てみよう。『ピラネージー幻想の建築家』は、第5章「《ローマの古代遺蹟》と人間関係の変化」、第6章「謎の版画集、幻想の《牢獄》」、第7章「パラッツォ・トマティに自分の店を構えて」を読み終えて、第8章「二つの聖堂建築」に進む。古いローマの案内図では、ロバート・ヴェンチューリの『建築の多様性と対立性』で知った、ネガとポジを逆転させた〈ノッリのローマ地図〉（1748）が有名だが、同様にピラネージの《ローマの古代遺蹟》（1756）も有名である。後者は前者より少し後に発売されたらしいが、当時もローマ行脚は盛んだったようだ。この版画でピラネージは一躍有名になり、版画店も繁盛して結婚し、住まいとアトリエをコルソ通りからスペイン階段を上った通りに面したパラッツォ・トマティ移転する。18世紀後半はスチュアートとレヴェットによるギリシア神殿の発掘を契機に考古学が大流行し、ドイツの美術史家、ヨハン・ヨアヒム・ヴィンケルマンの『ギリシア芸術模倣論』（1755）や『古代美術史』（1764）の出版も相俟って、ギリシアとローマの比較論争が勃発し、ピラネージはローマ側に立たされることになる。この間にピラネージは《牢獄》シリーズや《カンプス・マルティウス》（1762）を出版している。ピラネージは40歳になったばかりである。


2024年04月17日（水）

晴れのち曇りの過ごしやすい一日。9時出社。午前中は昨日読み終わった『哲学と宗教全史』（出口治明：著　ダイヤモンド社）のチェック部分にざっと目を通し、概要を把握する。本書はチェックを入れた部分は少ない。というのも全体のストーリーがないことと、思想の説明が大雑把だからである。読んでいる間に〈世界建築史〉のようなものが可能かどうかを考えたけれど、イメージは湧かなかった。何らかの影響や伝播のような相互関係がなければ、物語を想定しようがないからである。本書でも時折、思想の類似性を指摘する箇所があったけれど、どれも類推の域に止まっていた。13時半に事務所を出て、歩いて表参道を越えた神宮前の保育園に孫娘を迎えに行く。帰りながらしきりに僕に話しかけてくれるのが嬉しい。5月には近くの保育園に転園できそうなので、これが最後のお迎えかもしれない。『ピラネージー幻想の建築家』（長尾重武：著　中央公論美術出版　2024）を読み始める。「はじめに」、第1章「ヴェネツィア最後の輝きとピラネージ」、第2章「ローマ滞在とヴェネツィア帰還」、第3章「アカデミー・フランセーズ前の版画店」、第4章「《ローマの景観》」を読み終えて、第5章「《ローマの古代遺蹟》と人間関係の変化」へ進む。ピラネージは1720年にヴェネツィアに生まれたこと、当時のヴェネツィアではパラディオ熱が盛り上がっていたこと、ピラネージは1740年にローマに行き、すっかり取り憑かれてしまったことなど、興味深いエピソードが書き連ねられている。残念ながら図版が小さいので、版画の詳細な説明をたどるのは難しい。それにしてもピラネージは20歳代でローマの景観版画を描き、ヴェネツィア広場からポポロ広場まで伸びるコルソ通りに面したアカデミー・フランセーズの建物前に版画展を開店したというのは凄い。早熟の天才だったのだろう。夜22時からNHKで『歴史探偵　空海』を観る。弘法大師・空海は僕の田舎にも「大師講」があったほどで馴染み深いが、全国に3000箇所もの遺蹟があるのは、どうやら泉鏡花の小説で有名な〈高野聖〉という遊行者の足跡だというのが興味深い。


2024年04月16日（火）

曇り一時晴れの暖かい一日。9時出社。今日は一日いい天気なので、時折、散歩を挟みながら〈箱の家〉の今後の展開の検討と読書に集中する。年度末でもないのに、あちこちで道路工事が行われている。『哲学と宗教全史』は、長い第9章「ルネサンスと宗教改革を経て哲学は近代の合理性の世界へ」から始めて、第10章「近代から現代へ、転換期の登場した哲学者たち」、第11章「19世紀の終わり、哲学の新潮流をヘーゲルの〈3人の子どもが形成した」、最終第12章「20世紀の思想界に波紋の石を投げ込んだ5人」と、ルネサンス以降から現代までを一気に読み通して読了。ここは基本的に西欧の思想なので、特に新しい発見はないけれど、宗教改革と対抗宗教改革の関係、イギリス経験論におけるフランシス・ベーコンからデヴィッド・ヒュームへの展開、デカルトから始まりスピノザとライプニッツに展開する大陸合理論、経験論と合理論の統合を試みたカントの批判哲学という潮流を把握する。カントに関する議論が長いのは、それだけ著者が重要と考えているからだろう。しかし三批判のうち『純粋理性批判』と『実践理性批判』については紹介されているが、『判断力批判』に関する説明がない。Googleにはこう書かれている。「上級理性能力のひとつである判断力の統制的使用の批判を主題とする。第三批判とも呼ばれる。第一部、美的判断力の批判と第二部、目的論的判断力の批判からなり、判断力に理性と感性を調和的に媒介する能力を認め、これが実践理性の象徴としての道徳的理想、神へ人間を向かわせる機縁となることを説く」。このように『判断力批判』は趣味判断や美的判断を含むため、建築デザインにおいてはもっとも重要な批判であり、見方によっては経験論と合理論の統合理論ともいえるだろう。ヘーゲルからマルクスにかけては手短に議論され、最終12章でとり挙げられているは、ソシュール、フッサール、ウィトゲンシュタイン、サルトル、レヴィ＝ストロースの5人である。言語論的転回がこの章の主要なテーマであり、レヴィ＝ストロースは世界最後の哲学者という位置づけである。450ページを超える大著だったが、一気に読み通せたのは、込み入った議論がほとんどないからだろう。ともかく全思想史を一気に駆け抜ける痛快な体験だった。夕食後、NHK BSで20時から新日本風土記『七福神の海 〜三陸・牡鹿半島〜』を観る。番組コメントにはこうある。「太平洋に突き出た宮城県北部の牡鹿半島。先端の金華山の沖には世界屈指の漁場が。海に暮らし、震災などの苦難を越えてきた浜の人々をめぐる１年の物語。（２０２３年放送） 浜の女性たちが伝える「七福神舞」は、どんな時でも「めでたいや」と歌い、大漁と幸せを祈る。祭の夜、海から届いた大きな贈り物は？ 大型の定置網で金華サバに代表される金華山沖の豊富な魚を狙う「大謀網漁」明治時代から続く日本屈指の捕鯨の町。写真に映しこまれた歴史と浜の人々の思い、鯨漁の伝統の技を受け継ぐ若者たち　震災、そして猛暑。全滅の危機に何度も向き合いながらリアス海岸の入り江で牡蠣養殖に取り組む」。捕鯨の伝統にまつわる祝祭行事が詳細に紹介されている。歴史家のエリック・ホブスボームがいうように、伝統と慣習は近代が生み出したことを如実に知ることができる番組である。
https://www.youtube.com/watch?v=wXOAC-6MBSY


2024年04月15日（月）

晴れで暖かい一日。9時出社。今日も天気がいいので、事務所からは前面道路を往き来する人がよく見える。住宅地の奥なので、それほど多くはないけれど、場所柄だろうか若い学生のような人が多い。昼間の間は照明を消しているので、道路から事務所内はほとんど伺えない。したがって歩く人と目を合わせることは滅多にない。しかし夕方以降になると、視線は逆転し、ほとんどの人が事務所内を窺いながら通り過ぎていく。裏原が近いので外国人の往来も多く、時には駐車場にまで入ってくる人もいる。内外の照度の差と視線の転換との関係は、面白い研究テーマになるかもしれない。読書の合間にぼんやりと通りを眺めるのは、格好の気分転換になる。『哲学と宗教全史』は、第8章（１）「イスラーム教とは？その誕生・発展・挫折の歴史」、第8章（2）「イスラーム教にはギリシア哲学を継承し発展させた歴史がある」、第8章（3）「イスラーム神学とトマス・アクィナスのキリスト教神学との関係」、第8章（4）「仏教と儒教の変貌」を読み終えて、第9章「ルネサンスと宗教改革を経て哲学は近代の合理性の世界へ」へ進む。イスラム教に関する章が多いのは、著者の好みなのかもしれない。僕にとってはほとんど知らないことばかりなので、勉強になる。〈イスラム原理主義〉は、イスラム世界特有の現象ではなく、団塊世代による1960年代末から70年代にかけての文化革命と同じような、若年層の増大（ユースバルジ）であるという指摘は納得できる。仏教の一派である密教の誕生の経緯や儒教の一派である朱子学の誕生の経緯なども勉強になる。総じて東洋の思想は融通無碍で曖昧模糊としている。そう思うのは、僕自身が西欧化されているせいかもしれないけれど。夕食後22時からNHKで『映像の世紀バタフライエフェクト　史上最大の作戦　ノルマンディー上陸』を観る。番組紹介にはこう書かれている。「第二次世界大戦の行方を決めた連合軍のノルマンディー上陸。二重スパイの暗躍、突然の天候変化、史上最大の作戦の裏側には、情報戦と偶然そして無名の人々の犠牲があった。「砂浜には兵士の死体の他は何もなく、眼鏡を捜してはい回る従軍牧師がいるだけだった」。これはノルマンディー上陸作戦で兵士として戦った作家J・D・サリンジャーの未発表作品の一節である。この作戦には15万の兵員が投入され、初めて戦場を経験する者も数多くいた。船の扉が開いた瞬間、ドイツ軍の銃弾が襲う。身を守る物などない中、兵士たちは恐怖を押さえつけ陸地に向け飛び出していく。連合軍を勝利に導いた名もなき人々の犠牲の記録」。この作戦での連合軍の死者は4500人、負傷者は6000人と予想以上に少なかったが、連合軍の爆撃によって亡くなったフランスの一般市民は35000人を超えるという。連合軍の総司令官は後にアメリカ大統領になるドワイト・D・アイゼンハワーだった。戦後にサリンジャーが父親に対して「この戦争が終わったら僕は、戦いについては決して何も語らないつもりだ」といったというエピソードが記憶に残る。


2024年04月14日（日）

晴れで暑い一日。10時出社。春を通り越して初夏になったような感じである。散歩がてら外苑前のスーパーマケットまで歩き、食材を購入する。気候がいいので街を歩く人の足取りも軽やかである。都営アパートの東半分の遺跡調査もそろそろ終わり、青山通りに面したビルの足元にも、解体用の仮囲いが設置され始めた。1990年代に建てられた新しいビルも解体されるようだ。その中には日建設計の知り合いの建築家が設計を担当したビルも入っている。『哲学と宗教全史』（出口治明：著　ダイヤモンド社）は、第7章「キリスト教と大乗仏教の誕生とその展開」を読み終えて、第8章（１）「イスラーム教とは？その誕生・発展・挫折の歴史」へ進む。書かれていることは、ほとんどどこかで聞いたことばかりだが、それを確認する意味はあるだろう。本書は徹底した啓蒙書である。イスラーム教に辿り着くまでに、本書の半分近くを費やしている。宗教の初源においては、押し並べて偶像崇拝が否定されているが、発展すると、これまた押し並べて偶像崇拝が生まれてくる。しかしイスラーム教では、初源から現在に至るまで、偶像崇拝が排されている。その理由は、イスラーム教は最初から世俗的な宗教だからかもしれない。司祭や僧のような専従者がいないというのも、イスラーム教の特徴である。22時から「ＮＨＫスペシャル　『なぜ妻はいなくなったのか　〜認知症行方不明者１万８０００人〜』を観る。僕自身も最近は短期記憶が弱くなったことを自覚しているが、認知症の初期段階かもしれない。最大の問題は〈独り住まい〉のようである。その人が行方不明になっても、捜索願を出す人はおらず、安否を確かめようがないからである。その点では、4月から娘一家が１階に住み始めたことは、大切な居住条件かもしれない。


2024年04月13日（土）

晴れで暖かい一日。昨夜からずっと気になっているので記録しておく。昨夜22時半から、NHKの『時をかけるテレビ　全盲の夫婦に生まれたのぞみちゃん　家族の物語』を見て感じたことである。1986年のＮＨＫ特集『のぞみ５歳』で放映されたドキュメンタリーの再放送である。親の反対を押し切って結婚した全盲の夫婦に、初めての子のぞみちゃんが生まれて、手さぐりの子育てが始まる。二人は「光が見える家族、のぞみちゃん」にありったけの愛情を注ぎ、のぞみちゃんはいつしかお母さんを道案内するまでに成長する。両親と子が真剣に向き合い、ともに成長してゆく日々を記録したドキュメンタリーなのだが、最後あたりで父親が、のぞみちゃんに説教する場面がある。そのシーがあまりに強烈なので、のぞみちゃんの無意識には、消えることのないトラウマが刻み込まれただろうと推察する。同じような経験は、大なり小なり誰にでもあるはずだ。家族社会学者のエマニュエル・トッドが提唱した「家族システムがヒトの思想形成を形づくる」という仮説を目の当たりに検証するような番組である。
https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2024041210351
『哲学と宗教全史』（出口治明：著　ダイヤモンド社）を読み続ける。第6章（１）「ヘレニズム時代にギリシアの哲学や宗教はどのような変化を遂げたか」、第６章（2）「ヘレニズム時代に中国では諸子百家の全盛期が訪れた」、第6章（３）「ヘレニズム時代に旧約聖書が完成して、ユダヤ教が始まった」、第6章（4）「ギリシア王が仏教徒になった？　ヘレニズム時代を象徴する『ミリンダ王の問い』」を読み終えて、第7章「キリスト教と大乗仏教の誕生とその展開」に進む。ヘレニズムの時代とは、マケドニアのアレキサンドロス王が東方遠征し大帝国を成立させたBC330年からBC27年までを指しことを初めて知った。中国に諸子百家が誕生するのも同時代であり、旧約聖書が完成してユダヤ教が始まるのも、この時代である。キリスト教と大乗仏教が誕生するのは、その後である。ヘレニズムはヘブライズム（ユダヤ教・キリスト教思想の源泉）の対立語である。したがってユダヤ・キリスト以後という意味になる。

2024年04月12日（金）

曇りのち晴れの過ごしやすい一日。8時半過ぎ出社。直ちに事務所を出て、表参道経由で青山の歯科医院へ。風が強く肌寒いので、まだコートを着ている人が多い。9時から３ヶ月ぶりの定期検診。歯垢の除去を受けながら歯磨きの励行を再確認される。右上の奥歯が痛く、入歯を装着できないことを伝えると、歯周病が進行して装着金具が締め付けるためであるという診断。一時的な対応になるが、抜歯しないで歯痛を抑えるには、入れ歯の金具の一部を除去することを勧められる。ともかくまともな食事をしたいので、その方法で対処することとし、入れ歯を加工してもらう。10時終了。10時半帰社。おかげで昼食は問題なく摂ることができた。Facebookに昨日のゲンロンカフェの座談会に出席した人の感想がアップされている。「議論の前提が違い過ぎて、もう少し、議論の冒頭に、前提条件（共通の認識）をしっかり説明をしないと、今回のように、議論がかみ合わないことが多々ありました」。その程度のことは最初から予測できたはずである。YouTubeでも座談会の前半を視聴できるので、第1部だけでも観てみようか。
https://www.youtube.com/watch?v=yiVH7vK065o
Amazonから届いた『哲学と宗教全史』（出口治明：著　ダイヤモンド社）を読み始める。土居義岳さんの本が、建築史の細部に関する内容だったので、逆に世界思想史の概略を頭に入れておくのもいいのではないかと考えた。一種の中和剤である。第1章「宗教が誕生するまで」、第2章「世界最古の宗教ゾロアスター教がその後の宗教に残したこと」、第3章「哲学の誕生、それは〈知の爆発〉から始まった」、第4章「ソクラテス、プラトン、アリストテレス」第5章「孔子、墨子、ブッダ、マハーヴィラ」を読んで第6章（１）「ヘレニズム時代にギリシアの哲学や宗教はどのような変化を遂げたか」に進む。新しい発見はほとんどないけれど、これまで学んだ断片的な情報が時系列の中に少しずつ繋がって行く。ブッダと孔子が同時代人だったとは驚きである。


2024年04月11日（木）

晴れ一時曇りの過ごしやすい一日。9時出社。イッツコムから電話が入り、来週木曜日に電話用の光配線機器を除去するために来所する旨の連絡が届いたので承諾する。『古典主義時代の建築ミッションージャック・V・ガブリエル論草稿』は、第十二講「ガブリエルとボルドー」、第十三講「ガブリエルとその他の都市」、第十四講「ガブリエル研究から学ぶこと」までを読み通して読了。最後の第十四講は、これまでとは趣が異なり、建築家の類型について論じることから始まる。思想表現型のル・コルビュジエ、建築家人生の途中で路線を転換した逆転型のルドゥとは対照的な、イデア実現型でも前衛型でもない、古代のミッションを遂行したポリフォニー型の建築家としてジャック・V・ガブリエルを捉えること。そしてガブリエルの評伝を、文芸としての建築史として叙述うることを目ざすモデルとして、ヴィクトル・ユゴーの『ノートル=ダム・ド・パリ』、ユイスマンスの『大伽藍』、ジョルジュ・バタイユの『ランスの大聖堂』、ル・コルビュジエの『伽藍が白かったとき』、和辻哲郎の『古寺巡礼』、太田博太郎の『日本建築史序説』、三島由紀夫の『暁の寺』を紹介した後に、こう結論づけている。「建築理論に意義があるのは、完璧な普遍性を目指すというよりは、その思考や読解をとおして、なんらかの物語を体験あるいは擬似体験させるからである。（中略）建築家が革新や根拠をもってなにかをつくることは、理論そのものというよりは、理論の体験からである。そしてそれは物語なのである。論や理論もまた、摂取され理解されようとする時、不可避的に体験となり物語になる」。「歴史は物語である」とは、どこかで聞いたような主張である。残念ながら、土居自身も〈草稿」といっているように、本書は物語にはなり切っていないように思われる。家早南友。16時半に事務所を出て東銀座木挽町の居酒屋に行く。先週に予約したが急に行けなくなったので１週間延期した。今日はゲンロンカフェで19時から山本理顕さんと藤本壮介さんによりシンポジウム『大阪万博をめぐって』が開催される予定だが、おそらく議論はすれ違いに終わると予測できるので、あえてYouTubeでも参加しないことにする。店はサラリーマン客で一杯である。新鮮なネタと小料理で冷酒をいただき、いい気分になる。20時に店を出てタクシーで20時半に帰宅。TVで野球中継を観ながらウィスキーを呑み直し早めに就寝。


2024年04月10日（水）

久しぶりに晴れで穏やかな一日。9時出社。赤坂のマンションお改装工事の注文書が届いたので、署名捺印して返送する。一昨日TH-1から届いた自邸２階の前面道路側ベランダの防水とデッキの改修工事の見積金額に関して、メールのやり取の結果、話し合いがまとまったので、工事を依頼する。工事は五月の連休が明けた5月8日（水）から１週間程度である。ベランダにおいてある植木は、一時的に１階中庭に移動することになる。NTT東日本に界工作舎の電話について問い合わせる。昨年末で固定電話の契約は休止になっているそうだ。僕は休止した記憶はないのだが、電気工事業者が止めたのかもしれない。最近の連絡はほとんど携帯電話かメールで、たまにfacebookも使うので、固定電話を使うことはほとんどなくなっている。いい機会なので、これからは固定電話は使用しないことに決めて、イッツコムに電話連絡し、その旨を伝える。『古典主義時代の建築ミッションージャック・V・ガブリエル論草稿』は、第八講「レンヌの建築めぐり」、第九講「ガブリエルとレンヌ」、第十講「ボルドーの建築めぐり」、第十一講「ボルドーの都市経営史の概略」を読み終わり、第十二講「ガブリエルとボルドー」へ進む。ほとんどの講が資料の説明なので、ストーリーを追うのは難しい。しかし土居さんが興味を持っているボルドーに関する講になると、かなりリアルな記述になる。とはいえ僕がボルドーを訪れたのは1979年なので、街の様子については、残念ながらほとんど記憶にない。巨大なガロンヌ川くらいだろうか。


2024年04月09日（火）

雨のち曇りの肌寒い一日。9時出社。思い立って前田工学財団の山田一宇賞の推薦文を書き始める。締切日は来週なのだが。京都大学出身の大学院生で、現在も大学院に残っているらしい。論文のタイトルは『シャルル＝エドゥアール・ジャンヌレの「都市の構築」における都市形態論とその思想的背景』である。ル・コルビュジエ（1887-1965）が、まだ故郷のショー・ド・フォンにいる頃に書いた論文の草稿を詳細に分析した論文である。第一次大戦が終結した1918年以降に、故郷のスイスのショードフォンからパリに移って、名前をル・コルビュジエに変え、モダニズム運動の中心的建築家として活動していったことはよく知られている。ル・コルビュジエは都市計画・デザインにおいても数々の著作を著しているが、第４回近代建築国際会議（CIAM:1933）で、彼が中心になってまとめられた『アテネ憲章』において提唱された〈機能的都市〉は、第二次大戦後の世界中の都市計画に大きな影響を与えた。日本の都市計画法の用途地域制度は、基本的にその都市論に基づいて制定されている。この論文は、若きル・コルビュジエが考えていた都市は〈機能的都市〉とは対照的な、19世紀のロマン主義的で一種反動的ともいえる都市観だったことを明らかにしている。ル・コルビュジエのモダニズム的都市論の端緒を明らかにすると共に、相対化している点において、きわめて興味深い論文といってよいだろう。昼までに推薦文をまとめて前田財団事務局に送信する。『古典主義時代の建築ミッションージャック・V・ガブリエル論草稿』は、第三講「要塞技師ヴォバン」、第四講「国王騎馬像」、第五講「原型としてのパリの広場」、第六講「ディジョンの建築めぐり」、第七講「ガブリエルとディジョン」を一気に読み通し、第八講「レンヌの建築めぐり」に進む。タイトルに〈草稿〉とあるように、本書全体は改めて本をまとめるための資料集であることが分かってきた。各講の冒頭に概要がまとめられ、続く内容の大部分は資料のリストとコメントである。詳細に読んでもコンテクストの概要が分かるだけなので、以降はピッチを上げて読み進めよう。20時からNHK BSで「新日本紀風土記　瀬戸内の春」を観る。瀬戸内海の島々を、採掘される〈石〉の視点から追った興味深いドキュメンタリーである。冒頭は僕の故郷に近い祝島の石積の棚田が紹介され、最後は高松の庵治石がとり挙げられてある。どれも懐かしく観た。続いて『フロンティア　旧約聖書　滅亡の街の真実』を観る。番組紹介にはこう書かれている。「旧約聖書に登場し、神の怒りによって焼野原にされたという街・ソドム。最近、中東ヨルダンの死海からほど近くに旧約聖書の記述に近い遺跡があることがわかってきた。青銅器時代に栄え始めたというタル・エル・ハマム遺跡。2015年、そこで一角を掘り下げると激しく損傷した床が発見された。さらに焼けて焦げたレンガなどの瓦礫が１ｍ以上も積もっていた。一体街で何が起こったのか。解明するため考古学・宇宙物理学など様々な分野による研究チームが結成された。すると、瓦礫は当時の文明では人工的に起こすことができないほどの高温で焼かれていたことが明らかになった」。旧約聖書に記されている神話が、どうやら隕石爆発に起因する実際にあった歴史的事件らしいという事実を検証した興味深いドキュメンタリー番組である。


2024年04月08日（月）

曇りで過ごしやすい一日。夜には雨になる。9時出社。今日から学校が始まるので、孫の転校式である。娘夫婦はそちらに参加するため、孫娘の出迎えは今日だけ僕が受け持つことになる。14時に表参道を渡った神宮前５丁目の保育園に出向く。玄関ホールで待っていると２回の保育室から降りてくる。孫娘は先週初めに転院して１週間して１週間で慣れているようで、帰り道すがら、友達付き合いの難しさについて色々話してくれる。表参道を4歳の孫娘の手を持って歩くのは、新鮮な経験である。TH-1から、自邸２階の前面道路側ベランダの防水とデッキの改修工事の見積が届く。予算を少々オーバーしているので、1割削減した予算で返信依頼する。東大建築学科の2年先輩の長尾重武さんから『ピラネージー幻想の建築家』（長尾重武：著　中央公論美術出版　2024）が届く。Amazonの紹介にはこう書かれている。「来たるべき建築を創造した男―建築家、舞台美術家、版画家、考古学者、古物愛好家、インテリアデザイナー……近世から近代に移り変わる18世紀イタリアで活躍したジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージの生涯と作品をたどり、新しい時代に与えた〈幻想〉の源を追う」。facebookの2022年8月1日に、長尾さんの前著『小さな家の思想　方丈記を建築で読み解く』（長尾重武：著　文藝春秋　2022）紹介している。興味深く読み、NHKラジオのテキストの参考にした。長尾さんはイタリア建築史が専門なので、本書の方が読み応えがあるかもしれない。早速お礼のメールを送る。
https://www.amazon.co.jp/ピラネージ-−-幻想の建築家-芸術選書-長尾重武/dp/480551504X/ref=sr_1_1?crid=17INR3YGV68FD&dib=eyJ2IjoiMSJ9.kPDo1iUvEaIVcniJZPUROzEgCYdJdm6TQo8GImabZVJlDzhx1PpT72I1PcLsVF
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『古典主義時代の建築ミッションージャック・V・ガブリエル論草稿』は、第一講「オリエンテーション」と第二講「歴史地図の愉しみ」を読み終わり、第三講「要塞技師ヴォバン」に進む。第一講では、ガブリエルの生い立ちから始めて、本書が講義録の草稿であることから、建築史を書く方針が紹介され、ニコラス・ペヴスナーの『ヨーロッパ建築史序説』のような著作が成立する前提にある建築史の階層的構造が論じられ、そのための参考文献が紹介されている。アンリ・ルフェーブル、フェルナン・ブローデル、網野善彦、イマヌエル・ウォーラーステイン。エマニュエル・トッドに混じって磯崎新が紹介されているのが目を惹く。陸の歴史で経なく海の歴史に注目している点が強調されている。第二講は、歴史地図を読み込むことの興味に関する議論である。ガブリエルの活動の背景について論じるための前提が検証されているようだが、土井の議論展開についていくのは、少々しんどい。もう少し急ピッチで付き合ってみよう。


2024年04月07日（日）

晴れのち曇りのやや暖かい一日。10時出社。明治大学の連勇太朗さんから、自身の博士論文『コモンズアプローチ：建築デザインの共有資源化による協働と探究の計画理論』が届く。たまたま東京藝大の藤村龍至さんがfacebookで、連さんの博士論文に関するレクチャーの報告を書いているので興味を持った。藤村さんはこう書いている。「明治大学の計画系教員有志による自主ゼミ(通称オトナゼミ)にて行われた連勇太郎さんの博士論文『建築デザインの共有資源化による協働と探究の計画理論』についてのレクチャーを拝聴。パタンランゲージの形成過程(1960年代の前期PLから集大成後期PLへの展開)のみならず、2015年頃からの建築学における「実践」を博士論文にすることの意義と課題については特に参考になった」。藤村さんとは彼が提唱する〈批判的工学主義〉に関連して、パタンランゲージについていろいろ議論を交わしたことがあるが、結論には至らず、いまだに宙ぶらりんのままになっている。論文の目次を見ると、コモンズアプローチの構想の研究系譜として、クリストファー・アレグザンダーのパタン・ランゲージをレビューしているので、その部分を読んでみる。とくに大きな発見は無いけれど、アレグザンダーの理論展開がコンパクトにまとめられている。僕としては、パタンランゲージはあくまで建築空間の発見＝創作の方法としての意義が大きいと考えるので、後期のソフト開発への展開については、アレグザンダーの当初の意図からは外れているし、僕自身もあまり興味がない。確かに集合知への展開にも可能性はあるかもしれない。しかしそれは中味を欠いた方法論にとどまることになり、大きな成果は得られないと予想している。というのも1970年代の設計方法論が、最終的には行き詰まった経緯と、よく似ているからである。つまり設計プロセスは合理化されたかもしれないが、新しい建築の発見には結びつかなかったのである。ニーチェに倣えば「方法は最後に来る」のである。昨日、土居義岳さんから届いた『古典主義時代の建築ミッションージャック・V・ガブリエル論草稿』は、第１講「オリエンテーション」を読み始める。ガブリエルの生い立ちから話は始まるが、どうやらフランスにおける官僚建築家のあり方について話が展開していくようである。先日、事務所を訪問されたクライアント候補から丁寧な手紙が届く。祐天寺の候補敷地に関して相談を受けたが、予算的に無理であると判断されて計画は中止になった。その後、建築倉庫の〈箱の家〉シリーズの展示も見られたようである。いずれ別の敷地候補で計画が再開することを期待してお礼のメールを送る。21時からNHKスペシャル「Last Days　坂本龍一　最期の日々」を観る。坂本龍一が癌で亡くなる経緯を詳細に追っているが、ここまで死を演出することにどういう意味があるのか。坂本龍一自身の美学かもしれないが一抹の疑問を感じる。


2024年04月06日（土）

曇りで涼しい一日。10時出社。TH-1から新しい表札とインターフォンカバーが届いたので、既存の〈難波和彦・界工作舎〉の表札を取り外し、新しい両面テープで接着する。〈難波和彦・界工作舎〉の表札は、新事務所の入り口脇の壁に貼りつける。今日、NHKラジオの『住まいをむ』全13回の放送が完了した。再放送は5月末までである。
https://www.nhk.or.jp/radio/ondemand/detail.html?p=0960_01&fbclid=IwAR0fm4Y6KMGuYvjcUKASCr7uEzh56hUmsgo
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土居義岳さんから『古典主義時代の建築ミッションージャック・V・ガブリエル論草稿』（土居義岳：著　星雲社　2024）が届く。「はじめに」を読むと、ガブリエルは18世紀の建築家であり、フランス革命の前・後を生きた宮廷建築家だが、現代につながるような仕事をした建築家だという。Amazonの紹介にはこう書かれている。「建築家ガブリエルは18世紀フランス国土を駆けぬけて、いわゆる古典主義建築を広めつつ社会のために何を成しとげたか。建築アカデミーで推敲した普遍的な建築の造形や理論を地方都市にも適用した。新しい経済や行政機構のための施設をつくった。中央政府と地方勢力の軋轢をなだめ調停した。そうして典型的にフランス的といえる地方の都市景観を今に残した」。僕はよく知らない建築家だが、じっくりと読んでみよう。
https://www.amazon.co.jp/古典主義時代の建築ミッション-ジャック・V・ガブリエル論草稿-土居-義岳/dp/4434337890/ref=
sr_1_5?crid=20IVZ9U61WV3F&dib=eyJ2IjoiMSJ9.LdWeeXJNV5-1_8l137d7ucBeDjaSyy4htCtoYld-YFuOjyzEwZX2mo_sft5MkFzSjlwTJNbWlacw0BUGV5LB1ga7LIcsNi7tEdsu5xnuHNvVg78estI91IpuwoXQr35uZ1tyATOz2
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2024年04月05日（金）

小雨のち曇りの肌寒い一日。9時出社。TH-1からメールが届き、インターフォンのカバーができ上がったという報告が届いたので、宅急便で送るように依頼する。昨日、観た『オッペンハイマー』（クリストファー・ノーラン：監督　2023）の紹介と感想をまとめて、予告編のURLと一緒にfacebookにアップする。あまり期待しなかったが、結構、沢山の反応があるので驚く。僕としては映画の中に20世紀初頭の著名な理論物理学者や哲学者が出てきたことや、ロシア革命直後の時点では、米ソの仲が意外に近かったことが描かれている点に強い印象を受けたので、紹介する気になったのだが、多くの人興味を抱くがとは予想しなかった。1930年代の大恐慌の際には、世界中がソ連の社会主義経済体制に注目していたことは、意外に知られていない。例えばフォード社の巨大な自動車工場を設計したアルバート・カーンが、ソ連の５ヵ年計画に協力していることも、現在では忘れられた歴史である。そういった歴史的な視点から見れば、この映画は興味深く観ることができるし、監督のクリストファー・ノーランが脚本を綿密に組み立てていることも理解できる。この映画がアメリカで大ヒットし、アカデミー賞を総嘗したのは、おそらくアメリカ人の歴史的健忘症コンプレックスの琴線に触れたからだと思う。その点では、被爆国であると同時に、マッカーシー旋風を経験したことのない日本人にはこの映画は理解しにくいかもしれない。『日本の伝統木造建築―その空間と構法』は、第�犠蓮崋劼汎押廚鯑匹濬�わったところで、一旦休止する。伝統的な社と堂は、基本的に平屋であり、中世の鎌倉・室町時代以降になると、軸組と屋根構造（小屋組）が分離し、近世になって建物が大規模化するにつれて、両者は完全に別のシステムに展開し、木造の融通無碍さが極限まで追求されるようになる。そのような構法の展開についは、僕はほとんど無知だったことを思い知らされる。そういう意味で本書は、平面図や断面図を通して、その展開を明快に説明している名著だと思う。


2024年04月04日（木）

曇りでやや暖かい一日。娘一家が3月末まで住んでいた赤坂のマンションの改装工事について、不動産業者と工事業者に電話連絡し、念のため確認のメールを送る。夕方に見積書が届く。何とか早急に改装工事を進める必要があるので、その旨を伝える。12時半に事務所を出て、千代田線で日比谷駅にて下車。TOHOシネマで13時30分から『オッペンハイマー』（クリストファー・ノーラン：監督　2023）を観る。原子爆弾を開発した米国の物理学者ロバート・オッペンハイマーの半生を描いた長編映画である。オッペンハイマーはハーバード大学を卒業した後、イギリスのケンブリッジ大学のキャヴェンディッシュ研究所に入所してニールス・ボーアの元で研究に携わる。しかし実験物理学よりも理論物理学に向いていると判断され、ドイツのゲッティンゲン大学に移動する。そこで不確定性原理を提唱したウェルナー・ハイゼンベルクに会い、共同研究した後にアメリカに戻り、カリフォルニア大学バークレー校の助教授に就任する。この間の理論物理学研究によって、原子爆弾の開発プロジェクト〈マンハッタン計画〉のトップに抜擢され、ニューメキシコ州の大地にロスアラモス国立研究所を設立する。そこまでが前半で、後半は広島と長崎に原爆が投下され、日本がポツダム宣言を受諾し、終戦した後の1947年にプリンストン高等研究所所長に就任して以降の経緯である。研究所でアルバート・アインシュタインや、不完全性定理を発見したクルト・ゲーデルに出会う。その後、米ソの冷戦が勃発し、いわゆる〈赤狩り〉（マッカーシズム）の中で、オッペンハイマーは米原子力委員会の委員であるルイス・ストローズによってソ連のスパイの嫌疑をかけられ、聴聞会で責められる。聴聞会で問われる過去の出来事が細かく描かれるが、時系列が前後するので、細かな経緯を辿るのが大変である。映画全体としては科学と政治と軍の歴史的関係と、その中でのオッペンハイマーの心理的葛藤がテーマであり、ノーラン監督にとっては歴史的な時間を描くことが一貫した映画手法といってよいだろう。その点では、映画の予告編の内容は、本編とは大きく食い違っているように感じられる。日本人としては、映画の歴史的経緯を辿るのは難しいかもしれない。とはいえ、僕にとっては、20世紀初頭の物理学や科学の最先端が描かれている点に興奮した。流石に途中退席する人はいなかったけれど、３時間の長編なので、トイレに立つ人が多かった。
https://www.cinematoday.jp/news/N0138073/video
17時に帰社し、NHKオンデマンドで、2月19日に放映された『映像の世紀バタフライエフェクト　マンハッタン計画　オッペンハイマーの栄光と罪』を再度観て、色々なことを考える。


2024年04月03日（水）

曇りのち雨の肌寒い一日。9時出社。『思想』1月号の磯崎新特集は、どうやら編集部がテーマをリスタップした上で、執筆者に依頼しておりことが見えてきた。徐々にテーマが減退されてきたので、一旦休止。思い立って『日本の伝統木造建築―その空間と構法』（三井渉：著　市ヶ谷出版社　2018）を読み始める。大学の時以来、社寺建築を構法の視点から見たことはほとんどないので、最初から復習する感じだが、意外に新鮮である。木造軸組としては、古代建築でも構造と装飾の区別が難しいことや、室町時代以降には天井や床によって構造体が見えなくなる点においても、構造システムの視点で見ることは難しい。社寺建築の多くは、山地や傾斜地に建てられていることが多いのも、構造が重要な条件になっているが、そこでも付加的な装飾が目につく。若い頃、僕は奈良を中心に数多くの社寺建築を見てみたが、明確なシステムが見えないので、プラニングにしか興味を持たなかった。日本建築史を学んだ太田博太郎や稲垣英三の講義で取り上げられた建築は、ほとんど奈良と平安が中心だったせいもあるだろう。太田や稲垣は中世以降の社寺建築にはほとんど興味を持たなかったそうである。福島加津也さんが、中世以降の社寺建築に興味を惹かれた理由は、そうした近代的な視点に対する批評的視点からであり、何となく理解できる。本書を熟読してじっくり勉強してみよう。


2024年04月02日（火）

晴れのち雲りの生暖かい一日。9時出社。界工作舍の改装が終わり、娘一家が引っ越してきて１週間が経過し、日本のプロ野球も公式戦が始まって、ようやく日常の時間が戻ってきた。思い立って『思想』の磯崎新特集で松井茂が取り上げていた『ニンゲン合格』（黒沢清：監督　1999）を観る。黒沢の映画は好きだが、残念ながら松井の論は牽強付会であることに肩透かしを喰らう。
https://www.shochiku.co.jp/cinema/database/04523/
21時からNHK BSで『新日本風土記「函館の光」』を観る。〈100万ドルの夜景〉と称賛された函館の夜景の栄枯盛衰を辿ったドキュメンタリーである。かつてはイカ釣り漁船の照明までも夜景に取り入れていたらしい。１時間の番組だが、それで一つの物語になっている点に、いつもながら感心する。引き続き、メキシコのマヤ文明の特集『フロンティア　古代メキシコ　失われた文明の謎』を観る。番組紹介には、こう書かれている。「中央アメリカで2500年以上も栄えたマヤ文明。高度な天文知識に基づいた精密な暦や、４万を超えるマヤ文字、命を神に捧げる生贄など、まったく独自に特殊な文明を築いた。彼らは一体何者だったのか？なぜ人間を神への生贄としたのか？最新の古代ＤＮＡ解析から、そのルーツや生贄にされた人々の正体が分かってきた。さらに、古気候学の最新調査から、文明衰退期に彼らを襲った驚きの事実が明らかになってきた」。僕は池辺陽が亡くなった1979年に、約１ヶ月をかけてメキシコをバスで周遊したことがあるが、その頃とは大きく変わっていることに驚くとともに、歴史は動いていることを痛感する。


2024年04月01日（月）

雨のち曇りの涼しい一日。9時出社。11時に電気工事業者と東京電力が来所する。電気工事の最終検査である。一時的に停電するが15分で終了。１階は問題ないようだが、２階の電気配線に漏電の可能性があることを指摘される。とはいえ当面は問題はないそうなので、ブレーカーが落ちるまで様子を見ることとする。野沢正光建築工房から手紙が遠く。外苑前のJIA本部のホールで4月1９日（金）と20日（土）の両日に、野沢さんのスケッチ展を開くという知らせである。残念ながら、講演会やシンポジウムの類は行わないらしい。少し考えるが、僕以外の人を思いつかないので諦める。飯島直樹さんからメールが届き、最近10年間の作品をまとめた本『Melting Function / 溶ける機能 – 飯島直樹のデザイン手法』の出版記念会を五反田の東京デザインセンターで開催するとのこと。会の発起人を頼まれたので快諾する。ニチハ株式会社のサポートセンターから、本年度のNICHIHA SIDING AWARDの審査委員長の依頼メールが届く。今年度からメタルサイディング部門が新設されることになったようだ。審査日について返信メールを送る。界工作舍OBの栃内秋彦さんからメールが届く。今日から明星大学建築学科の准教授に着任したとの報告である。これから博士論文に取り組むことなので、頑張って欲しい旨の返信メールを送る。『思想』（2024年1月号　特集：磯崎新　岩波書店）は、松井茂の「妹島和世を語る磯崎新ー『日本建築思想史」を読み終わり、町村悠香の「磯崎新と1950年代サークル運動・文化運動の接点」に進む。松井論文は、建築史家の横手義洋を聴き手とする『日本建築思想史』（太田出版　2015）の分析であり、1920年以降を25年周期で分類した上で、最終的には妹島和世を、最初にとり挙げる堀口捨巳と重ね合わせた磯崎流の現代建築史である。出版直後に読んだ記憶があるが、そういう見方もあるかもしれない、という程度の感想しか抱かなかった。22時からNHKで『映像の世紀バタフライエフェクト　映像記録　東京裁判』を観る。番組紹介にはこうある。「日本の戦争指導者を裁いた東京裁判は、始まりから刑の宣告まですべての撮影が許された前代未聞の裁判だった。100時間に上るフィルムを元にたどる2年6か月の映像記録。アメリカなど11か国が裁判官と検察官を務めた東京裁判は、日本の戦争指導者の責任を追及する様子を世界に発信するため、照明など撮影に万全の体制を整えた法廷で行われた。被告人25人のうち7人に極刑が言い渡された。傍聴していた作家・川端康成は「劇的な人間の生と死との分れ目を私は眼前に見て、深く打たれるものがあった」と記している。東条英機、広田弘毅など戦争指導者が裁かれた東京裁判の2年6か月をたどる」。裁判途中で大川周明が東條英機の頭を叩くシーンが記憶に残るが、後味の悪いドキュメンタリーなので、なかなか寝付かれない。


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